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虎+カニ=??


「ごめんね爺ちゃん~」

「大丈夫大丈夫」


とはいうものの。多少なりとも猫の毛は服につくわけで、おじいちゃんは時々くしゃみをする。悪いとは思うんだけど、現状ではどうしようもないし我慢してもらうしかないけど。


あの後、猫は目を覚ました。金色の瞳は宝石みたいで、可愛らしい顔をしている猫だ。お腹がすいているだろうと思って、猫缶を与えたけどぷいっとそっぽを向かれた。

ものは試しだと思って茹でたささみをあげると喜んで綺麗に平らげてくれるくらいには回復しているように見えた。


「あと、二日の辛抱だしちゃんと連れて行くから安心して~」


 夕飯を終えて婆ちゃんと爺ちゃんと三人でちゃぶ台を囲ってテレビを見ている。


「大丈夫なの~?最近のアパートは動物禁止のとこ多いんでしょう」

「うち下の階のおばさんが犬飼ってるから大丈夫だよ~それに丁度、猫か犬飼おうかなと思っていたからいい機会だしそのまま預かろうと思って」


一人寂しい都会生活。ここ最近寂しさを覚えることが多く、癒しが欲しいなと思っていたところだった。今まで動物を飼ったことがなかったから費用はいくらかかるのかもしらないし…なにより最後まで責任もって世話ができるのか悩んでいた。


冷めてぬるくなった緑茶をずずっと飲み干して「お風呂先貰うね~」と言って席を立った。


あ。そう言えば、あの猫砂だらけだったし、お風呂一緒に入ろうかな。猫用シャンプーとかないけど…とりあえず水洗いだけでもしないと私の部屋がやばいかも。



「ほーらおいで。お風呂に行きますよ~」


猫を持ち上げるとぱらぱらと砂が落ちた。風呂あがったら拭かなきゃな。



猫はお風呂苦手だって聞くけどこの黒猫は随分と大人しい。一度ぬるま湯で体をゆっくりと流したが暴れる事もなく落ち着いている。


私もささっと上から下まで洗い、湯船につかった。窓を開けると籠ったお風呂場に冷たい風が入る。

黒猫は、桶に溜めた水につかるのが嫌なようで、軽い足取りでタイルの湯船の淵に伸び乗って入ってこようとする。


「おーい。だめだよ~ここ深いんだから溺れちゃう」


右前脚でちょんちょんと湯船の温度を確認しているようにも見える。


「しょうがないな~暴れないでよ」


黒猫を抱き上げて一緒に湯船につかる。


な~と一度鳴くと私を見上げてきた。


「気持ちいんだ~。猫も人間もお風呂は好きってことだね~」


身体がほぐれて気分が良くなると目を瞑って、好きな曲を口ずさむ。近所は歩いて30分はかかるし、大きな声で歌ったところで聞こえはしない。昔も、お母さんもこうしてお風呂場でよく歌ったものだ。


窓の向こうからがさりと何か音がした気がする。しかし、それは風が木を揺らす音だったようだ。







「ほ~ら。ここがお前の家ですよ~」


お盆の最終日に東京の家に帰ってきた。勿論、この黒猫も一緒にだ。猫は、慎重に足を進めて家のあちこちの匂いを嗅ぐ。


「あ~あ。明日から仕事か~」

そんな事を思うが、もう休みも終わりだ。また、いつもの日常が戻ってくる。


「私も、猫になりたいよ~毎日日向ぼっこでもして暮らしたいもんだ。あ~~でも人間のご飯は美味しいんだよね~」





携帯のアラームが鳴って目を覚ますと、いつもとは違うものが布団の中をもそもそと動き回っていた。


「おはよ~猫は早起きだね」


黒猫をひと撫でするとな~と鳴いた。


顔を洗い、髪を整え、ワイシャツに着替える。そして一杯のコーヒーと食パンを齧る。猫には鳥のささみ。これ好きそうなんだよね。猫缶あげても一切口を付けないから困っている。


「会社行ってくるから大人しくまってなね~。お腹すいたらテーブルのささみとお水飲むんだよ」


猫は、悲しそうにな~と鳴いた。


これが、猫の威力…。はんぱねえ。可愛い…。しかし、仕事は仕事だ。帰りに猫じゃらしを買ってきてあげるからまってなさいよ。



「田中さーん。今日いっぱいどうですか?」

「あ~ごめん。今日はパスで」

「なんですか~彼氏ですか?」

「彼氏いたら、この時間まで残業とかしないでしょうが」

「そうですよね~」


全く、休み明けなのに仕事はフル稼働でしんどいいし。本当は一杯ひっかけたいところだけど、可愛い猫がまっている。


「今日は休み明けか体がついて行かないだけ」

「じゃあ、金曜空いてますか?」

「おーおー空いてる空いてる」

「んじゃ、その日いつものとこで」

「ラジャー」

「お先に失礼しま~す」

「ういっす」


仕事終わりの酒は金曜日まで取っておこう。








気絶してしまった。言うまでもない。これは、現代日本に住んでいたら到底起こりえないことであるからだ。約束通り猫じゃらしを買って家に帰り、電気をつけるとそこには、巨大な黒い虎。そう。虎だ。猫ではなく虎だ。びっしりと鋭い牙をむき出しにし、ゆっくりと口が開いて私は気絶した。


「ひぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」

悪夢か!これは悪夢か。あれ?ここ家だよね。あーーー夢か。叫びながら起きるとか、本当心臓痛いわ。こう、お腹のあたりがぎゅーっとね。


それにしても、生暖かい空気が後ろから吹いてくるのは何故だ。ヒーターなんてつけてないぞ。ゆっくりと振り向く。


「ひぃぃっぃいぃぃやあああああああ」


巨大な虎が私を見下ろしていた。


死んだふりか。死んだふりすればいいのか?!このまま気絶したままならよかったんですけどおおおお!ていうか、まだ夢から覚めてないの。夢から覚めても夢でしたー。その夢から覚めても夢で。そのまた夢からさめても夢とか、どんなマトリョシカ?!そんなのいらねぇ!!!お願いよ。食べないで。え?ていうか、虎って人間食ったりするわけ?一口で胴体と頭嚙み千切れそうな牙お持ちなんですけどぉぉっぉおお。あー神様仏様。こういう時だけ神頼みして申し訳ないけど。エンドレス夢☆マトリョシカだったら覚ましてくれぇぇぇぇえ。そして、夢であってくれ。全身鳥肌でやべぇー。1mmでも動いたら噛みちぎられるわ!


ゆっくりと虎の前足が持ち上がる。そこから鋭く爪が剥き出てくる。


あっ、まさかの掻き殺されるパターン。はい、終わり。さようなら。あーーあ。これ苦しんで死ぬパターンじゃね。だったら頭一口パクリの方が一瞬で死ねて楽だろうな。


目がフリーズして視界が霞んでいく。



「おっす」


うん?


「俺、ハルダリオル」


なにこれ。「おっす。おら悟空」的な挨拶。

なにこれ。誰これ。どれそれ。


「ひゃっぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


「虎虎虎虎が…虎が…虎ガニ、虎ガニ」

「いや、カニじゃねーよ」

「虎ガニンゲンニナッタ。おええええええええええええ」


リバースしてしまいました。


人間は案外撃たれ弱いようだ。嘘だ。だって私、田舎のガキ大将してた過去の持ち主だよ。中学校で都会に転校して方言で男子にいじられた時も一人残らず一発ぶち込んだやつだよ。打たれよっわ!!!新しい自分の発見は大人になっても成長できるからいいよとか誰が言ったしぃぃい?!?!いらねえ。こういうイレギュラーいらねえから。突然、変化の術使われてもね。困るんですよ。ここ現代の日本ですよ。科学が進歩して何年経ってると思ってるんですか?



誰か!!!!!!!!!助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!!!




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