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毒巫女29

俺達は、螺旋階段や無茶苦茶な隠し扉を始めとして、行き先が五つに別れている扉や、迷路や、魔法陣、転移陣、指紋認証等々を経験して、ようやく<生存第一>のギルド本部に到達することが出来た。

当然、警戒し過ぎな程の罠やセキュリティの数々に、俺達は疲労困憊だった。

あのネズ先輩でさえ、どこか座りたそうにしている有様だ。


「さて、ここからギルド内を案内したいと思っていたのだが、どうやら君達は疲れているようだ。もう日が暮れているようだし、明日の朝にギルド員に案内したいもらえるよう手配しておこう」

ギルドマスターは、そう言い置くとさっさと壁の端にある階段を(のぼ)って姿をくらました。

ギルド員達もギルドマスターについて行っていなくなった。

残された俺達は、ここからどこに動けば良いか分からず、暫くギルド内部を眺めることになった。

ギルドはとにかく大きいようだ。

俺達のいる階だけでも、学校の運動場ぐらいの広さである。

上を見上げても、特に天井の広さは変わってないので、上の階でも同じ規模の敷地なのだろう。

そして、壁や床の材質だが、俺には全く検討がつかなかった。

鉄や鋼を上から藍色を塗った上に、金属と金属の間を蛍光色で埋めてある見た目をしているが、感覚的には、SFで出てきそうな宇宙船の内部みたいに思える。

なんとも不思議空間ではあるが、言ってしまえばそれ以外何も無い。

ただただ、広い床だけがあり、人もいない。

ちーちゃんやフワさんは、床の感触が気になるのか、さっきから床をさすさすと摩っている。

流石に人が誰もいないのでは、俺達がどうすればいいのか分からないので、一旦、ギルドマスターが使った階段を俺達も上ることにした。

途中で五重になった自動ドアがあったので、疑問に思いながらも、後で人に聞くのが一番だと思いあっさりと通り過ぎる。

そして二階と思わしき階層にたどり着くと、そこには店がずらりと並んでいた。

いや、店と言うには店番と思われる人も全く居ないので、一体何なのだろうか。

ただ、床や壁はタイルの上、絨毯やカーペットが敷かれているので、人の生活圏という感じがした。


「あっちは食堂かな?」

「こっちは武器屋のようだ」

「おい、なんか魔物が檻の中で閉じ込められてるぞ」

「雑貨屋のようなものもあるっすよ」

ちーちゃんは食堂に、ネズ先輩は武器屋に、ベトは魔物がいる場所に、フワさんは雑貨屋にそれぞれ別の所をじっくり見ることにしたようだ。

俺も毒の材料になりそうな薬屋にでも寄ろうかと思った時、階段から人が降りてきた。


「いやはや、皆さんさっそくこのギルドに興味を持っていただけたようで何よりです」

糸目でなにか企んでいそうな雰囲気を持つ、狐のような男というのが俺の第一印象だった。

狐のような男は、最初に目をつけたらしい俺のところへ近づいてきた。


「貴方はミラ=ジョーカーですよね。先程薬品の備蓄庫をご覧になられそうでしたけど、そういうのに興味がおありで?」

「ええ、まぁ。それより貴方は?」

「すみません、名乗り遅れました。私はフォックス(ぎつね)と申します。如何せん、狐が大好きでしてね、転生する際も顔が狐っぽくなるように調整したのですよ」

嘘か誠か判断しにくい笑みをしているフォックス狐に多少不気味さを感じながらも、同陣営であるため、今後は仲間になるようなので、警戒を解くことにした。


「本当に狐がお好きなんですね。ところで、何故私の名前が分かったのです?」

「実は私、根っからの商売人というのも相まって、『鑑定』スキルを所持しているのですよ」

出た、『鑑定』スキル。

十中八九、それを使って俺の名前やらスキルやらを見たんだろう。


「流石に、なんの了承もなくステータスを覗かれるのは気分のいいものではありせんね」

「これはこれは失礼を。ただこちらもそうしなければならない理由があるのです。ミラさんはいずれこちら側になりそうですし、少しお話しましょう。以降は他言無用でお願いします」

フォックス狐は一旦周囲をキョロキョロと見渡したあと、音量を下げて俺に話しかけてきた。


「実は、このギルドに所属する転生者を片っ端からステータスを見て、ステータスをまとめて書いた紙をギルドマスターに渡しているのです。ギルド員が自分の能力を秘密にして、いざとなった時に使い物にならないでは話にならないので、ギルドマスターがあらかじめ個人個人の能力を知っておく必要がある。そこで私が個人の能力を報告することによって、議会での策に役立てています」

「議会、ですか?」

「大雑把に言えば、今後のギルドの方針を決定するところです。ただし、議会の参加者である議員以外はこの存在を知りません。徐々に公表していくそうですが」

「その議員は何を基準に選ばれるのですか?」

「そうですね……。率直に言うと、大多数の安全のために、少人数を切り捨てられる人です。ただ、非道なだけではダメらしいですよ」

それなら俺は議員にはなれないだろう。

俺は大多数の人より、ちーちゃんを助けてしまうだろうから。


「どうやら選ばれたことが不可解なようで。恐らく食料庫を物色している女性が関係あるのでしょう」

「どうしてお分かりに?」

俺はフォックス狐に悟られないように警戒する。

心を読めるスキルか?

いや、それならちーちゃんが誰を指すのか分からないはず。

なんとも気味が悪い。


「また警戒されてしまいましたね。しかし、こればかりは明かすことが出来ないのですよ。どうしても知りたいのならば、議会に参入してください。貴方はあの女性さえ巻き込まれなければ、冷静な判断を下せるでしょうから」

「……考えておきます」

このギルドは信用できるのだろうか。

フォックス狐という男のせいで不安が広がってきた。


「ミラちゃん、あっちの食堂のところに珍しい食材がたくさんあったよ! 私、ここで料理作ってみたいな。それで、ええっと……」

いち早く俺の元へ戻ってきたちーちゃんは、俺に満面の笑みを見せ、目をキラキラさせていたが、フォックス狐を見た途端、言葉に覇気がなくなり、俺の斜め後ろに待機。


「こちらの方はフォックス狐さんです。商人らしいですよ」

「あ、浅川(あさかわ)千愛(ちえ)です。」

久しぶりに人見知りを発動したちーちゃんが多少噛みながらも一生懸命なのがなんとも愛らしい。


「ちわーっす。ミカンふわしゃーっす。よろしく」

鼠男(ねずお)だ。よろしく頼む」

「俺はベルトラン二世。どっからどう見ても健全なスライムだぜ」

現在進行形でパイプふかしている奴が健全かどうかは分からないが、全員気が済むまで店の品を見ることが出来たようだ。


「はい。よろしくお願いします。それでですね。私がここに足を運んだのは、この施設の説明のためでして、さっそく話していきたいと思います。まず――」

スライムが話していることをサラッとスルーしたフォックス狐は歩きながら説明しだした。

最初に店だと思っていたのが、実は倉庫や物置になっていたことから、階層事に、訓練施設、娯楽施設、宿泊施設、生産施設、風呂、ホールや会議室など様々な設備があるらしい。

実際に施設をまわっていったところ、階層ひとつが全て風呂になっているのは、流石魔法がある世界だと思った。

フォックス狐によると現地人にはこのギルドの骨格だけを組み立ててもらって、後はチートスキルで楽々作り上げたらしい。

ほんと、チート様様だな。

これからその脅威が自分にふりかかってくるのかと思うと、気が滅入るが。


「で、最後にここが屋上ですね。専ら、ここは敵を視覚で発見、追跡するところです」

「だから、そこらじゅうに双眼鏡やらスコープやら、ゴツイ天体望遠鏡のようなものまであるんですね」

「はい、その通りです。ただ、透明度の高いガラスを貼り付けてはいるものの、強度が対砲弾ガラス程度しかないため、危険度が一番高いところでもあります」

「ガラスあったんすね。全然分からなかったっす」

屋上にしては風が強くないから、疑問に思っていたのだが、そういう事だったのか。

フワさんは、不思議そうにぺたぺたとガラスを触っていた。

指紋や手跡がついている様子もない。


「それにしても防弾ガラスではなく、対砲弾ガラスか。日本ならば、ここまで安心できるガラスはなかっただろう」

「いえ、逆に危険だと思いますよ。そのガラスは攻撃を反射します。しかも入射角の角度は変わらずです。つまり、砲弾を撃たれたら、撃った本人に直接弾が帰っていきます」

「物理法則どこいったんすかねー?」

「基本、物理法則は地球と同じですが、この世界は魔法法則の方が上位に位置するらしいですね。解析班の捜査の結果ですが」

やはり地球とは根本的に違う。

俺は地球に帰れるのだろうか。

率直に言えば、ちーちゃんがいるなら、どこに居たっても構わないのだが、屋上から見る風景がビル群ではなく、地味目の色が多い住宅街だからどうしても郷愁の念というやつが出てきてしまった。

……そう考えると、周りの家より圧倒的に高いこのギルドは物凄く目立つのではなかろうか。

そんな顔を見ていたフォックス狐が疑問に答えてくれた。


「隠蔽スキルで、二階建てのボロ屋敷にしか見えないようになっているので、鳥がぶつからなければバレませんよ。まあ、鳥は人間よりも優秀なようで、隠していても避けてくれますし」

「便利な世界ですね」

暫く俺達は、日が沈みゆく街の様子を屋上で、ぼんやり見ながらくつろいでいた。

やがて完全に日が沈み、フォックス狐に宿泊施設がある階の自分が泊まれる部屋までを案内しもらい、フォックス狐とはそこで別れた。


「あっ、私の名前が書いてある」

「私の名前もですね。どうやら二人部屋になっているようです」

周りの部屋も見ると、二人ずつ泊まれるようになっていて、そこに泊まる人物の名前がドアに書かれていた。


「あたしはこっちっすね。ルームメイトは……萌奈(もえな)?」

フワさんが最近聞いたことがある名前っすねと呟きながら部屋を開けた瞬間に、「一ニョッキ」と叫びながら飛び出してきた幼女にフワさんは押し倒された。


「ふぐっ。……いたたた。やっぱり萌なっちっすか。」

「うん。そうだよっ! 会えるのずっと待ってたんだから! みかんのお姉ちゃんも、巫女のお姉ちゃんも、オドオドしているお姉ちゃんも、怖そうなおじさんも、水溜まりも」

ピンク色の髪に、白衣を着て、グルグルメガネを装着し、小さなリュックを背負っている姿の萌奈は、巨大迷路で出会った頃と何も変わっていない。

別れてから大して日にちは経っていないが、懐かしい気持ちになった。


「……怖いおじさん」

「まさか、水溜まりとは俺の事じゃないよな?」

ただ、ネズ先輩とベトは心にダメージを負っていたが。


「えーっと、みかんのお姉ちゃんが萌奈と同じ部屋だよね? 早く入ろうよ。あ、でも試験管とかフラスコとか諸々は踏まないように気をつけてね!」

そしてフワさんが部屋に引きずり込まれて、パタンとドアが閉まった。


「……嵐が去ったな」

「あの水溜まり呼ばわりした小娘は一旦置いておこう。それにしても俺も一人として数えられているんだな」

ベトが器用に触手で、ネズ先輩とベトの名前が書かれたドアのドアノブを回すと、そこには日本の豪華なホテルとなんら遜色ない部屋が現れた。


「……見事だ」

「人間ってのはこんな立派なとこに止まってんのかよ。全く、贅沢しやがって」

そう言いつつも、ベトはさっそくベッドの上をポンポン跳ねだした。

こういう所はスライムっぽいベトである。


「ミラちゃん、私達もお部屋に入ろうよ」

「ちーちゃんとの愛の巣ですから、当然です」

「部屋、変えてもらうよ?」

「……早く部屋に入りましょう」

愛情表現をちーちゃんに軽くながらされるようになった俺は、ドアノブをガチャっと回し、部屋の奥にあるベッドに倒れ込んだ。

ああ、疲れたマジで疲れた。

ふかふかのベッドが気持ちよすぎる。

そうして俺がベッドでゴロゴロしている間、ちーちゃんはドアの鍵を閉めた後、もう一つの方のベッドに腰掛けて、懐に入れていたらしい皮袋の財布の中身をベッドの上にぶちまけた。

ジャラジャラジャラと金貨、銀貨、銅貨などが出てくる。

まあ、どう見ても村娘が持っている金額ではない。


「お金足りるかな?」

「何がです?」

「私は手ぶらで来たから、服とかの生活必需品を買うお金だよ。ミラちゃんもそうじゃないの?」

「いえ、私はこのショルダーポーチに全てが入っているので買う必要はありません。足りなければお金をあげましょうか? もちろん、対価としてディープキスぐらいは求めますが」

「うん。じゃあ、足りなかったら、借りるね。絶対返すから」

「あの、少しは恥ずかしがったりとかの反応を返して欲しいです。最初の頃のちーちゃんは、どこに行ったのですか」

「ミラちゃんが奪っていったんだよ?」

「……言い返すようになりましたね」

えへへと可愛らしい表情をするちーちゃん。

ただ、その後すぐにその表情に影が差した。


「ねぇ、ミラちゃん。この世界で、目の前で人が死ぬのは当たり前のことなのかな? 今日だって御者の人が死んだのをみんな目の当たりにしているはずなのに、誰一人として気にする人がいなかった。ミラちゃんだって、私より後に異世界に来たのに、大して動揺していなかったよ。それに、ここのギルドはまるで邪魔だから殺したって感じで、私、このギルドについていけそうにない」

「それは、多分そう見えただけだと思いますよ? 実際、何かしら思うところはあるのでしょうが、それよりも目の前のことに集中しなければ、死にかけるところだったという状況を経験したことがあるのではないでしょうか?」

ネズ先輩達は。

この<生存第一>ギルドは、転生者の存在がバレるリスクと命を奪うことを天秤にかけて、露見のリスクの方に比重が傾いたのだろう。


「その言い方だと、ミラちゃんは違うの?」

「私は……」

俺は咄嗟に言葉が出てこなかった。

フワさんと会話していた御者が、死んだにも関わらず、俺は特に何も感じなかった。

胸が痛くなったり、嘔吐するようなことも無かったし、逆に悦んだり楽しんだりということも無かった。

それに対し、巨大迷路で殺した転生者は、自分で殺したということもあるのだろうが、吐き気や罪悪感を感じた。

つまり俺は無意識に、転生者を自分と同じ人とみて、異世界人を同じ人とはみなしきれていないのだろう。

はっきり言って現実感がないのだ。

いきなり異世界という幻想的な世界に放り出されて、スキルという曖昧な能力を付与されて、最初に出会った転生者には、一目惚れ。

まるでトントン拍子で描かれていく物語の主人公のようだ。

いつかこの辺な夢心地の気分から覚めることがあるのだろうかと思いながら、口が勝手にちーちゃんに対して返答する。


「私は、転生者と違って異世界人を同じ人間だとは思えないんだと思います」

俺はそう言い終わったと同時に、ちーちゃんの方とは逆向きにゴロンと寝転がって目をつぶった。

俺の言葉を聞いたちーちゃんの表情を見る勇気がなかったから。



読んで下さり有難うございます。


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