1話 いろはちゃん
大学入学の為に
上京したばかりの俺はぼんやりとした何も無い日々をすごしていた。
昔からそうだといえばそうだ特に好きな物もなければこれといった趣味もない。
サークルなんてものに入ってみたらいいのだろうか?でもなんのサークルに入ったらいいのだろう。
なんて自問自答していた。
大学に入学してから初めての休日を迎えた。
窓から見た空は綺麗な青色だったので出掛けてみようという
気持になった。その時はワクワクした気持ちが湧きあがっていた。
それもそうだ知らない街憧れの都会。そんな存在をゆっくりと
見て回れるのだから。
しかし、悲劇は起こった・・・。
目的は無かったので電車に乗り気になった都市で降りることにした。
少し冒険的でこれもワクワクする、ただ無事に帰ることが
出来るかという不安がよぎらないこともないが・・・まぁなんとかなるだろう。
それにしても家族連れが多いな。日曜日だからだろうか?
空いてる席は無かったので気になった年まで吊り橋に捕まりながら移動する。
(東京は賑やかだな、俺の住んでたことは大違いだ)
「わーお兄さん、かっこいい?素敵ですね。どこから来たんですか?」
綺麗な女性は妙に感情のこもった声で俺に接近してくる。付け過ぎたような香水の匂いが気になる・・・。
感情はこもってるものの、かっこいいという言葉に違和感があった。俺はそういうタイプでは無い。
彼女いない歴年齢だし・・・ってまぁそれは良い!
自分で考えて哀しくなってしまう。
「新潟ですけど・・・」
女性とは逆に俺はやる気のない返答を起こす。
しかし女性はくじけない。
「わーそうなんですかぁ~!?旅行とかですか!?」
初対面にそんな事を聞いてどうする?
「いえ、上京です」
「わーすごーい!お兄さん私あそこのお店でグッズ販売してるんですけど
見ていきませんかぁ?今ならおまけも付けますよ~」
これってもしかして・・・勧誘か!?
「あっ、えーと失礼します」
俺はダッシュで走り適当な建物へと逃げる。何も逃げなくても適当に断ればいいのだが
それだけのスキルを備えていなかった。
「え~お兄さんモテなさそうだから付き合ってあげてもいいと思ってたのになぁ」
逃げ始めてから女性が呼びとめるように叫ぶ。
本音が出てるぞ!しかもなんだその上から目線。
あと目的すら変わってるし。
わかる・・・そうやって引き戻そうとしているんだな。そんなのにひっかからないぞ。
俺はそのまま逃げ続けやがて周りの視線が恥ずかしくなって適当なところで足を止める。
「はぁ・・・はぁ。東京は怖い街だなぁ」
上京したばかりなのにはやくも東京の暮らしに不安になってしまう。
帰りもあの人にあったらどうしよう。
またどこかへ逃げるか・・・。家へ帰れるのかな。
「それにしても賑やかだな・・・ここは」
立ち止まった先の建物
そこにはうす暗く賑やかな音楽が流れている。ただ歌と言うよりはメロディという感じだ。
「ゲーセンか」
地元に住んでいた時もゲーセンはあったが
数回程度友達の付き合いで行ったぐらいしかない。
せっかくだから少し店内を見て回るか・・・。
ぬいぐるみやフィギュアなど一般的なものがあれば
掃除機などの実用的なモノなども景品として機械の中に投入されていた。
ただ皆取るのに苦戦していそうだったが・・・。
「お、すごいな・・・!」
そんな中、巧みに景品を動かし獲得している子に出会う。
見れば景品の入った袋が沢山だ。獲得した物なのだろう。
やがてプレイを終えこちらに向き直ったその子と目が会う。
・・・・随分と可愛いな。
小さな背にフリルの着いた服がすごく似合っていた。人形のようだ・・・。
って・・・やばいなんか言わないと。
小学生ぐらいの女の子を見つめる大学生って・・・不審者だよな。
えーと
「あ、ごめん。うまかったからつい見てしまって」
とりあえず素直な感想を述べると女の子は
曇りなき笑顔で
「えへへ、ありがとう~」
と言った。とりあえず怪しまれてはいないようだな・・・。
安心と同時に腹の虫がなってしまう。そういえば、腹が、減った・・・。さっき走ったからな。
「お兄さんお腹すいたの?」
「あーえーとまぁちょっと減ったかも」
「じゃあこれあげる」
女の子は袋からクッキーの箱を取り出し俺に渡そうとする。
取った景品なんだろう、せっかく取ったのに申し訳ないよな。
「いいよ、頑張って取ったんだろう?」
「いっぱい取れたからいいよ~」
「そうか、じゃあ。ありがとうな」
優しいな。さっきの件があるから
この後何があるんじゃないかと疑ってしまうか。
「困った事があったら何時でも言ってね」
しかし何も無くただただ優しい。そうだよな小学生の女の子はそうであってほしい。
手を振る女の子は明らかに出口ではない方へと向く。
・・・・あっちはビデオゲームとメダルコーナーか。
女の子はどちらをやりに行くのだろう。
流石についていくのはかなり変なので
俺は店内の休憩所に座り女の子から貰ったクッキーをいただく。
「おいしい・・・」
食し終えて店内を出ようとたのだがあることに気づき冷や汗に襲われる。
・・・駅どっちだ!?
適当に走り逃げたので全く道が分からなくなってしまった。
落ち着け・・・・こういう時はスマホで地図を見ればわかるよな。
そう考えつつスマホを取り出し地図を開く。
・・・うーん使い方がわからない。地元に居る時は使うことがなかったからな。
「お兄さん~」
その柔らかい声に振り向くと
先程の女の子が笑顔で手を振っていた。また会ったねという感じなのだろうか。
「何か見てるの?」
女の子は近づいて来て問いかける。
「えーと実は駅の方角がわからなくなってしまって」
「駅は・・・えーと一緒に行った方がはやいかなぁ、そうだ一緒に行こう」
「え、いいのか?」
「いいよ~」
「お兄さんの名前はなんていうの?私はいろは、よろしくね~!」
「俺は浩平。まぁ、よろしく」
よろしく・・・これからも仲良くする事が可能に
なりそうな言葉である。お、そうだ・・・。
「いろはちゃんは小学生だよね?6年生くらいかな」
「はずれ~中学2年生だよ~!お兄さんは大人だよねっ?20歳くらい?」
なんと中学2年生とは!申し訳ないが全くそうは見えなかった。
「ちょっと惜しいな、19歳だよ。大学に入るために上京してきた」
「大学かぁ~すごいね~」
「あははっ、そんなこともないよ。あっ」
この街に勧誘が潜んでたことを思い出し俺は歩みを止める
「どうしたの?」
「うん、実はさっき勧誘に会ってさ。それで急いで逃げてあのゲーセンに」
「そうだったんだ!大丈夫だよ勧誘さんがいる方とは別の道通ってるから~」
勧誘にさん付とは。一応いろはちゃんも避けてはいるようだが
「捕まったことあるの?」
「一回お店に誘われたけど高いねって言ったら勧誘されなくなったよ~」
そんなエピソードを楽しそうに話してくれる。
子供ははっきり言うと何処かで聞いたがやっぱりそうなのだろうか。
しかし俺ははっきりした子供ではなかったので一概には言えないのだろう。
うらやましくもなる能力だな・・・。
いろはちゃんは打ち解けやすいタイプなのではないだろうか。
そうこう話したり考えたりしているうちに駅へとたどり着き
改札の前で改めてお礼を言う。
「ありがとう、いろはちゃん」
「うん、じゃあまたね」
いろはちゃんは俺に手を振った。・・・帰らないのか?
「いろはちゃんは帰らないの?」
「もう少しお店めぐりしていこうかなーと思って」
「あぁ、そうか。わざわざここまで来てくれてありがとうね」
「いいよ~また会えるといいね」
「お、おう」
思えばいろはちゃんという子との不思議な偶然な出会いが
都会生活の始まりだった。