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毒巫女1

 ――『毒』『製作方法』

これをパソコンに入力して検索、っと。

出てきたリンクをクリックして内容を確認する。

『法律上、毒の作成は犯罪です』

……まあ、そうだよな。俺のように変なこと考える奴がいるんだから、国として禁止するのは当たり前だ。

何故そんなことを調べたかのかというと、ただ単に勉強が嫌になって勉強というものを作り出した人物を過去にタイムスリップして毒殺しようという、勉強からの逃避のためのくだらない妄想のついで。

頭の中では異世界まで繰り広げられていた。

 まあ、多少の気分転換にはなったので、渋々勉強をやり始めるために、雑念を脳内から出すように頭を振り、目の前のノートに思考を戻す。


「ちっ。間違えてるし、ここもかよ」

 赤でバツとマルが程よいぐらいに付いているノートを見て、まだ重要な部分を覚えられていない自分に腹が立ち舌打ちする。

 机の横の壁に掛けてある時計の短針が十一を指してるのを一瞥し、やはり見に入らなかったため、休憩してから差ほど経ってないが、また気分転換に外出することにした。


 まだ朝であるのに太陽がさんさんと輝いているお陰で熱いアスファルトの上を、気分転換になるか! と余計にイライラしながら、俺はジュースを買いに重い足取りで歩いていた。

 所々、道中の横の壁に貼ってある広告をなんとなしに眺めていたら、一つ奇妙でアホくさい勧誘広告が貼り出されていることに気づいた。


「『異世界に行きたい人はこの紙に触れてください』……?」

 白い紙に黒い文字で書かれたそれは周りに貼ってある広告と比べて随分と地味である。

 その上何のために張り出したのかもよくわからない。

 いつもなら俺はこのまま通り過ぎ、忘れて勉強に(いそ)しんでいただろうが、生憎今は休憩中で、先程異世界に関する思考していたばかりだった。

 だから精々、何も起こらなかったら友達の話のネタにしてやろうという軽い気待ちでその紙にそっと触れた。

 その瞬間、意識が闇に沈んだ。




 ※※※




 意識が急上昇し、薄ら眼のまま周りを見渡す。

 一面、白に侵食された壁や椅子、机などが無造作に置かれている。

 低血圧の俺は、まだぼんやりとしていて状況が分からないので、目が覚めるまでじっとしている事にした。

 しばらく経つと、ここが異常な空間であることは理解できたが、自分に出来ることは何も無いので結局ボーッとしているだけに留まる。

 そして幾分経たないうちに、突然空間に穴が空き、性格が破綻してそうな中性的な子供がその中から出てきた。


「あー、いたいた。おーい、ヤッホー。生きてるぅ? いや、死んでるか。ねえねえ、聞いてる聞いてる?」

 男か女か見る人によっては左右されそうな造形だったが、それよりも耳障りな音に俺は苛立った。

 この異常な子供が発する声が不協和音にしか聞こえなく非常に不愉快だ。


「あれれー? こっちに引っ張った時に魂引き裂かれちゃった? まあ、そんな失敗もあるよね。ドンマイドンマイ」

 俺の顔をのぞき込みながら、多重人格らしき子供はケタケタと笑う。

 そんな奴に俺は何のひねりもない当たり前な質問をする。


「お前は誰だ?」

「おーお、喋ったよ。ということは成功! でもこんな普遍的でつまらない質問されてもお兄さん困っちゃうなあー。でも心優しい僕は答えちゃうのサッ! 聞いて驚け見て笑え、僕の名は遊戯神イルサーン!」

 そのイルサーンとやらはこちらに指をビシッと突き出し、偉そうにふんぞり返っている。


「あっそう」

「あれ? 反応薄いよ君っ!」

 硝子のような瞳に狂気が見え隠れしている子供とまともな相手をしたくない。

 必然的に無関係でいたいと思っても仕方がないだろう。

 すでに早くこの空間から出ていきたいという気持ちが増してきている状態だ。

 そんな俺の気分を欠片も考えていないであろうイルサーンのお喋りはどんどん進む。


「まあ、君の意見なんてどうでもいいけどね! 今ね、ある世界で神たちがゲームをしてるの。適当に広告に触れた人間を殺して魂だけ引っこ抜いて、ここに連れてきたんだァ。こっちに持ってきた人間を異世界アリスタを舞台としたゲームに参加させることにしてるのサッ!

 一人の神が用意出来る人数は百人。それ以上は失格と見なされ神格を失う。それになんと一人の人間につき十個スキルを与えられるんだ! だけど百人合わせて譲渡出来るスキルは九百個。

 そして、君が僕の陣営の最後の一人! でもごめんねーぇ。君のお仲間の九十九人の大半が欲張りでね、今スキルが六個しかないんだァ。いや、六個あるだけでも感謝すべきなのかも!?」

 怒涛の展開の速さに脳が追いつかない。

 そして一気に説明されても覚えきれない。


「ストップ、ストップ。ゲームの勝負のつけ方とかスキルとかわからないことが多すぎる! それに俺を殺したのお前かよっ!」

「ん? なにか悪かった? どうせ人間なんて掃いて捨てるほどいるんだからそのうちの一人や二人や百人殺しても問題ないよねっ!」

 俺の人生を歪めたこいつは、なんの罪もありませーんとでも言うように全く罪の意識がない。

 俺を殺しておいてよくそんな言葉が吐けるなっと怒りが沸沸と湧き上がってきたが、それを即座に理性で押さえ込み何とか表面上は冷静に保つ。

 内面は噴火寸前の火山のようになっているが。


「俺を殺したのはお前ということは分かった。で、俺をここに呼び出したのはそのお前達、神のゲームの駒として働けってことでいいのか?」

「ヒャッハー! 君は理解が早くて助かるよっ! 他の子らは喚いたり僕に八つ当たりしてきたり泣き叫んだりしてたのに君は冷静だねぇ。ああ、なんと勿体ないことをしてしまったんだ! 今更僕が君を気に入ったところでどうしようにもないのに!

 そうそう、一人前(ひとりまえ)の少女に君は感謝するべきだね。スキルが六個も残っているのはその子のおかげだから。なんとその子、スキルを二つだけとって異世界にいってしまったんだよ。多分もう死んじゃってると思うけどさっ。

 だって十六歳の普通の人間がスキル二つで生き抜けるところじゃないしぃー。まあ、戦わずに街にこもっていてもいいけど、それじゃあ一年後には絶対消されるし」

 大げさに身振り手振りするイルサーンがうざくてしょうがない。

 一聞いたら十ぐらい喋る上に、質問に全く答えてくれないというおまけ付き。

 こいつ会話成立させる気ないな。


「お前、もうちょっとまともに話せないのか」

「……しょうがない。普通に話すとしよう。どうやら君たち人間はこの言葉の美しさが理解できないようだしね。

 それで、君が神の駒かという質問だったね。それは是とも言えるし否とも言える。まあ、ぶっちゃけ言うと君次第だ。神の言うことを聞く必要も無いし、僕達は向こうの世界に個人的に声を届かせることは出来ない。だから向こうで好き勝手に生きても構わないけど、幾つか制限を設けられてるんだ」

 意外なことに俺の話を聞いてくれたことに驚愕すると同時に、狂った演技をしていた理由が謎で、疑問が積み重なって気持ち悪いが、今は大人しくゲームのルールを聞くとしよう。

 これを聞き逃すとこの先、生き残れない気がする。

 だから疑問に思う言葉あれば即座に聞き返す。


「制限?」

「割と数あるんだけど、人間に対して、基本的にはこの八つ。

 一つ、人間一人につき与えられるのは記憶保持・常識・スキル十個・SUP1000・『陣営鑑定』・スキルが付与されたアイテム一つ・ある程度の容姿の希望・金貨五枚・奴隷の首輪・奴隷契約書五枚、服はこっちが適当に見繕う。

 二つ、僕の陣営が勝利したら、僕陣営の人間には異世界アムリタの永住権が与えられ、願い事を叶えることができる。ただし、負ければ故郷に還すことなく即消滅。

 三つ、自殺はできない。

 四つ、ゲーム開始時までに死んだ場合、開始時刻と同時に復活する。またゲーム開始時から一年間誰も殺していない場合、即座に消滅する。

 五つ、半月に一回、陣営順位を確認することが出来る。

 六つ、一ヶ月後に一度、下位五位以内の陣営の人間は消滅する。

 七つ、同じ陣営を危害を加えることは出来ない。

 八つ、敵を負かした場合、その者を殺害もしくは奴隷にすることが可。ただし、奴隷にする場合は敵陣営の主神と敵の名を言い、奴隷契約書に、その奴隷にする人間の血判をするものとする。

 これさえ守ってくれれば問題ないよ」

 一気に多くの制約を言われて一つ一つ頭に入るほど、俺の記憶力は良くない。

 疑問に思うことも沢山あるが、取り敢えず貰えるものは貰っておこう。


「……一つ目の制限を実行してくれ」

「じゃあ常識から。頭痛くなるけどそれは幻痛だから我慢してね」

「はっ? どういうこ――――う、くっ!」

 頭の中で鉄球がゴロゴロ転がって脳味噌をすり潰しているような激痛が発生した。

 それに並行して、このゲームの規則、ステータスに関すること、異世界の情景、種族、魔法、言語、貨幣などが記憶に埋め込まれていく。

 しばらくあまりの痛みに頭を抱えながら、のたうち回る。

 そのお陰で皮肉なことに、初めて自分が寝転がった状況にあったのだと理解した。

 ようやく鉄球がビー玉ぐらいになった頃、多少の殺気を込めてイルサーンを睨みつける。


「おいお前、俺に恨みでもあるのか?」

「いやいやいや、むしろ君は僕のチームなんだから歓迎しているんだよ。常識を直接脳に叩き込むのはどうしたって痛みが伴っているように感じてしまうのさ」

「ショック死するような奴いなかったのか? それぐらい強力な痛みだった気がするが」

「ショック死する以前にここに来た人全員死んでるから。本物の脳でもないから後遺症が残るわけでもないしね」

 イルサーンに頭が残念な目で見られるのは物凄い屈辱だが、異世界に降りた後散々恨み言を吐けばいい。

 これが夢だとしても同じようにすればいいだけだ。


「で、次はスキルだね。本来これは大量にある中から十個選んでもらう予定だったけど、さっきも言った通り六個しかないから全部入れとくよ」

「その六個ってなんだ?」

「いちいち教えるの面倒臭いから《ステータス》って言ってごらん。スキルアップポイントも千ポイント振り込まれてるから」

 まるでゲームみたいだなと思いながら、苦笑混じりにステータスと唱える。


 ★★★

 名前:無し

 性別:不明

 種族:魂

 等級(レベル):1

 陣営:遊戯神イルサーン

 寿命:不明

 固有スキル:無し

 特殊スキル:『アフロ化Lv.1』『煙草召喚Lv.1』『陣営鑑定(固定)』

 希少スキル:『絶倫Lv.1』『テリトリー視覚化Lv.1』

 一般スキル:『毒生成Lv.1』『逃げ足Lv.1』

 S(スキル)U(アップ)P(ポイント):1000

 ★★★


「ネタか?」

 いきなり宙に浮いた半透明板状の何かに表示されていることに対して非科学的だと思ったが、それよりもスキルのあまりの酷さにもはや笑うしかない。

 名前、性別、種族、寿命は魂だからということで納得できるし、陣営も不満はあるが理解はできる。

 ただスキルだけは無理だ。

 余り物には福があるというが、これを見てどこに福があるというんだ。

 しかも上から順に価値が下がっていくのだろうけど、一番下の一般スキルが一番役立ちそうな気がするのは気のせいか?


「おい、流石に色々なっとくできないんだが。特に特殊スキルが酷すぎる」

「そうかなあ。『アフロ化』は種族の壁を越えてアフロになれるんだから貴重だし、いくらでも創造して召喚できる高級煙草をたくさん吸える『煙草召喚』も妥当だと思うし、『陣営鑑定』だって敵味方の判別ができるようになるから便利だと思うけど?」

「……そうか。なんで鑑定を陣営だけに限定したんだよ。敵味方の区別の仕方がマジで最低限じゃないか。そもそも『絶倫』だっていらん。戦闘に役立ちそうにない」

「うーん。ベット上の戦闘には物凄い役立つと思うけど」

「……あっそう」

 イルサーンを思いっきり馬鹿にしつつ、異世界で生きていくには厳しい現状に、これが夢であることを願いながら、どう生き残るか思考する隅々まで考えを巡らす。

 やはり一番役に立つのは『毒生成』か。

先程ネットで調べていたから罰が当たった、もしくは『毒』との奇妙な縁でもあるかのどっちだろうか。

 まあ、すでに自分のスキルなのでどんな能力かはだいたい分かる。

 しかしレベル1だから敵を倒す威力には至らない。

 異世界で生きていくにはレベルを上げるのが必要な以上、モンスターを倒すのが必須条件となりうるはずなのに、クズスキルが半分もある。

 このクズスキルどうにかならないだろうか?


「要らないスキルをS(スキル)U(アップ)P(ポイント)に変換することは可能か?」

「うーん、そうだね。ルール上、変換するんだったら、固有スキル二百ポイント・特殊スキル百五十ポイント・希少スキル百ポイント・一般スキル五十ポイントだね」

 虚空を見ながら考える素振りを見せて、結論を出したイルサーンは多少頼りなかったが、初めて本物の神のように思えた。

 SUP化が可能なら全く使えなさそうなこれらのスキルも有効活用できる。

 希望が見えてきた。


「『アフロ化』『煙草召喚』『絶倫』の三つをSUP化してくれ」

「はいはーい。ちちんぷいぷいのぷい!」

 イルサーンは指を指揮官のように動かしながら、妙に気の抜ける呪文?を唱えているので俺は思わず変な失敗をしないか心配になる。


「……その奇妙な動きは? 本当に出来てるんだろうな?」

「ステータスで確認したらいいでしょ?」

「……《ステータス》」


 ★★★

 名前:無し

 性別:不明

 種族:魂

 等級(レベル):1

 陣営:遊戯神イルサーン

 寿命:不明

 固有スキル:無し

 特殊スキル:『陣営鑑定(固定)』

 希少スキル:『テリトリー視覚化Lv.1』

 一般スキル:『毒生成Lv.1』『逃げ足Lv.1』

 S(スキル)U(アップ)P(ポイント):1400

 ★★★


「しっかり四百増えてるな。イルサーン、疑って悪かった」

「へっ? まさか君が謝るとは思いもよらなかったよ」

 イルサーンはぎょっとしたような顔でこちらを覗き見ている。

 まあ謝る気などこれっぽっちも無かったが、重要なところでイルサーンの機嫌が損ねしまったら、俺の恐らくあるであろう二回目の人生に多大な影響が出るからここで適当に敬って置いた方がいい。

 口先だけなら安いものだ、ということで実行して見たのだが、驚きすぎやしないだろうか。

 まあ、いい。次だ、次。


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