王女のいないパーティー
その日、ようやく街に現れた父とともに、パーティーへ出向くこととなった。
アレクサンダーの気分は寝てもいっこうに明るくならず、それどころか満足に眠ることさえできず、体は重く、心はもっと重かった。
それでも彼が正装を終えるころには、表情を精悍なものに引き締められていたのは、なみなみならぬ責任感と、貴族としての誇りゆえであろう。
己を律することに、彼は慣れてた――彼の心をさいなむ重みは人生で感じたことのないほどであったが、それでも彼の長年はぐくんだ克己の心が、彼を動かしたのだ。
パーティーに参加し、他の貴族へのあいさつまわりなどする。
王宮のホールで行われたその会合には、きらびやかな貴族の子女たちもいた。着飾った彼女らは美しかったし、遠目に見ていても宝石のようだとさえ思った。
だけれど、心は明るくならない。
未だにイリスの美しい桃色の瞳に、とらわれている。
どこかそぞろなまま、あつい芝生のような足触りのいい絨毯の上、楽団の演奏する落ち着ける音楽の中で、パーティーは進んでいく。
父とのあいさつまわりが終わり、一人になったアレクサンダーに声をかける婦人もあった。しかし、アレクサンダーは気もそぞろなまま、今日発表されるという、王女の婚約に心をかたむけるばかりで、生返事ばかりしていた。
確実に来るのに、いつ来るかわからないものを待つ時間は、じりじりと心を焦がすようだ。
今か、今かと待ち続け、拝謁するのはこれが最後になるかもしれないイリスの姿を思い描き、ため息をつきつつ、何度も何度もパーティー会場を端から端までいったりきたりし――
――パーティーが終わり。
「……姫殿下は、どうしたのだ?」
ついにイリスが会場に姿を現すことは、なかった。