4話 いろはちゃんの家
「俺女の子の家に誘われたんだよね、出逢って5日しかたってないのに」
「急すぎじゃね?ありえねぇー!その女絶対なんか企んでるよ」
大学の休み時間中に不快になるような声が聞こえてきた。見ればちゃらちゃらした男同士が
盛り上がって話しをしている最中だった。
お礼がしたいからと言われいろはちゃんから家に誘われた俺にあてはまるところがあって良い気分はしなかった。
もちろんいろはちゃんがそんなことする子には思えないが。
バイトの予定が無い休日約束通り朝からゲームセンターへと赴いた。
天気が良い事もあってか電車の中は親子連れが多く座ることが出来なく
俺はつり革へと捕まる。
最初に電車で街へ向かった時の事を思い出すな。
あのときは戸惑ったけれど、今は勧誘にもつからまらない。我ながら誇らしい・・・!
ま、いろはちゃんのおかげだけど。
人が多い街中を都会人ぽく手早く歩きゲームセンターへと到着。
姿を見かけ話しかけたかったのが
いろはちゃんは音楽ゲーム?をしていた。邪魔しちゃ悪いな。
「やっぱり同じとこで間違えちゃう・・・」
どうやら終わったようだ。
振り向くなりいろはちゃんは俺の方へと駆け寄ってくる。
「あ、お兄ちゃん~。・・・ごめんね、だまって待ってるつもりだったけどゲーセンに
来ちゃうとつい遊びたくなっちゃって」
「大丈夫だよ。じゃあ早速だけど行こうか」
「うん・・・!」
電車へと乗り込むとさっきと変わらず混んでいた。
これは立ってるしかないな。俺は大丈夫だけど
「いろはちゃん立ってるの平気?」
「うん、大丈夫だよ~」
「そっか。あれ?つり革捕まらないの?」
いろはちゃんは扉近くにある手すりにつかまっている。
「背が低くて手が疲れるから嫌なの」
ほんの少しばかりだけど怒った様子だった。
身長コンプレックスだろうか。可愛らしいのにな。
それに中学生ならまだ成長の可能性が。
それからすぐにいろはちゃんは切り替えていつも通りの明るいいろはちゃんに戻る。
「お兄ちゃんは東京の人じゃないの?」
「あぁ。新潟から来たんだ」
「新潟かぁ、新潟って何があるの?パン作りしてる人とかいる?」
パン!?パン好きなのかな?
どちらかというとお米が盛んな地域だが。
「パン作ってる人はいる・・・のかな?パン屋さんとか?
いろはちゃんが気になりそうなとこではアニメセンターみたいなのが確かあったはずだよ」
「あ、聞いたことあるかも!いいな~!新潟って聞いてパン職人のアニメ思い出しちゃった」
なるほどそれで聞いたのか。それにしても新潟出身の
キャラが出るアニメがあるとは・・・気になるな。
しばらくしてから人気も落ち着き
俺たちは座席へと座り込む。座り込むなりいろはちゃんは
「こうしてると駆け落ちしてるみたいだね~」
楽しそうにそんなことを言い放つ。
「よ、よくそんな言葉知ってるね」
「アニメでやってた。楽しそうだったな~」
「な、なるほど」
あれ駆け落ちって親とかに反対された恋人同士が遠出するやつだよなぁ。
楽しいって感覚なのかな?
それに俺たちは付き合っているわけでもないぞ・・・。
それからさらにしばらくしていろはちゃんの家がある街へと
到着。結構かかったな。いろはちゃんの話しが面白くて退屈しなかったけども。
しかし途中から闇の力が解放されるとか言ってたけどなんだったんだろう。
「ここからどれくらい歩くの?」
「10分くらいだよ」
10分か結構かかるなーと思っていたが歩いてみればあっという間だった。
それもいろはちゃんの話しが楽しかったからだと思うが。
だんだんといろはちゃんといると退屈しないなと思い始めてしまった。
「おお、大きい家だな」
周りにも立派な家は数件あったがいろはちゃんの家は圧倒的だ。
まるで王者だ。
・・・・もしかしてお金持ちなのではないだろうか?
「メイドさんいたり?」
「メイドさん!いたらいいなーマリノさんみたいな綺麗なメイドさん。じゃあ執事は・・・」
いろはちゃんは眼を輝かせて思いにふける。何やらスイッチが入ってしまったようだ・・・!
流石にメイドさんがいる家は早々無いか。
「と、とりあえずお家に入りたいな」
「あっごめんね」
いろはちゃんに扉を開けてもらい。家の中へと入る。
綺麗に整頓されている玄関には立派な坪や絵画が飾ってあった。
おお、やっぱり・・・すごいな!
しかし家族が留守にしているのかひっそり静まりかえっていた。
以前のいろはちゃんの言葉を思い出す。
家の人は忙しいから
「部屋は2階にあるんだよ~」
深入りしない方がいいんだろうな。
俺は特に家族の事には触れず。いろはちゃんに着いて階段で2階へと上がる。
「ここが私の部屋だよ~」
そう言いつつ2階の部屋の扉をあける。
「へー可愛いな」
いろはちゃんの部屋には可愛らしいぬいぐるみや
家具なんかが置いてあった。
そしてちゃんとフイギュアと漫画もある。
「お茶用意してくるね~」
「手伝おうか?」
「大丈夫だよ~!お兄ちゃんはゆっくりしてて」
扉が閉められひとりになってしまう。
女の子の部屋にひとりって落ち着かないな。
俺みたいな非モテが場違いなところに来てしまった気がして座るのもためらうが(しかも相手は中学生だ)
立ってるのもおかしいので座布団がしいてあるところに座り込む。
「俺があげたバルちゃんのクリアファイル飾ってるんだな」
適応サイズの額縁に入れ壁にかけてあった。
クリアファイル入れる額縁もあるんだな。
そうして落ち着きない気持ちでしばらく待っていたが
一向にいろはちゃんが現れない。
まさか、何かあったのか。・・・倒れてたりしないだろうか。
そんな心配がかけめぐり俺は下へと降り
居間を目指す・・・が。
「広すぎてどこに居間があるのかわからない・・・!」
なんという複雑な家なんだ。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
どこからトレーにオレンジジュースと小さなドーナツの
お菓子を乗せたいろはちゃんが現れた。
助かった・・・!
「どうしたのかと思ってさ降りて来ちゃった」
「うん?ごめんね。紅茶の入れ方わかんなくて時間かかっちゃった。
それで結局わからなくてオレンジジュースにしちゃった。ごめんね」
「あぁ、全然大丈夫だよ。持っていこうか」
いろはちゃんは申し訳なさそうだったが。
むしろ紅茶慣れしてない身としてはそちらの方が有難い。
「大丈夫~」
いろはちゃんは何故だか右手を挙げてポーズを決める。
バランスを崩したオレンジジュースが少しこぼれた。
「あ、危ないよ・・・!やっぱり持っていくよ」
トレーを優しくいろはちゃんから貰いうける。
「ありがとう~」
やがて部屋まで運び終え
俺といろはちゃんは向かい合いながらお茶会をする。
「ドーナツ美味しいね」
「うん、うまいな」
いつも食べてるおやつとは違う高級な味がする。
そうだ、折角だから気になっていた事を聞いてみるか。
「そういえばどうして俺に優しくしてくれるんだ?」
「お兄ちゃんが話しかけてくれから仲良くなりかったんだよ~」
この笑顔に嘘なんてない。
学校のチャラ男の言葉が消え去っていくようだ。すごい安心感。
「でも変な男もいるから気をつけてね。まぁ俺も変だけど」
最後の方は冗談交じりだったがいろはちゃんは真剣かつ
不思議な表情で俺を見やる。
「お兄ちゃん変じゃないよ?」
「そうか?はは、ありがとう」
そう言ってくれるのは本当に有難いな。
「いろはちゃんの部屋には色々あるんだね」
「うん。あ、お兄ちゃん折角だから色々見て~」
お茶会を終えて俺はいろはちゃんの本棚を見させてもらう。
大量の漫画とライトノベルが並んでいた。あと文学的な本もある。
「文学も読むの?」
「前は結構読んでたよ~。今は読書感想文の時ぐらいかな。
ラノベの感想がだめっていうから」
「厳しいね・・・」
学校という風潮はまだまだそういう面には厳しいのだろうか。
「あ、バルちゃんはお兄ちゃんの為に寄せてあるから安心してね」
といろはちゃんが見やる方向には紙袋が置いてあった。
あれに入ってるのか・・・?
「ありがとう、あっカンナさんのものも沢山あるね」
CDにDVDはわかるが。
写真集まであるのか・・・!?しかも3冊もあるじゃないか。
「これは・・・?」
恥の方に薄い本が並んでいた。
「カンナちゃんのファンクラブの冊子だよ~!」
「ファンクラブ入ってるんだね?」
「うん。会員番号はかなり遅いんだけどね」
あぁいうので最初の方の番号持ってる人は逆にすごいような。
しかしものすごいファンだな。しかしそこまで好きになれる相手がいるとはこれまたうらやましい。
「アニメの資料集もたくさんあるんだね」
「うん。私絵描くのも好きだから」
「へーどんな絵を描くの?」
「まってて・・・!」
いろはちゃんは机の引き出しからスケッチブックの様なものを
取り出し俺に開いて見せる。
「おぉ、可愛いな」
そこには黒いフリルの服に傘を持った女の子が描かれていた。
キャラはわかないがすごい上手い。
続いて2枚目
窯を持っている天使のようなキャラが攻撃している
イラストだった。
「迫力が半端ないな~いろはちゃん上手いね」
「ありがとう!でもいつかはお姉ちゃんみたいになりたい。あ、私従妹の
お姉ちゃんがいるんだよ~」
「そうだったのか?お姉ちゃんも絵がうまいんだね。従妹のお姉ちゃんはどこに住んでるの?」
「そうお姉ちゃんは漫画みたいなの描いてる。神奈川県だよ。最近はなかなか会えないけれど・・・」
「へーお姉ちゃんどんな漫画描いてるの?」
「ちょっと恥ずかしいの~」
いろはちゃんは少し照れながらいう。
「恥ずかしいのか!・・・へ、へぇ」
18禁とかそういう。辞めよう・・・中学生の前であんまり想像を立てないでおこう。
それにしても遠くないところにはいるようだけど。会えないのか。
親もあんまり家にいないみたいだし寂しくないのかな。
どちらかというと賑やかな環境で育ってしまった俺はそう感じてしまう。
いろはちゃんはこれが普通だと思ってるのか?
「何か困ったことがあったらいつでも頼ってくいいからね」
色々考えてしまうが
家庭の事に首を突っ込むのはやはり気が進まなかったので
結局俺はそんなことしか言えなかったが。
「本当に頼っていいの?」
その表情は不安交じりだった。
やっぱりいろはちゃんは・・・。
「あぁ、もちろん」
「ありがとう~!」
そしていつも通り笑ってくれた。
それからいろはちゃんが新しく絵を描いてくれたり(描くペースもはやい)
絵をいただいてしまったり。
アニメの事なんかも色々教えてくれてあっという間に時間が過ぎた。
なんだか楽しい一日だったな。
帰るのもためらわれる。しかし帰らなければ。
帰り際に約束のバルちゃんの本が入った紙袋を渡してくれ玄関まで来てお見送りしてくれた。
ここでお別れだと思ったのだが・・・。
「駅まで送っていくね」
流石にそこまでしてもらうのは悪いな。
「大丈夫だよ。じゃあまたね」
可憐に手を振り俺はさっそうと歩きだしたのだが
「帰り道どっちだっけ?」
情けないな。玄関を出て右か左かどっちに進めばいいか
すらわからなかった。
「えへへ~お兄ちゃんも頼っていいよ~」
「ありがとう。なんだかいいねお互い助け合うのって」
「そうだねぇ。ーこれからも一緒に生きていこうね」
「お、おう」
なんだかその言い方だと恋人同士みたいだが・・・。