1-04.着せ替え人形
活動報告の「とりあえず宣言しておくこと」を御確認くださいませ。
そこに私の、そしてこのAAOにおける主人公のスタンスが書かれております。
箒星はマルクに連れられて町の裏通りにある生産設備広場に来ていた。
「悪いな嬢ちゃん、こんな所まで連れてきて…… こんな辺鄙な所にある作業場だからこそ普段誰も来ないから俺たちの溜まり場にしてるんだがな。
それでアイツらの紹介だが――――――」
謝罪と説明を済ませ紹介に移ろうとしたマルクを遮り、エルフの女性が箒星目がけて動き出す。
「貴女可愛いわね! 名前はなんて言うの? 私はハルネリアっ! 服飾関係の生産者よっ! 貴女の服を作るのは私なのっ! だからサイズ計らせてっ!? 大丈夫ちょっと撫でたりで少しだけ時間かかるかもだけど採寸自体は直ぐに終わるからっ!!!」
「ななな何なのですこの人!? マルクさん助けてください!?!?」
人のものとは思えない速度でハルネリアが箒星を捕まえようと動き、それを木の葉のように避けていく箒星。
マルクと他の面々は暫し呆然とし、そして話し合い出す。
――――――彼らの中に、ハルネリアと箒星が繰り広げる高速戦に付いていける者は居ない。
「悪ぃ嬢ちゃん、俺たちじゃ誰もそいつの速度に付いていけねぇんだ、少ししたら落ち着くだろうから暫く粘ってくれ……」
「えぇ!? そんな」
マルクは諦めたような表情を浮かべて箒星に再びの謝罪を送り、
「ねぇ、ハル姉のAGIって確か25だよね。ハル姉はその数値を十全に引き出してはいるけど、それでもあの子の方が速いんだよね? なんで距離を取らないんだろう」
栗色の髪をした女性は疑問を発し、それに竜人の男が答える。
「ただ速さに物を言わせて逃げるより確実で、その代わりとても高度な事をしている。
早く動けるだけだったら角に追い詰められたりして逃げ場を失えば詰むが、あの少女はわざと相手の速度に合わせて緩急にフェイントを上手く使い分けてギリギリ捕まえられそうで捕まえられない状況を演出している」
「えーっと、つまりどういう事?」
「追い詰められないように逃げ回りながら、相手を焦らせてミスを誘ってる……あんな駆け引きはアバターの身長設定を弄ったりして四肢の長さや目線の高さの感覚が狂ったら出来る芸当ではないな、本当に子供って事か……?
しかし、心得がない子供があんな高速戦闘で初めからそれが出来るってどんなセンスと知覚・反応速度をしてるのだ?」
「要するに、やべぇ って事でいいの?」
「まぁそう……だな、そろそろ決着が着くと思うぞ」
栗毛の女性と竜人の男が話をやめてハルネリアと箒星の方に意識を向け、そしてハルネリアは加速する――――――
「ふふ……ふふふ……焦れったいわぁ
でもねぇ、この勝負、数瞬でも先に走り出した私の勝ちよ!」
――――――更なる加速を見せたハルネリアだったが、それすらも霞む程に速く箒星がハルネリア背後に回り込み足払いを掛け、勝敗は決する。
「――――――千里疾走のお姉さんより素の私の方が速い……です」
地面に仰向けに倒れたハルネリアは数瞬ほど呆け、そのまま笑い出した。
そして暫く経ち、少し落ち着いたハルネリアは言葉を紡ぐ。
「そうねぇ、確かにマルクはそんな事書いてたわね、結構いい勝負だと思ってたのに私ってば遊ばれちゃってたかぁ……
あー疲れた……もう少しだけこのまま横になってていい?」
「いや、身体を動かす良い練習になった、です…… ありがとうございました
アバターの身体は疲れないんじゃないのです?」
ハルネリアの様子を見て箒星が疑問を発し、竜人の男が答える。
「このゲームは体を動かす感覚というのにズレがなく再現度が高いからな、アバターは疲れなくても動かしてる本人の意思が無意識に現実での運動に当て嵌めて疲れた気分になる事があるのだ
そうそう、私の名はゲッテムハルト しがない木工職人だ……木製器具や弓矢等の作成を生業としている」
「あ! 私はリエッタ 装飾細工を専門になってるかな
メインの仕事はアクセサリ作りだけど、武器や防具とか装備品に装飾を施す事もできる……ようになる予定です★」
物のついでと竜人の男が名乗り、それに便乗して栗毛の女性も名乗りを済ませる。
「えと……箒星、です
軽戦士志望……? です」
それを聞き、まだ自分も名乗っていなかったと気付いた箒星も自己紹介をする。
そこである程度落ち着いたのか、ハルネリアが起き出して言葉を紡ぐ。
「ふー、休憩おわりっと
箒星ちゃん、防具作るからちょっとだけ採寸させて貰える? 変な事はしないわ」
「はい、です」
箒星が採寸を受けていると、作業場に一人の青年がやってくる、
ゲッテムハルトが青年を見つけ、声を掛けた。
「遅かったなミトラ
今は採寸中だ、騒ぐなよ」
「あぁそれでハル姉がいないのか、それでゲッテムハルト、今回の依頼の子はどんな奴だった?」
「ああ……種族は狐族で銀髪、身長は120cm程度でかわいかったな
ハルネリアに全力を出させた上で容易く刈り取る程度に技量がある
あの動きからして十中八九身長の変更はしてないだろう、感覚のズレがあったら出来ないはずだ」
「うっそぉ……ハル姉ってアバターの制御法とかPSだけだったら中堅には負けない程度にあるよ?」
「俺も見たから間違いねぇよ、あの嬢ちゃんは速くて、そして上手い
格闘持ちらしいから篭手や臑当はお前が作ってやれ、ミトラ」
「格闘ねぇ……了解、マルクのおっちゃん」
「おっちゃんじゃねぇ!」
二人の会話にマルクが混ざり、話を続けていると、箒星を連れたハルネリアが戻ってくる。
「あら、ミトラ、来たのね」
「おう! 待たせたなハル姉
そこのアンタが箒星か? 俺はミトラ 鍛冶師のミトラだ」
「えと、よろしくです……」
「聞いてた通り小さいな、格闘持ちだったか? 武具作ってやるから少しだけ手足の採寸……はハル姉から聞けばいいか、まぁそんな感じで武器の方はこっちで作るからな」
「ありがとう、です……」
「そう縮こまらなくていいよ
それでさ、刀剣と投擲って取る気無いか? いやこのAAOのシステム上、刃が付いてれば大抵の物の分類に刀剣が付随して来るから、剣爪とかの武器だと格闘と刀剣、二つのスキルがないと真価を発揮しないんだよ」
「なるほど、です
スキルオーブのクエスト、やらないと」
「あー、スキルオーブは主に特殊クエストでの入手になるけど、多少は金で解決出来るよ。
10のn乗の価格で買える、nの部分は何回目の購入か、だな。だから3個ぐらいまでは序盤でも買い揃えられる」
「教えてくれてありがとうです
購入も考えてみます」
「おう、じゃあスキルの獲得やレベル上げでもして時間を潰してからまた来てくれよ、スキルの補助もあるし遅くても三十――――――」
「三時間よ」
「ちょ、ハル姉!?」
「三時間で仕上げるわ、だから箒星ちゃん、ちょっとあそこのおじさん達二人にお姉さん一人とレベル上げ行っててくれる?
ゲッテムハルト、絶対に箒星ちゃんに怪我させちゃダメよ」
「あれだけ動けるなら街の付近のエリアでこの子に傷を負わせるやつなんて――――――」
「い・い・わ・ね?」
「……わかった」
「じゃぁ、そういうことだから
箒星ちゃん、ちょっとレベル上げ行っててくれる?」
「わかった、です」
箒星、マルク、ゲッテムハルト、そしてリエッタの四人が作業場を去った後。
「どうしたんだよハル姉、装備一着設えるぐらいなら三十分もあれば作り直しを含めても余裕過ぎるでしょ?」
「分かってないわねミトラ、身長差がダイレクトに感覚のズレと違和感に繋がるこの世界、あんなにも小さくて可愛く、それでいてしっかり動ける子なんてそうそう居ないわ、居たとしても大抵は保護者同伴、フリーでいる子なんて伝説級の存在よ。」
「……つまり?」
「今から色々衣装を作らなきゃ
ミトラ、あんた自分の分の仕事終わったら私のアシストに回りなさい
……あと金は私が払うから今貴方が持ってる一番の材料で全力を持って作りなさい、良いわね?」
「あ、ああ……わかった
じゃあ俺は自分の仕事してくるな……」
ミトラは空を仰ぎ目を瞑る。
まるで、ここには居ない少女へと黙祷を捧げるかのように――――――
「さて仕事だ仕事……しかし縫製師と装飾師ってのはいいよなぁ
性能が戦闘に耐える物じゃなくてもデザインさえ良ければ街中で使う私服やアクセサリとして売れるとか
……リエッタは稼げてないみたいだが」
―――――――――――――――
「まずはスキルオーブ買いだな
さて嬢ちゃん、今いくら持ってるんだ?」
「ええと、チュートリアルクリアの2000ガルドから傷薬を二つ買ったから……1800ガルド――――――」
「え!? あの商人から傷薬買ったの!? 売ってくれない!? 一つ150ガルドで!!!」
道中、マルクが問い、箒星が答え、その回答にリエッタが飛び付く。
箒星はそれに疑問を呈し、ゲッテムハルトが答えを出す。
「どういう事、です……?」
「あー……チュートリアル商人も言っていたはずだ、割引価格だ、と」
「はい……言ってた、です」
「あれ大体6〜7割引価格なんだ、その傷薬、普通にNPCから買おうとすると300ガルドになる」
「あー……チュートリアルの説明を飛ばしたり、割引という話を聞いた上で何も買わなかった人への当て付け、です?」
「ほう、箒星はそう考えるのか……まぁそんな感じで、チュートリアルで買い物をした者がアイテムリソースで有利になるように作られてるんだが……
箒星のプレイスタイル的に生薬は使わない、というか出番が無いのではないか?」
「もし敵の攻撃を食らったら……」
「ああ、それは気にしなくていい。ハルネリアは戦闘系技能とステータスに殆ど振ってないから戦力にならないだけで、アバターの速度とプレイヤースキル自体は現状の中堅のソレと同等かもしくは中堅の中でも上の方だ。
アレの攻撃を一切掠らせずに捌けるなら、ある程度先のエリアに行くまでは余裕で攻撃を捌けるだろうし、そこまで行くと今度は傷薬程度では足りなくなるのだ」
「……たしかに必要なさそう、です」
「そういう訳で金が不足する生産者としては少しでも安く回復アイテム等を仕入れたくてな……
だがリエッタ、150ガルドはやり過ぎだ、値切るにしてもせめて二割にしておけ」
「う゛……はーい、じゃあ一個あたり250ガルドで売ってくれない?」
「わかった、です」
「ありがとー箒星ちゃん
100ガルドの節約はほんと重要……」
そして取引は完了し、箒星はマルクへと向き直す。
「えと……2300ガルドです」
「……そうか
ならとりあえず1110ガルド使ってスキルオーブを三つってとこか
それで……とりあえずは投擲を覚えろ、あと二つは保留だな」
「……ああ、なるほどです
今刀剣を取っても剣爪がある訳でも無くスキル上げにならないから急ぐ必要は無い、ですね
それだったらブランクを多めに取っておいて不測の事態に備える
万が一不測の事態に陥って使ってしまっても今度はクエストで手に入れればいい……で、合ってるです?」
「そういうこった
というわけで買い物したら狩場に行くが……嬢ちゃん、布の材料に鉱石なんかが取れる敵相手でいいか?」
「スキル上げも兼ねてるにしても、お礼はしたいですし、それで行くです」
「おう、ちゃっちゃと用事を済ませて行くか」
一行は用事を済ませ、街を出る。
―――――――――――――――
「……あれが色々な鉱石をドロップするベビースラッグタートルだ
そして奥に見える森にはシルクワームとスリーピングシープがいる」
「一つ聞いていいです? ここの適正レベルは……?
」
「気にしたら負けだ、それに嬢ちゃんならやられる事は無いだろ
なに、俺達も補佐に回るし行けるだろ、って事で臨時パーティー組むぞ」
「マルクさんとゲッテムハルト、あと私でかかってギリギリ勝てるかなって感じかなー亀は
地味に素早いからうっかりするとダメージ貰っちゃって回復薬代が……」
「安心しろ箒星、ここの敵はリンクしないしアクティブも居ない、下アクも来ないはずだ。」
「安心出来る要素が一つもないです!?」
街を出てから20分ほど走り続けた先、高さが1mを越える亀に前で一行は作戦会議を始める。
「俺たちはスキルが生産に傾倒してるし大してレベリングもしてねぇしそんなに強くねぇよ、なんとかなる……
嬢ちゃん、あんたはできるだけ攻撃の回数を稼いでヘイト取っててくれるか? 火力はこっちでやる」
「箒星、道中俺たちが遅いからと雑に高速移動しながら投げられそうな物集めてたようだが、弾数は十分か?」
「沢山拾ったから大丈夫、です」
「あれー? 私投げても全然問題ない失敗作のアクセサリとか沢山持ってるけど出番無し?」
「各々準備は出来たか?なら行く――――――」
「試したい事もあるので、最初は一人でやってみたい、です」
「お、おう……わかった
危なそうなら問答無用で割り込むからな?」
「はいです、えーっとSystemCall……戦闘ログとシステムログの表示……」
「嬢ちゃんはUI表示する派か、視野が狭まるから俺は苦手なんだよな……」
「じゃあ行く、です」
いつでも加勢できるようにマルクは剣、ゲッテムハルトは斧、リエッタは槍を構える。
そして箒星は走り出す。
「戦闘ログの確認……甲羅へのダメージは一律して1……頭や足は最低3かな、攻撃を当てる場所によって変動……あと相手が攻撃モーションに入った時のカウンターヒットでも上がるかな
もっと速く……速度によるダメージの変化は無し。ダメージの算出はHITした場所と武器相性、あとは攻撃力のみで導き出されるって事かしら
攻撃時に帰ってくる手応え……反動は一応変動があるけど現実と比べれば明らかに軽微
成程……結局の所これはゲームであって現実とは違う
プログラムによって定められた事しか起こり得ないって事ね……
AGI上げは千里疾走の事を考えると足を止める事は許されないし留まって攻撃が出来ないからヒットアンドアウェイが基本……
思った以上に攻撃の回転率は上がらないわね……
効率考えるなら、ある程度AGIを取ったら後は普通にSTRに振るのが基本かしら
投擲はスキル値が低いとあらぬ方向に飛んでいく……とかは無いわね
あとは千里疾走状態で戦えるか、かしらね……」
箒星は攻撃を加え、余裕を持って躱しながらログを追い検証と小さな独り言を重ねて行く。
「千里疾走発動……速く動くのは大丈夫そうね
敵や周りの状況把握もまだ問題は無さそう……検証終わり、かな……」
「試したい事終わり、です。加勢お願いします、です!」
戦闘開始からキッチリ二分
箒星は考察と独り言を辞め、大声で加勢を求める。
それから間も無く戦闘は終了した。
「嬢ちゃん、試したい事ってのはちゃんと終わったか」
「はいです、やっぱりこれはゲームで、良くも悪くもシステムに沿った事象しか発生しない……速度はダメージに関係しないってわかったです
あとレベルが2つ上がって3になったです」
「なるほどなぁ、そういうのは俺よりゲッテムハルトかハルネリアのが詳いな……
レベルアップか、まぁここのやつらレベル8だしなぁ
やっぱりステータスは全部AGIに振るのか?」
「箒星、俺たちがレベリングをサボっていると言われればそれまでだが、レベルは5を超えると結構上がりづらくなるからステータス振りは慎重にやると良い
具体的に言うと俺たちはレベル5になってからアレを百匹ほど狩ってるが未だ7だ……まぁ経験値が低めの敵ってのもあるのだが」
「まぁレベルアップによるステータス強化は確かに大きいけど、スキルレベルの成長でも結構強くなれるし、それよりもプレイヤースキルの方が重要な気もするけどねー
箒星ちゃんだってさっきのは加勢無くても余裕で倒せるでしょ? ちょーっと時間かかるだけで」
「効率良くやるよりも、やりたい事をやるだけ、です……
付いていける限りはAGIに振るです」
「おうよ、ゲームなんだから楽しまないと損だしな
そうキッチリ言える嬢ちゃんはすげぇと思うよ」
「……AGIが90と、新しいスキル……強いけどゴミっぽい、です」
「STRのステータススキルは現状300まで判明しているが、AGIは扱い切れる値以上に上げてる人は居ないからスキルの判明が進んで無い
箒星、こっちで掲示板には上げておくから詳細を教えてくれないか」
「ええと……AGI80 <空蝉の衣> パッシブ
どんな攻撃やダメージでも一度だけ無効化する。
効果発動後、一時間経過で効果が復活する。 ……です」
「え!? 箒星ちゃんそれ普通に強くない? 一時間に一度でも無効化スキルって!」
「確かに強い、です。でも、ここまでAGI上げたら多分全部躱せるから無くても問題無し……です
初見殺し対策の保険です?」
「いや……箒星よ、その速度で十全に動けるやつは殆ど居ないのだ
しかし、無効化スキルは一時間に一度とはいえ強力故に、AGIを生かせないとしても取りに行く価値がある」
「最大レベルは100だって告知されてたしー、7レベル分程度のステータスポイント振ればいいのは軽い方かも?」
「まぁ……嬢ちゃん、嬢ちゃんはVITに振ってない上にまだ初期防具だろ
下手したら一撃死貰う可能性があるから保険として習得しておけ……
無くても嬢ちゃんなら全部躱しそうだが集中力切れとかもあるだろうしな」
「わかった……です」
「よっしじゃぁ嬢ちゃんの準備が整ったら森の方も行ってみるぞー、とれだけ材料が集まるかなっと」
「はいです」
―――――――――――――――
そして森の敵二種類を倒した後、
箒星たちは休憩とスキルの確認へと入る。
「レベル5になった、です」
「格上相手とはいえ、やっぱり5までは早いなぁ
よし休憩だ、嬢ちゃん、ステ振りとか済ませちまえ」
「はいです AGI110になって…… 新しいスキルは……えっと<纏雷>……です?」
「100スキルだな、ちなみにソレの次は300までお預けらしい
それで箒星よ、スキルの詳細は?」
「AGI100 <纏雷> パッシブ
移動速度が150km/hを超えた時に適応。
装備に青白き雷の光が宿り、現在出ている速度に応じて、HPを除く能力値に補正がかかる。
……です」
「字面がかっこいいね? 箒星ちゃん流れ星になるの?」
「嬢ちゃん、こりゃぁ……補正値によっては化けるが……」
「……でも、これ取ったら、ミトラさんが言ってた刀剣取れなくなる、です……」
「ふむ……箒星よ、一つ質問だ
AGI110まで上げたと言ったが、その速度を、千里疾走を含めても扱えるか?」
「んー……多分可能……です
千里疾走補正無しだったら、さっきまで千里疾走込みで走ってた速度より遅い……です、千里疾走は、多分問題無いけど、走ってみないと……です
三分ぐらい待ってくれたら、ちょっと走って鳴らしてみる、です」
「では、頼む」
「はい、です」
そして三分後――――――
「千里疾走込み、問題無く走れる……です」
「……えぇと 16.5倍、約370km/hか……その速度で森の中を自由に走れるとはどんな神経を……
まぁいい、では箒星よ
纏雷の情報は私が買おう、帰った時にオーブを買える額で1万……いや、次の事も考えたら11万は出すべきか……本当はオーブの価格は青天井故、まだ安い段階のオーブの価格というのも不甲斐ないが、それで良いか?」
「わかった、です……<纏雷>習得……」
「そんなあっさりやるのか……」
「SystemCall Status……補正はステータスに反映されたら楽、ですけど……」
「ああ、ステータスに反映されない可能性があったか、そうだったら戦闘で検証の必要も出てくるな……」
「とりあえず、走ってくるです」
箒星は走り出し、そして一条の光となり森を巡る。
「こいつは……嬢ちゃんすっげぇ目立つなぁ」
「幻想的……あ、スクショとっとこーっと」
「光量はライブで使うようなケミカルライトと同等か少し強い程度、直視の妨げにはならない
駆け抜けた後に少しの残光と雷のエフェクトが出てるのか、まるで流星の如く……尾をひいてるように見えるな」
「あとは嬢ちゃんが戻ってきた時に補正の確認か」
二分が経ち補正値の確認を終えたのか、箒星は三人の元へ戻ってくる。
「ステータスの上昇幅が素の最大で11、千里疾走込みの最大で16……です
速度に比例して補正値は上下する、です」
「そうか、ありがとう……最大速で走れる前提としてAGI値/10の補正か
そこまで早く走る難易度もそうだが、普通にSTRやVITに振るのが早いな……
使いづらい割に補正値が低いか」
「箒星ちゃん箒星ちゃん、これスクショ、綺麗だよねぇ」
「すっごい目立つです!?」
「ああ、嬢ちゃんすっげぇ目立ってたなぁ……自己主張が激しいというか」
「迂闊にお外走れない……」
「箒星、データのサンプリングに協力してくれて助かる
とりあえず報酬だ」
「ありがとう、です……あれ? 14万と少し……少し多い、です?」
「それだって本来は少な過ぎるのだ、箒星は気にするな
私がもっと金を持っていればよかったのだが……」
「……端数的にもこれ所持金全部です!?」
「気にするな、私はそこらへんの木でも切り倒して木彫り細工を作ってれば金になる、鉱石や動物の皮の類を湯水の如く消費する職に比べれば金策はマシだ」
「……わかった、です……」
「さてゲッテムハルトも嬢ちゃんも話は終わったか?
狩りの再開と行こうぜ、帰りにかかる時間もあるから今のうちに思いっきり稼がないとな」
「はいです!」
そして時は過ぎて行く――――――
―――――――――――――――
三時間が経過し、約束の時が訪れた作業場にて
箒星はミトラとハルネリアに謝罪をする。
「少し遅れた……です、ごめんなさい
ちょっと狩りに熱中して、皆はまだこっちに走ってる途中です……」
「気にしなくて良いわ
……そうね、先にミトラが用事を済ませちゃいなさい」
「はいはいっと、というわけで箒星、これが武器だ」
ミトラはそう言いながらシステムメニューを弄りインベントリから銀を主として所々に赤い電子基盤の模様のような線が入っているガントレットとグリーブを取り出す。
「剣爪<BloodStealer>と鋭脚<BloodStealer>
……シリーズ名みたいなモンだから名前は気にしないで欲しい
特徴としては敵にトドメを刺してから三十秒だけ攻撃力に補正がかかるって効果がついてる
……三十秒以内に別の敵を見つけて殴りに行くのが大変ってので不人気なんだけど、まぁ箒星なら扱えると思う」
「ありがとうです!」
「まぁ、使ってもらえれば何よりさ」
ミトラから武器を貰った箒星へハルネリアが声をかける。
「今度は私の番ねぇ
さて箒星ちゃん、まずはこれを……」
「メイド服……です?」
「そうよー、他にも警官服とかメイド、くノ一にチャイナドレス……色々あるわよ?
でもそれは観賞用、ちゃんと戦闘用の服も作ってあるから安心してね?」
言いながら複数の衣装をインベントリから取り出すハルネリア、その数は十着。
「……わりぃ、ハル姉の強行は止められなかった」
「えぇと……」
「全部無料であげるから写真撮影させて? お願い!」
ミトラの謝罪に困惑する箒星へとダメ押しをするハルネリア。
「わかた、です……」
そうして撮影会が始まり、衣装を半分消化した所でマルク達一行が戻ってくる。
「ふー、わるかったな
気がついたら帰る予定の時間過ぎてたもんで遅れたわ、嬢ちゃんは先に来てると思うが……って嬢ちゃん、なんだ巫女服来てポーズなんか取って」
「あら、遅かったわね? あとでスクショ見るかしら? ……まぁ今は忙しいから後でね」
声をかけられマルク達の存在に気付き、一気に顔を羞恥の色に染める箒星だったが、しかしハルネリアにせっつかれて衣装とポーズの変更におわれる。
そんなハルネリアにリエッタが加勢しに行ったのを見届け、男達は話し合う。
「ああ……マルクのおっちゃん、おかえり……いやちょっとハル姉が暴走しただけなんだ……」
「なるほど、それでハルネリアは三時間なんて言ったのか……いくらかけたんだこれ?」
「……おれが作った武器だって一番良い素材を使って全力で作れって30万ガルド渡されたし、ハル姉の方は今まで面倒なクエスト周回して貯めてた精霊花全部使ってたような気がする……」
「なんと、私よりも金をかけたのか……それで、その事を箒星は?」
「ああ……知らないはずだよ
俺は言ってねぇし、ハル姉も言う気は無さそうだし……ってゲッテムハルト、金をかけたって何したんだ?」
「いや……箒星はレベル5になってステータスは全てAGIに振って100を越えたからな、80と100のスキルの情報を買う、という事で刀剣の事を考えると足りなくなるスキルオーブの分の金を工面しただけだ」
「へー、ってことは1万ガルドか、よくそんなポンと出せたな
俺、ゲッテムハルトが金を稼いでる所の見たことないや」
「いや……ゲッテムハルトは持ってる所持金の全て、14万とちょっとのガルドを出していたぞ」
「マルクのおっちゃんそれって……なぁゲッテムハルト、マジ……?」
「……ふん、未だに誰も上げずにスキルの内容が判明してなかったのを知れたのだ、情報料としてはアレでも安すぎだ」
「……なぁマルクのおっちゃん、ゲッテムハルトのアレって新手のツンデレでいいのか?」
「……知らん、俺に聞くな」
男達が話をしている間も箒星の撮影会は進み、そして終わりを迎える。
「疲れた、です……思ってたよりすっごい恥ずかしい、です……」
「さて、こんなもんでいいかしら……
箒星ちゃん、衣装着て写真撮らせてくれてありがとうね。その衣装は全部あげるわ、他に着れる子も居ないと思うし
それじゃ本命の装備と行きましょう」
ぐったりしている箒星を尻目にハルネリアは自分のインベントリから若草色をベースとした装飾が控え目な服を一着取り出して箒星へと渡す。
「亜精霊の旅衣
森の中とか自然が濃い場所での行動時に発生する音が減る効果がついてる……らしいわ」
「綺麗、です……」
「まぁ精霊花はこの街で手に入るとはいえ一番面倒なクエストの……
って箒星ちゃんには関係無いわね、スキル上げの為に装備作ってるんだからお金とかは気にしなくていいわよ、マルクもそう言ってたでしょ?」
「えと……はいです、ありがとうです
ハルネリアさんも、皆も、良くしてくれて」
「そう思うなら適当によさげな素材でも見つけたら持ってきてくれればいいのよ、一々気にする必要は無いわ
ところでだいぶ長い時間引き留めちゃったけど、晩御飯とそろそろ落ちなくて大丈夫かしら……」
「はいです、時間は……確かにそろそろ落ちないと迎えが来そう、です」
「なら今日の所はこれでお別れね、明日はInするのかしら?」
「明日……」
箒星は十数秒ほど考え込み、そして言葉を続けた。
「明日もInする、です
でも多分、お姉ちゃんと一緒に遊ぶと思う……です」
「あらら、了解
じゃあフレンド登録だけしておいて予定が合ったら遊びましょう
またね?」
「またね、です SystemCall Logout……」
―――――――――――――――
名:箒星 Lv:5
種族:獣人族 狐
ステータス
STR:10
VIT:10
DEX:10
AGI:110
LUCK:10
能力値
HP:600
ATK:62
DEF:68
スキル
<格闘:Lv5> <投擲:Lv3> <刀剣:Lv1> <水泳Lv1> <>
控え
<千里疾走> <緊急制動> <風切り羽> <空蝉の衣> <纏雷>
アーツ
<スタンブロウ> 発動鍵:スタンブロウ
格闘Lv2 ダメージ倍率1.1 対象へ与える気絶値が高い
<ウェポンディザーム> 発動鍵:ディザーム
格闘Lv4 ダメージ倍率0.9 相手の武器を落としにかかる攻撃、武器を落とせずとも30秒のATKダウン(小)を付与する
<スナイプスロー> 発動鍵:スナイプ
投擲Lv2 ダメージ倍率0.7 100m先の敵へ確実に投擲物を当てる
装備
武器:BloodStealer
ATK:52
特殊効果:血に濡れし者
偽銀をベースに血脈鉱を加えて作られた武具。
敵を倒してから三十秒の間、ATKを20点加算する。
防具:亜精霊の旅衣
DEF:58
特殊効果:亜精霊のおまじない
純度の低い精霊花から織られた布で作られた服。
亜精霊の布の特性として、装備者の行動の一切を妨げることがない。
自然が多く残る場所での行動時発生音が50%軽減される。
活動報告の「とりあえず宣言しておくこと」を御確認くださいませ。
そこに私の、そしてこのAAOにおける主人公のスタンスが書かれております。