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毒巫女14

 ミラ=ジョーカーが巨狼を倒した頃、神界では、未だに始まらない遊戯に退屈になり、怠惰が蔓延していた。


「ああ、長ぇー。ちょーなげぇ。誰だよ、最後の一人をアリスタに送ってから一ヶ月後に開始させるって言った奴」

「そんなん覚えてねえって。全知全能でも使えば?」

「この空間で使ってみろよ。即失格だがな」

「後、何日ぐらいなわけ?」

「十日じゃね?」

 大半の神々がシンプルな椅子を漕ぎながら、いがみ合わないように自身の(およ)ぶ実権の話題を避け、生産性のない会話をし続ける。

 その中で思案顔になっているイルサーンに気づいたショチケツァルが話しかける。


「おい、イルサーンどうした?」

「いや、後、十日で遊戯が始まるでしょ。その初っ端の遊戯内容を考えてるんだよ。最初から鬼畜設定するよりは最初の方を簡単にして次回から鬼設定でいこうかなと思ってるんだ」

「別にお前にその権限があるわけじゃないだろ?」

「でも発言権はあるから。それに僕、遊戯の神だし」

「確かにそうだったな。それで決まりそうか?」

「巨大迷路にしようかと思ってるけど、制限時間とか罠とか規模とかどうしようかと思って」

「ほう。だが、どんな内容でも妾の陣営が勝つぞ」

 ショチケツァルは豊富な胸の下で腕を組み、挑発的な笑みを浮かべる。

 それを見たイルサーンも凄みを帯びる。


「ふうん。こっちだって『遊戯の神』として負けられないね」

「楽しい遊戯を期待してるぞ」

「当然」

 そう自慢げに答えたイルサーンは思いつき、手を挙げて、その場で発言するのだった。



 ※※※




 無残に破壊された家の瓦礫や木材に、残火(ざんか)がパチパチと燃えながら、徐々に沈静化していく中。

 俺とベトは巨狼の死骸を見つめていた。


「これ結構売れると思うんだが?」

「売れるとして、どうやって運ぶのです?」

「ミラが持っているその鞄に入るんじゃねえのか?」

「あー、ショルダーポーチの事ですね。確かに見た目よりは大量に入れることが出来ますが、それでも精々倉庫程度で巨狼の死骸を収容できる広さは無いです」

「折角、高く売れそうだったのによ」

「そもそも私達、解体用のナイフどころか切るもの一切持っていないですから、売れる部位だけ持って帰ることも出来ませんし」

「俺、魔法で切ることならできるぜ」

「……出来るんですか? あの硬そうな毛皮相手に。しかもどこが売れる部位なのか、どこに売るのか全然知らないのに? 今回は諦めて、次の機会が来ることを期待しましょう」

「……だな」

 泣く泣く高価になりそうな巨狼の死骸を放置することを決定し、俺達はこの村を去ることにする。

 割と世話になったトムさんには恩返しがしたかったのだが、ベトによる探知魔法(便利だな、こいつ)でサーチしたところ、生存者はゼロらしいので、村を出る際に深々とお辞儀をしておいた。


「ベト」

「何だ?」

「街って何処にあるか知ってます?」

「少なくとも半径十キロ圏内に人はいないぞ。魔物は結構いるが」

「魔物の少ない方に行きましょう。街もその方向にあると信じたいです」

「じゃあ、こっちだな」

 俺の髪の毛を進行方向に向けて道案内するベト。

 俺は操縦される機械ではないんだが。




 ※※※




 八日後。

 木々が太陽の光を遮るように生い茂っており、湿度が高く、多様な虫や魔物が蔓延っている森林の真っ只中で遭難していた。


「じめじめしますね〜。魔物の少ない方に行くと初日に誰かが言ったような気がするんですが、あちらこちらにいるような気がします」

「ああ、確かに魔物が少ない方向に案内したのは俺だ。だからその方向に進んだじゃねえか。ただ、一番少ない所がここってだけで」

「ということはあの村は四方八方魔物がいる場所に存在していたのですか?」

「実際、今までよく廃村にならなかったと言えるぐらいにはな」

「実はこの世界の人間の生き残りはあの村だけだったというオチはないですよね?」

「師匠がいるからには杞憂だと思うがな」

「……その人が転生者では無いことを祈ります」

 殺虫剤代わりに毒を身に(したた)らせ、虫を遠ざけていなかったら、とっくの昔に発狂していたであろうこの森で、ネガティブな思考に陥るのはやむを得ないことであると思っておこう。


「いつになれば街にたどり着くのでしょうか?」

「真っ直ぐ進んでいれば、いつか森は出られるはずだ」

「森の中で真っ直ぐ歩けますか?」

「俺の探知魔法を舐めるなよ? 多数の敵の位置と俺達の位置を比較しながら、歩いてるから問題ない」

 ベトは地面に生えている草や落ち葉や、その下に潜んでいる虫などをプルプルボディで消化しながら進んでいる。

 虫を消化するベトには正直嫌悪感を抱く。

 しかもベトの食事を終えたらまた頭に乗ってくるだろうし。

 まあ、俺の頭に乗る時は、プルプルボディに付着した泥や木の枝や、ゴミを綺麗に消化しているので、俺の気持ちの問題ではある。

 ベトに時々、水魔法で水分補給をさせてもらいながら、魔物を倒し、枝や葉を掻き分けて歩むこと約五時間。


「そろそろ休みません?」

「ああ、また睡眠か。人間は不便だな」

「ベトは見張りとして便利ですね」

 俺は木の葉を大量に適当にプチッと取る。

 そして、ベトに『毒耐性付与』を施し、自身を中心に半径五メートルほどに毒をばら撒いた。

 すると、瞬く間に木々は枯れ果て、毒は死骸となって溶けだし、魔物は危険を感じ取って寄ってこなくなる。

 そこに集めた木の葉を毒で微生物などを排除し、剥き出しとなった地面に木の葉を敷く。

 これで簡易布団の完成だ。

 後はショルダーポーチを枕替わりにして寝るだけ。


「ゆっくり休め。人間は疲労が溜まるのが早いからな」

「そうさせてもらいます。おやすみなさい」

 葉々を敷いても、硬い地面に背中が当たり寝にくかったにも関わらず、森林を横断している疲労は半端なかったようで、暫くしたら意識が落ちていた。




 ※※※




 ミラ=ジョーカーが夢に旅立っている真夜中の零時ジャスト。

 人類は寝静まり、幽霊族の魔物が活発化し始めた頃。

 全ての転生者の視界の真ん中、突如スクリーンが浮かび上がる。

 そこには、<神々の遊戯開始まで、後二十四時間>とカウントダウンが表示されていた。



 ※※※



 ある場所の屋敷の寝室で。


「ラウルさん、起きてください! カウントダウンが始まりました!」

「は、は? ああ、分かった! すぐに屋敷中の奴らを集めろ!」

「了解しました!」

 若い男が大柄な男を起こし、事態を告げると、事態を把握した、頬に傷を負っている男は若い男に命令を下した。

 頭を下げた若い男は逃げるように寝室を出ていく。


「くははははははっ。ようやくか! 八年も待ったのだ! 精々楽しませてくれよ、愚かな神々よ」

 頬に傷を負っている男は獰猛な笑みを浮かべながら、寝室を後にした。



 ※※※



 ある冒険者ギルドの宿泊施設では。


「とうとうカウントダウン始まっちゃったよ。まだ仲間も人脈も力も金も揃えきれていないってのに」

 頭を抱えながら、転生者である『黒』の冒険者は焦る。

『白』『黄』『赤』『紅』『青』『蒼』『銀』『金』『黒』のランクの順で強い冒険者において、この『黒』冒険者は紛れもない世界トップクラス。

 にもかかわらず、焦っているのは、あくまで現地人においての強さの基準であり、転生者の大半は間違いなく『黒』を簡単に狙える力を有しているからである。


「同陣営の人も二十人程度しか見つかってないし。冒険者の仲間は多いけど、転生者相手には力不足過ぎる。ああぁ、不安だぁ」

 愛刀を磨き、そこに映る自身の不安気な表情を見て、『黒』の冒険者は神々の遊戯に暗雲が立ち込めているのを予感するのであった。



 ※※※




 ある倉庫の中で。

 一人の男が集中して『創造』スキルを使用していた。

『創造』スキルは、ある程度の材料と原理さえ分かっていれば、簡単に想像した物体が創造されるスキルだ。


「材料はポリカ板、コンデンサー、MOT、スライダック、原理は電磁誘導だったはず」

 こんな曖昧な知識さえ、実物大を想像できれば、上手いことレールガンが創造される。


「おおー、なんか凄いなこれ。どのぐらいの威力出んだ?」

『創造』スキルを所持する男は手に持ったレールガンを適当にぶっぱなした瞬間。

 倉庫の壁をぶち破り、炎上する。

 倉庫の隣に位置していた家は尽く破壊され、無残な状態になっていた。


「やべ。人死んだかな? そろそろ衛兵来そうだし、逃げとくか」

 レールガンの破壊力のせいで若干被害を受けた男は、レールガンや、他にも創造した物をバッグに詰め込み、倉庫から逃走する。

 その直後に駆け込んだ衛兵は破壊された倉庫と家を見て絶句するのであった。


「それにしても、威力はイマイチだし、速度も微妙だな。確か初速度九千キロ程度だったはずだからなあ。この程度、転生者なら余裕で避けるだろ。やっぱあれだな。絶対必中で、絶大な威力を発揮する対世界破壊兵器を創るしかないよな。でも前の世界で材料は一部しか公表されてなかったから試行錯誤が必要か」

 地球よりも科学文明が先進していた世界からやってきた男は、邪魔されない場所を探しながら思考を巡らせるのだった。




 ※※※




 ある森の中で。


「後、一日しかないだと!? 早くスキルレベル挙げねえと。おい、ミカンふわしゃー。魔物の殲滅速度もう一段階上げていくぞ。……お前の名前言いにくいな」

「了解っす。名前に関しては、そっちの鼠男(ねずお)ってのもどうかと思うっす。鼠の要素全くないじゃないですか」

 鼠のイメージとは真逆の大柄で堂々としてチーズ嫌いな男である鼠男と、ポニーテールをしている所だけ緑でそれ以外オレンジ色の髪をしている女であるミカンふわしゃーは会話を交わしながらも、身体の一挙一動は全て魔物を殺すことに集中していた。


「あっ、ネズ先輩。あたし、そろそろ眠いっす。帰っていいっすか?」

「ああ、もうそんな時間か。じゃあ引き返すか」

「いや、待って。『探知』に人が引っかかったっす」

「こんな所に人だと? こんな真夜中に森にいるとか非常識だろ」

「先輩、人のこと言えないっすよ」

「で、どうする? 接触するか?」

「無視っすか。まあいいですよ。それよりもあたしは会ってみたいっす」

「ミカン(エックス)出しとけよ?」

「もちろんっす」

 熊型の魔物を蹴り飛ばした鼠男と、双剣で猿型の魔物を切り裂き、『蜜柑(みかん)召喚』で(てのひら)からミカンXを召喚したミカンふわしゃーは、『探知』に引っかかった人物の場所を目指して、慎重に近づいていく。


「転生者の可能性は?」

「高いっすね。現地人は夜中にこんな森に入ろうとはしないっすから」

「確かにな。親切な門番に物凄く忠告されたし。あの門番には悪いことしちまった」

「帰ったら奢ってあげることにするっす。――っ!」

 突如、ミカンふわしゃーは顔色を悪くする。


「何があった!?」

「探知同士で相殺したっす。向こうにバレてます!」

「クソっ。こうなりゃ、挟み撃ちだ。お前は左にいけ。俺は右に行く」

「了解っす」

「3、2、1、GO!」

 合図と同時に、鼠男とミカンふわしゃーは二手に分かれ、一方は斧で邪魔な木を蹴り倒しながら、もう一方は木々の枝に飛び移りながら猛スピードで、不確定人物に迫る。


「見えたっす」

「こいつかっ!」

 そして二人はその不確定人物に斧と双剣を突きつけた。


「寝てるな」

「寝てますね」

 その人物の無防備な寝顔に二人は脱力した瞬間、真横から触手を突きつけられた。


「おい、ミラに何の用だ」

 それは紛れもなく、プルプルボディを持ったスライムだった。

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