毒巫女7
★★★
名前:ミラ=ジョーカー
性別:女
種族:人間
等級:1
(陣営:遊戯神イルサーン)
寿命:17/86
固有スキル:(『毒分泌器官Lv.7』)
特殊スキル:『陣営鑑定(固定)』(『猛毒精製Lv.6』)『毒吸収Lv.1』
希少スキル:『テリトリー視覚化Lv.1』『毒制御Lv.7』『猛毒耐性Lv.6』
一般スキル:『逃げ足Lv.1』『毒耐性付与Lv.1』
SUP:0
★★★
千愛が帰ってくるまで、出来るだけ毒を制御するために、とりあえずステータスを出現させてみたのだが。
「毒ばっかりだな」
胡座をかくのは今後に影響が出そうだったので今回から正座することにし、ステータスを眺めた感想がこれだった。
まあ千愛を守れるならなんでも良かったりするが。
「えっと千愛を手伝うためには、毒を制御することが必須だから『毒制御』のレベルを上げるのと、俺が自身の毒でもう一度全裸にならないように巫女服に『毒耐性付与』する必要もあるか」
『毒耐性付与Lv.1』でどの程度の耐性を付与できるのかは頭の中で自然とわかるのだが、如何せんレベルが低いせいで気休めにしかならない。
「付与」
自分の服を手で触れ、このたった一単語呟くだけで簡単に服に毒耐性が付いた。
ただ見た目は全く変わっていないので、成功したのか不安だったりする。
「成功したんだよな? 感覚的には成功しているんだが。まあ考えても仕方ないしどんどん付与していくか」
本当にそこからはただの作業。
ショルダーポーチから巫女服と下着に全て付与を施していく。
そして残るは今着けている下着のみ。
「…………別に見てもいいよな? 俺の身体だし。さっきまで全裸だったし」
つけていない状態の下着ならば何も感じないが、実際付けているのを直接となると戸惑ってしまう。
巫女服を肌蹴させ、多少慎ましげな胸を覆うブラジャーに躊躇しながらそっと触れた。
――――柔らかい。
感触にハマって無心にぷにぷにと突っついていたが、本来の目的を思い出す。
「付与。危ねえ。なんか変な境地に達するところだった」
巫女服を着直し、初めて触った女の身体の感触に妙な興奮を覚えて戻ってこられなくなるところだったので、ギリギリセーフで持ち直せてよかった。
しかしここからが最終関門。
未だに慣れない履き心地がするショーツである。
「ごくっ」
唾を飲み込み、足が痺れてきたので正座の状態から形を崩し、壁に背をもたれさせ、足を伸ばし準備を整える。
「……よし」
ゆっくりと丈の短い緋袴を捲りあげると三角型の白い下着が目に入った。
「…………うん」
男子としての興奮と自分の体に対して興奮しないという二つの状態が重なって、なんとも言い難い感情が芽生える。
目の前に同じ格好の女の人がいたら飛びつくが、自分だから何だかなあという感じなのだ。
肩透かしを食らった気分で虚しくなったので、付与を施すためにさっさと下着に手を当てた。
その瞬間である。部屋の扉が開いたのは。
「ミラちゃん。オッケイ貰った、よ…………」
場の悪いことに運悪く今の俺の姿を見てしまった千愛は数秒固まった後。
「…………し、失礼しました。ごゆっくり、どうぞ」
そぉーっと扉を閉めた。
「ご、誤解です!!」
ヤバイ。
傍から見れば緋袴を自ら捲りあげて、股間を触って自慰行為しているようにしか見えないのだ。
ここで誤解を解かなければ今後に支障をきたす。
俺は扉を開け放ち、今にも崩壊しそうな階段を恐る恐る降りている千愛の元へ急いで追いついた。
「さ、さっきのはただ単に服に毒耐性を付与していただけで疚しいことなんて一切していませんから、変に気を使わないでください!」
「別に私はミラちゃんがその…………エ、エッチなことをしてても蔑んだりしないから、嘘つかなくても大丈夫だ、よ?」
体をモジモジさせながら恥ずかしそうに諭してくれる姿も可愛いんだがそうじゃないんだ。
「嘘じゃないんです!」
「わ、私もちょっとやったことあるから、ね? 私達ぐらいの歳なら普通のことだから、気にしなくても大丈夫なのに…………」
え? マジで?
天使に見える千愛でもしたことあるんだ。
いい事を聞いてしまった。
「本当ですか!? では今度からお手伝いさせていただ――――ではなくて、私は本当に変なことはしてません!」
思わず心の声が表に出てしまったが、千愛は意味が理解できていなかったようで変態呼びされることは無さそうだが、肝心の付与行為の誤解はまだ溶けてない。
千愛は子供の成長を見つめる母親のような生暖かい目をこちらに寄越して、慈愛に満ちた声で俺を諭す。
「じゃあ、そういうことにしておくね」
「ですから――――」
結局誤解は解けることなく、千愛に弱みを握られたような形になってしまった。
別に悪い気分ではないのが救いか。
これが千愛じゃなかったら、相手の弱みを徹底的に調べて脅迫するところだった。
※※※
あの後、千愛が働いている店に行くことになった俺はボロボロの階段を駆け上がってショルダーポーチを肩に引っさげた後、再び千愛が待っている外に戻った。
村の人々は殆ど農業に専念していて店なんてひとつもない。
「用意できたかな?」
「はい、出来ました。今から千愛の働いている店に行くのは非常に楽しみです。そして千愛の手料理を食べて、アーンしてもらって、膝枕してもらって、添い寝して――――」
千愛にしてもらいたい事が沢山溢れかえってついつい一部を言葉に変換してしまう。
「ミ、ミラちゃん? そこまではダメだからね? お昼ご飯なら私が作るけど」
心なしか距離を少し離した千愛にやんわりと断られたのは残念だが、もちろん今は無理だろうけど、いつかは真逆の言葉が返ってくることを期待して我慢した。
千愛に手を引いて案内されて来た、村から少し外に出たところに一般より大きい馬車が止めてあり、その近くには木のテーブルや即席の椅子が並べられていた。
見るからに移動式で魔物がいる世界でよくも出来るものだなと感心もしたが、俺が今一番集中しているのは千愛に握ってもらっている手である。
柔らかいし、暖かいし、ほっそりしてるし、スベスベだし、マジ最高。
「ミラちゃん、ミラちゃん。惚けた顔してどうしたの? あそこが私の働いている場所なのだけど…………」
「え? あっ、はい。結構本格的ですね」
馬車には『何処でも食えるドラゴン店』と墨のようなもので書かれている看板が屋根の部分に打ち付けられており、護衛と思わしき人物も八人ぐらいいる。
更に料理人と思わしき人物も四人はいる。
「アルベルトさん! お客さんを連れてきましたー!」
アルベルトというと確か店長だったか?
割と立派な名前だと思うのだが、馬車の中から出てきたのはガッチリとした体格のオッサンだった。
「客ぅ? 村人がこの時間帯にか?」
そう。アルベルトもとい店長の言う通り『常識』によると、この世界の村人は朝と夜の一日二食で昼に食べ物を食べるという概念がないらしい。
だからこの昼の時間帯にくる客は少し怪しまれていた。
現に店長に足元から顔までジロジロと見定められている。
「お前さん、どこかのお偉いさんかぁ? 悪いことは言わねえから、とっとと家にでも帰って美味しい料理でも食べな。この店では残念ながら貴族のほど美味しい料理は作れねえよ」
手をしっしっと俺が本当の貴族だったら不敬罪で逮捕しそうなレベルの不躾さではあるが、何故かその男には似合っていた。
しかし俺の愛しの心優しい娘がその態度を許すはずもなく。
「アルベルトさん! ミラちゃんは私の大切な友達です! そんなひどいこと言わないでください!」
ぷんすか怒っていた。
拗ねるように怒る千愛の顔も抱きしめたいぐらいに可愛い。
しかしおどおどしたり吃ったりしないということは店長とはそれなりの仲だということでもあるので、思わず嫉妬してしまい、牽制も込めて自分勝手な自己紹介をしてしまう。
「私は千愛の恋人のミラと申します。今日は結婚の挨拶と料理を食べに参りました」
「なんだとっ!? 本当かチエ! だとしても俺はお前のような小娘が結婚相手とは断じて認めんぞ!」
千愛の父親の如く、ものすごい剣幕で恋を妨害してくる店長。
だからといってここで引く俺ではない。
「あなたに認めてもらえなくとも私は千愛と結婚します! 一緒にご飯食べたり、お風呂に入ったり、寝たりした仲なのですから!」
「なんだとうっ!? チエそこまでこの小娘に気を許してしまったのか! こんな何処の馬の骨か分からん奴に!」
「アルベルトさん! 流石にミラちゃんに失礼です。それにミラちゃん。それは恋人じゃなくても友達とならそれくらいした事あると思うよ?」
「そうなのですか!? 最近の友達って、アーンしてもらったり、体の隅々まで洗いっこしたり、あんなことやこんな事までするんですか!」
「あれ? …………私が想像していたのと違う」
「チエっ! そいつから離れるんだ! こんな淫乱と付き合うなどもう少し考えた方がいいぞ!」
「私まだ付き合うとは決めてません!」
「まだってことは可能性があるんですよね!?」
「なにィ!?」
互いに自身の主張を率直に口に出していたため、収拾つかなくなる騒ぎとなった。
この後しばらく続いてから、ようやくチエの店の店員が店長を抑えてくれた。
ドナドナされていく店長を傍目に、千愛はあははと愛想笑いを浮かべる。
「なんかごめんね。ご馳走しようと思ったらこんな騒ぎになっちゃって。アルベルトさんは普段どっしりと構えて優しい人なんだけど、今日はどうしちゃったんだろう?」
「それだけ大切にされてるって事です。いい店長じゃないですか。だからといって結婚を諦める気は毛頭ありませんが」
俺は表面上は微笑みながらも内心ではあの千愛の親父(偽)をどう説得するかと策をめぐらし、千愛を手に入れる機会を虎視眈々と狙っていた。
「そう、なんだね。…………全然知らなかった。今度日頃お世話になっている感謝の気持ちを込めてプレゼントでもあげようかな。……そう言えばミラちゃんにご飯を作ってあげる約束だったよね。ちょっと待ってて」
そう言って馬車の中に可愛らしい駆け足で向かっていった千愛を俺はぼんやりと見つめていた。
いつまでもこのような穏やかな村で千愛を愛でていたいとは思っているが、恐らく近日始まるであろう神々の遊戯がそれを許さないだろう。
このまま千愛の店にアルバイトさせてもらったとしても結局はすぐにやめるハメになる。
ぶっちゃけ俺達が今、遊戯を生き残るためには精一杯ひたすら強くなり続けるしかない。
ただこの世界のレベルは寿命とSUPが増えるだけで身体能力が上がる訳では無い。
身体能力を上げる方法はスキルに依存するしかないが、俺は強化系のスキルは何一つ持っていない上に、スキルは後天的に得ることは有り得ない。
進化もしくは派生させるにしても毒系スキルから身体強化系のスキルが生まれるとは到底思えないし。
何れにせよ、こんな辺境にいつまでもいたらすぐに殺されるだろうから、何とかして千愛を連れて情報の一番集まりそうな王都やその周辺に行きたいのだが、頑固店長がそれを許すかどうか、という話である。
こんな感じで毒を制御するのに何日費やしてしまったのか分からないせいで、無意識の内に焦ってる俺の元に千愛の鼻歌が聞こえてきた。
「ふふーん、ふふーん、ふーん♪」
馬車の後ろにまわってみると、鍋の具をかき混ぜ、何かの肉を鉄板で焼いているところだった。
まるで新妻のような姿に毒気を抜かれてしまい、俺はそこらの石に腰掛けこれからの事は後で考えようと思考を放棄したのであった。