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funk  作者: 彩華
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まとまりがない


「ただいま帰りましたっ!」

「トロイアちょーどよかった。服、貸りてるよ。カイの為に」

「カイ……?」

「落とし子様が……そう呼べ、と」

「ああ!ぼくの服、それで!なるほど!」


モネさんの言葉にも存在にも気にせずフードを外した途端に流れる銀髪にぴんと長いエルフ耳のボクっ娘は、慌てたように私の前でお辞儀した。トロイアちゃん。純エルフで魔法使い。魔法使いの一番はダリュウのカテーナくんらしい。因みに私は散々着せ替えられて黒のストッキングにぺたんこの靴。大きめの半袖にハイネックの伸縮自在な、スポーツウェア的な服装。それからローブ。少なくとも女性陣はもはや私の体の線を一切合切見せる気がないらしい。


「外出の際はお顔も隠して頂きます。その外見では……目立ってしまうので」

「耳だけ隠してエルフじゃ通せないの?」

「エルフには黒や茶のような瞳は居ません」

「獣人には時々いるんだけどねえ。ハーフエルフでも瞳はエルフの親から揺らがない。黒は一部の獣人の、しかもまた純血ぐらいじゃないと」


「へえ………」


散々着せ替え人形にされてる間に打ち解けたルート姉さん。さん付けで呼んだらやめてくれと言われ、それならばならばと次々に呼び捨てを強要されてしまった。ルート姉さんはルート姉さんで落ち着いた。カテーナくんとモネさんは頑なに呼び捨てを貫いたのでカタコトな呼び捨てをしている。ついでに敬語もやめて堂々と命令してくれ、とまで言われる始末。もちろん誰が言ったかは明白。


「……でも、話を聞く限り?ここが中立地帯でなければ私今頃どうなってたかわからないんです、よね?それはつまり皆さん私の命の恩人じゃないかと」


着せ替え人形にされながら掻い摘んで話を聞いた。ここは宗教国家と軍事国家の中立地帯。不可侵条約を結んだ土地、と言えば聞こえはいいものの特に発展もしていなければ万一に備えねばならず、しかも当然両方の中央都市からは遠くて不便。そして彼らfunkという組織は、この土地の便宜上の管理者で、訳あり揃いと言っていた。主にルートが。モネさんはどうにも脳内で呼び捨てにしずらい雰囲気がある。淡々といかに露出面積が低いものを探すかに明け暮れていた。


「あっはっはっは!律儀だねえ落とし子様は!!」

「高飛車よかいいだろ」

「煙草吸うなモサ牛!落とし子様が穢れる!」

「モサ牛って」


思わず笑ってしまう。笑える空間だった。私は正直職場と家の往復しかせずインドアで、しかも社交的とも言えず。誰も招かないからこそ堂々とアオダイショウのユニやヘプタたちを保護、飼育出来たのだ。たまにする事と言えば給料で少しいいごはんを二匹にあげること。愚痴も悩みも全部ユニたちに話した。蛇には珍しくまるで文鳥のように私に懐いて私に巻きついてくれたのは至福の癒しだった。もし実は懐いている訳ではなくこれで首を絞められて死のうがそれはそれでいい、そう思うぐらいに追い詰められて、ぶっちゃけ病んでいた。所謂社畜。

でもここはなんだ、無駄に清々しい空気に体が軽く感じる。少し待遇が特別過ぎるとはいえこの短期間でありえないほど、リラックスしていた。だから、気付かなかった。モネさんがゴトリと杖を落とすまで。


「破廉恥な…!」

「あっ、ごめーん」

「今すぐ何か羽織ってください!殿方も……何か言ってくださいっ」

「いやー慣れたわ。オニーサンの好みの体型じゃねーし」

「言うだけ無駄だ」


フリルのついたスカートにパンプス、胸元が結構ざっくり空いた服装。簡単に言えばその風貌は魔法少女に近い。いや、モノホンの魔法少女か。スマートな体型によく似合いすぎていて原色の暴力にも気付かなかった。恐ろしい。


「だって窮屈ですもん。ぼくは自由に、ありのままの姿でありたい!落とし子様の事、ぼくも名前で呼んでいいですか?」

「どうぞどうぞ。カイです」

「ぼくはトロイア、よろしくお願いしますねカイ姉様」


笑顔で見上げられて、強いと確信すれば後ろから青白い炎が吹き出している。予想通りの人物。


「トロイア!てめーが落とし子様の妹だなんておこがましい!万死に値する!その格好はどーーーでもいい!だがそれはダメだ!」

「過激派だなー……あ、カイさんはこの格好お嫌いですか?」

「似合うし可愛いと思う」

「ほら!ほら!!お墨付き!」

「ある意味次元が違う相手だからなあ」


苦笑するマジョリタさん。自称オニーサンなのが寧ろオニーサン以上の雰囲気を醸し出している。年齢順はトロイアちゃんを最年少に次にカテーナくん、ルート姉さん、マジョリタさん。在籍歴で言うとマジョリタさん、ルート姉さん、トロイアちゃん、カテーナくんなんだそうだ。そして一番下っ端としてからかわれる対象のカテーナくんがこんなに強気で出ることもまた、珍しいらしい。


「ところでぼくの服からどんなコーデしてくれたのかな?」


パッと風に巻き込まれるような形でローブが巻き上げられる。魔法なんだろうなあとぼんやり考えていると、みるみるうちに涙目のトロイアちゃんに凝視された。主に胸を。

人並みよりは少しある程度、しかし華奢でスレンダーなトロイアちゃんからすれば結構傷付いたのだろう。十分美人に見えるけれど。

余談だが、トロイアちゃんの私物から私の服選びに困った一因として体格が近くて圧倒的に違う事が挙げられる。胸以外は寧ろ、スレンダー美人のトロイアちゃん。色々余り足りずに私も傷付いたから痛み分けにして欲しい。身長とか、細さとか。そしてあれが通常運転のトロイアちゃんの私服からこれだけ地味な服装を選んでくれた姉さんとモネさんに私は頭があがらなかった。流石に成人女性に魔法少女のコスプレは、化粧も何も無しではなかなかキツイ。

するともう慣れたのかモネさんが言う。


「少し……中立区間だけでも、散歩致しましょう。カイ様」


やっぱり反対したのはカテーナくんだった。しかも悲鳴のような大声で。

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