それから
アレクサンダーが王宮から出たのは朝方になってのことであった。
どこで待っていたのかはわからぬが、彼が部屋から出たのとほぼ同時、『月光』が声をかけてきた。
「よいのか、一人で出て」
どうやら彼女は、アレクサンダーがイリスと駆け落ちをすることを期待していたようだ。
アレクサンダーとしては、つい、笑ってしまう――仮にも子をいさめるべきであろう母が、王女との道ならぬ逃避行を期待しているのだ。笑いもしよう。
「ええ。イリスと話し合いました結果、これでよいと」
「一晩限りの恋人か」
「そうならぬよう、努力はするつもりですが――そのためにも、私は立場を手に入れねばなりません」
「ほう。して、その立場とは?」
「思えばもっと早くに決意すべきでしたが、今さら『中央貴族』――政権に口を出せる立場を手に入れ、正式に王女をめとりたく思います」
この時、アレクサンダーの情熱は最高に燃え上がっていた。
地方の自治を委任されているにすぎぬ東方貴族から、国政に口を出す中央貴族に成り上がるのは、簡単なことではない――というよりも、不可能とされていた。
東方貴族、中央貴族、西方貴族。すべて『貴族』と呼称されてはいるものの、それらの役割はまったく異なるものであり、簡単に東方貴族が中央貴族になれるものではない。
けれどその不可能と思われることを――権力を目指す冒険の旅を、アレクサンダーは成し遂げるつもりでいた。
その旅路は。
ある意味で成功し、ある意味で、失敗した。