初めてのカレーはうんこと下痢
「お帰りなさいませ。お嬢様」
三人の男は待ってましたという顔で出迎えてくれた。耳の裏から広がるこのむず痒さはなんだ。気持ち悪い。
「ご案内いたします。お嬢様」
「は・・・はあ。どうも」
メガネを掛けた狐の耳と尻尾を付けた男が一番奥の窓側の席に案内してくれた。
「メニュー表でございま~す」
そういって今度はウサギの耳と短い丸い尻尾をつけた背の低い(完全にショタキャラ狙っている)子がメニュー表の最初のページを開いて渡してくれた。
「えっと・・・」
「お金取ろうなんて考えてないわよ!今回は、好きなものを頼んで頂戴な」
シャララさんは向かい座って肩肘を手て顔をのっけて言う。
「あ・・・えって、じゃあ。この『本日の紅茶』をください」
「今日の紅茶っすね。ありがとうございます。少々お待ちください」
今度は、三毛猫の耳と尻尾を付けた子がメニューを回収して厨房に入って行った。
数分経つと三毛猫かぶれの男の子がお盆にテェーポットとカップを持ってテーブルにセットしてくれた。
「おまたせしましたっすお嬢様。『本日の紅茶』アールグレイでございます。暑いのでごゆっくり」
「ありがとうございます」
丁寧にカップに紅茶をそそいでくれた。
「いただきます」
「ええ。どうぞ」
いい香りがした。丁寧に入れてくれた紅茶は仕事終わりの体に染みわたる。一口飲んでほ~と息を出した。
「どう?」
「どう・・・とは?」
「店の雰囲気よ~」
「ええ。とても綺麗でおしゃれです。紅茶も美味しいですし」
「でしょでしょ~。派手すぎずジミすぎない店内のレイアウトと日がしっかり入ってくるから執事喫茶の悪いイメージとはまるで違うでしょう?紅茶も、イギリスの王室御用達の茶葉を取り寄せてるのよ~。紅茶好きには結構知られたお店なの」
「そうなんですか・・・どうりで美味しいと思いました。王室御用達って言われると付加価値上がりますねこの紅茶」
「ちゃんと紅茶を入れるスタッフにも指導を入れているの。どのスタッフととても美味しい紅茶をいれるのよ」
「あの・・・でも、なんでケモ耳なんですか」
「なんでって、ここは秋葉原だもの」
「そういうことじゃなくてですね・・・。本格的執事喫茶をわざわざ秋葉で開く必要ってあるのかなって思いまして・・・いえ、あの失礼だったなら大丈夫です」
「失礼じゃないわよ~気使いすぎよ~」
シャララさんは「そうね~」と言って続けた。元々、アメリカで特殊メイクのお仕事をしていたそうだが仕事がハードすぎてやめてから人を癒せる仕事がしたいと思って喫茶店を開いたけど、あまりお客さんがこないから、年中無休人が絶えない秋葉原にお店を移転して思い切って本格的執事喫茶を開いたとか。前の店舗の常連さんが主だったが、足の運びやすい秋葉に店舗が移ったことで口コミで紅茶マニアでは有名なお店になった。しかし、秋葉の他のカフェとは違って一切のボディータッチ禁止。スタッフとの個人的な会話も禁止していたため、秋葉原に訪れる若いお客さんやオタクの人にはあまり人気ではなかったようだ。そのため、動物の耳と尻尾を付けてそこだけお触りありにして、5回以上お店に来ていただいたお客さんとは会話OKという風に変えたら人気店になったとか。
「それにしても今日は人いませんね」
「ええ。だって、今日はもう店じまいしたもの」
「私のせいですか?」
「この子のためよ~」
そういってシャララさんの隣に座っているやつの腕を掴んで身を寄せているオカマ。
ガチガマだ・・・。リアルカマだ・・・。食われるなよ青年よ。間違えても掘られるな。
「変なお店じゃないって分かったかしら?」
「店長さん以外」ごそっとそんな事を無意識で呟いていた。
「なんですって!?」
「ひぃぃぃぃい地獄耳ぃぃぃい」
般若の如く引き攣った顔が見えた。
でも、待てよ・・・。話し聞いた限りでは、雰囲気もいいお店だし、スタッフもいい人そうだし、このお店で人間の常識を勉強するにはもってこいじゃないか。礼儀作法とかも見て勉強できるし、一石二鳥どころか得られるもの多し!!
「あの、よろしくお願いします。ド田舎から出てきた者なので知らない事多いと思いますが、大目に見てやってください」
ド田舎っていうか、異世界なんだけどね。私もまだ二日目でやつがどこまで人間の常識知っているかしらないんだけどね。
「やった!!!じゃあ、さっそく明日からもお願い~」
「あの、勤務形態ってどんな感じですか?」
「ああ~うちは正社員しか雇用しないのよ」
「え!?執事喫茶って正社員雇用なんですか!?そんなに儲かってます?」
まあ、さっきのメニュー表の紅茶一杯の値段そこそこだったからな・・・。でも王室御用達って言われたら安い方なのかな。
「先月までいた社員が辞めちゃって新しく探してたのよ。そしたら、店の入り口付近にイケメンが通ってたの。すかさずお誘いしちゃった♡」
〈悪寒がする〉田中とハルは同時に思っていた。
「あのビシバシしごいてやってください」
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「良かったね」
「別の意味で少し心配なんだけど」
「掘られるなよ」
「やめろ」
「その時は言って。慰めてあげるから」
「いらねえ。ていうか、掘られる前提でいうのやめろよな」
帰りの夕暮れにぶるっともう一度悪寒がしたのは言うまでもない。
レオを迎えに行って皆で一緒にカレーを作って食べた。
「田中・・・本当にこれ・・・大丈夫か?」
「レオ。見た目は下痢うんこだけど、味は本当美味しいから」
「下痢うんことか普通いうか?やめてくんねえ?違う表現あるだろ。チーザスの下呂とか」
「そのチーザスっていうのはよく分からんないけど下呂も大概だからね。うんこも下呂も同じだし」
「チーザスは向こうの世界の家畜のことだ。うんこと下呂が同じとかありえねえ」
「なんですと!!」
食卓を囲んでこんなやりとりをしていると、死んだ目でレオが言う。
「どっちでもいい。二人とも下品。早く食べよう」
そう言ってパックとレオが一口食べると、死んだ目からきらきらとした本来の輝かしい瞳に戻っていた。
「おいしい~~・・・」