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毒巫女30

パチッと目が覚めた。

ベッドの上にある目覚まし時計を見るとまだ五時。

二度寝したいの言う欲求や、倦怠感がまるでなく、物凄くスッキリした目覚めだった。

だが、気分は良くない。

隣のベットで寝ているちーちゃんの寝顔見たら、昨晩のことを思い出してしまい、ちーちゃんにどう思われているのだろうかと、不安な気持ちになる。

だから俺は、今着ている巫女服から、ショルダーポーチの中に入っている新しい巫女服に着替えてから、部屋を出た。

そして、俺は案内図を見ながら、このギルド内部を探索する。

この階をぐるっーと見て回った限り、部屋では同性で固められているが、男子寮や女子寮といった男女別という事にはなってない。

おそらく緊急時に、普段組んでいる仲間で即座に対応出来るようにしているのだろう。

それ以外気になるような設備はないため、次は生産階層、つまり上の階に移動した。


「ここが生産施設か。今のところ、ドアしか見えないが」

ドアには、鍛治、薬、爆弾、木、本など、恐らく制作するものもしくはその材料が名前がドアにかかっているプレートに書かれていた。


「毒は……ないみたいだな」

なら、毒に一番近そうな薬のドアに入って見ることにする。

結構重くて分厚いドアをなんとか開けると、ムワッとした臭いが鼻につき、中を覗くと幼女が煮込んだり、混ぜたり、乾燥されたりしていた。


「……萌奈ですか?」

返事がない。

ピンク色の髪が汗で首にと額に張り付き、グルグルメガネを掛けていても、視線が手元に集中している。

どうやら、俺が入ってきたことも認識外にあるようだ。

もう一回、声をかけて気分を害されても困るので、俺は立ったままこの部屋を見回す。

天井には部屋を明るく照らす蛍光灯のようなものがあり、壁には様々な材料が干されている。

そして机の上には器具が大量にのせられていた。

そして紙の上に乗せられた薬草、毒草、雑草の数々。

暫くの間、萌奈と毒草を交互に見ていたのだが、こうも目の前で薬を作られると、それに対抗したくなってしまった。

器具を勝手に使っては悪いと思うも、既に部屋に入っている時点で手遅れなような気もする。

俺は洗ってある器具を二つ取り、『猛毒精製』スキルの知識で毒草を選び出し、部屋の端に放置されている新聞を持って、萌奈の対面に座る。

小学校のころ、座りながら実験をするなと注意された記憶があるが、異世界で気にする必要はないだろう。

今回は、オンボロ宿屋の時のように大きい入れ物や大量の毒草がある訳では無いので、量よりも質を重視することにした。

まず試験管に水を入れ、物騒な名前の草を『猛毒精製』スキルを行使して毒の部分だけ抽出する。

一枚の葉から得られる毒はたったの1滴。

それを水が入っている試験管に落とす。

そして『猛毒精製』スキルで試験管内がどうなっているか確認しながら、様々な種類を同じ方法で入れ続ける。


「……これを入れると帳消しになる」

「これとこれは相性がいいですね」

などとブツブツ呟きながら作業をしていたからか、萌奈の視線が薬からこちらに移動した。


「あれ? 巫女のお姉ちゃん? なんでいるの?」

「この部屋が気になったから入ったとしかいいようがないのですが。もしかして、気が散りました? そうでしたら、申し訳ございません」

「んー、気が散ったけど、別にいいよー。ちょうど区切りが良かったし」

そう言いながら、メモに材料と完成品の評価を書き込んでいる萌奈が、俺の作っている毒に目を向けた。


「それって薬? 萌奈の『薬製造』の知識に当てはまらないよ?」

「これは毒です。触ると危ないですよ?」

いくら同陣営だからといって、直接的な攻撃は効かないと言っても、置いてある毒に触れても効かないという保証はない。

まあ、まだそこまで濃密な毒になっていないので、触れても身体が痺れる程度だが。

というか、俺の中に流れる体液の方がよっぽどヤバい毒性を孕んでいる。


「どういう毒にしたいの?」

「……特に決めてません。いい感じの毒になればそこで辞めようかと」

「こういうのは効能を決めてから作る方が成功率はアップするよ。先輩の助言だから!」

「そうなんですか。ありがとうございます、萌奈先輩」

「むふふ」

先輩と呼ばれて嬉しそうにニヤつく萌奈を傍目に、俺はどういう毒を作りたいのか暫く考え込んでみる。

ぶっちゃけて言えば、俺自身はあんまり毒は使わない。

唾液や汗やらで代用できるからだ。

つまり、俺が作成した毒は主に同陣営の人が使うことになる。

で、使用する相手は敵陣営である転生者。

転生者には生半可な毒なんてほぼ効かない。

効いて、死んだとしても敵陣営に『蘇生』するものがいる限り生き返ってくる。

ならば生き返る器を無くすような毒。もしくは魂を汚染させる毒が俺の目標になる訳だが。

そんなもの果たして作れるのだろうか。

一応、異世界経験が俺より長そうな目の前の先輩に聞いてみるか。


「魂を汚染もしくは消滅させる物質や魔物って存在しますか?」

「だったら、ソウルイーターっていう魔物はいるよー。でも本当に魂を食べているのかは分かっていないらしいんだけどね」

「なら何故、ソウルイーターなんて名前を付けたんでしょう?」

「ソウルイーターが人間を食らう時、食べる前と食べた後を比べて、食べられた人は何も失っていないんだよ。でも心臓が動いているのに、その人は一生目を覚ますことがないから、魂を食べられたんじゃないかって」

「それは怖い話ですね」

思っていたよりも有益な情報をくれた萌奈に感謝しながら、俺はひとまずこの毒をどうしようかと迷っていた。

この毒では転生者どころか現地人さえ殺せない。

そこに色々と毒を混ぜようにも、萌奈からの助言を聞いたからには、適当に作ろうという気は起きない。

少し悩んだ末、俺はこの毒を飲んだ。


「んっ」

強力な毒ではないので、『毒味覚』のおかげで毒を食した瞬間感じる快楽も、今回は体の奥が甘く痺れる程度で終わってしまう。

それを残念に感じるも、魂を汚染する毒を飲んだ瞬間、どんな快感が駆け巡るのだろうかと思うと、少し期待している自分がいる。


「はぁー」

中身を飲み終えた試験管をボケーッと見つめていると、萌奈から「ちゃんと洗っといてねー」と言われた。

まあ、唾液がついているからだろうけど。


「……唾液」

俺の唾液、つまり毒だ。

確実に、俺が先程作ったやつよりも毒性がかなり強い。

でも俺の体液を試験管の中に入れて、毒と言って同陣営の人に渡したくはない。

体液でも一部の転生者を殺せる程度だろうし。


「まあ、今は毒を作るよりも金策ですね」

金策は毒で標的を殺す簡単なお仕事……。

これ、毒を作って売り捌けばいいのでは?

俺の毒であるため、同陣営の人には効かないが、それ以外には少なくとも苦しめる効果ぐらいは出るはず。

あわよくば、冒険者とかにも毒が行き渡って、モンスターを倒すことで俺に経験値が入るかもしれない。

なら、やることは決まりだ。

俺は席を立ち、今度は真剣に毒草を吟味する。

これとこれは相性がいい、あれは違う、それは微妙だなといった具合に選別し終わった。

選別したものを新聞紙の上に置くと、どうしても量が足りないと分かってしまう。

そういえば『常識』によると、転生者の中に『コピー』や『複製』を持っている奴がいるはずだ。

ただ、それで毒を複製したとしても、その毒を用いて倒した魔物の経験値は果たして俺に入ってくるだろうか。


「まあ、そんな都合のいいことはないでしょうけどね。仕方ありませんから、ギルドに毒草の依頼を出しますか」

しかし、毒草を依頼する依頼主は流石に疑われそうなので、扱いしだいで薬にも毒にもなる草や花を依頼することにする。

そうと決まれば、ついでに暗殺以来でも受けてくるかという気持ちで外に出ようと思ったのだが、萌奈に外に行くと告げたら止められた。


「ギルドの規則で外に出る時は三人一組で行動しないといけないんだよ」

「……不意打ち対策でしょうか?」

でも、それは困る。

暗殺ギルドにちーちゃんはもとより、フワさんやネズ先輩にもついてきて欲しくはない。

ベトなら問題は無いのだが、果たして一人と数えてくれるだろうか。


「まあ、頭数に入ったところで、もう一人誘わないといけないですから、意味ないですね」

こっそり出るか。

まだ、その説明を受けてないから、ギルドの規則は破っても最初は注意喚起で済むはず。


「萌奈先輩。用事が出来たので、失礼しますね」

「また来てねー」

ここにある毒草をある程度消費した後、萌奈に別れを言って、部屋を出た。


宿泊施設がある階層に戻ってきた俺は、ちーちゃんとの愛の部屋に入り、ショルダーポーチを肩にかけてギルドの出口を探す。

流石に、ここに来た通路を通らずとも、別の出口があるだろう。

あるよな?

出入口があるとしたら1階だろうという思い込みの元、暫く彷徨っていたら、ようやく見つけた。

ただ、出入口である自動ドアの手前に、2機の監視カメラが設置されていた。

壊すのもありかもしれないが、ギルド費から造られているものだと思うと、壊すのを躊躇ってしまう。

まあ、監視カメラに外に出たことが映っても、規則破ったのでギルド追放ということにはならないだろう。

ということで、俺は堂々と外に出る。

人間、ビクビクするよりも堂々としていた方が疑われないものだ。


外に出ると、朝早いのにも関わらず、営業の準備もしくは既に売り出し始めている店が多々ある。

偽装のおかげで大きな屋敷から出てきたと思われている俺に、人々の視線が一瞬集まったが、すぐに散らばった。

皆、忙しくも充実してそうな顔を浮かべる姿からは、この王都の活気具合が見て取れる。

流石、王国一の広さと人数を所有する王都。

俺は大通りを歩く人々の流れに逆らわず、歩くこと数分。

1つの目的である冒険者ギルドにたどり着いた俺は早速その中に入り、受付嬢のいる場所へ気軽に歩いていく。

が、しかし、どうやら俺も物語の主人公と同じく絡まれたようだ。


「おいおい、嬢ちゃん。冒険者になるのかぁ? やめとけやめとけ、嬢ちゃんのひ弱さなら直ぐに死んじまうぜ!」

「そうそう、お姫様のようにかっこいいナイトにでも守ってもらうんだな」

「良かったら俺達がナイトになってやろうかぁ? それ相応のモノを頂くがな! ……うへへ」

「それとも手取り足取りじっくりねっとりと技を教えてやろうか?」

ゲラゲラゲラと品のない笑顔を浮かべながら、油顔のオッサン二人が俺に近づいてくる。

それを見た俺は主人公の如くコテンパンにしてやろうかと思ったが、よくよく考えてみると、このオッサン達は至極真っ当なことを言っている。

要約すると、『嬢ちゃん、冒険者は危険だから辞めようぜ。嬢ちゃんを守れるぐらいの仲間がいるならいいけどな。いないなら、代わりに俺達がなってあげようか? その代わり護衛代は頂くけど。お金が無いなら、タダで戦闘技術を教えてあげるぜ』という忠告になる。

物凄くいい人達だ。

だが、このオッサン達は一つ勘違いをしている。


「お言葉ですが、私は冒険者ではありません。今日は依頼者としてギルドを訪ねました」

「「……え?」」


その後の流れとしては、オッサン二人は受付嬢に叱られて平謝りをし、俺が依頼した()草採取は格安でオッサン二人がやってくれることとなった。

その上、定期的にオッサン二人に指名依頼もいいことにもなった。

誠に有難いオッサン達だ。

前回もギルドに入ってオッサンに絡まれたと思ったのだが、まさかのフワさんにミカンを味見させるためだけだった。

そして今回も全然悪いオッサンじゃない。

この世界で新人に絡む悪人はいないのだろうか。

そう思いながら、俺はギルドを出て、取り敢えず酒場に向かうことにしたのだが、如何せん初めての土地であるため、場所が分からない。

ギルドにもう一回戻って場所を教えてもらうか。

そういえば、<ラバーズ>のギルドマスターにギルドカードを早めに作って貰いに行けとか言われていたような……。人を殺す前に。

人、一人殺しちゃっているのだが。

極悪人らしいから殺しても殺人判定受けないと思いたい。

とにかく、ギルドに戻ることは変わらないので、さっきのオッサン二人に気まずいので鉢合わせしないように願いながら、再び俺は受付嬢の元へ引き返すのだった。


最近ステータスを載せていなかったので、載せます。


★★★

 名前:ミラ=ジョーカー

 性別:女

 種族:人間

 等級:97

 (陣営:遊戯神イルサーン)

 寿命:17/374

 条件スキル:『限界突破』(『猛毒分泌器官Lv.7』)

 固有スキル:なし

 特殊スキル:『陣営鑑定(固定)』『毒味覚』(『猛毒精製Lv.6』)『毒吸収Lv.1』

 希少スキル:『テリトリー視覚化Lv.2』『毒制御Lv.9』『猛毒耐性Lv.6』

 一般スキル:『逃げ足Lv.8』『毒耐性付与Lv.3』

 SUP:105

 ★★★


スマホの電気消費の減りが異様に早すぎて、いつ書いたやつが消えるのかと思うと、怖すぎてビクビクしながら書いていました。

そして途中から充電しながら書けば良くね、とようやく気づいた夜ノ空でした。


読んで下さりありがとうございます。

この調子だと1ヶ月更新かなーと思う今日この日頃。

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