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僕と私の異世界革命  作者: 空原琉火
第一章 波乱の胎動
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第五話 明るき道と暗き過去

「おおお~! すっごいおしゃれな街並みじゃのう! なんだかパリっぽい! ……行ったことないけど!」


 ヨシノは僕の研究室にあったシャノンの紺色のロングスカートに明るい黄色のニットといういで立ちでくるくると回って目を輝かせている。短いのもよかったが長いのもまた、これはこれでいい。

 ……一方僕も今日はちょっとばかし服装を意識した。いつもはワイシャツにネクタイというようないかにも仕事、といった格好なのだが、今日はカジュアルなパンツ、そしてシャツの上には深緑のカーディガンを着てみた。この格好にはヨシノからもお墨付きをいただいた。なんでも、ヨシノの世界でもこういう格好は一般的なのだという。

 そんなことを考えているうちにもヨシノはどんどん先へ進んでしまう。今にも迷子になりそうだ。……まあ予想はしていたけど、案の定ヨシノはすごいはしゃぎっぷりだな。この子を一人で面倒見るのはなかなか骨が折れるかもしれない。


「まったく、ディエルも来ればよかったのに。せっかく久々の外出だっていうのに……」


 ディエルは相変わらず研究に没頭している。今日も誘ったのに一分一秒が惜しいといって全く付いてくるそぶりを見せなかった。昨日息抜きも必要だろうといったばかりなのにこれだ。まあ、焦るのはわかるし熱心になるのもいいのだが、メリハリって大事だと思うんだ。


「やっぱり街はもう一月後の弁論大会に向けて準備し始めてるみたいだな」


 いくら弁論大会が国の一大行事で、期間中街中がお祭り騒ぎになるとはいえ、一か月前というのはさすがに早すぎるんじゃないかと弁論大会のある年になる度に思う。今年もすでに大通りに面している店の多くはあわただしく人が出入りを繰り返している。それに加えて通常のお客も出入りするもんだから、通りは人々であふれかえっていた。まさに人がゴミのようだ状態である。

 リグアナルド共和国において、二年に一度の弁論大会は国家存亡にかかわるほど大事な行事だ。その理由はズバリ、リグアナルド大賞受賞者に対する待遇にある。リグアナルド大賞というのはまあ簡単に言えば最も素晴らしい研究成果を上げたで賞、だ。この大賞を獲得したものは、以降、最短でも二年間、リグアナルド共和国の首相となる権利を獲得できる。つまりこの大会は言ってみれば次期首相選挙、国の未来を左右する決定が執り行われるのわけだ。

 大賞の決定はリグアナルドに戸籍を持つ全国民の投票によって決められ、投票総数の過半数オーバーをすることが条件だ。ただし大賞を取ったからといってそのまま首相に、というわけではない。大賞を受賞したうえで、現在の首相が大賞を受賞した時の研究論文と比較し、より良いものを残した方に投票。一対一の選挙を行ってそこでも勝利を収めることで初めて首相となる権利が与えられる。それだけ狭き門なのだ、首相になるというのは。


「のおリオン。はようお店連れってってくれんか?」


 ヨシノがあまりの人ごみにうんざりしたのか、それとも僕が一人で考え事をしていたせいか、唇を尖らせて僕の服の裾をぐいぐいと引っ張ってきた。だからもう、いちいちかわいい仕草はしないでくれヨシノ。


「ああ、すまんすまん。……ほら、そこの角を曲がればちょっと人気のない、いいお店が並んでる通りに出るよ」


 お店を見つけた後のヨシノの動きは素早かった。ヨシノが初めに来ていたセーラー服のようなものはさすがになかったが、それでもヨシノは楽しそうに買い物をしていた。僕の格好が彼女の世界でも通ずるらしいことといい、案外こちらと向こう側では共通点も多いのかもしれない。

 それにしてもヨシノはよく買う。本当に楽しそうにしているから僕もそれで十分なのだが、現実は非情だ。みるみるうちに僕の財布は軽くなっていった。



 ――――――



 一通りの買い物を済ませた僕たちは昼食をとることにした。この国の人たちはみんな、どうにも食べ物に対する意識があまり高くないらしく、不味いとまではいかないにしても好んで食べるようなものはほとんどなかった。そんな中、僕やディエル行きつけの店はそれほど有名でないうえに味もいいという、いいことずくめなところだった。ヨシノにそれを言うとそこがいいと即答してくれた。


「あら、リオン! 久しぶりね! なあに、彼女さんができたの!?」


 行きつけの店、ロクソール食堂に入ると奥のカウンターの中にいた人物が声をかけてきた。その女性は長い黒髪を後ろで束ね、エプロンをしている。顔は整っており、おっとりとしたたれ目に泣きぼくろが特徴的だ。その顔はこれでもかというほどにセクシーさを醸し出しており、現に彼女目当ての客も何人かいるらしい。彼女、もといロクソール食堂の女主人の名前はエレティア。僕やディエルとは同郷だ。……年齢はいったいいくつなのだろう。僕が幼かったころからずっとこのお店の女主人として働いていたような……。


「別に彼女とかじゃないですよ。エレティアさんこそ彼氏、できました?」


「あらぁ~そおう? じゃああたし、リオンを彼氏にしちゃおうかしらぁ」


 エレティアがほほえみを一切崩さず華麗に切り返す、というかスルーしてきた。……ずっと笑顔なのが怖い。そんなに男に恵まれていないのだろうか。いや、やっぱやめよう。なんだかこの話をしてはいけないと、僕の脳が警告を出している。


「まさか、僕なんかにはもったいないですよ。……この子、ヨシノっていうんですけど、なにか美味しいもの出してやってくれませんか?」


「はいはい、任せて。じゃあ、そこの窓際のテーブル席に座って待っててね」


 言われたとおりに窓際のテーブル席に座る。するとヨシノがずっと気になっていたのか、質問をしてきた。


「そういえばずっと気になってたんじゃけど、研究室で食べてたのはどうやって作ってたん?」


「ああ、あれは即席魔法食って言ってね。小さな袋の中に材料と調理魔法が閉じ込めてあって、開くと勝手に調理されるっていう代物さ。僕ら学者にとってはもはや必需品だよね」


 昔は氷魔法でガチガチに凍らせたものを食べるときに炎魔法で無理矢理溶かすなんてめちゃくちゃな方法を使っていた。それに比べて最近は本当に魔法技術が進歩して便利になったものだ。


「あ、ここの料理は即席のじゃないから安心していいよ。エレティアさんがしっかり調理してるから」


 ……まあ魔法は使っているのだが。

 

「お、リオンじゃねえか! 久しぶりだなぁ!」


 ふいにかけられた声の方を向くと、テーブルの前にひょろっとした中年おやじ三人組が立っていた。僕と同じ言語分析学者たちだ。また面倒くさいのと遭遇してしまった。


「どうだい? 今度の弁論大会は。今度こそ大賞、狙えるといいなぁ! ……でも今度は妹はいないからなぁ。気を付けろよ?」


 何が気を付けろよ、だ。お前らが嵌めたくせに……。明らかに嫌そうな顔をしている僕を、ヨシノが心配そうに見ている。


「ん? その子、どうしたんだ? ……ああ、そうか。今度はそいつを犠牲にするんだな? なるほど、よく考えたなぁ流石だよ」


「このやろう……っ!!」


 頭のなかでぶちんという音が鳴り響いた。もう我慢できない、僕のストレスはピークに達した。僕はガタンと音をたてて立ち上がり、右手をこれでもかというほど握りしめた。


「やめなさい! あたしの店で問題を起こすのは!」


 振り替えると料理を片手にのせたエレティアが仁王立ちをしてこちらを睨み付けていた。先程までのにこやかな顔はそこにはなかった。


「そうだぞ、リオン。お店の人にも他のお客さんにも迷惑だ。さあ、おとなしくその拳をおろすん……」


「あたしはあなたたちに言っているんだけど?」


 エレティアが一喝。男達の顔からはへらへらとした笑いが消え、一気に悪人顔へと変貌した。


「お前、生意気だなぁ。それがお客様に対する態度か?」


「まだ注文もしてない人は客じゃありません。さっさとここから出ていくきなさい。さもなくば警察を呼びますよ? あたしの姉は警察官なの、呼んだらすぐに飛んでくるわ」


「……く、くそ! 覚えてろよ!」


 エレティアがまくし立てると男達はたじろぎ、典型的な雑魚キャラの台詞を吐き出して店から出ていった。それを見届けると、エレティアは大きなため息をついた。


「もう、気を付けてよね。気持ちはわかるけどもうちょっと我慢なさい」


 うう、ごもっとも。ついつい先走ってしまった。もういつもの事なのだから馴れなくちゃな……。


「……あ~あ。お料理、冷めちゃったわ。また作り直しましょうか」


 エレティアはその後、何事もなかったかのように、腕にのせた料理をもったまま厨房へと消えていった。


「のお、リオン。何があったのか、教えてくれんかのう?」


 気分を一気に害された僕を見つめてヨシノが尋ねてきた。じっと見つめてくるその目には、教えてくれるまでここから動かないという強い意思が宿っていた。

 ……はあ、正直あまり話したくはなかったが、この際もう仕方ない。僕はひとつ、大きなため息をついてから妹の、シャノンの話を始めた。

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