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毒巫女2

「次はスキル付きのアイテムを決めようか? でもこれ特殊スキル以上は付けられないんだよね」

 相変わらず気が狂いそうなほど真っ白な部屋で椅子に座りながら神という存在と対話している。

 内容的には対話というよりゲームのキャラクター作りの相談に近い。

 それはそれとして余り物のスキル構成の俺にはほぼ戦闘なんてできないに等しい。

 それでも戦闘能力ゼロは話にならないが、無駄に最強の剣とか貰っても宝の持ち腐れになることは目に見えている。

 だったらまず付与してくれるスキルの方が重要だ。

 ……一つ思いついた。

 ただこれは確認しないといけない。


「ちょっと現地人のステータスの見本を見せてくれ」

「よく分からないけど、いいよ? ほい」


 ★★★

 名前:無し

 性別:男

 種族:人間

 等級レベル:40

 寿命:不明

 固有スキル:無し

 特殊スキル:無し

 希少スキル:無し

 一般スキル:『剣Lv.2』『筋力Lv.2』

 ★★★


 イルサーンが半透明板を表示してくれる。

 自分のと比べると陣営とSUPの表示がない。

 やっぱりそうか。

 神の駒である俺達は互いの陣営が分かるように陣営に主の神が表示されるが、ゲームの関係ない現地人は陣営なんてものは無い。

 しかしSUPが無いのはどういう事だ?

 それがないとスキルレベルを自分好みに上げられない。


「それにしても君に『常識』を与えたんだから、こんなのいちいち見せなくても分かるでしょ?」

「ああ、そうか」

 イルサーンの言葉にハッとさせられた俺は先ほどの疑問がすぐに氷解した。

 SUPが無いのは、等級(レベル)が上がるとスキルポイントは自動で割り振られるという常識があり、現地人はSUPという概念など考えてもいない。

 一般的には良く使ったスキルはスキルレベルが上がりやすいと思われている。

 それはさておき、これでスキルは決まった。


「ステータスを隠せるスキルはないのか?」

「全部隠すのは特殊スキルになっちゃうから、三つの欄だけ消すことが出来る『隠蔽』ならできるよ」

 三つ隠せれば上出来だ。

 次はアイテムの方を考えるのだが、これはもう既に決まっている。

 前例をパクるようで嫌だが、異世界転生の小説にありがちなものを使わせてもらおう。


「なら、それをアイテムボックスのようなものに付けてくれ」

「アイテムボックス? ちょっと記憶見せてもらうね」

 どうやらイルサーンの頭の中にアイテムボックスというものは無いようだ。

 まあ人間が空想で作ったものだからしょうがないと言えばそれまでなんだが。

 しかしそれよりも記憶を見せてもらうと言って、ゆっくりと俺の頭に手をかざすイルサーンがなにかしでかしそうで怖い。

 変に改造されたりしないだろうな?


「ああ、これかな。だったらちょっと難しいなあ。ルールに抵触しちゃうし。中の空間は小さい倉庫一つ分の大きさで時間の流れを少し遅くするぐらいならいけるよ」

「じゃあそれで頼む」

 どうやら精神を弄られたり記憶を改竄されたりすること無く、無事に済んだのはよかった。

 しかし、もう二度とイルサーンに頭を預けることはしないだろう。


「うん、順調だね。この調子でどんどん行こう。次は容姿かな。大まかな感じでいいよ」

 常識によると、スキルは生まれた時からは増えることは無いらしいから、俺は毒主体の戦い方となる。

 そうなると、出来るだけ相手に悟られないように毒のイメージから程遠い容姿にするべきだな。

 そして、性別は女。

 ナニされるか分からないが、少なくとも男よりは生存率が上がるだろう。


「十七歳の清楚な女性で。ただ、黒髪黒目はやめてくれ」

「ほうほう。君にそんな趣味があったとは。ところで何故黒髪黒目ではダメなんだい?」

 ニヤニヤ笑う神に性転換趣味の変態と捉えられるのは癪だがこの際仕方ない。

 どうせこの後会わないだろうからな。

 だから直接聞かれたことだけ答えることにする。


「今から行く世界に黒髪黒目なんていないだろうが。もしそれで行ったら、すぐに他陣営の奴にばれて殺される」

「ああ、なるほど。……僕達が連れてくる人間は全員日本人じゃなくて別の世界の人もいるんだけど、まあいいか。

じゃあ君の意向に沿ったものにするよ。あっ、そうそう。あっちで君の肉体年齢は変わらないから。勿論、他の転生者も。でもあくまで見た目がそのままなだけであって、寿命はあるから」

「それはルール的にはありなのか?」

「むしろルールで定められているぐらいだし。お婆さんの姿を見ると神々が萎える場合もあるからね。それを見たいって神も当然いるけど。まあ、そういうことで見た目が変わらなかったら、半数の確率で神の駒だね」

 それは厄介だ。

 怪しまれないように住居を転々とする必要が出てきた。

 感覚的にはだいたい五年が限界か。

 いや、異世界アリスタの特殊性を考慮すると、あまり問題にはならないか。


「じゃあ最後に名前どうするの? 確か元の名前は叶太朗(きょうたろう)だったよね。このままにする?」

「いや、現地人に沿った名前で清楚っぽい感じにする。日本人ということがバレない名前にしてくれたらいいから、お前に任せるわ」

「そう。なら、これで一通り終わりだね。奴隷契約書も常識と一緒に頭の中に叩き込んどいたから問題ないよね。他に何か聞きたいことある?」

 ようやく終了したらしい。

 まあ聞きたいことは沢山あるが、一つだけにしよう。

 ただでさえ俺はこの陣営で最後の百人目なのに、ここでゆっくりしているとゲーム開始時点で他と圧倒的差をつけられるからな。


「神達は何のためにこのゲームを企画した?」

「最下級神と下級神、中級神は上の位に上がるため。それ以外の神は暇つぶしだね。ついでに僕は上級神だよ」

「あっそう。じゃあ送ってくれ。お前には殺された恨みがあるが、地獄の勉強から解放してくれたことには感謝しよう」

「それは有難いね。まあ、勉強の方がまだマシだったとか言わないように祈っとくよ。じゃあ」

 そう神が言った瞬間、俺の視覚が闇に閉ざされた。

 最後に見た光景はイルサーンが新入荷されたゲームを始める子供みたいな無邪気な笑顔だった。




 ※※※



 元叶太朗を異世界に送り込んだ遊戯神イルサーンは現在その元叶太朗の名前と容姿の事で悩んでいた。


「ううん……。清楚な名前ってなんだよって話なんだよねぇ。適当に名前くじで引いたやつにしようっと」

 誰もいないこの空間の中でイルサーンは親指と中指で音を鳴らす。

 その瞬間、白いテーブルの上に『名前選択用くじ引き(転生者に付ける名前を迷っている神がお使い下さい。中身がなくなったら青春の女神へーべまで)』と書かれているが出てきた。


「……本当に作ってるとは思わなかった。まあ有難く使わせてもらってと……ん?」

 イルサーンはそれを適当に使おうと箱の中に手を入れたのだが、指先に触れるものがない。

 箱を掲げて中を見ると、ひらひらと穴の中から『ミラ』と書かれた一枚の紙が落ちてくるだけだった。


「えー、これが最後の一枚? じゃあこれを僕があの青春満喫中のへーベーに持って行かないといけないのかぁ。あの女神今どこにいたっけ? まあ、今はそんなことよりあの子の名前だね。それにしてもまた残り物を掴まされたね、あの子。人間が余り物には福があるという諺を作っていたような気がするけど、僕から見れば全然そんな感じしないんだけどなあ。でも僕にとっては確かに福となりそう。あの子意外としぶとく生き残りそうだし。という訳で名前は切り札という意味も込めてこの名を贈ろうじゃないか。後は容姿だけだけど、これは美少女メーカーにおまかせしておこう。後は服を巫女服にでもしたら清楚に見えるよね。ってことで頑張ってね。期待してるよ、『ミラ=ジョーカー』」

 神に良くあることだが、一人で虚しく独り言を言い続けるイルサーンは神の威厳の欠片も見当たらない。

 そもそも神の威厳がある神は変人が多い中では極少数に限られる。

 そうでも無ければそもそもこんなゲームを始めはしないだろう。

 そんな人間界には見せられないような神事情は置いておこう。


「やっほー、みんな終わったよっ! ぬはは、これで僕の駒は全部揃ったぜっ! ところでヘーベーはいるのか? おん?」

 所変わって、ゲームを見守るために集った神々が自由気ままに話して喧騒状態の部屋へと突入するイルサーン。

 イルサーンが勝手に流行だと思っている口癖で集まっている神へと話しかける。

 しかしそれをバッサリと切り捨てる存在がいた。


「ウザい、キモイ。その口癖やめろ、物凄い腹立つから。しかも最上級神の神だってここにいるんだぞ。もう少し丁寧に喋れないのか? それにヘーベーは青春だぁーとか言って海に行ってるぞ」

 男勝りだが、露出が多いうえにプロポーション及び色気がある見た目二十代の女性ぶっきらぼうだが律儀に返答した。

 それに対し、イルサーンは旧友に会ったように親しげに話しかける。


「おお、ショチケツァルじゃないか。大丈夫だよ。どうせ最上級神なんて僕達下っ端の話なんて一々聞かないよ。それにしても最近僕の口調が不評なのはそういう事だったのか。(どお)りで今まで会話した人間の子も嫌そうな顔をするわけだよ」

「下っ端って一応アタシ達、上級神なんだけど。それよりお前は終わったって言ったよな。 手応えありそうな子いた?」

「いたけど、ゲームが始まるまでは黙っておくことにするよ。そっちは?」

「いるに決まってんだろ。お前はどこの惑星から選んだ?」

「地球ってところだね。あそこの娯楽って誰かが異世界にでも行ったことあるんじゃないって言うぐらい異世界のこと小説になったりゲームになったりしてるしね。しかも結構当たってたりするから、ひええってなるんだよ。だからこそ早く順応出来そうだと思って」

「なんだ、お前もそこなのか。まあ、地球って言うのは定番だな。あそこから人材引き抜いたらあっさりと負けることはないと思うし。しかし、いろんな神が異世界にそいつら送るから、そのせいで日本が少子化の道を辿っているらしいぞ」

「あっちゃあ。流石に引き抜きすぎだよね」

「ああ。でもアタシ達も言える立場じゃないけど」

 イルサーンがシンプルな円卓の周りにある椅子に座り、ショチケツァルと会話している最中に、突然威厳のある老輩の男性が大きな声を張り上げる。


「静まれぇっ!」

 その大地を震わすような鶴の一声で、それまでお祭り騒ぎだった神々が一斉に口をつぐむ。

 その様子に満足した老人、最上級神ゼウスは各々を睥睨してこの会場にいる全員に聞く。


「あと何柱で揃う?」

「八柱じゃよ。お主はせっかちじゃな。儂等、神は永遠に時間があるのじゃからゆっくりと待てば良いものを」

 ゼウスに対等な立場で文句を言うのは最上級神アトゥムである。

 しかしゼウスは反論する。


「それで前集まった時、三十柱ほど来なかったではないか」

「確かにそうだのう」

 立派な髭を撫でながら厳かに話すアトゥムは誰から見ても最上級神の名に恥じない姿だ。

 もちろん同じ最上級神のゼウスだって負けてはいない。

 眼帯をかけたその姿も相まって、無意識下に相手を威圧する迫力は相当なもの。

 しかしそれは人間視点での話であり、神々にとってはちょっと怖い校長先生みたいなものである。

 それゆえ、話す神がちらほら見受けられる。

 イルサーンやショチケツァルもその例に漏れない。


「うへー、やっぱりゼウス様苦手だなぁー。ショチケツァルもそう思わない?」

 イルサーンは下品に舌を出し、自身よりも上の地位の神を否定する。


「まあな。でも変なことしなきゃ問題ないだろ?」

 ショチケツァルも意見に相違は無いようだが、絡まれたら面倒くさい神という認識のようだ。


「確かにね。それにしてもゲーム始まるのいつだろう? あと八柱だから明日ぐらいには始まるかな?」

「普通の神ならそうなんだろうが、まだナナウトツィンとヒュプノスが残ってるから一ヶ月はかかると思う」

「ああ、なるほど。ナナウトツィンはまた悪巧みしてそうだし、ヒュプノスはこのゲームを忘れて惰眠を貪ってそうだもんね」

「そゆこと。まあ何にせよ、二ヶ月後のゲームが楽しみだ。ただでさえ娯楽の少ないこの神界なんだ。恐らくこのゲームは二十年は続くはず。ああ、笑いが止まらん」

 二ヶ月という言葉は神々集うのに一ヶ月、そこから一ヶ月の猶予を駒達に与えられるというルールからきている。


「モニターで僕達は常に味方敵に関わらず、駒の状況を確認できるのもいいね」

 イルサーンは空中に浮いている画面を見て、ほくそ笑む。

 そこにはさっき送ったばっかりの『ミラ=ジョーカー』が映っていた。



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