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蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

干された芸人

作者: 蔵品大樹
掲載日:2021/08/27

奇妙な世界へ…

 俺は吉池輝樹。今を輝く芸人だ。

 俺は今、売れっ子だ。何故なら、理由は三つある。まずは顔。結構なイケメンで、そこらへんの俳優よりイケてると女のファンから言われている。次にキャラだ。ナルシストキャラで、少しウザがられているが、俺を好いている奴もいる。そして、ネタの面白さ。それはそれは言わずもがな良い。そのため、お笑い番組には毎回出てるし、あるニュース番組ではゲスト枠としていつも出ている。

 このように、俺はみんなから好かれる芸人だった。あの時までは………

 事件が起こったのは、某月の月末。その日はあるどでかいお笑い特番の打ち上げで、とある居酒屋を貸し切りにしていた。

 その特番は凄い物で、総勢100組の芸人が出ているもの。そんな物が成功すれば、皆は浮かれ、正に無礼講状態だった。無論、俺もその状態だ。

 そして、9時位になると、ビールかけをしている奴もいた。

 「おいおい、野球の祝勝会じゃないんだからさ…」

 俺がそんな事を言った時だ。頭から冷たい黄色い液体を被った。

 「うっ、うわっ!何だこれ?」

 俺はその液体を舐める。その液体はビールだ。

 「おいおい、だれだよ〜、ビールかけたやつ〜」

 俺は後ろを振り向く。そこには、後輩芸人の徳部司がいた。

 「ウェ〜イ!センパ〜イ!無礼講で〜す!ウヘヘヘヘヘ」

 俺は一瞬、驚きの気持ちになったが、それはすぐに怒りの感情へと変化した。

 (何だよ…後輩の癖に…)

 俺はそう思うと、冷たい声でこう言った。

 「おう、徳部、その瓶、貸せ」

 「は、はい…どうぞ」

 俺はビール瓶を貰うと、それを徳部の頭に殴りつけた。

 「うわっ」

 徳部は一瞬で倒れた。しかし、俺は徳部の血が少し含んでいる髪を掴むと、こう言い放った。

 「テメェ、先輩に何やってんだよ…」

 「だ、だって、他の人達も、や、やってたじゃ…」

 「あぁ…俺だって、先輩や同期にやってもらったら笑うよ。でもなぁ…テメェみたいな雑魚風情にビールかけされるなんか嫌なんだよ!」

 俺は次にこう命令した。

 「おい」

 「ひゃ…ひゃい…」

 「舐めろ」

 「な、何をですか?」

 「靴を舐めろ」

 「ひゃい」

 すると、徳部は頭から血が出ている事を分かっていながらも、靴を舐め始めた。俺はこの時、究極の快感を得ただろう。

 「こ、これで…」

 「あぁ、これで許してやるよ」

 俺はそのまま店を出た。

 (クゥゥゥゥ…気持ちいい!)

 俺はそう思いながら、夜空を見上げた。

 一か月後、俺は仕事を終え、楽屋で着替えていた。あの時の事はもう既に忘れていた。

 「すいません、吉池さん。お時間、頂けないでしょうか」

 「ん、なんだよ、米井さん。時間ならあるが」

 ドアにはマネージャーの米井がいた。

 俺は着替え終わり、米井と会議室へと行った。

 「にしても、何でしょうか。話なんて」

 「では、単刀直入に言います。実は、あなたのマネージャーを辞めさせてもらいます」

 「えっ…」

 俺は驚いた。何と米井が俺のマネージャーを辞めるのだ。

 「な、何で、急に…」

 「理由は、これです」

 すると、米井は、自分のスマホを出し、ある動画を流した。

 「こ、これは…はっ!」

 その動画には俺と、俺の靴を平伏しながら舐めている徳部がいた。

 「はい。この動画が、ネットに流出し、大炎上。そして、先週、徳部さんからあなたに訴訟を起こしたのです。とはいえ、示談でなんとか済みましたが、その示談には、ある条件がありました」

 「じょ、条件…?」

 「はい。それは、あなたとマネージャーの契約を解除。そして、あなたをテレビに一切出さない事です」

 「そ、それって…」

 「はい。『干し』という事です」

 俺はその言葉に恐怖を感じた。そう、芸能人にとって、『干し』はどんな事よりも怖い言葉なのである。

 「あなたの所属している、ニカイドウ興業の社長も、『出来れば、示談にしたい』と申しておりました」

 「くっ…ぐうぅ…」

 俺は仕方なく、マネージャーとの契約を解除。そして、俺はテレビに一度も出ることはなかった。

 そっからの生活は、大変だった。妻は俺が干された事を知ると、もうすぐ小学生になる娘を連れ、家を出ていった。金の方はなんとか沢山あったが、何年も過ぎていくうちに、無くなっていった。ギャンブルで増やそうともした。しかし、それは失敗に終わり、最終的に、闇金から金を借りるようになった。

 無論、金を返せる訳もなく、俺の人生は詰んだ。

 ある日、家にとうとう、取り立てが来た。

 「吉池さん。取り立てに来ました。嘉納金融の嘉納です。嘉納鉄です。吉池さん、居ますか…」

 俺は恐る恐る、扉を開ける。

 「おお、吉池さん。お金の方は工面出来ましたか?」

 「じ、実はまだ…あっ、あと、1ヶ月は」

 「はぁ…駄目なようだな」

 すると、取り立ての男は隠し持っていた麻袋で、頭を被せ、俺は意識を失った。




 「はっ!ここは…って痛っ!」

 俺はいつの間にか、高層マンションの屋上で、磔にされていた。

 「おぉ〜いい眺めだね〜吉池さん」

 「痛い痛い痛い痛い痛い!たっ、助けて!」

 「アンタ、芸人だったけど、不祥事起こして、干されたようだね。これでもういっぺん、干されてきな」

 すると、男は屋上を出ていった。

 「いっ、嫌だ、助けて、助けてくれぇ…………………」





 とある個室居酒屋。そこにはニカイドウ興業の社長、二階堂豪と、徳部司が酒を飲み合っていた。

 「いやぁ…徳部君。君はよく頑張ってくれた。演技も良かった!」

 「えぇ、靴を舐めさせられるのは予想外でしたが、なんとか干させました」

 「あぁ、アイツがまさか、うちの闇の部分を見てしまうとはな、まぁ、君には大量の金を、いや、高級車やいい女をやろう」

 「いえいえ、有り難き幸せです。まぁまぁ、取り敢えず、飲み明かしましょう」

 「あぁ、朝までな!アッハハハハハハハハハ」

 2人はまた酒を飲み始めた。扉の向こうに、ゴシップ誌の記者が居るのも知らずに………

読んでいただきありがとうございました…

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