毒巫女4
★★★
名前:ミラ=ジョーカー
性別:女
種族:人間
等級:1
陣営:遊戯神イルサーン
寿命:17/86
固有スキル:無し
特殊スキル:『陣営鑑定(固定)』
希少スキル:『テリトリー視覚化Lv.1』
一般スキル:『毒生成Lv.1』『逃げ足Lv.1』
SUP:1400
★★★
まずはスキルレベルを上げるとしよう。
『テリトリー視覚化』と『逃げ足』は、いまいち効力を発揮しそうにないので、SUPを全て『毒生成Lv.1』につぎ込むことにした。
今のところ、というか今後もこれ以上スキルは増えないだろう。
スキルというのは生まれた瞬間に決定づけられているものであり、後天的に身につくものではないと『常識』が教えてくれている。
しかし転移者には相手のスキルを強奪するものやコピーするスキルとか、一陣営に一人はいそうだ。
そんなチート野郎には会わないことを願って、『毒生成Lv.1』につぎ込むように頭の中で念じる。
★★★
『毒生成Lv.1』→『毒生成Lv.MAX』
SUP1022を消費しました。
『毒生成Lv.MAX』→『猛毒精製Lv.1』『毒分泌器官Lv.1』『毒耐性Lv.1』
『毒生成Lv.MAX』を媒体に新たなスキルへと進化しました。
★★★
……おい、『常識』。
スキルは後天的に増えることは無いんじゃなかったのか。
三つも増えたんだが。
もしかすると、『常識』はあくまで現地人の常識だから、現地人が知らないことは『常識』も知らないということか。
ということはスキルレベルをマックスにするためにSUPを大量に消費するから、現地人はそこまでもっていけなかったってことだ。
『常識』ではスキルレベルはそのスキルをある程度使ったら上がるというお粗末な知識しか認識されていない…………いや、違うか。
現地人がおかしいんじゃなくて、俺達、神の駒の方が異常なんだ。
元々この世界にSUPなど存在しない。
恐らく神々が楽しむために取ってつけたようなものだとしたら?
『常識』でスキルレベルによる階級が付けられているのと頷けるし、Lv.MAXに辿り着いた現地人がいないのも納得出来る。
スキルレベルはLv.1~Lv.3は天才のような者、Lv.4~Lv.6は努力する天才、Lv.7~Lv.8は天才の中の天才、Lv.9は天才の壁を越えし者、Lv.MAXが天災な者というふうに分けられている。
SUPがない状態で自力でLv.MAXまで辿り着けたんならそりゃあ神と呼ばれるだろう。
しかしLv.10が最大と分かっているということは現地人はこの領域に辿り着いたことがあるってこと。
だったら俺のようにスキルレベルMAXを媒体に他のスキルへと派生したことがある奴も存在するのではないだろうか?
「ああ、くそっ! さっき自分で考えたことと矛盾してるじゃねえか!」
頭を掻きむしりながら、混乱に陥った頭を落ち着かせるために余計な情報は切り捨てる。
今重要なのは俺もスキルを使いまくることで、スキルレベルを上げることができるかもしれないという事だ。
つまり実践する機会が少なそうなスキルを優先的にSUPで上げればいいということになる。
だから俺は残りのSUPを全て『毒耐性』に費やした。
★★★
『毒耐性Lv.1』→『毒耐性Lv.8』
SUP254を消費しました。
次のレベルまで後SUP256が必要です。
★★★
全て費やしたかったのだが、SUPが足りないようなのでうまく使いきれるように他のスキルにも振る。
★★★
『猛毒精製Lv.1』→『猛毒精製Lv.6』
SUP62を消費しました。
次のレベルまで後SUP64が必要です。
『毒分泌器官Lv.1』→『毒分泌器官Lv.6』
SUP62を消費しました。
次のレベルまで後SUP64が必要です。
★★★
「こ、れ、にショルダーポーチに、付与された偽装を、使って隠すと……。《ステータス》」
ヤバイ、何故か焼けるように身体中が痛い。
★★★
名前:ミラ=ジョーカー
性別:女
種族:人間
等級:1
(陣営:遊戯神イルサーン)
寿命:17/86
固有スキル:(『毒分泌器官Lv.6』)
特殊スキル:『陣営鑑定(固定)』(『猛毒精製Lv.6』)
希少スキル:『テリトリー視覚化Lv.1』
一般スキル:『逃げ足Lv.1』『毒耐性Lv.8』
SUP:0
★★★
……カッコの部分が、偽装によって隠れるところ、か。
俺は手で口を抑え、必死に吐き気を堪える。
「くそ、いきなり、どうした、ってんだ」
頭の回転が段々錆びて、視界が徐々に白に侵食されていき、神経が直接熱せられたような激痛が迸ったかと思うと、今度は急激に豪雪地帯にいるような寒さに侵される。
★★★
『毒耐性Lv.8』→『毒耐性Lv.9』
レベルが上がりました。
★★★
脳が掻き回され、心臓が沸騰し、筋肉が押し潰され、全身が引き裂かれたような錯覚に陥る。
幻視、幻聴、幻臭、幻味、体感幻覚。
不安、焦燥、困惑、幸福、緊張、憧憬、欲望、恐怖、快感、後悔、不満、無念、嫌悪、羞恥、軽蔑、嫉妬、罪悪感、殺意、劣等感、怨み、苦しみ、悲しみ、怒り、諦念、絶望、憎悪、空虚で心の中が埋め尽くされ、世界のあらゆる負の感情の洪水が起こり、自我が薄れてきた。
くそがっ。感情が、増幅する、毒まである、のかよ……。
★★★
『毒耐性Lv.9』→『毒耐性Lv.MAX』
レベルが上がりました。
『毒耐性Lv.MAX』→『毒無効Lv.1』『毒制御Lv.1』『猛毒耐性Lv.1』『毒耐性付与Lv.1』
『毒耐性Lv.MAX』を媒体に新たなスキルへと派生、進化しました。
『毒分泌器官』を所持しているため、『毒無効』は『毒吸収』に変更されました。
『毒分泌器官Lv.6』→『毒分泌器官Lv.7』
レベルが上がりました。
『猛毒耐性Lv.1』→『猛毒耐性Lv.2』
レベルが上がりました。
★★★
「……はっ! はあ、はあ……ふう。危ねぇ、もう少しで死ぬところだった」
全身汗まみれ、口元は唾液まみれ、顔は涙と鼻水で物凄いことになっているだろう。
若干失禁もしてしまっている。
まだ倦怠感は残っているが、何とか生きていることにひとまず安心した。
しかし、四つん這いの状態で荒い息をしている顔の横に垂れている髪を一瞥すると、金髪から白髪へと変化している。
恐らくさっきまでの激痛や幻覚とやらのせいで色素が抜けたのだろう。
まあそれは後々考えるとして、問題なのは俺から出てるありとあらゆる体液で木製の部屋が腐り出していることである。
いや、腐っているというより溶けている方が正しいのか?
いずれにせよ、このままではあの行き遅れババアに更なる請求をされかねない。
取り敢えず、体液が床につかないように立ち上がり、少しふらふらするので壁にもたれ掛かる。
これで壁と背中の間にある白衣、床と足の間にある草履で、床が溶けるのを延ばすことができるはず……だったのだが。
当然ながら床が溶けるのなら服が溶けない理由もなく、付き合ってからまだ半日も経っていないこの服は服という役割を果せなくなるほど無残に溶かされていった。
もちろん、白衣も緋袴も下着も全てである。
草履は一つしかないので早々脱ぎ捨てて毒の侵食を阻止したが、これではなんの問題の解決にもなっていない。
「どう考えても『毒分泌器官』のせいだよな。だったらこれを制御するしかない。幸い『毒制御Lv.1』というスキルを得たから何とかなるはず。というかなって欲しい」
その場にいると毒のせいで底に抜けそうなので歩き回りながら、制御を試みることにする。
ほぼ全裸状態でうろうろしている俺は、露出狂と勘違いされそうだが、外じゃないから問題ないはず。
だから今は外面じゃなくて内面に集中。
ギシギシという毒関係なく壊れそうな床が少し怖くて集中しにくかったりするが、暫くしてからお腹の中に拳二個分の大きさの臓器を感じ取ることができた。
心臓の如く脈打って毒を送り込んでいるようなので、止めるように意識する。
『毒制御Lv.1』のお陰で、ある程度の制御方法は分かるが、実際に実行してみると物凄く難しい。
心臓を自分の意思で動かすようなものである。
はっきり言って普通は無理だが、『毒制御』のレベルを上げたら、いつかは服を溶かすようなことにはならないと信じたい。
このままでは外を出歩くことはもちろん、ろくに食べ物さえ口に出来ないのだ。
恐らく箸やフォークなどを持ったらそれが溶けだすだろうし、素手で掴んだとしても口に運ぶまでに食べ物が毒に耐えきれるかどうかのスピード勝負になってしまう。
数回程度ならいいのだが、毎食ごとにそんな食べ方するのは勘弁して欲しい。
そもそも毒って対人用のイメージがあったから、服とか食器とか溶かすのは酸ではないのか……。
いや、もしかして『毒分泌器官』はどちらも分泌しているのか?
そうだと仮定すると、俺が歩き回って何とか溶けないように踏ん張っているこの床には人が舐めたら即死するような毒も混ざっているだろうが、直接床には効果が出ない物も含まれているのではないか?
そうなると体内で生成される全ての毒が体外に出ているという推測に落ち着く。
……だからどうしたって話だが。
結局体内で生成される全ての毒を制御出来なければ人に近づくのも危うくなるから頑張るしかない。
そうやって俺は意識をより新たに創造された臓器に意識を集中させるのだった。
※※※
――――何日経過しただろうか。
いや、もしかしたら一時間も経っていないかもしれない。
ずっと『毒分泌器官』に集中していたお陰で『毒制御』のレベルが上がった反面、体感時間がぶっ壊れた。
思考に靄がかかり、目を開くのも億劫な上、腹が異常に空腹を訴えている。
★★★
『猛毒耐性Lv.2』→『猛毒耐性Lv.6』
レベルが上がりました。
『毒制御Lv.1』→『毒制御Lv.7』
レベルが上がりました。
★★★
しかし、ようやく周囲に影響出ない程度には抑えることが出来た。
水も食べ物も一切口に入れてないのにも関わらず、未だ死んでないのは半分毒のお陰だと言っても過言ではない。
制御出来た嬉しさよりも、毒で誤魔化していた生理的欲求が爆発的に増してくる。
「……誰かァ……水……水をくれぇ…………」
やばい、死にそうだ。
この糞ババアの宿に住む人がいるとは到底思えない上に、客観的に見ると知らない部屋から呻き声がするという理由でむしろ人はこの場所に寄り付かないだろう。
当然、糞ババアも見に来るはずもなし。
だから、また情けない理由で死ぬのかと人生を諦めかけていた俺は目の前で起こったことが理解出来なかった。
「お水必要なんですよね? これ良かったらどうぞ」
目の前に女神が降臨したのである。
もちろん俺を巻き込んだくだらないゲームを企画して絶賛楽しみ中の紛い物の神ではなく、慈愛に満ちた眼差しで俺を見つめ、コップを差し出してくれている少女のことだ。
しかし言うに事欠いて、俺はお礼もせずコップひったくり、久しぶりの水を勢いよく流し込んでいく。
「ゴホッ、ゲホッ。……ケホッ」
水が気管の中に入り、少しむせた。
「だ、大丈夫ですか!?」
そんな俺の背中を摩ってくれる少女の姿にオレは一目惚れした。
視界がかすれて性別程度しか分からなかったが、こんな優しさに溢れている人物は早々お目にかかれないだろう。
しかも神がゲームの舞台に選ぶような物騒なこの異世界でだ。
だから命の恩人兼一目惚れ相手をもっと輪郭がしっかりとした姿で目に焼き付けておきたいという思いとは裏腹に、俺はテレビの電源が切れるように意識を失った。
※※※
――――一方、その頃の神界では。
「まだ始まんねえのかよ、下級神の分際で遅いんじゃボケが!!」
「俺に怒鳴るなよっ! 完全な八つ当たりじゃねえか! そもそもあんな奴に何か期待する方が悪いだろうが」
「でもマジでそろそろ始めないと最初に送り込んだ所と十年の差がつくよっ!」
「そんなことは分かっておるわ! じゃから天使共を総動員させてナナウトツィンを捜索させているのではないか!」
「そんなことはわかっておるわこのクソジジイ!」
「おおー、これぞまさに混沌!」
神々たちが人間よりも醜く、くだらない事で大声で怒鳴りあっていた。
この中にはゲームを生中継できるこの部屋で十年間座っている神もいるのだから、そうなってしまうのも無理はない。
口喧嘩している神とは別に、無関係を保っているイルサーンとショチケツァルはなんの生産性もない話を暇つぶしのために紡いでいた。
「それでいつ来るんだろうね。僕暇になっちゃったんだけど」
「お前まだ二十日程度しかこの部屋にいねえじゃねえか」
「まあ、そうなんだけどねぇ。あっ、そうそう。あの誘導紙の呪文考えたのって誰? ほとんどの子が羞恥心に悶えながら唱えてたけど」
「<動いて紙ちゃん、萌え萌えきゅんきゅん>って奴か?」
「それで合ってるけど、君みたいな色気のある女神がそれを言うとなんとも言えない気持ちになるね……」
「そりゃあ、どうも。たしかこの呪文設定したのってケツァルコアトルじゃないか? ほら、最近日本のアキバという所にハマってるとかなんとか言ってたじゃん」
「そう言えばメイド喫茶のスタンプカードほぼ埋まってたような」
「神は基本自由だけど、もう少し節度があってもいいような気がするよな?」
「そうだ――――」
「――――ククッ。遅れて申し訳ございません、尊敬に値する神々よ。少々準備に手間取りまして遅れてしまったのですよ、クケッ」
イルサーンとショチケツァルの会話を、神々の会話をぶった斬るようにして登場したのは嫌悪感を抱くような粘着質の笑みを見せた下級神はナナウトツィンである。
そしてナナウトツィンがこの部屋に足をつけたこの日、この時、この瞬間に。
カウントダウンが始まった。
ゲーム開始まで――――後一ヶ月。
ついでにこの後ナナウトツィンは最上級神にこっぴどく叱られ、上級神や中級神などにはリンチされた挙句、同位である下級神の好感度が下がった。
――――それでも嫌悪感を抱かせ、見下すような笑みが消えることはなかったが。
更にその様子を見た神々はナナウトツィンがMではないかと疑問を抱いたことによって、本人も意図せずに汚名が神界中に広まったのはまた別の話である。
スキルについて
・レベル1→2:消費SUP2
・レベル2→3:消費SUP4
・レベル3→4:消費SUP8
・レベル4→5:消費SUP16
・レベル5→6:消費SUP32
・レベル6→7:消費SUP64
・レベル7→8:消費SUP128
・レベル8→9:消費SUP256
・レベル9→MAX:消費SUP512
・異世界の住民である現地人はスキルを所持している時点で才能ありと見なされる。
読んで下さりありがとうございます。