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毒巫女22

夕食を食べ終わり、フワさんを拾い、ギルドで<生存第一>の個人ギルドの場所を聞き、宿屋に泊まる。

ここは糞ババアの宿とは違い、手頃な価格かつ、綺麗に清掃されている。

男女で部屋を分かれて寝ることになったのだが、部屋にベッドはひとつしかない。


「ちーちゃんはベッドで寝てください。私達は床で寝ます」

「ミラっち!? なんか勝手に決められたっす!」

「流石に悪いよ」

フワさんを尊敬はしているのだが、ちーちゃんは更に上を行くので、これは当然の判断だ。

ただ、俺以外はご不満らしい。


「ミラちゃんが、寝たら? 巨大迷路でも、私全く役に立たなかったし、異世界来てから、そんなに日にち経ってないよね? だから寝て」

いつにも増して積極的なちーちゃんが俺をベッドの上に押し倒す。

ま、まさか俺を襲ってくれるのか?

ちーちゃんの真剣な顔が妙な緊張感を生み出し、俺はその雰囲気に呑まれていく。


「ちーちゃんが一番疲れているんだよ。ゆっくり寝て、疲れを取ってね?」

うわわ。そんな間近で優しい声音を出さないでほしい。

下腹部がキュンキュンと反応してしまい、太腿をモジモジと擦り合わせる。


「……はぃ」

消え入りそうな声を出した上に、何故かちーちゃんの顔をまともに見られなくなり、毛布で鼻まで隠した。


「うん。いい子いい子」

子供を寝かしつける母親のような撫で方。

確実に俺にトドメをさしにきている。


「うわぁ、すごいっすね。ミラっちが形無(かたな)しっすよ」

「み、ミカンふわしゃーさんも入り、ます?」

「敬語いらないっすよ。それだと狭くないっすか?」

「ミラっちゃんに、抱きついて、寝れば大丈夫?」

ちーちゃんの言葉を聞いたフワさんはちらりとこちらを一瞥した。


「いや、遠慮するっす。アタシはネズ先輩の方で寝るっす」

「その、ミカンふわしゃーさん、綺麗で可愛いから、襲われちゃうかも」

「……千愛ちゃんが男だったら天然ジゴロになってそうな片鱗を垣間見たっすね」

フワさんの戦慄した声が聞こえなかったのか、首を傾げるちーちゃん。


「なんでもないっすよ。それより早くお風呂に行くっす」

「ここでお風呂利用出来るの?」

「そうっす。ミラっちも毛布被ってないで浸かりに行くっすよ」

風呂か。

ちーちゃんの一糸まとわぬ姿に見入れる絶好のチャンスであると同時に、フワさんによって問い詰められる確定要素もあるというメリットデメリットが両立している場所だ。

行くかどうかは普通は非常に迷うところだが。


「ちーちゃんが行くなら、行きます!」

ちーちゃんの裸をみるという何事にも代えがたいメリットがある以上、俺は即決するに決まっている。


「私も行くよ」

よっしゃぁー!って叫びたいのを取り繕い、表情は冷静に見せる。

俺は疚しいことなんて一切考えていませんよー。


「ミラっち、無表情でも、眼の中のハートがいつにも増して存在感を訴えているっすよ。何を考えているのかまる分かりっす」

「……ミラちゃんのエッチ」

胸を隠すようにして身を引くちーちゃん。


「ち、違うんです。あわよくば、触りたいと思っただけですから。スキンシップってやつです」

「へー、スキンシップっすか。いい言葉っすね。何しても許されそうな感じで」

「と、兎に角入りましょう。話はそれからです」

そうして戦略的撤退を無事にやり遂げた俺は、この時代の宿屋にあるの方が珍しい風呂に、真っ先に着いた。

そして服を脱ぎ、身体を軽く洗ってから、お風呂に浸かる。

自衛隊が腹這いをして敵から隠れるかのように、ひたすら待つ。待つ。


そして風呂場の扉が徐々に開いて、ちーちゃんの身体が段々と顕になって……。


「あらあら、先着がいたのね。隣失礼していいかしら」

「あ、はい。どうぞ」

知らないおばさんが現れた。

近所に一人は必ずいて、世間話が好きそうで、近くにいると何故か安心するような印象を受ける。


「誰かと一緒に来たのかい?」

「えぇ。友達とです」

「そうかい、そうかい。旅行は一人だと危ないしねぇ。特にあんたみたいな綺麗で若い子はすぐに攫われるわよ?」

「私、これでも強いので大丈夫です」

ただ、今は毒を体から漏らさないように抑えているので、咄嗟に戦うのはきついかもしれない。

それにしてもちーちゃん来ないなあ。

まさか俺を警戒して、他の風呂屋にでも行ったか?


「さっき籠からちらりと巫女さんの服が見えたのだけど、神に使えているのかしら?」

「いえ。これは回復魔法を使うための儀式のようなものです」

質問してきたおばさんに俺は丁寧に返す。

勿論、嘘だ。

手の内をばらさない、または引かれないようにするため、現地人に本当のことを言うつもりは無い。

だから、一旦このおばさんから離れることにした。


「私、身体を洗ってきますね」

「おばさんはゆっくり浸かっておくわ」

俺は風呂場をひたひたと歩きながら、シャワーのような魔道具があるところで立ち止まり、スイッチを入れる。

すると天井から生温いシャワーが降ってきた。

それを目を閉じながら全身に浴び、体を滴る水に意識を向ける。

胸元に水滴が落ち、膨らみの上を通り、不健康ともいえる白い肌を滑り、静かに足から離れる。

一体、俺は何をしていたのだろうか。

シャワーを浴びながら、今日一日を振り返ると、終始久しぶりに再会出来たちーちゃんを見て、浮かれていた記憶しか思い浮かばない。

『巨大迷路』では人を殺し、気を抜いた瞬間に真横を抜けられ、さっきも公共の施設の中でマナーも守らず潜伏していたこともそうだ。

どれも浮かれていなければ回避出来たものではないのか。

勿論、ちーちゃんと会って浮かれるのは全国共通だから変えようがない。

従って切り替えの早さをこれから重視していこうと俺の心の中で決め、シャワーを止め、閉じていた目をゆっくりと開く。

目の前には大きな鏡が備え付けられていた。


「……私は目の前のものも気づかなかったのですか」

日本の鏡よりは粗があるが、この時代においては中々の良品であることが窺える。

映っているのは全身顕な少女。

透き通るような白髪に、感情の発露が見られない毒々しい紫色の瞳。

大人と少女との間で揺れ動く年頃のはずだが、病的なまでの白い肌はその色気を打ち消している。

深窓の令嬢よりも更に、華奢な身体つきで、腕を握れば簡単に折れてしまいそうな程に弱々しい。

この容姿にいつも来ている巫女服を想像で合わせてみると、まるで生け贄になる直前の少女のようだ。

だが、少しツリ目な為、生け贄を出す世界を憎んでいる少女にランクアップした。


「自分の顔を初めて見ましたが、真っ先に狙われそうですね」

外見が正に、回復系で、か弱い女子となるとゲーム的に最初に殺されるのは俺だろう。

こんな外見にしたイルサーンを恨めしく思った。

俺はシャワールームの右端の方に置かれている石鹸もどきを手に取り、手で身体を優しく洗いながら、今後の方針を軽くまとめてみる。

一、ちーちゃんを守る。

二、<生存第一>の個人ギルドに入る。

三、スキルのレベルを上げる。

四、金を稼ぐ。

こんなところか。


再びシャワーを浴び、泡を綺麗に落とした後、まだ大浴場に入っているおばさんの元へと向かう。


「すみません。私と同じぐらいの女の子見ませんでした?」

「見てないわねぇ」

「そうですか。ありがとうございます」

俺はいつまで待ってもフワさんとちーちゃんが来ないことに肩を落とす。


「すみません。私はそろそろ出ます」

そう言って風呂から上がった時、背中から忠告してくれる優しいおばさん。


「ゆっくり寝るのよー。……永遠に」

だから気づけなかった。

一切の音も痛みもなく、目線を落とせば、胸から刃が生えていた。


「ごフッ。……な、なんで」

声を出す代わりに血の塊が出てきた時、俺はようやく、おばさんに刺されたのだと理解した。


「あはははは! 気づかなすぎるぜ、お前。『陣営鑑定』でいつでも俺を見れたのにな! 間抜けすぎる!」

俺が意識を落とす合間に見たものは、優しそうなおばさんの顔が崩壊し、二十代前半の女性の狂った笑顔だった。






※※※





目の前に横たわる死体。

オレはその死体を無造作に腕を掴み、持ち上げる。


「マジ好みなんだよな、この顔と身体。虐められるほど、可愛くなっていくタイプっぽいし」

だからこそ、街中で偶然すれ違った時からずっと尾行していた。

強制転移の際も、転移する直前に一瞬だけ体に触れ、直後にすぐに離す。

そうすることで気付かれずに同じ場所に転移できる。

そして、『巨大迷路』の時も同様に、ずっと後をつけていた。

だが、途中からオレの他にも尾行者が増えたので、タンッという音をならし、尾行者にオレの存在を知らせ、焦らせて、罠に誘導。

案の定、消滅したそいつをうまく使わせてもらって、ミラがゴールする前にオレが二位でゴールさせてもらった。

その後は一旦別れることになったが、再び転移させられると、ミラと同じギルドの食堂に来ることが出来た。

そしてそこからここまで尾行して、殺すタイミングを図るために、変装までして風呂に入ったのだ。


「よしよし、無事ゲット出来たし、ギルドの方に運ぶか。おっと、その前に」

オレはミラの身体を仰向けにさせ、身体の隅々まで確認するようにねちっこく撫で回す。

髪を、鼻を、唇を、頬を、首を、肩を、胸を、腹を、脇を、腕を、手を、腰を、尻を、太腿を、脚を、柔らかさや弾力、匂いなどを確かめながら、なぞっていった。

そして脱衣所へと運ぶ。


「どこに置いたんだったか」

籠の中をガサゴソと探し、黒い首輪を取り出し、ミラの首元に押し付けると、勝手に作動し、ミラの首に装着される。

そしてオレはミラの親指を浅く噛み切り、血が出た親指を奴隷契約書に押し付ける。


「確か、後は名前と陣営を言えば、奴隷にできるという話だったはずだけど、ミラの陣営知らねえんだよなあ。『陣営鑑定』で見れねえし、恐らく隠蔽系スキルでも持ってんだろうな」

直ぐにでもオレの物に出来ないことに苛立ちを感じ、それを薄れさせるため、ミラの身体を触り、服を着せるということを何度か繰り返した。

そして、自分も服を着ると、オレはエアホを具現化させ、仲間を呼び出す。

エアホとはエアーホォンの略であり、空気中から自動的に生成され、使い終われば、空中に分解するというオレの世界の最新技術が使われた携帯電話だ。だが、携帯する必要はない。


「おい、ミャグラ。新しいの捕まえたから、こっち来い」

『えー、今、原爆再現中なんですけどぉ』

「そんなもん転生者には効かないだろうが」

『現地人を一掃するためのものだよぉ。いつか必要になりそうしぃ』

「いいから来い! お前の好きな美少女だぞ」

『どんな感じぃ?』

「襲ったら、力及ばず睨みながらも犯される少女って感じだ」

そうオレがエアホに告げた瞬間、真横に人が現れた。

一見、ギャルに見えるが、濁った瞳と薄笑いが張り付いている顔のせいで、猟奇殺人鬼が擬態しているようだ。


「おおー、むっちゃ美少女! ミャグラがもらっていい?」

「たまにならいいが、奴隷の主人はオレで登録する」

「えー、それだと中身(内臓)が見れないじゃん」

「そのどこがいいんだか。そう言えば、前の世界で内蔵まるごと抜き取った事件の犯人ってお前じゃないよな?」

「……てへぺろ」

可愛らしく舌を出したミャグラ。

もはや認めていることと同義である。


「オレは今、この陣営だったことに後悔しているよ」

「そうかなぁ。私はこのゼウス陣営で良かったと思うよぉ。こうして例え作り物だとしても、美少女発見出来たしぃ、ニャラちゃんと出会えたしねぇ」

そう言いながら、オレの胸をつんつんと(つつ)くミャグラに、ため息をつく。

これだから変態は嫌なんだが、怒る気にはなれない。

なんだかんだ言ってゼウス陣営の中で一番付き合いやすい相手だからだろう。


「じゃあ、転移するよぉ。そこの美少女持って私の手を繋いでねぇ」

オレはミラの手とミャグラの手を握り、いざ転移と思った瞬間、ミャグラの転移のために高めていた魔力が一瞬で消滅した。


「あれぇ?」

「おっと」

ミャグラは首を傾げながら、オレは身体を反らしながら、マシンガンで連射された銃弾を避ける。


「ちっ」

襲撃してきた敵はマシンガンを放り投げ、印を結び技を発動させる。

だが、その前にミャグラが重力を操り、敵を重力で押し潰し、血溜まりが出来上がった。


「弱かったねぇ。私の魔力を封じたのは良かったけど、効果持続しなかったしぃ」

「そうだな。また襲撃されるのはめんどくさい。早く戻るぞ」

「そうだねぇ、ってあれ? 倒れた美少女どこに行ったぁ?」

赤黒い血の上に倒れ伏せていたミラの姿が跡形もなくなっている。


「……やられた。仲間がいたのか。次会ったらぶち殺す」

「見たこともない敵を? 頑張ってねぇ」

オレはミラを持ち帰れなかったことを悔みつつ、ミャグラよって転移させられた。



更新超遅れて申し訳ありません。

まさかの10日も更新出来ないとは思ってもみなかった。

今回の言い訳:筆が進みませんでした。自分の書いた小説をぼーっと見て、他人のと見比べて、なんか違うよなーと、悩んでました。そもそもニャラちゃんとやらの一人称はオレで良かったのかとも考えましたね。

しかも何気に主人公以外の一人称視点で書いたの初めてじゃないだろうか。

まあ、いいや。


兎に角、10日間も待たせてしまったにも関わらず、読んで下さりありがとうございました。



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