2-05.歯車は知らずと欠け行く
箒星が玉兎の乱獲に勤しんでいた頃
――――――零細職人連合 溜まり場 僻地の生産エリア――――――
この日は珍しく、昨日は不在だった調合士のエリアスを含めて全員が溜まり場に集合していた
この場に全員を集めたのはハルネリアであり、そして彼女は覚悟を決めた顔で口を開く
「私達はそろそろ本気で生産に取り組むべきだと思うの
ここでだれて進まなかったら、きっと箒星ちゃんは生産者として半端者な私達より別の優秀な生産者の所へ行ってしまうわ」
「私はその箒星に会ったことが無いから何とも言えないけどね
その女の子、ハルネリアが入れ込むのも分かるぐらいに可愛いのはスクショ見れば分かるがな
しかし速さの一点特化なんだろう? 力なら兎も角、それ以外の単色じゃぁ伸び悩む。そう急ぐ必要も無いんじゃないか?」
「ハルネリア、アレはいつものようにチュートリアル明けの初心者に対する支援で連れて来ただけの客だ
可愛いからサービスした。それは分かるが、これ以上特別扱いするのは違うんじゃねぇか
それに、此処は上位中堅の顧客確保争い、生産競争から逃げてきた者の集いの一つだ
何で今更またあの場に戻らなきゃなんねぇんだ」
そんなハルネリアに対して否定的な意見を述べたのはエリアスにマルク
実際、ここに居る面々は生産争いに疲れてまったり行こうと決め集まった者達なのだから
しかしハルネリアは意見を曲げない
「私自身がAGI高めのSTR無振りだから多少は分かるわよ
その速さを使いこなせればどれだけ伸びるか
火力は装備やアイテムである程度補える
多少アイテムを浪費しても回復や補助を使わないなら稼げないわけじゃない
ならあの子は、先に進む気さえあればアイテムの火力で行ける範囲いっぱいまではすぐに伸びるわ」
「へっ……ご執心なこって
確かにそう優秀な相手だったら色々素材とか優遇して貰いたいが
かといって私は今更あんな競争に身を投じる気は無いよ」
「だからと言ってお前の願望に俺達を巻き込むな
『平和にまったり行きたい』その思いを踏み躙るのだけはやめろ」
何をもってゲームを楽しむとするか、意見の相違
これに限ってはどう頑張っても分かり合えない事が多い
意地を通すのであれば亀裂は避けられない――――――
「エリアスもマルクも……もういいわ
ゲッテムハルト、リエッタ、ミトラ、貴方たちはどうするの」
「俺はハルネリアについて行くのもアリだと思っている
実際にあの子が戦闘を行った場面を見ていて
その時に避け壁を頼んだのはこちらだが
俺達が攻撃をしやすいように相手を誘導しながらもウィークポイントやカウンターヒットをしっかり狙っていて、それでも余裕があったように見えた」
「あ、あははー
私は遠慮したいかな
言いたい事はわかるんだけど
ゲームでまで頑張るのは本当に疲れるよ……」
「俺はハル姉について行く
俺が怖かったのって、今は何処にいるか分からなくなってるトップ勢の生産競争で多くの生産者が一斉にキャラの作り直しを行ったという事件の事だし、上位中堅あたりではそこまで苛烈な競争は起きてない
怖かったからって言っても、流石に今はぬるま湯に浸かりすぎてる気もするし」
「ならゲッテムハルト、ミトラ、私と共に来なさい
エリアス、マルク、リエッタ、ごめんなさい。私達はここまでみたいね。
今まで楽しかったわ」
――――――だからこの別れはいずれ発生する必然
それが今、このタイミングだっただけ
ハルネリアは振り返らずに去っていく
再び歩を進める者の覚悟を灯して
――――――――――――――――――――――――
――――――売店区画――――――
なにも言わず、ひたすらに爆弾等のアイテムを買い込み続けるハルネリアに対し、流石に痺れを切らしたのかミトラが口を開く
「落ち着いてハル姉!
確かに切っ掛けがあってタイミング的には丁度いいのかもしれないけどさ
流石に性急過ぎない?」
「……時間が無いのよ」
時間が無い、一体何の時間が無いと言うのか
「ハルネリアよ、一度落ち着いて話し合うという手段もあったのだ
それを蹴って、乱してまで急ぐ理由、その説明が無ければ流石について行く事は出来ないぞ」
「……分かったわ
でも準備しながらの説明になるのは許してね」
「構わない」
ハルネリアは手を休める事無く言葉を紡ぐ
「ねぇ、なんで私が皆より少しレベルが高かったり纏まったお金を持っていたのか分かるかしら」
「それは……ハル姉がソロ活動時に頑張ってたからじゃない?」
「違うわ
頑張ったのは確かだけど、私は玉兎を狩っている」
「「は!?」」
「勿論、千里疾走の効果が乗っていても追い付けないどころか引き離されるから、よく逃がすし、何より一狩り事に頭の奥の方がチリチリと痛むんだけどね……」
「いや……あれはパーティーで追い込み猟のようにやっても逃げられる事も多いのだが……
そうか、確かに速く動けてPSも伴ってれば一人で追い詰める事も出来なくはないのか
常識が崩れる音がするな……」
「そうよ
それでね、箒星ちゃんは私よりも速く、それでいて速さだけで逃げるんじゃなくて私の動きを見切って動けるだけのPSもあるの
そんな子が玉兎を標的に定めたらどうなるかしら」
「一人でも効率良く追い込み猟が出来る……ってハル姉!」
「想像の通り、一気に初心者帯は突き抜ける
だから私達は、あの子が玉兎に気付く前に玉兎狩りをしてある程度の力を確保する必要がある」
「成程、急ぐ理由は納得した
それなら確かに急がなければならないが
それでもあの決別は納得出来ない、一緒にプレイするのは諦めるにしても後で和解ぐらいは意識しろ」
「それぐらい分かってるわよ……
とりあえずこれぐらい用意しておけば大丈夫かしら
さっさと戦闘エリアまで行くわよ」
――――――草原エリア――――――
町から出たハルネリア一行
開けた視界の遠い先に蒼い一閃が走る
「ハル姉……あの青白い燐光って」
「……えぇ、普通に狩るだけならあんな大移動をする必要は無いでしょうし、気付いちゃったのね……」
「どうする、ハルネリアよ」
「あーもー……あんた達、夜はどれぐらいまでイケる?
あの子の狩りが終わったら巻きで行くわよ
それまでは各々自由に素材収集!」
競争の道を歩むと決めた生産者達の夜は長い
そろそろ文章綴る気力が尽きそうなので