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高い高い


「あのさ。あれって何?」


3人で夕飯の買い出しにスーパーに来ている。店内を一周しおえてお会計をしようとしている時だ、ヤツは花火のセットを見て何だと私に訪ねた。


「花火だよ。―――――。やってみる?」

「いいのか?」

「レオも喜ぶだろうし」


そういって私は、私の手をギュッと握っているレオを見下ろした。レオは静かに首を縦に振る。


「今日は、夕飯食べた後に公園で花火しよっか」

「明るいうちは駄目なのか?」

「花火だからね~」


ヤツは、ふ~んと言ってからかごの物をエコバックに詰めた。





「いい。絶対人に向けちゃだめだからね」


立てた蝋燭に火を灯し3人は同時に持っている花火に火をつけた。

ジューっと音を立てる花火は3人の顔を白く光らせ、光の粉は途中で空中に消えていく。

その様子が不思議なのか、もっとはしゃぐと思っていたのに二人は花火の持ち手の端を持ってジッとそれを見つめているだけだった。


「儚いな」


上から降ってくる落ち着いた声は何処か寂しそうで、花火の音も光も消えた静かな公園にやけに響いた。


「それが、花火のいいところだよ」

「僕・・・もっと光ってるところみたい」


レオがそう言ったのを見て私は頭を優しく一撫でした。


「ずっとこんなに光ってたら花火なんて見飽きちゃうでしょ。花火は火をつけてすぐに消えてしまうからずっと見ていたいなって思うんだろうね」

「俺は、こんなに優しい光があるなんて知らなかった」


楽しむために花火を買ったのに、ヤツの顔は嬉しいというより悲しい顔だ。私の知らない何かを考えているんだろうけど、それを聞くのは出会ってからの時間が極端にたりない。ただ、一つ思うのは人のこういう悲しい顔を見るのは好きではない。


「こういう優しい光もいっぱいあるし、楽しい事もたくさんあるんだからさ――――。」


私は何を言いたいんだろうか。言葉を放ったものの続きが出ない。自分も良く分からない。これから3人で楽しい事をたくさんしていけばいいんじゃないかと。そう言いたかったのかな?

私は二人のなんだ?

たまたま出会って、一緒に住むようになって。


――――それで?


この先のことなんて深く考えていなかった。


「笑ってなよ。この国には笑う門に福来るって言葉があるんだよ」


この二人がいままでどう生きてきたなんて関係ない。ここにいるのは虎の耳と尻尾を持った獣の子達。人間と同じ心を持っている。


「楽しんだもん勝ちだよ。――――――ハル」


名前を呼んだとき花火に火が付いたのが同時だった。

向かいにいる彼は大きく目を開いて固まった。


「レオ!!花火はこうやるの」

二刀流の花火を持ち公園を駆け回る。それでも、ハルは私を視線で追いかけて何も喋らない。


「やってみなよ二人とも!」



彼は、時々・・・いや、良く人をジッと見る。最初は居心地が悪くてたまらなかった。けれど、それはハルの世界では普通なことなんだろうなって思った。だって、レオも時折私をじっと見上げてくるから。だから、私も2人が見つめてくるときは笑って見返す。そう。笑顔でじーっと。すると、向こうから勝手に目を逸らすので心の中で「勝った!」と思ってガッツポーズ。


その夜の花火は線香花火で締めくくった。


「線香花火。あれってお前みたいだよな」

「え?そう?どこが?」

「火を付けたら周りも巻き込んでぱちぱちする所」

「その言葉そのままバットで打ち返すわ」

「ありがとう」


意外な言葉で驚いた。勝手に住む事を決めたくせに、こういう事を言うのかと改めて感心した。


「何がさ」

「田中が言ってたじゃ。線香花火は定番中の定番で花火でも1,2位の人気だって。俺じゃん」

「はあ?!」


こいつは何を言っているんだ。まさかのナルシストか!?確かに、見た目はカッコいい。身長も高いし、目測だけど190㎝はありそうだ。あの獣のデカさといい人間かしたときのデカさといい。レオにはあまり大きくなってほしくないものだ。でかすぎて見上げるのがシンドイ。


「俺、喫茶店で今週の指名ランキング1位だってオーナーが教えてくれた」

「まじか!?うっわー何か腹立つ。私といる時は何で馬鹿みたいなことしてるのに・・・」

「それとこれとは違うだろ。仕事はちゃんとする虎だからな」

「あっそ。もうちょっと家でもちゃんとして欲しいもんだよ」


食事中に箸をバッキバキに折るは、冷蔵庫に入れて置いたすき焼き用の牛肉を生で食べるはで、獣人独特の過ちを繰り返している。


獣人は基本力持ちなんだそうだ。それは小さなレオを見ても分かる。リンゴを片手でぶっ潰した時は卒倒しかけた。私の中のショタ像が見事に崩れてしまったのだから。


そして、ハルの世界では獣人は肉を生のままで食べる事が多いという。それは獣だった先祖の名残なのだそうだ。


「あんた力のコントロール位はでくるんだよね?毎回箸割ってちゃ困る。それにお店のお客さんとか傷つけてないよね??!あんたの腕力なら骨なんて小指一本で折れそうだし。なんで、こんな怪力がランキング1位なの!?もーーーー腹立つ!なんか無性に腹立つな!どの世界も顔面重視か!?こっちは真面目にあんたがバッキバキに何でもかんでも壊していくから貯金が崩れていくって言うのに!お客さんには優しくて私にはぜっんぜん優しくないんだから!!」

「ぷりぷりすんなよ。顔に皺できるぞ」


ギッとハルを睨みつける。

「そんな言葉誰が教えたの!?」

「20代のお客さん。怒る人は歳取ったら顔に怒り皺できるってよ」

「誰のせいだと思ってるのよ!!馬鹿野郎!」


「おーおー怒るなほれ高い高い~~」

ハルは私の腰に手を置くと羽でも持ち上げるみたいに私を空にぶん投げてはキャッチし、投げてはキャッチを5回繰り返す。


「いやーーーーーーーーーーーー!!降ろして!!!!お前~~~ダダジャオカナイ」

なんの準備もなく、なんの安全装置もないまま空中に放り投げられる気分は、本当最悪の一言だ。勝手に浮く内臓と現状を処理しきれない脳内。

生理的な涙と鼻水だらけになった顔は誰が見ても10才は老けて見える。心なしか顔が下に弛んでいるようだ。


「もう、知らん。・・・づいでぐんなオマエ。オマエ本当ギライダカンナ」


私はぐちゃぐちゃの顔のままレオを手を握ってふらふらな足を進めた。こんな優しさがどこにあるって言うんだ。異世界の子供のあやし方怖い。2度と言うもんか。あんな奴に優しくされたら次は命が持たない。






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