0-01.帰り道
「そういえば、凪姉が自分の足で歩き駆ける感覚を知りたいって言うのにフルダイブ型のVRMMOに手を出してない理由ってなんだっけ」
「香織、私は、初めて歩き駆ける事が出来たという感動を再現度の低いゲームの世界でやってしまう、そんな勿体無いことをしたくないだけよ」
放課後の帰り道、車椅子に乗っている海結莉 凪と、車椅子を押している海結莉 香織はいつものように取り留めも無く話を続けていく
「あー……うん、わかる気がする。動く時になんか微妙に違和感があったりするもんねVRMMOって」
「私はまだ一度もやった事ないから知らないわよ。でも、そう言うのなら尚のこと私は手を出さないわね」
「あはは……。まぁそれは置いておいて……凪姉に見てもらいたい物があったんだけど……」
しかし今日は少し様子が違うらしい
「あった、これこれ」
その言葉と共に香織が凪へと見せた端末の画面には
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<Act Amplify ONLINE>
最新のVRマシンによる広大かつ鮮明な世界。
それを存分に楽しむ為には何が必要か。
私達開発スタッフが出した答えが、シナリオや世界観よりもまず優先すべきは動作における現実との齟齬を徹底的に削る事でした。
いかに優れた世界であっても、それを楽しむにあたってノイズがあっては興醒めですから。
そんな考えと熱意を基に作られた<Act Amplify ONLINE>
動作クォリティを優先し過ぎた為、正式サービスが始まったというのにストーリが半分も実装されておりませんが、今後のアップデートによって新要素やストーリーをどんどん追加していく予定です。
私達が熱意をもって作り上げたこの世界、どうぞ心行くまでお楽しみください。
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「どう? これなら凪姉も納得できるんじゃないかなって思ったんだけど……
それに『次はもっと良い物が来るかも』『そろそろ足を治せる革命的な医療の発展がくるかも』なんて言ってたら、永遠に機会を逃しちゃうよ……」
「そう、ね……
少し考えさせてもらえる?」
「うん……
凪姉、これ以上、凪姉が足の事で沈んだ顔をしている所を見るのはもう嫌なの」
「…………」
帰り道、いつもの二人は家に着くまで話し続けるが、この日ばかりは会話が続かなかった……。
海結莉 凪 -ウミユリ ナギ-
主人公
高校二年
生まれつき足に障害を抱えており、駆けるという事に羨望を持つ。
海結莉姉妹の姉
海結莉 香織 -ウミユリ カオリ-
高校一年
勉強ができ、運動もできる優秀なゲーマー。
時折暗い顔をする姉の事をとても心配している。
海結莉姉妹の妹