第1話 プロローグ
俺の名前はアドレル。
ヴェナタ王国の王都で、ひとり暮らしをしている。
今は、街の同年代の勇者パーティー・・・の荷物持ちとして、教会を訪れていた。
今日は王様臨席の元、遠方から招いた聖女に各々の特化スキルを判定してもらうことになっている。
「どんなスキルになるんだろうな。」
「今から緊張するぜ。」
「私、可愛いけど強いスキルが良いな。」
リーダーの勇者クヴァル、男魔法使いドアロ、女魔法使いのウルザ。
各々が期待を膨らませて語り合っている少し後ろに、俺は独りでいた。
今までは、皆がそれぞれ汎用スキルで戦っていたが、俺だけは唯一魔法が使えなかった。
その為、俺は主に荷物持ちとして同行していた。
別に、そこまで不満があるわけでは無い。
どの道、皆と盛り上がるのはあまり好きではない。
何かが、俺とは違う気がしているのだ。
教会で待っていると、まず王が現れ、演説を始めた。
「我がヴェナタの誇る勇者パーティーよ、今日はついにそなたたちの特化スキルが明らかになる日だ。この王、皆に期待しておるぞ。」
王様の演説が終わると、薄い水色の修道服に身を包んだ小柄な少女が姿を見せた。
聖女マリサだ。
淡い金色の髪が揺れ、清らかな青い瞳が辺りを見渡す。
「皆様、お待たせいたしました。これより、神より授かりし皆様のスキルを判定させていただきます。たとえどのようなスキルであったとしても、皆で力を合わせることが神の思し召しであることをお忘れ無きよう・・・」
「よっ!待ってました!」
「早く早く!」
「ねえねえ、私のスキル何々!?」
聖女の話を遮り、皆が騒ぎ出す。
―聖女って、そんなに急かしてはいけないのではないのか?
そう思いながら、俺は気長に待つ。
「あ、俺は最後でいいです。」
俺はそれだけ声をかけると後ろの方へ引っ込む。
なあに、残り物には福があるさ。
「それでは、始めます。」
聖女マリサは呪文を唱え始める。
「数多の力を束ねる天上の神よ。聖女マリサが求める。この者たちの力を明らかにし給え。『スキル判定』!」
青白い光が、教会を包み込んで行く。
光が晴れると、聖女は各々のスキルを伝え始めた。
「まず、勇者クヴァル様。貴方様のスキルは、『大火炎魔法の使い手』です。1筋の炎の柱は、仇なすものを焼き尽くすでしょう。」
「おお!やった!」
クヴァルとよばれた男―このパーティーのリーダーだ―が喜んでいる。
「次に、ドアロ様。貴方様のスキルは、『濁流の打ち手』です。強力な水魔法は、あらゆるものを洗い流すでしょう。」
「よっしゃ!強そうじゃないか!」
「そして、ウルザ様。貴方様のスキルは、『暴風の成し手』です。」
「やった!かわいくはないけど強そう!」
皆、なんだか強そうなスキルをが明らかになっていく。
そして、俺の番が来た。
既に終わっている他の人々が、俺に注目している。
「最後は、アドレル様ですね。貴方様のスキルは・・・」
聖女が俺のスキルの判定を始める。
しばらく押し黙っていたが、やがて厳かに告げた。
「・・・2本足で羽が生えた、何かの存在の能力を使えます。ただし空を飛ぶことは出来ません。」
―なんだそりゃ?
羽が生えた生き物の能力なのに、空は飛べない?
「はあ?」
「おい、アドレルお前なんだその使えないスキルは。」
「え?ありえなくない?あんたはそんなしょぼいスキルなの?」
周りが辛辣な言葉を投げかけてくるなか、聖女様は続けた。
「既にスキル自体は機能しているはずですが、その存在の何かは、じきにアドレル様の元に降り立つでしょう。」
―そりゃ羽が生えた存在なんだから、飛んで来るだろう。
わかりきったことを言うなんて、聖女様も苦し紛れなのか。
「アドレルよ、そなた、曲りなりにも勇者パーティにいるのだから、それなりのスキルがあると思っていたのだが・・・どうやら見込み違いだったようだな。余はがっかりだ。」
王様は俺のヘボスキルに飽きれてか、その場を後にしてしまう。
「アドレル。お前のスキルは、鳥頭にでもなって全てを忘れる能力か?ほら、ためしにちょっと3歩歩いて見ろよ。」
クヴァルがそんなことを言いながら顎でしゃくる。
「いや、酔っ払いになって千鳥足でそこら辺をほっつき歩く能力だな。普段からそうだけど、本当にアドレルは使えないな。あ、それが普段からの能力なのか。」
ドアロはわざとらしくよろけて見せた。
「卵を産む能力かもよ。・・・あんたが産んでも心底気持ち悪いだけなのに。・・・ちょっと、気持ち悪いから私の前から消えてくれない?」
メンバー唯一の女ウルザが本気で気持ち悪がっている。
「わはははは!」
「あはははは!」
「きゃはははは!」
村の同年代たちは、俺を指差して大笑いし始めてしまった。
「・・・」
聖女様は何か言いたそうだ。
―大方、俺のスキルがヘボいって言うのを、丁寧な言葉でいかに表現するか考え中なのだろうな。
よく見ると、その顔は曇っている。
何かつぶやいている。
少しだけ聞き取れた。
「・・・は神への冒涜だと思います・・・・」
「わはははは!お前のスキル、ヘボすぎて神への冒涜だってよ!」
「聖女様にまで言われてやんの。」
「本当!ねえあんた、気持ち悪さが神への冒涜だってさ!なんで息してるの?」
―聖女様よ、そこまで言わなくても良いじゃないか。
クヴァル達はひとしきり笑った後、俺を指差して言った。
「おいアドレル。お前のせいで、王様にがっかりされたじゃないか、流石に使えなさすぎだよ。今までは同郷のお情けで、なんとか荷物持ちとてパーティーに入れてやっていたが、流石にもう無しだな。役立たずでしょぼいお前は俺達には必要ない。追放だ!」
「そうだな。アドレルなんて、俺達のパーティにいたらむしろお荷物だし、どこかに消えてしまえ。」
「ほんとそうそう。てか、気持ち悪いから二度と私の前に顔見せないでくれる?」
「なっ!」
流石に酷くないか、と思う。
そもそも、このスキルを選んだのは俺では無い。
俺は俺なりに、一生懸命頑張って来たのに。
それが、この扱いとは。
「ほら!決まったんだからとっととどごぞへでも消え失せろ!失せないなら俺のスキルで消し炭にしてやる!」
「そうだそうだ!役立たずに居場所はない!」
「気持ち悪い。本当に気持ち悪い。生理的に無理。」
クヴァルが本当に魔法の詠唱を始める。
「くそっ!なんて事を・・・!今に見ていろ!」
なぜか聖女様がこちらを見ているが、これ以上この場にとどまったら俺の命も危なそうだ。
俺は教会から、逃げるように立ち去った。
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