↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/34

毒巫女24

 一寸先も見えぬ暗闇、身を削るほどの冷気の中、俺は揺蕩(たゆた)っていた。

 身体は寸分も動かず、目は何も移さず、鼻は何も嗅ぎとらず、ただ痛いという感覚と、亡者の嘆きだけが鮮明に聞き取れる。

 助けて、冷たいよォ、仲間だァ、痛い痛いなどや、精神が汚染されそうな怨嗟の声も。

 やがて揺蕩っていた身体は、亡霊達の無数の手によって掴まれ、徐々に引きずり下ろされていく。

 同時に身体が端の方から分解され、その感覚が本来あるべき姿だと認識させられていく。


 ――ああ、暖かい。そろそろ死ぬんだろうなあ。でもせめて最後に一度ちーちゃんに会いたかった。


 そして、とうとう身体が消失する直前、心臓を鷲掴みにされ、無理矢理引っ張り上げられるような不快感と激痛が襲った瞬間。

 俺は生き返った。




 ※※※




 目覚めて感じたのは、猛烈なほどの吐き気と怠(だる)さ。

 頭はガンガンと響き、体は硬直し、喉が渇く。

 制御を離れていた毒は辺りに侵食していた。

 そして、白骨体になりかけている男性が二人。

 一人は白い衣を身に纏い、宗教らしきマークもあるので、おそらく信徒。

 もう一人は黒いフードを被っていたため、年齢は分からないが、裏稼業をやっている雰囲気を感じ取れた。


「ここはどこですか?」

 地面には巨大な魔法陣が刻まれており、辺りは、またもや真っ白。

 ただ、強制転移で行かされる場所とは異なり、この部屋は少々汚れている。

 そもそも俺が知らずうちに出してしまったらしい毒のせいで、部屋の形が歪になってしまっているところもあった。

 とりあえず、この場所で第三者に会えば、間違いなく殺人犯と勘違いされるので、だるい身体に鞭を打って無理矢理起き上がる。

 壁に身体を預け、ずるずると出口に戻っていたのだが、突然、誰もいないはずの真後ろから声がした。


「あ、生き返ったんですね。良かったです」

「――ッ!」

 部屋を一通り見回し、誰もいないと確認したはずなのに、いつの間か背後を取られた。

 素早く振り返ると、露出度の高い女の子が俺を見上げている。

 フワさんの肌を白くして、身長を小さくした感じだ。

それよりも、生き返ったとはどういう事だ?

一回死んだのか?


「僕の名前はハルポルです。良ければ、肩を貸しましょうか?」

「……お願いします」

 一先ず、頭に浮かんでくる疑問を保留して、肩を借りながら、毒を何時でも放てるよう意図的に、身体中に毒を巡らせ、不意打ちに備える。

 一見、戦闘力がなさそうに見えるが、実は擬態だったという可能性もあるからな。

 まあ、親切にしてくれたハルポルに失礼な行為ではあるのだが。


「私はミラと申します。助けていただきありがとうございます」

「いやいや、お礼を言われるほどの事はやってないですよ! お金を払ってくれたマスターに言ってください」

この反応からして、死んでいたのかどうかはともかく、生き返らしてくれたのはハルポルらしい。

だが、善意だけで生き返らせるには費用がかかりすぎる。

そのマスターとやらの真意が気になるな。


「マスターですか?」

「そうです! 僕、ギルドに所属してるんですよ。ミラさんも来ません? というかマスターに顔を見せて欲しいです。ミラさんを生き返らせた対価の一つがそれなんですよね」

他にも対価があるのか。

一体、俺の死体からどんな価値を感じ取ったんだか。

普通見知らずの他人が死んでいてもスルーするだろ。

俺はどんどん湧いてくる疑問を飲み込み、話を進めるために無理矢理納得する。


「分かりました。後、敬語を無理に話さなくても大丈夫ですよ」

「分かった! ミラも敬語はいらないよ」

「私は元からこの言い方ですので」

「へー。礼儀正しいんだね!」

 このように会話しながら、マスターとやらがいるギルドへと向かう。

 莫大な金額が必要な蘇生代を肩代わりしてくれたんだ。

 どんな企みがあろうとも礼はすべきだろうと思って、ハルポルについて行っているのだが、先程から隠し通路や裏道のような怪しげな場所しか通っていない。

 もしかして騙されたのだろうか。


「ここだよ」

「……歴史を感じる建物ですね」

「ボロいだけだけどね」

 俺がオブラートに包んだ言葉を、ドストレートで言ったハルポルは、扉を思いっきり開ける。

 その瞬間、扉がミシリと音を立て、パタンと倒れた。


「「……あ」」

 互いに顔を見合わせた後、何事も無かったかのように、そっと壁に扉を立てかけて中に入る。

 そこには、オレンジ色に光るランプが所々置かれていて、それ以外は閉店間近の酒場のようにしか見えない店があった。

 またギルドにあったような隠れた名高い飲食店なのだろうか。


「……今はハロルドさんいないか。仕事にでも行ったのかな。あ、ミラさん。こっちこっち」

 ハルポルは、端にあった階段から顔を覗かせながら、こちらに手招きをしている。

 どうやらここで食べるわけではないらしい。

 そして、糞ババアの宿にあった階段と同じ強度の階段だったため、恐る恐る上っていく。

 ただ、ハルポルは軽快に駆け上がっていた。


「随分と身軽ですね。怖くないのですか?」

「まあ、慣れたら意外と丈夫な事が分かるんだよ。例えばこんなことをしてもねっ!」

 そう言ったハルポルは右足を力一杯振り下ろす。

 その瞬間、階段が衝撃に耐えきれず、ハルポルの右足は床を踏み抜いてしまった。


「「……」」

 みるみる顔を青ざめさせていくハルポルに対し、俺は少し残念な子だなと考えを改め直す。


「ど、どうしよう!? マスターに怒られる!」

「当たり前だ! このアホが」

 あたふたと一人で焦っていたハルポルの後ろに、悪人面の男がハルポルの背後を陣取り、そのまま頭に拳を振り下ろした。


「あだっ」

 殴られた後頭部を手で抑え、うずくまるハルポルを傍目に、男が俺を手招きする。


「こっちだ」

 そして、二階の奥の部屋へと案内された。


「随分と綺麗な部屋ですね」

 一階にあったボロボロの酒場とは違い、この部屋は異世界。綺麗さのレベルが違った。

 ピカピカに磨かれた床や壁。

 部屋の真ん中に置かれた立派な机。

 ミニシャンデリアに、真っ赤な絨毯もある。

 それらの持ち主である悪人面の男はドカッと椅子に座り、こちらに向いた。


「名前はミラ=ジョーカーだったか?」

「そうですが、何故名前を?」

 この男に名前を教えた覚えはない。

 ハルポルに盗聴器でもつけていたのだろうか。


「これだ」

 そう言われてモノクルを手渡された俺は、覗いてみるも特に変わった様子はない。

 何の変哲もない、ただのモノクルだ。


「それをお前が死んだ時に使って鑑定させてもらった。ああ、使い捨てだから何度見ても鑑定は出来ない」

「……見えたものは名前だけではないですよね?」

「だからこそ、お前を生き返らせた。どうだ? このギルドで働く気は無いか?」

「断るったらどうなるんです?」

「大切な人が死ぬかもな」

「私の大切な人が誰か分かりますか?」

「アサカワチエだろ。これも鑑定で調べられるんだぜ?」

「その人物は知りません。残念ですが、勘違いです」

「嘘だな」

 ブラフでもハッタリでもないか。

 ならば、こいつを殺して逃走するという手もあるが、正直いって仕事は欲しい。

<生存第一>に入るには金がかかるうえに、ちーちゃんにも何らかのプレゼントをしたいからな。


「それで仕事は何をすればいいのですか?」

「おお、入る気になってくれたのか。そうだな、主に暗殺と毒を生産してほしい」

「薄暗くて怪しげな場所だと思ったら、闇ギルドだったんですね。ハルポルが明るかったから、割とまともなギルドだと思っていたのですが」

「あいつはよく分からん。雨の日に拾ったんだが、どうもそれに恩義を感じているらしくてな。以来、このギルドに住み着いている。

俺は最初女だと思って娼館に売り払う気だったんだが、男だったからな。一時期、男娼にしようともした。だが、それよりも存在感の薄さという才能に目が付いてな。暗殺者として大成すると思ったから引き取った。

ただ、毒草採取はするが、暗殺依頼などは全くせん。恐らく、毒草を薬草だと勘違いしている。まあ、そんなわけで、あいつがここを闇ギルドだと思ってないからこそ、明るいと感じるのだろう」

……ハルポルは男だったのか。

そこに衝撃を受けてあまり話を聞いていなかった俺は、今すぐハルポルの性別を確認したい衝動に駆られた。

が、その衝動を堪え、依頼の話の軌道に戻す。


「それはお互いに良いのか悪いのか分かりませんが、先に報酬の話をさせていただいても?」

「報酬は各依頼によって様々だ。そこに置いてある紙に依頼と期限と報酬が書かれている。好きなのを取って達成しにいけ。殺したかどうかは、こっちで情報を集める。確認が取れたら報酬を渡す。毒薬は、納めると同時に金を渡そう」

 俺は机の上に積んである依頼書をペラペラ捲くる。

 人を害するだけあって報酬は高い。

 しかし、善良な市民を殺すのは気が引ける。


「犯罪者及び犯罪者予備軍の暗殺依頼ってあります?」

「なるほど。お前は、そっち系か。まあ、相手は大抵権力者だからな。やっていることは黒に近い。なんなら、俺が極悪人順に依頼を選んでやろうか?」

「……よろしくお願いします」

 鼻で笑われ、多少イラついたものの、嘲笑されたこと以外は特に文句はない。


「早速依頼を受けるか?」

「受けます。後、王都にもギルドあります?」

「支部ならな。あそこは強者が多い。とても本部は置けん。王都に行く予定でもあるのか?」

「まあ、そんなところです」

 個人ギルド<生存第一>に向かう必要がある。

 そろそろ、ちーちゃんのところにも戻りたいが、場所が分からない。

 後で、ハルポルに案内してもらおう。


「おい、これならどうだ?」

 積み重ねられた紙から一枚取り出し、俺に手渡してきた。

 依頼内容は、貴族の殺害。

 身元がすぐに分かるように、傷つけずに綺麗に殺してほしいらしい。

 期限は三日で、報酬は角金貨一枚。

 相場が分からないため、報酬が高いのか安いのか判断出来ないが、期限は短いような気がする。


「こいつの家はここだ。貴重な地図を貸すわけには行かないから、ここで覚えろ」

 獣皮紙に書かれた依頼とにらめっこしていた俺に、マスターが地図を出し、暗殺の標的(ターゲット)の場所を指さす。

 こういう時にカメラがあれば便利なのだが、無いものは強請(ねだ)ってもしょうがない。

 じっくりと、ここから辿り着けるように頭の中でシュミレートする。


「覚えました」

 標的の敷地は結構広い。

 周辺にそこまで広い敷地はないので、行けばわかるはず。


「そうか。一応これは試験みたいなもんだ。程よく緊張感を持ってやってくれ」

「落ちたらどうなるんですか? 私がここに入るのは強制ですよね?」

「落ちたら報酬額が大幅に下がる。最悪、これから全て、報酬額は一割だ」

「……全力でやらせて頂きます」

 好き勝手に言いやがって。

 ここに来る頻度減らして、別のところで働いてやろうか。


「これ、標的の似顔絵な。後、依頼は三日に一回は受けること。これも破ると次の依頼をタダで受けてもらう」

 三日に一回とか頻度高すぎる。

 金が溜まったら、このギルド潰そう。

 ちーちゃんに敵意が向かないように徹底的に。

 俺は標的の似顔絵を折りたたんで懐にしまい、踵を返す。


「では失礼します」

「ギルドカード作っておけよ。後に必要になってくる。一度人を殺すと発行できなくなるから、殺る前に登録しておけ!」

「……承知しました」

 扉をゆっくり閉めて、壁にもたれ掛かり、これからやるべき事を順序付けていく。


「よし。まずはハルポルを探しますか」

 ギルドに案内してもらわないと、依頼が実行できない。

 俺はハルポルを見つけるために、様々な場所を回ったが、ハルポルを発見できなかった。


「どこかに行ったのか、気配が薄いのか分かりませんね。どうしましょうか」

「呼んだ?」

「ひっ」

 いきなり後ろから声をかけないで欲しい。

 思わず悲鳴が漏れてしまった。

 さっきくるりと見渡して誰もいないことを確認したはずなのに、どうして俺の背後をとっているのだろうか。

 やはり、気配が薄いんだろう。


「何か用かな?」

「ギルドに案内していただけると嬉しいのですが」

「いいよ。なにか依頼でも受けた?」

「討伐依頼を少々」

「おおー! 最初から飛ばすね!」

 こっちこっちとハルポルに手を引かれながら、ギルドを目指していた俺達とすれ違うように、黒いフードを被った男がこのギルドに入ってきた。


「あっ! ハロルドさん! 仕事終わったの?」

「ああ。今回も仕留めた」

「へー。ハロルドさんならドラゴンでも仕留めてそうだよねー」

「流石にそれは無理だ。それより、そいつは?」

「ミラさんだよ。今日から、うちにに入ってもらうことになったの。それでこれから冒険者ギルドに登録しに行くところ」

「もう夜だ。恐らくギルドは開いていない」

「……あっ」

 どうやらギルドが閉まる時間を失念していたらしい。

 これは、冒険者ギルドが二十四時間開いているコンビニと同感覚でいた俺も悪いだろう。


「ごめんね、ミラさん。登録は明日でいい?」

「構いません。また明日にここに来ます」

 そうして<ラバーズ>から出ようと一歩踏み出そうとした瞬間、ぐいっと手を引かれた。


「ここに泊まらないの? ギルド員は無料だよ」

 このギルド、基本的にボロいのだ。

 敢えて廃墟だと敵を欺くためにそうしているのだろうが。

 だから、泊まるところも劣化しまくっているような気がする。


「出来れば、僕の部屋に止まってほしいかなぁ、なんて」

 顔を赤くし、目を伏せて、身体をもじもじさせているハルポル。


「ハルポルって男ですか?」

その挙動を見れば、あまり男には見えない。


「ん? そうだけど。 それより泊まるの? 泊まらないの?」

 うーん。いくら少女然とした容姿でも男だということが分かったからな。

 仮にも女である俺が共に寝るのは不味いだろう。


「悪いですが、お断りします」

「でも、空き部屋ないし、この時間帯だと他の宿屋さんも開いてないよ。それに僕の部屋ベットが二つあるから」

 ハルポルは俺を襲えるほどの勇気があるわけでは無さそうだし、いざとなれば毒をぶちまければいい。

 ハルポルは転生者では無いから、俺よりは弱いはず。


「分かりました。迷惑でなければ、お邪魔させていただきます」

「ということでハロルドさん、またね!」

「ああ。……相変わらず女癖が悪いな」

 顔が見えないハロルドさんのボソリと呟いた声は聞こえなかったが、とても嫌な予感がしてきた俺であった。


12日ぶりの更新。

最近更新速度がどんどん落ちていっていることに、危機感を覚えた夜ノ空。

言い訳は大量に思いつくけど、今回は言わないでおこう。

次は1週間以内には投稿したい。


次回予告

ミラがハルポルに襲われる!?


募集

チート能力のアイディア募集中

イラストも募集中

感想や評価もレビューも


これだけ欲張ったところで、後書きは終わります。


読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。