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Act Amplify ONLINE-加速する意識の先へ-  作者: 孤雪
二章-不穏×不穏-
12/16

2-01.いきなり借金生活

遅筆なのは許して欲しいと思う

「えぇと、醤油……あっ」


休日の朝、朝食の場にて

凪は醤油を取ろうとして手を引っ掛け瓶を倒してしまう


「あちゃー……凪姉、寝惚けてる?」


「凪が失敗をするなんて珍しい、後片付けはこっちでやっておくからそのまま食事を続けて早く休んでしまいなさい」


「ありがとうございます、父様……」


「凪姉、病院とか行かなくて大丈夫……?」


「大丈夫よ、ちょっとぼーっとしてだだけだから……

香織、今日は一緒にゲームしない? ある程度は動けるようになったし」


「おっけー、もしかしたら他のプレイヤーも一緒になるかもしれないけど良い?」


「問題無いわ……香織、向こうではロールプレイを忘れないでね」


「はいはい、私はリミリア・レミナだし凪姉は箒星だよね

箒星はリミリアの姉じゃないし、当然箒星の事を姉なんて呼ばない」


「そう、ゲームはゲーム、リアルの持ち込みは嫌よ……久々に一緒にゲームするのに忘れないでいてくれて嬉しいわ」


「まぁねー、それじゃあ準備もあるし御飯終わってログインしてから30分後にチュートリアル終了して街に入った時点で見える武具屋の隣の広場で」


「わかったわ……ご馳走様。じゃあ香織、運んで貰える?」


「はーい」


―――――――――――――――


「やっぱり身長を大幅に弄れば、届くはずの物に手が届かない、逆に届かないと思っていた物に届いてしまう狂いが際立つ……のを実感したね……」


ログイン直後、周りに人が居ないことを確認して、慣らすために体を動かしながら箒星は一人呟く


「時間は余裕があるし、オーブは香織とクエスト行けばいいから残り一つで何か面白そうなスキルでも……

登攀、捕縄術、火吹き芸、歌唱に演奏、そしてダンス……とりあえず詳細確認

登攀は水泳と同じペナルティ軽減、捕縄術は相手の行動封じで……火吹き芸……ネタ枠っぽいわね

歌唱、演奏、ダンス……へぇ、これって周囲にバフとデバフをバラ撒けるスキルなのね、候補の一つとして保留

攻撃に属性を付与するスキル……1属性につき1スキル埋めるのは不便ね」


箒星は習得可能スキルリストをスクロールして候補を選定していき、そしてある所で手を止める


「他に面白そうなのは……紋章術(クレストマジック)? 効果は……」


特殊な触媒で線を描き紋章を刻む事で、紋章に対応した神秘の法を発動させることができる

効力は使用された触媒・紋章の正確さ及び大きさで決まる


「……魔法系スキルも一応あるのね、えぇと掲示板――――――」


紋章については紋章学入門書を買うなり図書館で読み漁る等をしてプレイヤー本人が覚える必要がある(リストで纏めて表示される等の機能はない)

一度でも習得フラグを立てていないと、他のプレイヤーから教えて貰って紋章を描いても使用可能な紋章として成立しない

一つの紋章を書き上げるまでにスキルレベル依存の制限時間がある、これにより低レベルにおいて複雑な紋章や紋章の大型化に実質的な上限が掛けられている

完成した紋章はスキルの所有/未所有に限らず誰でも使用する事が出来る

NPCから買える低級希釈触媒で刻んだ紋章は10分で効果を失う

回復薬や爆弾に比べて効力と汎用性では勝るがコスパと使い勝手で劣る


「んー……魔法は魔法でも位置的には特殊な生産スキルと言ったところかしら

まぁ一般に魔法と呼ばれるような実体のない物を範囲指定とか違和感無く自然に扱えるようにするプログラムを作る方が難しいわよね……

よし、これにしましょう、あとは店で触媒と参考書を購入……」


決めてしまえば行動は早く、必要な物をさっそく揃えに向かう


「……入門書がまさか5万ガルドするなんて想定外だったわ、一度読めば再度買う必要は無いっていっても……

あと触媒も……最小単位であの価格って酷くない!?

識者の羽根ペン……これは非消耗品なのね、紋章を刻む用のブランクカード……白紙のトランプカードが100枚、あとは低級希釈触媒12ml……触媒って一つあたり一個の紋章を描けるとかじゃなくて実際のインクと同じ扱いと

羽根ペンの方に1mlインクを保持しておく機能がありインク切れまでは自由に線が書ける……と、羽根ペンというより万年筆と補充可能なインクカートリッジみたいね

というか予算オーバーも酷すぎるわよ、レベル20までは無金利でお金を借りれるとはいえ……

……まだ待ち合わせ時間までまだ10分ほど有るわね、入門書を読み込んで手頃な紋章でも書いてみようかしら――――――」


癒術の紋章札

HPを回復する 700点


炸裂の紋章札

周囲に爆破ダメージを与える


雷の紋章札

周囲に雷属性ダメージを与える


「――――――とりあえず3枚ほど描いてみたけど……

初級回復薬の回復量の回復量が500だったかしら、確かに効力は上ね

参考書の価格は一旦忘れて、使った触媒の量とブランクカードの価格から考えて……初級回復薬や低級爆弾等のアイテムを100個の値段で紋章80個って所かしら

描く手間と効力消失までの制限がある事と価格の問題は確かに辛いけれど

……アイテムであれば回復薬50の爆弾50を購入したと想定して、回復薬の出番が無くて爆弾50個しか使えないよりも 紋章80個全部を炸裂紋章にすれば実質的に個数を上回れる……

効果先を自由に選べる柔軟性と効力の高さは充分に魅力的ね

発動鍵はMystic……詠唱後三秒で効果が発動、自身が持っておく、他者に貼り付ける、投げるが主な使用方法と……

特殊使用法として詠唱のある無しに関係なく、握り潰したり踏み付けた場合、即時効果を発動する……

自分に適応するなら握り潰せばいいし味方に使うなら踏ませる、または貼り付ける、敵には……まぁ3秒後に敵の付近に行くように投げれば巻き込まれてくれるでしょう、踏ませてもいいけど」


箒星は掲示板で拾った情報に齟齬が無いかを確認していく、そして時刻を確認し


「……って、そろそろ時間ね

待ち合わせの場所に、っとその前に……どの服で行こうかしら

紋章って言ってもブランクカードのせいで明らかにトランプに見えるしカジノのディーラー服……? それとも魔法という事でそれっぽいのは……修道服、巫女服……思い出したくないけど明らかに魔法少女な衣装もあったわね……

ディーラー服は可愛げが無いし、修道服でいいわね」


準備を終えて待ち合わせの場所へと駆けて行く


―――――――――――――――


武具屋の隣の広場にて

薙刀を携えた鬼人の女性 リミリア・レミナに、修道服を来た狐人の少女が走り飛び付く


「リーアー姉ー♪」


「!? えぇと、箒星……って、凪っ!?」


驚いたリミリアはうっかりリアルの事を口にしそうになり、箒星の軽い蹴りで口を閉ざす


「どうしたのリア姉?(ゲーム内、他の人の前ではロール忘れちゃダメよ?)」


「いやー、ちょっと飛び付かれてびっくりしただけだよ(いや凪姉小さくなってるならそう言ってよ……朝食の時に醤油瓶倒したのはそれが原因?)」


「んー、驚かせようと思って(そうよ、届かないと思ったら届いちゃって)」


「もう……悪戯っ子なんだから(はぁ……ちょっとフレが着いてくるけど大丈夫?)」


「えへへ♪(平気よ)」


挨拶(茶番)を終えた二人は、リミリアを先頭に街の外でレベリングを行っている他の仲間の元へと移動する


「――――――というわけで、訳ありで参加が遅れるかもって話だった子がこの子」


「箒星、です……よろしくお願いします」


「レミナさんって妹いたんだ……

どうもーよろしくねー、私は落葉(らくよう)、一応弓兵……かな? 落ち葉って呼んじゃダメだよ!」


「矢のお金が勿体ないって言いつつサブ武器である短剣がメインに見えてくるような戦いをするバーサーク女だけどな……

俺は戦槌使いのカラミティ・ゼノだ、宜しくな」


「……どちらかというとガーディアンの麦茶だ、これからよろしく頼む

しかしレミナは下手したら自分より厄介な人だと言っていたが……本当か?」


各々が自己紹介をし、麦茶が疑問を口にする


「あはは……麦茶さんって確かWildernessLegendaryONLINEやってたよね?」


「ああ……VRが発達した今でもコントローラーの感触を求める一定の客層を狙ったゲームの一つだな、視界はVRゴーグルで本物に近いが行動は全てコントローラーで行われる……」


「うんソレソレ、でぇ……この子、『鉄華の司令塔』」


「……うん?」


「第三イベントの第八回野良レイドで指揮下手だった禁術士(エンハンサー)君から容赦なく指揮権掻っ攫って行った子」


「……ってことは護り手(シールダー)だったか? となると役被り……

いやまて、コントローラー操作のゲームとフルダイブ型ゲームでは勝手が違うだろ」


「まぁまぁ、それは実際にPT組んでみてって事で

それに箒星は今回盾職じゃないって言う、し……

そういえば箒星は今回何になるの? まだ低レベル帯にしてはそこそこ良い性能の修道服を着てるのも気になるけど」


麦茶の疑問に答え、そういえばと未だに聞いていなかった点を箒星に確認する


「んーっと……これ」


箒星は数瞬ほど悩み、そして小さなインク瓶を取り出す


「インク? 何なんだそれは」


「……確か紋章術(クレストマジック)用の触媒だったか?」


「うっわぁ……性能は兎も角初期投資がエグいやつだ」


「ねぇ箒星、お姉ちゃんには嘘付かないよね? 装備とそのインクの経緯、教えてくれる?」


ゼノが首を傾げ、麦茶が答えを示す

落葉が端的な評価を言い、そしてリミリアが問い詰める


「えぇと……装備は親切な生産者さんが、基本知識教えてくれるついでの素材集め手伝いをしてたら武具一式作ってくれた、です……

紋章術の触媒は、その後に買った、です……」


「武具一式? いや今はそれよりも……その触媒を買うお金はどうしたの?」


リミリアの追求に箒星はしどろもどろに答え、その解にひっかかりを覚えつつもリミリアは触媒の話を優先する


「……NPCから借りた、です……借金システムで……」


「このゲームの借金システムって、借金を得ている間はNPCの取引には影響が無くてもPC同士の取引の場合はアイテムやお金を貰うことはできても渡すこと一切出来なくなるんだけど……ちなみに借金はいくら?」


「……60万とちょっと」


「「「…………」」」


「……うん、仕方ないよね、紋章術はほんとに初期投資が重いもんね

本物のインクとペンみたいにインク1mlでもカードサイズなら紋章は100個ぐらい描けるから最終的な価格は普通の消費アイテム類より少し高い程度になるけど……

大丈夫大丈夫、お金は稼げばいいし、ね? ね??」


箒星の告白によって沈黙が齎され、その沈黙を破り箒星を擁護するように落葉が動く


「……そうだね

皆、今回は経験値効率が良い敵よりも金銭回収効率が良い敵を重点的にお願い出来る?」


「俺はかまわないぜ、とうせ金策もいつかはしなきゃいけなかったんだ

本当はもう少しレベリングして効率を上げたかった所だけどな」


「うんうん、弓兵ってお金かかるから金策重要だもん、いつでも行けるよ!」


「……それでいい」


「それじゃ行こ――――――」


「待って欲しい、です……」


「ん? 箒星、どうしたの?」


レミナの確認に三人が同意し、それを見て出発宣言をしようとしたレミナに、箒星が割り込みを掛ける


「借金は、あれは言葉が悪いだけで、とても便利なもの、です……」

「えぇと……つまり?」


箒星の発言に少しばかり意図を掴みかねたレミナが聞き返す


「レベル20までは利子も生じないし、PCとの取引で物やお金を渡す事ができなくなるのは少し不便だけど……

でも、その不利を補って余りあるだけのアドはある、です……

紋章術に限ったことじゃなくて……」


「……嗚呼、つまりはアレか

初っ端からNPCから買える物に限るが一番良い装備と潤沢なアイテムを揃えて一気に戦力を上げてしまう事によるアドバンテージ、だな

成程……借金という言葉のイメージのせいで確かに嫌厭してしまうが、これはゲームだもんな……」


「あー、PCメイドの装備を買おうと少しずつ金策するぐらいならNPCから同等の装備を割高でも買って最初から効率を上げれば、余裕で回収できるもんね、装備の見た目とかはアレでも……」


「そう、です……

借金、言葉が悪いのと、実際面倒なペナルティもあって、余程切羽詰まらない限り選択肢から外しがちだけど

それでも上手く使えば優秀な……

多分、現状行方が分からなくなってるトッププレイヤーさん達も、こういうシステムを上手く使って走り抜けたんじゃないかなって思う、です……」


箒星の話から明確に利点を掴み、即座に納得する麦茶と落葉

箒星はそんな二人の反応を見て頷いた後、自分の考えを言う


「レミナ、俺はちょっと装備を整えてくる、出発は20分ぐらい遅らせてくれ」


「あ、私もー! デザインが気に入らないとか言ってられないよねっ!」


「お、俺も行くわ! そんないきなり差を開かれてたまるか!」


麦茶は暫く目を瞑り考えを纏め、そして遅れの宣言をして駆け出す

それに続き落葉とゼノの二人も先に行った麦茶を追いかけて行った


「……ねぇ箒星、いや、凪姉」


「ゲーム中はロールプレイって……まぁ今は周りに誰もいないからいいけど

それで何?」


「いや、あの……小学生を演じるならもっと、こう……なんていうか、考えとかやりすぎじゃない?」


「あら……誰も小学生だなんて名乗ってないわよ?」


「……そうだね、確かにその通りだけど……アバターの身長とか話し方とか……」


「それに小学生ロールを目指しているわけじゃないわ、相手がどう受け取るかは相手の勝手だけど」


「……そういうスタンス、根っこは変わらず凪姉で安心したよ

じゃあ私もちょっと買い物してくるねー」


「どういう意味かしら……まあいいわ、いってらっしゃい」

万年筆について補足

私個人が使っての感想だけれど

インクカートリッジが一本につき1mlギリギリ入らない程度の大きさ

そのインクカートリッジ一本で原稿用紙10枚ぐらいは普通に書けます

勿論ゲーム内と現実でのインク消費量は普通に違うけれど

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