続・悪役踏み台幼なじみは無自覚ハーレムパーティに夢を見る
遡ること、10年と少し。
両親の乗った馬車が崖から転落したと聞いた。
村の温情で葬儀は慎ましやかに行われた。
当時6歳の俺は訳も分からず、身よりもなく。路頭に迷うか、孤児院か、という時にベイリー商会の旦那様がやって来て、うちに来ないかと提案してくれた。
両親はベイリー商会との商談の帰り道に事故にあったらしく、両親の友人であったという旦那様はひどく心を痛めてくれていた。俺はというと、この時ひどく疑心暗鬼で、旦那様のこのありがたい申し出も何か裏があるんじゃないかと思っていた。
聞けば、俺と同じ歳の一人娘の従者にしたいのだと言う。大きな商会の一人娘。いいように使われ、虐げられるのでは、とも思った。
でも、たかだか6歳の俺が生きるためには、今はこの道しかないのだと。半ば諦めるような気持ちで、養子になることを承諾。お屋敷に連れてこられたのだ。
…連れて、こられたのだが。
「こっ、これが無自覚ハーレムパーティの勇者、だと…!?」
ベイリー商会の一人娘であるお嬢様は、はじめて顔を合わせた瞬間、そんな言葉(呪文?)を口にした。
正直、何を言われたのかさっぱり分からなかった。知らぬ間に何か不興を買ったのかと、当時の俺はビクついたのだが。お嬢様はすぐに気を取り直して、「よしっ!」と叫んだ後、俺の手を取ってこう言ったのだ。
「はじめて、ハロルド。わたしはクレア。これからあなたのことは、わたしに任せてもらって大丈夫ですからね!」
きらきらとした表情で、真っ直ぐ言われた言葉は。
本来なら、自分と同じまだ幼い6歳児の、なんの保証もない言葉だ。しかし、周りの大人が遠巻きに俺を眺めて腫れ物のように扱い、俺の境遇を嘆くだけだった中で。
しっかり握られた小さな温かい手は、ひどく俺を安心させてくれた。
両親が亡くなってから、そこではじめて、俺は少しだけ泣いたのだ。
それからお嬢様は最初の言葉どおり、俺にすべてを与えようと努力してくれた。
お嬢様は、「まず読み書きができるようになりましょう!」と本を片手に、俺に字を教えてくれた。
なんの教養もない俺にとって、読み書きができるだけでも十分ありがたかったが、お嬢様は次は次はと、どんどん俺に知識を与えてくれた。
ベイリー家は商会として成功しているが貴族ではなく、国立の学院には通えない。そのため、お嬢様や俺がある程度の教養を得ようとするためには、家庭教師を雇う必要があった。
旦那様はお嬢様を溺愛しており、お嬢様の希望は出来うる限り叶えて下さろうとする。それをお嬢様は、自分は我儘な一人娘ですからと公言してフル活用した。お嬢様は旦那様におねだりをして、魔法や礼儀作法の家庭教師を雇い、自分が受けるついでにと俺も一緒に授業を受けさせてくれた。
さらには、俺にお嬢様の身を守らせるのだと言って、武術も習わせてくれた。旦那様に甘えて商談についていっては、領地の流通や世情を教えてくれた。
俺も旦那様も、お嬢様の我儘やおねだりが自分のためではなく、俺のためにやっていることを分かっていた。
分かっていたからこそ、俺はしっかりと学び、吸収して、将来お嬢様の役に立たねばと思っていた。
そして、あっという間に10年が経った。
この10年、俺はお嬢様の従者として自分を高めることに余念がなかった。お嬢様の期待に応えられるように、お役に立てるようにと、できうる限りの努力をしてきたつもりだ。
しかしその一方、お嬢様はお嬢様で、大層成長された。
お嬢様は元より魔法が2属性使えるという才能に恵まれ、さらには真面目で努力家だ。俺のような者にも誠実に優しく接する人格者だし、教養もマナーも完璧、商会の娘なので流行や流通に通じて商才もある。清楚な見た目は愛らしく、成長するにつれて華奢だった体つきもとても女性らしくなってきた。
現在。
趣味で始めたキノコ研究に夢中で出不精なお嬢様は、社交の場にほとんど出ていないのにも関わらず、毎日大量に縁談が舞い込んできている。
そう、お嬢様は、本人にてんで自覚がないがお嬢様は、大層おモテになってしまっているのだ!
「はっ!いけない、ハロルド!私たちそろそろ冒険者登録に行かなければならないのだわ!」
…なんで?
俺が16歳になった次の日だった。お嬢様が突然爆弾を投下した。昨日の誕生日はお嬢様に好物の牛肉のワイン煮込みを作ってもらって、とても幸せだった。
俺が昔風邪を引いてから「食育だ」といって料理を始めたお嬢様は、すでにそこらのシェフ顔負けの料理の腕になっている。従者の俺に毎日食事を作ってくれるうえに、誕生日に牛肉のワイン煮込みなんて豪華な料理を振舞って下さるのだ。本当に優しさがはんぱない。
今もお嬢様は美味しそうな朝食のスープをよそいながら、しかし思い出したかのように「冒険者にならなきゃ」と慌て始めていた。
旦那様の商会の仕事を手伝いながら、キノコ研究に没頭する毎日を送っていたお嬢様。それが唐突に、冒険者登録…?なんで…?
冒険者ギルドには、荒くれ者も多いと聞く。
正直、こんなかわいいお嬢様を、そんな狼の巣に連れていくのは断固拒否したいのだが…。お嬢様は「危ない危ない間に合った、まだセーフよね?」と独り言を言っている。
「お嬢様?なぜ冒険者登録をするのですか?お嬢様なら別に、冒険者になどならずとも…」
「まあ、だめよハロルド!それじゃだめ!何の為の10年だと思っているの、これはお前のためなのよ!」
ぷりぷりしながら、ずんずんこちらに近寄ってきたお嬢様。
わーっ、近い近い近い近い!めちゃくちゃお嬢様が近い、かわいい、いい匂いする…。何も言えなくなった俺の目の前でお嬢様は「いよいよハーレムパーティへの第一歩だわ」なんて握り拳している。…お嬢様、聞こえていますよ。
お嬢様はたまに、ハーレムだとか勇者だとか、夢物語のようなことを口にする。大体そういった妄想中のお嬢様にはこちらの言葉は届かないので、もう長年の付き合いで慣れてしまった俺は、スルーすることにしている。
「ようし、ちょうどお父様もご在宅だし、さっそく許可を頂いて事を進めなくては!わくわくしてきたわー!」
因みに旦那様と俺は「お嬢様を魔の手から絶対守り隊」を発足しており、その筆頭隊員の俺は、常にお嬢様を魔の手から守る義務がある。隊長はもちろん旦那様だ。屋敷の一部の使用人も隊員として活動してくれている。
これまでお嬢様宛の大量の縁談が彼女の耳に入らず、変な虫が一切近寄ってきていないのは、一重に我らが商会の結団力の賜物であった。
しかし、今回のお嬢様の我儘にも、旦那様はいつも通り二言目OKを出してしまうだろう。お嬢様にゲロ甘なので。
冒険者になりたいなんて突拍子もないことを言い出し、悪の巣窟に勢いよく飛び込むお嬢様の身を、俺は何としても守らなくてはならなくなったのだ。
案の定、ものの数分で冒険者になるお許しが出た。
旦那様、旦那様は俺に任せておけばなんとかなると思ってませんか…。
冒険者ギルドへ向かう前日。
俺はお嬢様と身支度の確認をしていた。お嬢様は十分な支度金を与えてくれたし、「お前はすぐ怪我をするのだから」と言ってポーションを沢山作らせてくれた。
お嬢様は物資や費用を多量に必要としても、俺を錬金術師に就かせた。冒険者になると自分が言い出したとはいえ、従者の俺が怪我をするのが心配なんだと思う。本当に女神。
お嬢様は魔法が得意だが、錬金術や回復魔法は苦手のようで、実践する度にすっぱい顔をしていた。
幸いにも多方面に器用貧乏な俺は、錬金術が多少できたので、お嬢様の要望に応えることができたのだ。器用貧乏で本当によかった。
しかし、それからが大変だった。冒険者デビューだと言って、なぜか短いスカートを履こうとするお嬢様を諌めたり、冒険者登録に他メンバー(男)を募集しようとするお嬢様を阻止したり、情報収集に酒場に行こうとするお嬢様の気を逸らしたり。
ことあるごとにお嬢様は、「悪役踏み台としてこうあらねば、こうしなければ」という、いつもの謎呪文を呟きながら右往左往していた。こういうときのお嬢様は大体、碌なことに繋がらないのだ。
正直、冒険者にはさっさと飽きてもらって、こんな色々と危ないことだらけの魔の巣窟から、いち早く足を洗って欲しいのが本音だった。
冒険者を通して経験と見聞を広げる、ある程度の冒険者ランクを手にして様々な商談をやりやすくする、というのが、お嬢様が旦那様を説得した冒険者をやりたい動機だという。
目下その目標を達成するために、「お嬢様を魔の手から絶対守り隊」の筆頭隊員としてあくせくしながらも、俺は冒険者ランクを上げることに専念することにした。
冒険者ランクも順調に上がって、晴れてBランクとなったある日、お嬢様がまた俺に爆弾を投下した。
「ハロルドは、他のパーティに行きたいとは思わないの?」
…思ったこと、ありません!
「俺は、お嬢様を守る従者なので…」
お嬢様が心配そうな顔をする。
「わたしのことは気にしなくていいのよ、お前は、お前の好きなようにすればいいわ」
「お前は強いのだし、街に留まったりせず、王都や隣国でも活躍できるのではなくて?ほら、よい出会いもあるかもしれないし…」
「俺はそういうの、興味ないです」
俺がお嬢様のそばを離れるなんて有り得ないし、出会いを求める必要なんてない。お嬢様はたまにこうやって、鈍感さ全開な心配をしてくる。
俺がお嬢様の従者でいるのは、お嬢様にご恩を返したいためだけではとっくにになくなっていた。
しかし近頃のお嬢様の行動は、年頃の女性らしく出会いを求めている様子が多い。今までだって冒険者パーティに男性を起用しようとしたり、酒場に興味を持ったりしていた。すべて俺は全力で阻止したし、お嬢様が着飾ろうとしたときさえ、俺はよしとしなかった。
わかっているんだ、全部俺の我儘だ。
お嬢様にとっては、ただの迷惑行為でしかない。俺は「お嬢様を守る」と言いながら、彼女を他の男に取られたくないだけなのだ。
しかし、ただの従者である俺が、お嬢様に正直な気持ちを伝えられるはずもない。「本当にいいの?」なんて何度も確認してくるお嬢様を前に、ぐっと口を引き結んで、言葉を飲み込むしかなかった。
「お嬢様、神殿に何のご用が?」
「職業適性、わたし達調べたことなかったでしょ。調べていた方が、何かと便利ではないかしら」
冒険者ランクもBランクになり、知名度も上がってきたところ。そろそろ冒険者から足を洗って商売に専念するために、お嬢様が職業適性が知りたいと言い出した。
小さい時から地道に商売の勉強をされて、一端の商人としてすでに十分素質をお持ちなお嬢様だ。これまで職業適性なんて気にしたこともなかったのに、今更?
明らかにウキウキした様子のお嬢様に、訝しげな視線を送る。
…ぐっ、ウキウキしているお嬢様かわいい…でも絶対なんかある…。
王都に赴き大神殿を目の前に見据える。
こんな人の多い所はさながら敵地なのだ。俺は真面目に「お嬢様を魔の手から絶対守り隊」の隊員としての職務を開始することにした。
「こんにちは、こちらはハリス大神殿です。今日は、どのようなご用向きでしょうか」
ほらきた。
警備員さん、こんなにかわいいお嬢様だ。話しかけたいのは分かるが、お嬢様には俺を通して会話をして頂かないと困ります。
滑り込むようにお嬢様と警備員の間に入る。
「職業適性を調べて頂きたくて」
「それでは、西門のほうへどうぞ」
若干警備員の顔が引きつったが、致し方ない。俺のガードは旦那様のお墨付きだからな、諦めてくれ。
お嬢様の手をとって西門に向かう。
お嬢様は「聖地巡礼だわ」なんて言って、キョロキョロしている。…おのぼりさん丸出しで、非常に危ない。
西門の先に聖堂はあった。
遠目でも、すでにかなりの長蛇の列が見える…帰りたい。
あの聖堂の奥に水晶が並べられていて、水晶に触れた光の色で、どんな職業に向いているか神官が判断するのだったか。
仕方ない。さっさと済ませて、お嬢様に納得して頂いて、早急にお屋敷に帰ろう。
お嬢様は「いよっしゃ、並んだるわよ、ハロルド!」と勇み足で左から2番目に並んだ。迷いなく。…あやしい。しかも、めっちゃ興奮してるし。
「お嬢様、なんで職業適性にそんなに嬉しそうなんですか。さっきも男性に話しかけられてましたし、誰かよさそうな人でもいるんですか」
とりあえず、どストレートに聞いてみる。
…。…ぐっ、まったく、話聞いてくれてないじゃん…。めちゃんこ、職業適性に夢中だ…。え、ちょっと待ってくださいよ、まさかこの列担当の神官に熱を上げてるんですか!?そこは盲点だった、今更、列を変えられないし…!
ぐるぐる考えていると、俺たちの順番になってしまった。
お嬢様を優先したかったが、お嬢様は頑なに俺を先にと仰る。仕方なく神官の前に出る。
…確かに見目はよい女性だが…初対面でお嬢様をあんなに興奮させるなんて、この人は一体…。
なんて考えていたら、水晶に触れた手が物凄く光った。
金色。眩しくて顔を顰める。
神官が驚きの表情で俺を見て、よく分からないが鐘が鳴った。なんかの福引にでも当たった気分だ。
…と思っていたら、お嬢様が、なぜか拝み倒すように泣いている!?えっ、さらにはどこぞの馬の骨が、俺がお嬢様から離れているのをいいことに、ハンカチを差し出しているではないか!?お嬢様!そんな、泣きながらにっこり微笑みかけない!絶対今あいつ恋に落ちたから!!そのハンカチだって、ばっちいですから!!
すぐさまハンカチをひったくって男に突き返す、きちんと睨みもきかす。そしてお嬢様には、代わりに俺が常備している清潔なハンカチを差し出す。
「…えっと、ハロルド、おめでとう?」
「それは、いいのですが…」
何がおめでとうなのか、いまいちわからない、重要なのはお嬢様がなんで泣いているんだって話だ。
お嬢様に尋ねようにも、周りはいつの間にかお祭り騒ぎになって騒がしくなっていた。
うるさい。ここにいてもやはり碌なことはないし、お嬢様の適性を調べたらさっさとお屋敷に帰るに限る。
「さあ次はお嬢様ですよ」
さあさあとお嬢様にすすめる。
お嬢様は適性を調べたいと言い出した割に、あっと思い出したかのような顔をした。えー、とか、でもー、とか言っているが、お嬢様、早く済ませてさっさと帰りますよ!
お嬢様がしぶしぶ触れた水晶は、ぽーっと淡いピンクに光った。俺のときとまるで違って、ふわふわとした、なんともかわいい光が灯っている。それを見た神官が、おめでとうございます!と叫ぶ。
「淡いピンクは、お嫁さんの適性ですよ!素敵です!」
……!!!!
「お嬢様!!」
感極まって、思わずお嬢様を抱き上げた。
「お嬢様、素敵です!出会った頃からお嬢様は素敵でしたが、適性が「お嫁さん」だなんて…!かわいすぎます!ああ、なんということでしょう、これでまたお嬢様に近づく虫が増えてしまうと思うと、気が気じゃありません!俺、これからもお嬢様を精一杯お守りします!」
お嫁さん適性!!!ほんとそう!
職業適性なんて正直まったく信用してなかったが、いいこと言うもんなんだな!俺のお嬢様、かわいすぎじゃない!?
「今なんて言った?だっ、駄目よハロルド。お前はたった今勇者の適性が分かったばかりなのよ。わたしのことなど放っておいて、とりあえず勇者として旅に出なさいな!」
また見当違いなこと仰るな、お嬢様は!
こんな魅力的なあなたを置いて、俺が旅なんかできる訳ないでしょう!
「何を仰いますか!今までだって、魅力的なお嬢様を魔の手からお守りするのに、俺がどれだけ力を注いできたと思っているんですか!旅になんて出ませんよ!お嬢様と旅に出て、お嬢様をいろんな危険に晒すのも、俺一人旅に出て、お嬢様から目を離すのも、どちらも考えられません!」
お嬢様は気圧された顔で、でもエリナちゃんが、ハーレムパーティが、なんてもごもご口にしているが無視無視!
どうやら俺の適性は勇者だったらしく、神官やら神官長やらが魔王討伐だなんだと騒ぎ立てて説得しにきているのだが。
絶対旅になんか出ません、今現在特に実害のない魔王なんて放置したって大丈夫でしょ。
俺が「無理」の一点張りだったからか、いつの間にか旦那様が呼び出されていた。
「ハロルド…、こちらに来なさい」
俺は別室に連れていかれた。旦那様、お忙しいはずなのに王都まで来させられるなんて、保護者は大変だな。
「なぜわたしが王都に呼び出されたか、ハロルド、賢い君なら分かっているはずだ」
「えっ、無理ですよ。お嬢様と離れて魔王討伐なんて」
「しかし王様からの勅命だぞ」
「そんなものより大事なものがあるんで」
キリッ。
「そんなもの…」
旦那様は、深いため息をつく。
「本当にクレア馬鹿に育ってしまって…。ハロルド、君はクレアさえ関わらなければ、とても素晴らしい紳士になったと太鼓判を押せるのに…」
「照れますね」
「いや、褒めてないんだわ」
クレアお嬢様馬鹿なのは旦那様もでしょ、と悪態をついておく。旦那様は神妙な顔で言った。
「ちょっと王様出てきちゃったしなあ…。クレアのキノコも栽培が安定してきて、新しく流通にのせ始めたところだ。わたしもこの国で商売続けたいしなあ…」
旦那様は思いついたように、手をポンと叩く。
「ハロルド!勇者として名をあげ、魔王討伐を成し遂げれば、クレアとの結婚を許そう!」
………え?
「いやあ名案だ!君ならクレアを任せるのも安心だし、とりあえず魔王は討伐できるし、わたしもこの国に恩が売れるし、いいこと尽くしだな!」
え、お嬢様と結婚?
決して手が届かないと思ってて、ついさっきお嫁さん適性があると分かった、あのかわいくて素敵なお嬢様と、結婚…!?
ぱーっと自分の表情が明るくなるのが分かる。
やる、やります!!
お嬢様と結婚するためなら、大抵のことは我慢します!
「あ、ハロルド、浮気は駄目だよ」
「しません!魔王討伐、一人でやってのけます!」
「いや、そこまでの縛りはいらないんだが…」
話がまとまったところで部屋を出る。
外では心配そうにしたお嬢様が待ち構えていた。
「お嬢様、俺、頑張ります!」
決意表明だ。
お嬢様が、おお、よしよしと、いつものように頭を撫でてくれる。
「ハロルド、ついに旅立つのね…。エリナちゃんや、他のパーティの皆様にもよろしくね。できれば他のハーレムメンバーも拝みたいから、たまには顔を見せにきてくれるとありがたいのだけど…。」
「俺、パーティは組みませんが。」
「は、はああああ!?」
そんな、パーティましてやハーレムとか、誤解を招くような真似はしませんよ。魔王討伐、俺一人でサクッと3年以内にやってみせます。なんなら、早くお嬢様と結婚したいので、もうちょっと頑張ります。
「お嬢様、しばらく寂しい思いをさせてしまいますが、すぱっと魔王を討伐してきますから…絶対、絶対、絶っっ対、待っていて下さいね!」
お嬢様はすっかり混乱しきってて「け、結婚…?」「ハーレムパーティは…??」なんてぼやいている。
うーん、よくわかってないんだろうなあ。
でもまあ、俺との結婚を嫌がる様子はないようだし、これはゴリ押しすればなんとかなるかもしれないな!
お嬢様には申し訳ないが、外堀埋めて気長に待つ、これでいかせて頂こう。
10年頑張ったし、10年我慢したんだ。
お嬢様さえ奪われなければ、あと何年頑張ったって、待ったって大丈夫だ。
そして俺は、魔王討伐の旅に出ることになった。
王様からはとても感謝されて、支度金を大量に頂き、盛大に見送られた。
長年夢見てきたハーレムパーティを諦めきれないお嬢様が、俺の旅についてきたりついてこなかったりしたのは、また別のお話。
このような拙い作品でもお待ち頂いたという感想を頂き、ありがたく思っています!
今作の終わり方を見て頂いたとおり、クレアがハーレムパーティのメンバーに会いたくて我慢ならんかった連載も考えております。
このような亀更新ですが、どうぞよろしくお願いいたします。