3話 堕天使バル
先日応募したコンビニのバイトの面接の日がやって来て
対面式の本格的な面接だったのでかなり緊張したという感じで終わってしまった。
何を話したか分からないが嘘をついてしまったのだけは
覚えている。
「趣味は読書です」
読書なんてまともにしたことない・・・!
まさかそれが嘘とは思われないだろうが。
緊張してしまったし。はぁ・・・受からないだろうなぁ。
それから合否の連絡を待ちながらそわそわしながら過ごすのも
身体に悪かったのでレンタルショップに行きいろはちゃんが教えてくれたカンナさんが出てるアニメを借りる。
「これがカンナさんのやってるキャラか、綺麗な子だな」
「へー英語でしゃべるんだ・・・。アメリカから来たキャラなのか?」
「えぇ、ロシア語なのか!?」
洗濯物を畳みながらひとりで実況している間に1話が終わってしまった。
・・・なかなか面白いな。
次でコンビ解散の危機か、気になるじゃねぇか。
結局DVDに収録されている3話を全て鑑賞する。
そしたら続きが更に気になってしまった。
・・・また借りて来よう。
そんな中翌日郵送でコンビニから封筒が来た。
どうせ受かっていないだろうとびりびりとやぶると
なんと・・・合格の文字が・・・!
「はは、まさか受かるとはな・・・」
喜びよりも乾いた笑いが出てしまう。
「って明日の夕方からか」
確かにいつでもいいとは言ったが。
何の準備も出来ていない。主に心の準備とか。
バイト当日の夕方ー
店長に案内され一緒に働くおばさんを紹介される。
「あとはこの人から聞いてください」
それだけ告げると店長はどこかへと消える。
「夜までふたりでがんばろうね~!」
「は、はいっ」
おばさんはウィンクなどをして熱いコールを送って来た。
それから色々教えてくれてなんとかこなしていったもののどっと疲れてしまった。
そしてようやく人気も落ち着いた夜・・・。
「悪いけど少しひとりで頑張ってくれるかしらぁ、子供に電話したいのよ。多分人もあんまり来ないと思うからぁ」
「は、はいっ・・・」
内心ひとりにしないでくれと嘆いたが
思わず承諾してしまった。・・・なんとかなるだろう。なってくれ。
店内は静かなモノだった。
本当に人が来ない。店内にはアニメの宣伝らしきものが時折流れている・・・タイトルを聞いてももちろんわからないが。今度いろはちゃんに教えてもらおう。
「そういえば忙しくて気づかなかったけどバルちゃんのクリアファイルがあるなー」
お菓子2個買うともらえるらしい。
バルちゃんか、俺は読んだことは無いがいろはちゃんが一番好きなラノベだって言ってたな。
貰って行こうかな。いやでももう既に他で貰ってるかも。
「あーなんだよぉー今日は折角新しいゲームしようと思ってたのにー」
(びっくりした・・・!)
「い、いらっしゃいませ」
久しぶりのお客さんは
気だるそうな中学生くらいの女の子だった。
「そうなんだよ、今夜も編集部に泊まりだよ。悪いな。あゲーム雑誌買って行ったらいいか?わかった」
静かな店内だったので奥の方に行った女の子の声が聞こえてしまった。
さっきは独り言みたいだったけど、今は電話でもしてるのかな?
そしてしばらくしてからやって来てコーラ、アイス、ゲーム雑誌をレジに置く。
「いや~ここに濃厚ミルク100%のアイスあって良かったよ。これがなきゃやる気でないもんなぁ」
これは俺に向かって話しかけているのだろうか?
とりあえず何も言わずに会計を・・・。しようとしていたが
女の子の話しは続く。
「そういえばさあそこにあるバルのクリアファイルってどれくらいの人が貰っていく?」
「・・・自分今日入ったばかりなのでわかりません」
「そういえば見ねえ顔だなぁ~新入りかー?」
可愛らしい女の子の口から出る言葉じゃない。
何そのヤンキーみたいな言い方・・・恐いよ!
「そんな感じですね」
「そうなのか~。じゃあ今後にーちゃんのやる気が出るようにいいこと教えてやるよ。耳をかせ」
働かなくていいように店を爆発させる方法とかは勘弁だが・・・。
「実は私バルちゃんの作者なんだ」
なんだ以外にも普通の事だな。
「そうなんですか」
「も、もう少し驚けよ・・・!」
女の子は半泣きになっていた。なんだ女の子らしい面もあるじゃないか。
って思ってる場合じゃない。悪いことしてしまったな。
「すいません、俺読んだことないから。あ、でも知り合いがファンだから喜びそうだな」
「おう、そうか!・・・仕方ないなぁ」
打って変ってにやにやしながらお菓子2つとクリアファイルを持ってくる。
会計をし袋に入れ込もうとしたが
「まって!そのクリアファイルにサインしてにーちゃんにやるよ。その知り合いに渡すと良い!」
女の子はクリアファイルをレジから取り何処からかおもむろにペンを出し
慣れた手つきでサインをし
「じゃあな!にーちゃんちゃんと渡しとけよ!あとにーちゃんもちゃんと私の本読めよ~!」
元気に外へと走り去っていた。
・・・・不思議な人だったな。
「あーやっと電話終わったわ。もしかしてみゆちゃん来てたぁ?」
奥からやってきたおばさんはサイン入りのクリアファイルを見て問う。
「あぁ、あの子そんな名前なんですね」
「そう小説家なのぉー正確にはライなんとか作家っていうらしいけど。うちの子もファンなのよぉー」
バルちゃんってそんなに人気あるのか・・・!?
バイトを終え帰宅してから早速いろはちゃんに連絡を入れようと
考えたが・・・遅いしもう寝てるか。
壁際の時計の針を見ると深夜12時を過ぎていた。
中学生はとっくに寝ている時間だよな。明日の朝にしよう。
コンビニでバイトをしていたらバルちゃんの作者が来て
サイン入りクリアファイルをくれたという概要を書き
写真も一緒に添付する。大学に行く前に送る。
『えっいいの!?お兄ちゃん家宝にしたらいいのに(><)』
そんな返事が来たのは夕方頃だった。
部屋で退屈していた俺は素早く返事を返す。いろはちゃんの
返事もスムーズだった。
『俺わかんないからさ。それにいろはちゃんの為にかいたものだから』
『そ、そうなの@@じゃあ受け取るね!』
@@ってなんだ・・・?
絵文字か?
『次の休日ゲーセンに行くからその時に持っていくよ』
『ありがとう(アリの絵文字)』
ありとありをかけてるのか・・・。中途半端に3匹しかいないが
逆にそれが面白いが。
いつものルーティンでゲームセンターへと赴く。
クレーンゲームの所にはいないか・・・
そういえば最初にあった時はクレーンゲームが終わってから
メダルゲームの方に・・・いた!
何やら大型メダルゲームで遊んでいる。近づいてみるとコインが溜まるところに
大量のコインがあった。
「こんにちは~」
「お兄ちゃん~!」
「ごめん邪魔しちゃったかな」
「全然大丈夫だよ」
いろはちゃんは手早くコインの入れ物に素早くコインを入れると
席から立ち上がる。
今日も可愛らしいフリルの服を着ている。
でも以前あった時とはまた違う感じだ。服のレパートリーが多いな。
男とは違うのか。
「そのコインどうするの?」
「預かるの~」
そんなシステムがあるのか・・・。
いろはちゃんはコイン預かり機の様な物に持っていたコインを思いっきり入れ込む。
ジャラジャラと爽快な音を立てていたコインは吸い込まれていった。
なんだか見てて気持ち良くなる光景だな。
「そこの休憩所でお話ししよう~」
「うん・・・」
丸いテーブルの席へと着くなり俺はカバンから
クリアファイルを取り出す。折れないように硬化ケース付だ。
「はい、クリアファイル」
「うわぁーーー本物だぁ~~ありがとう!」
いろはちゃんは俺から受け取るとクリアファイルを掲げて眼を輝かせる。ほんと色んな表情を見せるなぁ。
「わかるのか・・・!」
「ネットで何回も見てるからわかるよ~みゆ先生のサイン会は人気でなかなか
いけなんだよ!話しを聞いたときはホントに気が動転してしまったって思わず@@なんて誤字を・・・」
話しているうちに頬を赤くして小声になっていく。恥ずかしかったのか。
可愛らしいミスだと思うがな。それにそんなに好きだったのか・・・。
一番好きとは聞いていたけど。
「あとお兄ちゃんから貰ったことで更に価値があがってしまった!」
大事そうに抱きしめながら俺をちらりと見る。
「あはは、俺に価値は無いよ」
嬉しい事を言ってくれる。
「そうえいばお兄ちゃん、コンビニのバイトしてるんだね」
「あぁ、ついこの間始めたばっかりだけどな」
「お兄ちゃん頑張ってるね~。そうだ、お兄ちゃんにお礼がしたいな・・・うーん・・・」
一休さんぽく悩んでいる。可愛らしい。
「あぁ、そうだ。俺もそのバルちゃんってのが見たいんだ。普通に書店に売ってるのかな?
それを教えてもらえればいいよ」
「うん、もちろん売ってるよ。でもそれならお家に来てほしい、全巻あるから~。あと資料集もOVAも」
「すごいな。でもこの後バイトなんだ。そうだ次の休日だったら」
「うん、じゃあその時に来て。ここで待ち合わせして一緒に行こう~」
「そうだな。ありがとう」
って簡単に言ったが女の子の部屋に行くの初めてなんだよな。緊張してきた。