6話 二人の再会
しずくさんをいろはちゃんに会わせる日がやってきて
俺はバイト先の近くでしずくさんと待ち合わせする。
予定よりはやく来てしまったのでしばらく待つこととなった。
「こんにちは。もう来てたんですね。だいぶ待ってました?」
「うん。少し早くついちゃって」
そしてようやくして大人っぽい黒い服にスカートという格好で
現れたしずくさんは俺の言葉を聞くなり小さなため息をつく。
「こういう時は嘘でも今来たところ~というんですよ?」
「そ、そうなのか」
「モテる秘訣です」
なんだか俺が非モテだとわかられてるようでびくびくしてしまう。
まぁ外見的にわかってしまうのだろうか。
「しずくさんはもてそうだよね」
「男性にはそれほど興味がありません」
軽い気持ちで聞いたらきっぱりとそんな一言が帰ってきてしまった。
「嫌いってこと?」
「どうでしょうねぇ」
否定はしないんだ・・・。
それから俺としずくさんはしばらく無言で歩き続けたが
間もなく駅へと着くころにしずくさんが尋ねる。
「チルさんとはどこで知り合ったんですか?」
「えーと偶然行ったゲームセンターだよ」
「ゲームセンターですか」
あんまり会話が続かないな。最近は自分でも前より
話せるようになったと思っていたが勘違いだったようだ。
あることに気が付く・・・。いろはちゃんが積極的に話していてくれたからか。
次にしずくさんが俺に尋ねたのは電車に座り
出発したてしばらくたったころだった。
「しかし本名がいろはちゃんということは女の子なんですよね」
「そう女の子だよ。男の人だと思ってたのかな?」
「はい。ああいった可愛らしいイラストを描くのは男の人が
多いので。女の子とは嬉しい限りです。それにしても・・へー貴方は女の子と偶然知り合ったんですね」
「う、うん」
なんだか表情と淡々とした口調のせいか・・・すごい怖い!
軽蔑されているような気持ちになってしまった。
中学生ということは会うまで伏せておこう。これ以上軽蔑されたら
いろはちゃんに会うまで身がもたない。
とガードを入れたせいかまたまた会話が途切れてしまい
そのまま結局いろはちゃんと待ち合わせした駅へとついた。
「やっと会える・・・」
駅について改札口を抜けたころ。しずくさんが小さくそうつぶやいた。
その想いがどれほど深かったかなんてこの時は知る由も無かった。
「お兄ちゃん~!」
改札口近くの柱で待っていたいろはちゃんは俺たちを見かけるなり
元気に手を振ってくれる。
「貴方がチルさんですか!?こんな可愛い子が・・・!あのっ覚えてます?私ノアですっ」
それまでと打って変わって興奮気味なしずくさんはごく自然にいろはちゃんの手をにぎるすると
いつもと変わらない笑顔でいろはちゃんは対応する。
「覚えてるよ、いつもメッセージくれてた人だよね~」
「そうです!しばらく連絡できなかったんですけど受験だったので。嫌いになったわけ
じゃないので絶対に」
一気に言いたいことを伝え過ぎたのかしずくさんは
息切れをする。大丈夫かな・・・!?
「あぁでもこんな可愛い子と私あんな話を・・・」
「あのお話は恥ずかしいよぉ~忘れよう」
「そ、そうですね」
二人とも本当に恥ずかしそうなんだけれど
ど、どんな会話をしたんだ・・・!
「ね、折角だからケーキ屋さんでいっぱいお話ししよう」
「そうですね。ありがとうございます」
「じゃあ俺はそろそろ」
邪魔者は退散しようとしたところで
いろはちゃんに手を握られとめられる。
女の子に初めて手を握られた瞬間だった、
しかもいろはちゃんがお願いモードの表情だから俺の方も興奮してしまいそうだった。
落ち着こう・・・俺!
「え~お兄ちゃんも一緒じゃなきゃ嫌だよ」
「そ、そうか。女の子に混ざるのも悪いと思って」
「ハーレムみたいでいいと思うよ~あでもそれじゃあもっと女の子いないとだめか」
「うん・・・ハーレム求めてないから大丈夫」
ハーレムは置いといて・・・
承諾をいただいたので俺も一緒にケーキ屋へと向かうことにした。
「しずくさんもいいかな?」
「しょうがないですね。いいですよ。ここまで連れてきていただいて
用事が済んだからと返すほど私も冷たくはありません」
「ありがとう・・・」
うーんやっぱり毒舌だな・・・でも優しさもあるから・・・しずくさんってよくわからない。
「いろはちゃんはいつもこういうところにいるんですか?」
「うんそうだよ~しずくちゃんはあんまり来ないの?」
「普段は家で漫画やゲームをしていることが多いので」
「インドアなヲタクだね」
いろはちゃんの言葉が面白かったのか
しずくさんは我慢できずに笑い出してしまう。
それはとても可愛らしい笑顔だった。
「ポジティブでいいですね~素敵な考え方です」
・・・なんだそんな風に笑えるじゃないか。
ケーキ屋で向かい側に座った
しずくさんは猫のようにきりっとした鋭い目つきで俺を見つめる。
「いろはちゃんは貴方の事お兄ちゃんって呼んでるんですが
浩平さんがそう呼ぶように命令したんですか?」
命令・・・!?
どんな図だそれは。誤解を解かねば。
「いやいや、いろはちゃんからそう呼んでくれたんだよ」
「そうですか?なんだ変態かと思いましたよ」
とんでもない事を言われてしまったことで
しずくさんの隣に座ったいろはちゃんが笑顔で言う。
「うん、私お兄ちゃんに憧れてたから」
これで誤解は完全に溶けただろう。
「そうなんですか~。なんと可愛らしい」
あの、なんだか俺といろはちゃんの扱いにとんでもなく
差があるのだけれど・・・!
「そういえばもうすぐ対戦ガールでゆなちゃんのレアが出るようですが
当てれそうですか?」
「うーんだめ当てれそうな気がしない・・・」
「私も自信がないです。前回も当てれませんでした」
二人はケーキを食べながら何かそんな話で盛り上がっているが全然ついていけない。
それにしても初対面なのによくここまで打ち解けるなぁ。
そういえばしずくさんも漫画好きって言ってたなぁ。オタクな方なのかな。
「そ、そういえば折角会ったのにお互いの事聞かなくていいの?」
ちょうど二人が話し終えたところで、なんとか仲間に入りこむ。
「しずくちゃんのことは色々知ってるよ、メッセージでいっぱいやり取りしたから」
なるほど。それもあってすぐ打ち解けることも出来たのかな。
「私もいろはちゃんのことは色々知ってます。カンナさんが好きで一番好きなラノベが
バルちゃんなのも知ってますよ。そうですねでも折角だからまだ聞いてなかったことについて聞きたいです」
「うんいいよ」
「ありがとうございます。好きな食べ物はなんですか?」
結構趣味については知り尽くしていたが、どうやら簡単な質問にありそうなことを聞いていなかったようだ。
それにしてもいろはちゃんの好きな食べ物か。聞いたことないような高級食が出てきそうだな。
「うーんとチーズのハンバーガが好き。お兄ちゃんとしずくちゃんは?」
・・・意外と庶民的だった。
「美味しいですよね。私は鮭のおにぎりですかね~」
俺が恥ずかしくて応えないでいると
「お兄ちゃんは?」
といろはちゃんが純粋な眼差しで再度尋ねてくる。こんな眼で見られたら
応えないわけにはいかないな。負けた。
「・・・オムライス」
男にしては可愛らしくて言うのが恥ずかしかった・・・。
「なんだかあなたには合わない気がします」
しずくさんは冷めたように言い放つ。
「うん。自覚はある」
それから一緒にゲームセンターへと行ったりショップなどを
巡った。
いろはちゃんとしずくさんは本当に楽しそうだった。
良かったな。
そうして一日が過ぎあっという間に夕方になり
帰る時間になってしまった。
いろはちゃんは帰る方向が違うので
俺たちは駅で解散することにした。
「お兄ちゃん、しずくちゃんまたね~」
元気に手を振るいろはちゃんを俺たちは見送る。
そしてしずくさんは改まって。
「今日は会わせてくださりありがとうございます」
「うん。会えてよかったね」
「はい。久しぶりにすごく楽しかったです。それに・・・思った通り優しい方でした」
いろはちゃんも女の子同士の方が楽しいだろうな
いずれ俺は用済みになってしまうのではないだろうか。