干された芸人
奇妙な世界へ…
俺は吉池輝樹。今を輝く芸人だ。
俺は今、売れっ子だ。何故なら、理由は三つある。まずは顔。結構なイケメンで、そこらへんの俳優よりイケてると女のファンから言われている。次にキャラだ。ナルシストキャラで、少しウザがられているが、俺を好いている奴もいる。そして、ネタの面白さ。それはそれは言わずもがな良い。そのため、お笑い番組には毎回出てるし、あるニュース番組ではゲスト枠としていつも出ている。
このように、俺はみんなから好かれる芸人だった。あの時までは………
事件が起こったのは、某月の月末。その日はあるどでかいお笑い特番の打ち上げで、とある居酒屋を貸し切りにしていた。
その特番は凄い物で、総勢100組の芸人が出ているもの。そんな物が成功すれば、皆は浮かれ、正に無礼講状態だった。無論、俺もその状態だ。
そして、9時位になると、ビールかけをしている奴もいた。
「おいおい、野球の祝勝会じゃないんだからさ…」
俺がそんな事を言った時だ。頭から冷たい黄色い液体を被った。
「うっ、うわっ!何だこれ?」
俺はその液体を舐める。その液体はビールだ。
「おいおい、だれだよ〜、ビールかけたやつ〜」
俺は後ろを振り向く。そこには、後輩芸人の徳部司がいた。
「ウェ〜イ!センパ〜イ!無礼講で〜す!ウヘヘヘヘヘ」
俺は一瞬、驚きの気持ちになったが、それはすぐに怒りの感情へと変化した。
(何だよ…後輩の癖に…)
俺はそう思うと、冷たい声でこう言った。
「おう、徳部、その瓶、貸せ」
「は、はい…どうぞ」
俺はビール瓶を貰うと、それを徳部の頭に殴りつけた。
「うわっ」
徳部は一瞬で倒れた。しかし、俺は徳部の血が少し含んでいる髪を掴むと、こう言い放った。
「テメェ、先輩に何やってんだよ…」
「だ、だって、他の人達も、や、やってたじゃ…」
「あぁ…俺だって、先輩や同期にやってもらったら笑うよ。でもなぁ…テメェみたいな雑魚風情にビールかけされるなんか嫌なんだよ!」
俺は次にこう命令した。
「おい」
「ひゃ…ひゃい…」
「舐めろ」
「な、何をですか?」
「靴を舐めろ」
「ひゃい」
すると、徳部は頭から血が出ている事を分かっていながらも、靴を舐め始めた。俺はこの時、究極の快感を得ただろう。
「こ、これで…」
「あぁ、これで許してやるよ」
俺はそのまま店を出た。
(クゥゥゥゥ…気持ちいい!)
俺はそう思いながら、夜空を見上げた。
一か月後、俺は仕事を終え、楽屋で着替えていた。あの時の事はもう既に忘れていた。
「すいません、吉池さん。お時間、頂けないでしょうか」
「ん、なんだよ、米井さん。時間ならあるが」
ドアにはマネージャーの米井がいた。
俺は着替え終わり、米井と会議室へと行った。
「にしても、何でしょうか。話なんて」
「では、単刀直入に言います。実は、あなたのマネージャーを辞めさせてもらいます」
「えっ…」
俺は驚いた。何と米井が俺のマネージャーを辞めるのだ。
「な、何で、急に…」
「理由は、これです」
すると、米井は、自分のスマホを出し、ある動画を流した。
「こ、これは…はっ!」
その動画には俺と、俺の靴を平伏しながら舐めている徳部がいた。
「はい。この動画が、ネットに流出し、大炎上。そして、先週、徳部さんからあなたに訴訟を起こしたのです。とはいえ、示談でなんとか済みましたが、その示談には、ある条件がありました」
「じょ、条件…?」
「はい。それは、あなたとマネージャーの契約を解除。そして、あなたをテレビに一切出さない事です」
「そ、それって…」
「はい。『干し』という事です」
俺はその言葉に恐怖を感じた。そう、芸能人にとって、『干し』はどんな事よりも怖い言葉なのである。
「あなたの所属している、ニカイドウ興業の社長も、『出来れば、示談にしたい』と申しておりました」
「くっ…ぐうぅ…」
俺は仕方なく、マネージャーとの契約を解除。そして、俺はテレビに一度も出ることはなかった。
そっからの生活は、大変だった。妻は俺が干された事を知ると、もうすぐ小学生になる娘を連れ、家を出ていった。金の方はなんとか沢山あったが、何年も過ぎていくうちに、無くなっていった。ギャンブルで増やそうともした。しかし、それは失敗に終わり、最終的に、闇金から金を借りるようになった。
無論、金を返せる訳もなく、俺の人生は詰んだ。
ある日、家にとうとう、取り立てが来た。
「吉池さん。取り立てに来ました。嘉納金融の嘉納です。嘉納鉄です。吉池さん、居ますか…」
俺は恐る恐る、扉を開ける。
「おお、吉池さん。お金の方は工面出来ましたか?」
「じ、実はまだ…あっ、あと、1ヶ月は」
「はぁ…駄目なようだな」
すると、取り立ての男は隠し持っていた麻袋で、頭を被せ、俺は意識を失った。
「はっ!ここは…って痛っ!」
俺はいつの間にか、高層マンションの屋上で、磔にされていた。
「おぉ〜いい眺めだね〜吉池さん」
「痛い痛い痛い痛い痛い!たっ、助けて!」
「アンタ、芸人だったけど、不祥事起こして、干されたようだね。これでもういっぺん、干されてきな」
すると、男は屋上を出ていった。
「いっ、嫌だ、助けて、助けてくれぇ…………………」
とある個室居酒屋。そこにはニカイドウ興業の社長、二階堂豪と、徳部司が酒を飲み合っていた。
「いやぁ…徳部君。君はよく頑張ってくれた。演技も良かった!」
「えぇ、靴を舐めさせられるのは予想外でしたが、なんとか干させました」
「あぁ、アイツがまさか、うちの闇の部分を見てしまうとはな、まぁ、君には大量の金を、いや、高級車やいい女をやろう」
「いえいえ、有り難き幸せです。まぁまぁ、取り敢えず、飲み明かしましょう」
「あぁ、朝までな!アッハハハハハハハハハ」
2人はまた酒を飲み始めた。扉の向こうに、ゴシップ誌の記者が居るのも知らずに………
読んでいただきありがとうございました…




