毒巫女19
「落とし穴の底に道が繋がってるっす! ただ、そこからは阻害されていて、見えないっす」
「敵からの阻害か、元々設定されていたものかははっきりとしないが、阻害するからには、重要な何かがあるのだろう」
「萌奈もいきたーい!」
落とし穴の底にある道、イルサーンの忠告、あからさまな阻害。
これだけ怪しいものが揃っていたら、ネズ先輩の言う通り、何かしらの秘密があるに違いない。
だが、どうやって落とし穴の底にたどり着けばいいのだろうか。
「じゃあ、お先に失礼するっす」
「あっ、萌奈も」
俺の考えを一蹴するかのように、堂々と穴に飛び込む二人。
落とし穴を覗き込むと二人は浮いていた。
萌奈は天使のごとき翼を生やして、フワさんは空中で静止している。
恐らくスキルであろうが、俺には絶対真似出来ない。
だから、まだ飛び降りていないネズ先輩の降り方を参考にしようと期待の目を向ける。
「ネズ先輩はどう降りるのですか?」
「普通に飛び降りればいい」
そうあっさりと告げたネズ先輩は、軽くジャンプして落ちていく。
そして数秒後、ズドンッ、と大きい音が響き渡った。
俺、身体強化のスキル一切持ってないから、これも真似出来ない。
「まさか本当に飛び降りるとは思いませんでした」
「……丈夫だよね、鼠男さん」
ちーちゃんとの会話が途切れる。
恐らくちーちゃんもあれこれと悩んでいたが、結局下に行き着く手段が見つからないらしい。
困り果てて、ちーちゃんと互いに顔を見合わせた時、突然、俺とちーちゃんの身体が突然浮かび上がった。
「うひゃっ」
「あわわわわ」
手足をバタバタさせて、なんとか地に触れようと足掻いてみるも、空中でくるくる回転することになるだけ。
抵抗虚しく、身体はゆったりと落とし穴の上に移動させられる。
「じょ、冗談ですよね?」
「……ミ、ミラちゃん」
互いに手を伸ばし、指先が触れ合った。
その瞬間、消える浮遊感。
「ひっ」
「きゃ」
俺達は落とし穴に身を投げ出された。
ちーちゃんと抱き合いながら、錐揉みするように落下。
落とし穴の壁が瞬く間に通り過ぎ、目の前に地面が急速に近づいてくる。
あ、もう駄目だと死を覚悟し、目を閉じた瞬間、ピタリと身体が止まった。
「空中浮遊は楽しかったっすか?」
フワさんに上から声をかけられる。
死んでない?
ゆっくりと目を開くと、地面とスレスレの位置で浮いていることが分かった。
「ふぅー」
「あ、うぅ」
もう少しでゲーム開始早々死ぬところだった。
恐怖で心臓がすくみ上がったよ、本当に。
ちーちゃんもカタカタと身体を震わせているし。
「フワさん、酷すぎます」
「……ミカンさん、嫌い、です」
何らかの術が解かれ、尻もちを着いた俺達は直ぐにフワさんを非難する。
その際、ちーちゃんは涙目で上目遣いになっていたので、再びフワさんのハートを撃ち抜いてしまったらしい。
周囲を警戒しているネズ先輩もこちらをチラリと見て頬を赤く染めていた。
男にそういう反応されても嬉しくない。
それに、ちーちゃんをそういう対象で見るなら、ネズ先輩は俺の敵だ。
まあ、軽く睨みつけると、目を逸らしてくれたので敵認定しないことにした。
それはそうと、俺達にジト目で見られたフワさんは必死に手を合わせ、謝ってくる。
「千愛ちゃん、ごめんっす。ミラっちのお仕置きのつもりだったんすけど、ミラっちが千愛ちゃんに抱きついたから、お仕置きに巻き込むしかなかったんすよ」
「ミラちゃんのせいだったんだ……」
「うぐっ。ごめんなさい、ちーちゃん。許してください」
恨みがましい目つきになった、ちーちゃん。
一瞬、嫌われたらどうしようと不安になったが、ここで引いたら、ちーちゃんと一生友達のままになるかもしれない。
だから、あえて抱きつく。
「ミラちゃん?」
「精神ダメージを受けたので、精神回復にちーちゃん成分補給中です」
「う、うん」
よし。ちーちゃんはいきなりのことで戸惑って行動出来ないから、抱きついても拒否されない。
その上、女の子同士だからこそ、気軽に抱き合えるという事実。
性転換を選択した俺は先見の明があったのでは?
この世界において、女の子同士の結婚の道は果てしなく険しいものだとしても、俺は性転換したことに後悔はない。
それにしても柔らかい。
身体全体もそうだが、何よりとてつもない存在感を放っている山が凄い。
しかも匂いも好みだし、ずっと抱きついたまま独り占め出来たら、どれだけ嬉しいことか。
だが、現実はそう甘くない。
「萌奈も補給するー!」
唐突に、萌奈もちーちゃんに抱きついてきた。
独り占めタイムが終了し、俺のライバルがどん増える。
頬をすりすり、背中を頭でぐりぐりしてくる萌奈に、ちーちゃんはさらに困った表情を浮かべていた。
そこに、フワさんが揶揄う。
「千愛ちゃんは人気者っすねえ」
一体何を言っているのだろうか。
ちーちゃんが人気者なのは当たり前。
全人類が惚れるちーちゃんの心を俺一色に染めるのが、俺の野望なのだから。
全くこれだから、ちーちゃんアマチュアは。
「この緩んだ雰囲気をどうにか出来ないだろうか」
ちーちゃんに抱きついている俺と萌奈の姿を見ていたネズ先輩は、独り言をこぼし、溜息を吐いた。
いや、ネズ先輩。そんな無関心そうな態度しながらも、こっち向いて頬を赤く染めていたことを忘れていませんよ。
俺の非難めいた視線に、ネズ先輩はたじろぐ。
「ごほん。そろそろ進むとしよう。食料はミカンしかない故、早めにたどり着いた方がいい」
「そっすね。モタモタしている間に、他陣営に抜かされてもかなわないっすからね」
「ほら、ミラちゃんに萌奈ちゃん。そろそろ離れて、ね? いい子だから」
「「……は~い」」
聞き分けのない子をあやすような声音に、俺と萌奈は渋々離れ、ネズ先輩らに着いていく。
せっかくの心地よい温もりだったのに。
肩を落としていると、耳に微かな音が届いた。
タンっという音。
気になって振り返るもそこには誰もいない。
ただ、薄暗い通路が一本道あるだけ。
「……気のせいでしたか」
念の為、手に分泌させた毒を気化させて、後方の方に撒いておく。
「ミラちゃん?」
「なんでもないですよ」
わざわざ振り返ってくれたちーちゃんに、手を横に振り、なんでもないというジェスチャーをした。
そして進むこと数十分。
呆気なく、ゴールと書かれてある看板が見えた。
「やったー! ゴールだよっ!」
「拍子抜けっすね」
「初回だからかもしれんな」
目の前の装飾でゴテゴテにされた豪華な扉がゴール?
いやいや、そんな馬鹿な。
あの性格悪そうなイルサーンが説明してたんだぞ。
「フワさん、ゴールの手前に即失格の罠はありませんか?」
「特に反応しないっすけど」
フワさんが返答した刹那、一陣の風が俺の横を通り過ぎ、あっという間にゴールまでたどり着く。
あまりの速さに誰も追いつけない。
そいつはとうとうドアノブに手を掛け、こちらを向いて口角を吊り上げた。
残念でしたーって声が聞こえそうなほど憎たらしい笑み。
そして俺達の浮かべた悔しい表情を確認してから、ドアノブを回す。
「「え?」」
瞬間、そいつの姿が消滅し、ドアの正面に[再起動まで後十秒]という表示が。
今のがゴールの仕方?
普通にドアから入るんじゃないのか?
いや、罠の可能性も。
でもフワさんはないって言ってたしな。
など、次々と湧き上がってくる疑問は、ネズ先輩の一声で掻き消える。
「扉に向かって走れ!」
俺は展開についていけずに立ち尽くすちーちゃんの手を掴み、走り出す。
よく分からんが、とにかくあの表示のカウントがゼロになるまでにたどり着けばいいんだろう。
まずネズ先輩とフワさんが最初に辿り着き、ドアを開いて待ち構えてくれる。
次に、意外と俊足な萌奈がドアの中に飛び込む。
そして、強化系スキルを一切持っていない俺達は後五秒以内に走り抜けるか微妙なところ。
それが分かったのか、ネズ先輩が猛ダッシュでこちらに向かってきた。
「すまん」
そんな言葉と共にネズ先輩に、俺とちーちゃんは荷物のように方に抱えられ、再度猛ダッシュでドアの中に飛び込んだ。
そしてバタンッよりもドガンッという擬音語の方が正しい閉まり方をするドア。
なんとか間に合ったらしい。
ネズ先輩には感謝したいのだが、この格好どう考えても後ろの人にスカートの中丸見え。
ちーちゃんは村娘っぽい格好だからあまり気にしなくて良いんだろうけど、俺は本職の巫女さんに怒られそうなほど短い袴を履いている。
まあ、普通の長い袴なら走る時、袴を踏んで転ぶ可能性を考えると、一概に神を避難するわけにもいくまい。
でもそろそろ下ろしてくれないと、スカートの中を他人に見せて回ることになりそう。
この白い部屋には同陣営の転生者が次々と転移してきているのだから。
「ネズ先輩! 降ろしてあげたらどうっすか? ちょっと可哀想っすよ」
「お姉ちゃん、白なんだねー!」
「そんなに大声で叫ばないでください」
ラノベのヒロインっぽく騒いだり、引っぱたくつもりは無いが、一応羞恥心という感情はある。
あー、なんか顔が熱い。
「す、すまん」
恐らく萌奈の言葉が理解出来たのだろう。
俺達を降ろした後、頬をぽりぽり掻きながら、目を逸らす。
「いえ、助けていただきありがとうございます」
わざわざ進んだ道を戻ってきてもらったんだから、流石に人として礼は言う。
「それにしてもイメージ通りっすね」
また俺を弄れる話題に食いついてきたフワさん。
ニマニマしていて、とっても嬉しそうだ。
こっちは逆に顔を引き攣らせているのに。
「いやー、ホントに中身まで清楚っすね。あたしはてっきり黒だと思ってたっす」
「……だって白しかないですし」
ボソッと聴こえないように呟いたつもりだったのだが、脅威の地獄耳でフワさんに言葉を拾われた。
「へぇー、そうなんすか。いいこと聞いちゃったっす」
「勘弁してください」
「まあ、心配せずとも、この後の風呂でじっくりねっとり隅々まで可愛がってあげるっすよ」
フワさんに言葉が通じない。
横でキョロキョロしているちーちゃんに、アイコンタクトで救援を求めたが、すっと目を逸らされてしまった。
「……ちーちゃんに見捨てられました」
「お姉ちゃん、そんなに落ち込まないでよ! この萌菜に任せなさーい!」
とんっと胸を叩き、頼もしいアピールをする萌奈。
気持ちは嬉しいが、そもそも原因作ったのお前だろ、と突っ込みたい。
幼女に怒りをぶつけるほど落ちぶれてはいないので、そんなことはしないが。
「萌奈ちゃんが出てきたから、一旦やめてあげるっす。それより、ミラっちはステータス見たっすか? 三位の報酬が追加されているっすよ」
三位は確かSUP800だったか?
★★★
名前:ミラ=ジョーカー
性別:女
種族:人間
等級:97
(陣営:遊戯神イルサーン)
寿命:17/374
固有スキル:(『毒分泌器官Lv.9』)
特殊スキル:『陣営鑑定(固定)』(『猛毒精製Lv.6』)『毒吸収Lv.1』
希少スキル:『テリトリー視覚化Lv.2』『毒制御Lv.9』『猛毒耐性Lv.6』
一般スキル:『逃げ足Lv.2』『毒耐性付与Lv.3』
SUP:997
★★★
等級が上がったのは転生者を倒したから。
転生者を殺す毎に、等級10は絶対上がる。
等級1だろうが、等級100だろうが関係なく。
そしてSUPは、等級上がり、参加報酬、三位報酬合わせて905増えた。
うーん。どのスキルのレベルを上げるか。
★★★
『毒分泌器官Lv.9』→『毒分泌器官Lv.MAX』
SUP512を消費しました。
『毒分泌器官Lv.MAX』→『猛毒分泌器官Lv.1』
進化しました。条件スキルを解放します。
『毒味覚』が派生しました。
条件スキルが解放されたため、『限界突破』を取得します。
『猛毒分泌器官Lv.1』→『猛毒分泌器官Lv.7』
SUP126を消費しました。
『逃げ足Lv.2』→『逃げ足Lv.8』
SUP254を消費しました。
次のレベルまで後SUP256が必要です。
★★★
★★★
名前:ミラ=ジョーカー
性別:女
種族:人間
等級:97
(陣営:遊戯神イルサーン)
寿命:17/374
条件スキル:『限界突破』(『猛毒分泌器官Lv.7』)
固有スキル:なし
特殊スキル:『陣営鑑定(固定)』『毒味覚』(『猛毒精製Lv.6』)『毒吸収Lv.1』
希少スキル:『テリトリー視覚化Lv.2』『毒制御Lv.9』『猛毒耐性Lv.6』
一般スキル:『逃げ足Lv.8』『毒耐性付与Lv.3』
SUP:105
★★★
散財するようにSUP放出しまくったら、一気にスキルがきた。
とりあえず、主人公っぽい『限界突破』のスキル。
これは当たりだと思ったのだが、『限界突破』を取得した際に入ってきた情報によれば、唯の目印らしい。
一時的に能力が何倍にも上がるようなものではない。
それがとても残念だった。
次いでに条件スキルは一切何も分からない。
後から徐々に解明していくはずだから、今は空中に視線を固定し可愛らしく唸っているちーちゃんの姿を堪能しておくことにした。
再度投稿遅くなってすみません。
今回の言い訳
前の投稿をした後。
隙間時間に小説書いていくぞー!
⬇
隙間時間
課題やらなきゃ。
⬇
課題終了後
やべぇ、ゲーム、今日のログインまだしてねぇ。
⬇
一日終了
⬇
通学時間
今度こそ小説を。
だが、ピンとくるアイデアが思い浮かばない。
⬇
ネタ探しに、なろうでも読むか。
⬇
大体こんな感じをループ。そして前の投稿から5日くらい経ってしまった。
一話を四日で書けないので、今度から不定期更新にします。
出来るだけ早く書き上げるつもりではいますよ?
では、読んでくださりありがとうございました。