第2話 リエラ降臨
その後、俺は荷物をまとめ、街から静かに旅立った。
恐らく、街にいれば延々と命を狙われるだろう。おまけに、このスキルでは街でも後ろ指を指されるだけだろう。
故郷に未練が全くないと言えば、そういう訳ではないが。
まあいいや。少なくとも、奴らの顔を見ずにせいせいする。
あてどなくさまよった末、街から少し離れた山の中に座り込む。
いつの間にか辺りが暗い。
俺は野営の準備を終え、意識を飛ばしかけていた時だった。
何かの、気配がする。
俺は急いで起き上がった。
―近くに、「何か」がいる?
パーティの間では荷物持ちだったとはいえ、一応近接戦の心得は無いわけでは無い。
俺は暗闇の何かに問いかける。
「人か?モンスターか?」
「わたしは、人でも、モンスターでもありません。」
声は上から降ってきた。
・・・上から?
俺が思わず上を見上げようとする。
辺りが、光輝いた。
「ま、まぶしっ!一体何が!?」
ドサッ!
「うわっ!」
「きゃっ!」
何かが俺にぶつかって小さく悲鳴を上げた。
「いたたたた・・・誰だ、俺を地面に押し倒したのは。」
「ご、ごめんなさい!着地に失敗しちゃいました。」
目の前に、女の子が覆いかぶさっていた。
こんな山奥に似つかわしくない、純白の服を着ている。濃い金色の髪がゆれ、どこか泳ぐ茶色の瞳は、何かをやらかしてしまった・・・と言った感じの表情だ。
「えーと、君は一体?てか、空から落ちてこなかった?」
俺は混乱しながら、彼女に声をかける。
「お、堕ちたわけではないです!ただちょっと、着地に失敗しただけです!」
彼女が顔を赤くして反論する。
―いや、突っ込みたいところはそこではないのだが。
俺はそこで、気付く。
「えーっと、背中に、何かついてる?」
「こ、これはついているわけでは無いです!」
背中の「それ」が、バサッと言う音と共に広がった。
白い、大きな物、人間にはないはずの物。
「それは・・・羽?」
「はい。羽です。」
羽が生えた少女は、俺から退いてほこりを払うと、自己紹介を始めた。
「わたしの名前は、リエラ。見ての通り」
「鳥人間?」
「そう、鳥人・・・って違います!天使です天使!」
彼女はあたふたしている。
「なるほど。天使って言うモンスターか。」
「なっ!モンスターじゃありません。天使です!て・ん・し!」
信じてもらえないのが気に食わないのか、リエラと名乗った天使?は相変わらず、じたばたしている。
―可哀そうだから話だけでもきいてやるか。
「天使って、伝説でしか存在しないんだろ?」
「人間界ではそうみたいですね。でも、天使は実在します。わたしがその証拠です!」
リエラは自分を指し示す。
「と言われてもなあ。流石に、天使はおとぎ話にしか思えないんだけど。リエラが天使だっていう、何か証拠みたいな物は無いの?」
「まったくもう!天使は信じないのに神は信じるとか、一体そのスキルはどうやって与えられていると・・・」
そうぼやきながら、何かを取り出すべくか懐をまさぐりだす。
「俺のスキル、羽が生えた存在の力を使えるのに空は飛べない・・・という使い所に困るものらしいけど。」
「ぐっ!使いどころに困るって言われた。・・・わかりました。そこまで言うならこれを差し上げましょう!はい!」
「おっと!」
リエラは俺に何かを押し付けた。
「お、重っ!これは・・・本?」
俺は開いてみる。
「中は真っ白だ。何も書いてないぞ?」
「それは、天使の魔導書です。まもなく、それが必要な時が来ます。その時、その魔導書は貴方を導き、必要な呪文を示すでしょう。これからあなたの力が上がれば、みずから呪文を唱えることもできるようになります。」
「なるほどね。」
良くわからないが、それなりにいわくつきな物の様だ。
「わたしは、いつも貴方を空から見守っていました。本来天使は地上に降り立てないのですが、どうやら貴方のスキルによって、わたしは時々地上に顕現できるようになったようです。」
「はあ。」
俺を見守る?スキルで顕現できる?
正直、意味が分からない。
「今日の昼間にスキルを判定してもらったじゃないですか!『羽の生えた存在の力を使える』。それはわたし達、天使の力を意味するのです!これはとても光栄なことなんですよ!」
―天使の力、ねえ。
にわかには信じられないし、そもそも天使の力って何だ?
「わたしはまた近いうちに現れるでしょう。それでは!」
リエラがあわただしく羽根を広げると、辺りが再びまぶしくなる。
俺が再び目を開けた時、リエラの姿はどこにも見当たらなかった。
―どうやら、ただの人間じゃないって言うのは本当らしいな。
俺はリエラが残した白紙の『魔導書』を眺める。
―必要な時に貴方を導き、必要な呪文を示すでしょう。―
突然やってきて、よくわからない物を置いて行ったな。
てか、魔導書が必要なほどの時って、わりと強敵との戦いとかじゃないのか?
そんなことが、今からもうすぐ起こると?
俺はそこら辺にも突っ込みを入れたかったが、やはりリエラの姿はもうどこにも見当たらなかった。
―とにかく、もう夜も遅くなる。
俺は再び、深い眠りについた。
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白かった!」
「ここが気になる!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の評価お願いいたしします。
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直な感想でもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
何とぞよろしくお願いいたします!