毒巫女21
「傾注! 私は森松 剛士というものだ」
ちーちゃんと仲直り出来た俺や、会場中の転生者にも聞こえる音量で、響き渡る渋い声。
突然の事で、皆黙るが、目線では誰だこいつと疑いの目を向けている人がチラホラといる。
「私は冒険者組合で個人ギルドを創設する。むろん、イルサーン陣営のみで構成する。他陣営に一網打尽にされる可能性はあるが、一人よりも生存率が上がる。その上、『蘇生術』『治癒術』を所持している者の協力を仰げれば、直ぐに治療を受けられるメリットがある。各部屋も用意しているから、夜は怯えることなく睡眠を取れるはずだ」
俺はこの声の発生源を探し、会場の中をうろちょろしながら、考える。
『蘇生術』と『治癒術』を受けられるのはメリットが大きい。
特に『蘇生術』では死後七日以内ならば完全な蘇生ができるという情報が『常識』の中にあった。
個人ギルドに入れば、もし一人で死んでも仲間が探し出して、『蘇生術』を施してくれるかもしれない。
それに『結界』などでユニオン中は多少安全になる可能性もある。
今のところ、デメリットよりもメリットの方が大きい。
「だが、ギルド費は支払ってもらう。月初に丸金貨一枚だ。少々高いが、我々の能力を活かせばそれぐらい余裕で稼げるはずだ。ユニオンの場所は冒険者組合に<生存第一>に所属したいと告げてもらえば、教えてくれるだろう。合言葉はイルサーン陣営だ」
いた。
がっしりとした体格に、眼鏡を掛けた初老の男性。
規則に厳しそうなおじさんといった感じだ。
眉間に皺がより、白髪を生やしている姿は日頃苦労していることを思わせる。
「そして原則強制参加だ。力が分散するだけ、生存確率は減ると考えてもらっても構わない。私からの話は以上だ」
松本剛士の話が終わった瞬間、質問の嵐。
時々罵倒や別勢力を築こうとする者が現れるも、松本剛士の説得で勢いを失っていく。
さて、俺はどうしようか。
いつ襲撃されるか分からないこの世界で、安心して寝れる場所があるということは正直、願ってもない話だ。
部費が大分痛いが、何らかの職につけば稼げない額ではない。
むしろそれでゆったり寝れるのなら、安い方だ。
「ちーちゃんはどうします?」
「私は入りたいけど、部費が高いかな」
「私が払いましょうか?」
「さ、流石にそれは申し訳ないよ!」
「残念です。私がどんどんお金を貸して、ちーちゃんが私無しに生きられないようにするつもりでしたのに」
「もう。こらっ」
こつんっと可愛らしく拳骨を落とされた。
「ふふっ。すみません」
「何笑ってるのー!」
「ちーちゃんだって笑ってるじゃないですか」
「えへへ」
あー、仲直り出来てホントに良かった。
こういう何気ない会話が物凄く楽しい時間になっている。
背中を押してくれた皆に感謝だな。いや、あれはやっぱり罵倒だろうから、なしで。
[ピンポンパンポーン。只今、十位がアトゥム陣営に決定しました。これより全陣営の転移を開始します]
そう放送で、朗らかな気持ちに水を差された俺は怒りを顕にする間もなく、視界が切り替わった。
目の前には、ネズ先輩に誘われたギルドの秘密の食堂が。
そして、向かいにネズ先輩が座っており、横にはちーちゃんが立っていた。
「え? あれ? ここどこ?」
「一応、ギルドの中らしいですよ」
「あっ、ミラちゃん!」
ちーちゃんが不安げな顔から、安堵した表情に変わる。
「うむ。やはり時間は一切経っていないな」
「そうみたいですね。料理は冷めてますけど、客の顔ぶれは変わっていないようですし」
「料理が冷たいのは、お前が寝てたからだろう」
「……そうでした。それより客は急に現れたちーちゃんを見て驚いているようですが、どうにかしなくていいのですか?」
「良くはないだろうな。オーナー! この客は俺の連れだ! もう一人前持ってきてくれ!」
「分かりました」
オーナーがネズ先輩の言葉に返事をすると、素早く警戒を解く冒険者達。
やはりここの食堂に来れるだけの力があるからこそ、切り替えが早い。
そもそも、自分の連れという一言で警戒を解かせるネズ先輩は、何かをしたのだろう。
「お待たせしました」
ウエイトレスが料理をちーちゃんの前に置く。
いくら何でも料理が出来上がるの早すぎるだろう。
どんな手品を使ったんだ?
「ここのシェフは『時空魔法』の所持者でな。料理する際は自身で時間停止の空間を作り、その中で料理しているらしい」
「す、凄いですね。わ、私も見習って、みたいです」
俺以外ではまだ話しにくいのか、たどたどしい喋り方に戻っている。
それにしてもちーちゃんが興味を持つのは珍しい。
恐らくちーちゃんが『料理』所持者だからだろう。
そのせいか、ネズ先輩に話しているのにも関わらず、目線はずっと料理に落としたままだ。
俺は冷めた料理を口にしながら、小さい口で恐る恐る食べるちーちゃんの様子をしげしげと眺めていた。
あっ、頬を緩ませた。可愛い。
「私にも作れるかな?」
「大丈夫です。自身を持ってください。私も手伝えることがあれば、手伝いますよ」
「ありがとう」
※※※
神界。
ここではモニターで『巨大迷路』の感想合戦が行われていた。
「落とし穴越える瞬間かっこよすぎだろ」
「そうか? それただカッコつけているだけじゃね? 動きに無駄が多いし」
「お、この子可愛くない? こける瞬間、キャッとか言ってるよ」
「あなた、それ故意よ」
「うおぉ、倒し方えっぐ。全身切り刻むとか何処のサイコパス?」
「それなら、あっちだって首ポンポンはねてるよ?」
「おかしいなあ。比較的倫理観がある世界から抜いてきたのに」
「お前の駒、全員犯罪者じゃねえか」
「うわぁ、イルサーンが忠告したのに、落とし穴、軽々飛び越えるし」
「魔女っ子がいる! メイドも!」
「魔女っ子ってある世界では古い言い方らしいよ」
「あー、何度見ても俺の駒が壊れるのはもったいないな」
それぞれのお気に入りのシーンを何度も再生し、様々な表情で見つめる神々。
オタクの代表格のケツァルコアトルは、少女のスカートが翻るシーンを何度も見ている。
本人曰く、見えないギリギリがいいらしい。
「それにしても、今回の遊戯は簡単過ぎる」
「まあ、初回だし勘弁してあげてよ」
「じゃあ、次は鬼畜設定でいいよな」
「ダンジョンとかどうだ?」
「今年迷路だったのに?」
「サバイバルゲームは?」
「今まさにサバイバルゲームだよ」
「あああっ! 私のお気に入りの子、いつの間にか見知らぬ男に堕とされてる!?」
「すまん。俺の駒だ、それ」
神々はいつもの如く騒ぎ立てるが、それを咎める人物はいない。
「今回は僕の勝ちだね、ショチケツァル」
「ふん。今回はな。だが、次は負けん」
扇情的な服装をしたショチケツァルが胸の下に腕を組んで鼻息を荒くする。
「それにしてもお前にしては優しめだったな。人間に情でも目覚めたか?」
「まさか。初回が簡単だと次も油断するでしょ。だから二回目に脱落者が多く見られる」
「だが、それはお前の駒も同じだろう?」
「いや、僕は慎重派の駒を次の遊戯に参加させるから」
「そうか。ところで、切り札ってあの子だろう? 物凄く暴走してないか?」
「相手に愛が重いって断られてるけど、そんな生易しいものではなさそうだよね」
「どこか狂気を感じるな。でもお前が気に入りそうなタイプでもあるな。それにしてもさっきからお前がやっているのはなんだ?」
「ソーシャルゲームって言うらしいよ。今、マルチプレイで自分だけ全く動かずにチームの足を引っ張っているところ」
「ゲスいな」
イルサーンはスマートフォンをニヤニヤ眺めて、机に突っ伏してる。
そこに、肩を震わせながら向かってきた神がいた。
「ちょっと、あんた少しぐらいは動いてよ!」
「あれ、君もやってたの? じゃあちょっと本気だすね」
「今更本気出しても遅いのよ」
そう言って手元のスマートフォンに目を下ろすヘスティアー。
だが、徐々に表情が驚きに染まっていく。
「えっ、あれ? あんた、上手すぎじゃない!?」
「一応これでも遊戯の神なんでね」
「さっきまで邪魔をしていた奴が何を言っているんだ」
ショチケツァルが呆れているのを傍目に、二人の神の会話は益々弾む。
「クリア出来た……。ねぇねぇ、このクエストクリア出来ないから、手伝ってよ」
「んー、おっけー」
「っ! あんたのダメージ量どーなってんのよ。火力出過ぎよ!」
「ランキング一位を舐めないでよね」
「一位!? まさか、あんたがあの伝説のゆうちゃん!? どんなイベントでも二位と圧倒的な差を付けて一位を容赦なく奪っていくあの!?」
「まあね」
「ああ、伝説に巡り会えるなんて! 神様! 信仰しておいて良かったです!」
「キャラ変わってるよ? それに君も神だよね?」
イルサーンはヘスティアーの褒め言葉よりも、反応の方が面白く、顔をずっと見ながら片手間でスマートフォンを弄っていた。
ヘスティアーの方は極普通の腕前なため、集中してプレイ。
その様子を頬杖をつきながら、なんとなしに見ていたショチケツァルがモニターの方を指し、声をかける。
「お前ら、自分の駒ぐらいきちんと見てあげろよ。自分の陣営がどうなってるのか気にならないのか?」
「ショチケツァル、それは間違っている。ゲームはちょくちょく見るのが面白いんだよ」
「でも、そんなことしたら負けるわよ?」
「ノンノン♪ それも違うさ、ヘスティアー。遊戯神たる僕は余所見してても負けることはないのさ。それに陣営同士の争いが激化するのは、まだまだ先だよ」
イルサーンは視線を一周させ、神々の様子をこっそりと伺った後、ショチケツァルに呟いた。
そして、黒幕のような笑みをうっすらと浮かべる。
「ちょっと! 負けてるんですけど!?」
「え? あ、ほんとだ。なんで?」
「そりゃあ、全知全能封じられてるからだろ」
聞き耳を立てていた神々に大笑いされ、怪しい笑みは二秒も持たず、テヘペロで事を誤魔化した、格好つかないイルサーンであった。
※※※
ミラ達が再び夕食を食べ直している頃、ナナウトツィン陣営の駒は、ある人目のつかない場所に集結していた。
「集まったのはこれだけか」
「おい。あんさんが何者かは知らねえが、あの難解暗号を読みといて来る奴は少ないに決まってるだろ」
「そもそも私達宛にきたと、理解しなければ読もうとも思わないしね」
「で、何をする気なんだ? ある程度は予想しているが」
年齢性別はバラバラだが、フードが付いているのを選んでいるという一点において共通している。
「勿論、働いてお金を稼ぐのさ。ああ、なんて真面目なんだろうか、俺は」
収集を命じたアランは両手を広げてオーバーなリアクションをとった。
「働いて」
「金を稼ぐ、ね」
「つまり、人を殺すという仕事をして、死体から金を稼ぐってことだろ」
「That's Right. まさにその通り! 他陣営が思い付きつつも、実行に移すことに躊躇している間に、俺達が一気にかっ攫うってわけだ」
「おいおい、それは犯罪だぜ?」
「君こそ、何を言っている? 薄々勘づいてはいるのだろう?」
「ナナウトツィン陣営は全員犯罪者って事かしら? しかも死刑寸前や無期懲役ばっかり」
「まあ、ナナウトツィンが直接交渉しに来たものな」
「あの時は驚いたわよ。牢屋の中にいつの間にか人が入ってるのですもの」
「だからこそ、牢屋から救ってくれたナナウトツィンに恩を返さないとな」
「ええ、悪事を働かないなんて下策中の下策だわ」
「だったら、やる事は一つだよな」
全員の顔は歓喜に満ち溢れていた。
道徳という名の枷によって制限されていた果てしない欲望をここでは解き放てるのだから。
「さてさて、やる気に満ちている諸君にこのアランが発散場所を教えてやろう。場所は、城下町ヘケロンだ。今夜襲撃をかけるぞ。ただ、転生者は避けろ。やり合うだけ時間の無駄だ。戦闘狂なら止めねえが」
「「「了解」」」
その瞬間、アランを残し、全員が姿を消した。
一人残ったアランは、先程の明るい姿とはかけ離れた、酷く冷たい目をしていた。
「利用して使い捨てたいところだが、やはりここに来た奴は優秀だな。使いやすいが操りにくいことこの上ない。そもそも了解と言われている時点で、俺は下に見られているのか」
了解という言葉は本来、上の者が下の者に許可する場合に使われる。
だからリーダーを気取っているアランにとって了解という言葉を言われるわけには行かないのだ。
だが、平然と全員に故意に言われたアランは歯噛みする。
「糞が。だが、まあいい。あいつらは信用出来る。後に幹部にでも据えてみるか。残りの奴らは捨て駒だ」
何もない空中に地図が浮かび上がり、そこには赤い点で表示されているナナウトツィン陣営の者が表示されていた。
「ほう。結構便利なところにいるな。これならあれをやれそうだ」
アランはニヤリと嗤い、人通りが激しい大通りへと紛れていった。
【現在の悩み 】
・部活の費用は部費。ならば、ギルドの費用はギルド費でいいのだろうか。
・転生者のチート感が出ていない。チートな能力の案、募集中。
・主人公の感情を表すのが単調になっている。
・会話文が多くなりがち。
・ブクマ数が気にならない人物に僕はなりたい。
・風景描写ムズい。
・更新速度が遅い気がする。
以上。
愚痴と本文を読んでくださりありがとうございました。