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僕と私の異世界革命  作者: 空原琉火
第一章 波乱の胎動
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第二話 始まりの邂逅

 そこにいた少女は肩までに切り揃えた、茶色がかったくせっ毛をふわりと揺らして、こちらを見た。彼女の見た目でまず気になるのはその服装だ。やたら短い濃紺のスカートを履き、上は同じく濃紺の襟付きシャツ。そして首には赤いスカーフのようなものを垂らしている。見たこともない格好だ。だが何だろう、この男心をくすぐるような可憐さは。僕はこんなこと考えている場合ではないとわかっていながらも少しの間、その格好に見とれていた。

 一方、不思議な格好をした少女が追いかけている動物は……何だろうか、やはり見たことがない。何ともいたいけな顔をしている。ぬいぐるみのようなフワフワとした毛並みを持ってワンワンという鳴き声をあげている。十八年間生きてきたが、僕はこんな鳴き方をする生き物は見たことがない。その時、僕はある可能性に気が付き、はっとした。


「……なあ、ディエル。この子、もしかして異世界から来たんじゃないか……? 変な格好してるし、何よりそんなぬいぐるみみたいな生き物、僕は見たことがない」


 まさか異世界を信じていない僕が、こんな発言をすることになるだなんて、誰が予想できただろうか。正直、今も異世界のことを完全には信じ切ってはいない。だが、目の前の事実を理解するには、異世界の可能性を考えることが一番現実的であった。つまるところ、信じざるを得ないのだ。この状況を理解するためには。

 僕が必死で現状理解をしようとする一方、部屋の入り口で呆然としていたディエルのもとに例の生き物が駆け寄ってきた。ディエルはというと相変わらず呆然としている。その生物がはあはあと息をしながら両の前足でディエルによりかかったがそれすらも理解できていないようだった。頭が完全にショートしている。

 ディエルは昔からなにかおかしなことが起こるとすぐに硬直してしまうきらいがあった。小さいころ、夜道を一人で歩いているディエルを脅かしたことがあったが、その時もこのようにその場で硬直。おかげで家に帰るのが遅れて、母親に散々叱られたのをうっすらと覚えている。


「あ、あの。ここってどこじゃろ? お兄さん方の家? だとしたら申し訳ないけ、すぐに出ていくけん、許してくれんかの?」


 少女が不安げな表情で何か言った。聞いたこともない言葉を話している。僕は言語分析研究をしている。その僕が言うのだから間違いないだろう。

 ……これはもう確定でよいのではないだろうか。この子は異世界から来た。もはや僕にはそうとしか考えられなかった。だとするならば……。つまり異世界研究は成功した、本当に存在していた、というわけだ。にわかには信じられないが、僕の頭ではもうそれ以外の可能性は考えられなかった。


「おい、ディエル! 君は正しかった! 異世界は本当にあったんだ! これで……ようやく……!!」


 興奮のあまりディエルの両肩を掴んでぐらぐらと揺らす。するとようやくディエルが戻ってきた。


「イセカイ……? ……はっ! そうだ! ゲートはどうなったんだ!?」


 異世界との連絡口、ゲート。そこからこの異世界からの客人たちはやってきたのだ。だが、ディエルが部屋のいたるところを見回しているがそれらしいものは見当たらない。いくつもの怪しげな実験道具がきれいに並んでいるだけだ。まさか、この子たちがやってきてから消えてしまった、という事か?もしもゲートがなければこの子たちは元の世界へと戻れない。

 では再び開けばいいのではないか。そう思ってディエルに尋ねると、より深刻そうな顔をして答えた。


「ゲートを開くにはそれなりの魔力量が必要になる。魔力をためるにはかなり時間がかかる。少なくとも今すぐに再びゲートを開くことは不可能だ」


 僕はそれを聞いて、少しだけ安心した。もう二度と、ゲートが開かないという訳ではないらしい。見ず知らずであるとはいえ、こんなに若い人の人生を、僕らの都合で大きく変えてしまうのはいただけない。ほかの人の人生を、僕のせいで変えてしまうという事には強い抵抗があった。この世界にやってきた時点ですでに変えてしまっているのだが、何とか影響は最小限にとどめたい。


「ともかく、魔力が再び貯まったらもう一度試してみよう」


「ああ、ゲートの問題は君に何とかしてもらうしかないな。宜しく頼む」


 僕とディエルは互いにうなずき合った。いろいろな問題はあるが、何よりも成功したという事実が僕たちの気分を高揚させていた。僕のテンションがこんなにあがったのはいつ以来だろう。そう悩むほど久しぶりだった。


「おーい、お兄さん方? 私のこと無視せんでもらえんかな。放置プレイとかたちが悪いのう……」


 少女が手を振りながらまた何かを言った。ああ、そうだ忘れていた。この子を何とかしなければ。……といっても言葉が通じないというのはかなり厳しい。異世界人ともなると、ジェスチャーで何とかなる、という訳にもいかないかもしれない。僕らが彼女のことを知らないように、彼女もまた僕らのことを知らないのだ。僕はちょっと悩んでからディエルに提案をした。


「なあ、とりあえずこの子とコミュニケーションをとってみようと思うんだ。すぐには無理かもしれないけど、いろいろやってみるから手伝ってくれないか?」


 ディエルは顎に手を当ててなるほど、と相槌をうってから首を縦に振った。僕にとってこれは久々の仕事だった。出会ってすぐにコミュニケーションをとるというのはなかなか難しいことだが、コツのようなものがあるということはわかっていた。なにせ今まで数多くの言語を翻訳してきたのだ。それを生かせば多少は何とかなるかもしれない。

 僕の専門、言語分析は世界中の様々の言語の翻訳作業だとかをする分野だ。……最近はあまり活動はしていないがこれでも僕は言語分析専門の学者の中では割と有名なほうで、言語分析学者リオン=ヴィタドールといえば、地理歴史分野に精通する人たちの半分くらいはああ、あいつか、と気がつく……と思う。実際はどうだかわからないが、別に調べたって仕方ないし、調べるつもりもない。正直知名度なんてなくったって、実力さえあればこの世界は生きていけるのだ。


「さてと、久々に頑張るか……!」





 コミュニケーションをとることに挑み始めてはや一時間。僕たちの努力は一向に結ばれなかった。僕が思っていた以上にこれは難しい問題なのかもしれない。ほぼ完全にと言っても過言ではないほどに意思疎通ができなかったのだ。


「頼むよリオン! 専門分野だろう、何とかしてくれ!」


 ディエルが情けない顔をしてこっちを見てくる。そんなこと言われてもこればかりはどうしようもない。ジェスチャーをしても彼女の反応は微妙なものばかりだった。当たり前といえば当たり前だ。なにせ世界が違うから、僕らとこの子では持っている常識が違う。やはり世界が違うというのはコミュニケーションをとることの大きな障害となった。

 さっき少しだけ簡単な魔法を見せた時も彼女は目を丸くして驚いていた。誰にでもできるような初歩中の初歩の魔法だったのに驚いたということは彼女の世界には魔法自体存在していないのかもしれない。


「へえ~、お兄さんたちスッゴイ腕利きのマジシャンなんじゃね! トリックがまるで分らんかったわ!」


 ぬいぐるみのような小動物を抱えてあぐらをかいている彼女は、まるで見世物でも見ているかのように、ものすごく楽しそうに目を輝かせていた。


「べつに見世物じゃないんだけどなあ……」


 僕の気持などお構いなしに笑う彼女の可愛らしい笑顔が輝かしくて目がまぶしい。それを見ているとなんだか意思疎通ができないことなんて、どうでもよくなってくる。


「やっぱりだめみたいだ。……もう、今日はやめよう。毎日地道にやっていく必要がありそうだ」


 僕がそうつぶやくとディエルも同じ思いだったようだ。無言でうなずいた。何のことだかさっぱり、というように少女はきょとんとしている。


「もう日も暮れるころだしまた明日にしよう。とりあえずディエルはゲートの再開通を目指して。僕は彼女の言葉を分析して早いこと会話できるようにするってことで。あと異世界の存在はくれぐれも内密に。今騒がれたら厄介だ。……それじゃ今日はもうお開きにしよう」


 彼女をどこに寝泊まりさせるかについてはひとまず僕の研究室で手を打った。幸い僕の研究室にはベッドが二つある。若い男女が同じ部屋で夜を過ごすというとかなり危険なにおいがしてならないがこの際仕方がないだろう。僕の理性という名のダムが決壊しなければおそらく大丈夫だろう。……大丈夫だろう。



 こうして僕たちと異世界の少女……と謎の生物は出会った。そして何より、異世界の存在が確認されたのは非常に大きい。こちらに早速異世界人が来てしまったこと、その異世界人らとの意思疎通が難しいこと、そしてゲートが消失してしまったことを除けばこれは大きな進歩だ。後は一か月後、この事実を証明して世間に公表すれば、僕らの目標は達成される。そうすれば故郷を取り戻せるはずなのだ。そうすればあいつのことも救える。


「……待っていてくれ、シャノン」


 隣のベッドで寝ている少女のすうすうという寝息を聞きながら窓の外を眺める。そこにはきれいな満月が輝いていた。

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