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僕と私の異世界革命  作者: 空原琉火
第一章 波乱の胎動
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第十六話 重い扉

「参ったな。……どうしたもんかな」


 僕は研究用デスクの前に座り、手元にあるクロエラの餞別に目をやっていた。例の探索魔法が付与された紙だ。僕はその範囲内に青い点を見つけたが、問題はその場所だった。


「ディエル……。やっぱりお前なのか……」


 青い点が打たれていたのはディエルの研究室。クロエラの魔法のおかげで階層ごとに切り替えもできるようになっているから少なくとも場所に間違いはない。

 正直そんなことは信じたくはなかったが、大森林にいなかった時点でなんとなく予想はしていた。していたが……。


「あいつがそんなことをしたなんて、信じたくないが……」


 僕がため息をついているその向こうのベッドではシャノンとヨシノが眠っている。僕の研究室にはベッドが二つしかないから先ほど、帰って来るや否やベッド争奪戦が始まりかけた。そこで仕方なく僕が身を引き、二人に譲ったのだ。そのため僕の今日の寝床はソファの上だ。若干寝づらいものの、二人掛けだったおかげで横になることはできる。少なくとも床の上よりはずいぶんましだろう。

 研究室に戻ってから、シャノンには大体のことは説明をした。ヨシノが異世界から来た人間だということ、今は彼女の家族、ミコを捜しているということ、そして異世界の存在は絶対に公表してはならないということ。今月に入ってから、本当にいろいろなことがあった。説明しながら僕はそう思った。


「……と、いけないいけない。今考えなくちゃいけないのはこれからのことだった」


 僕が思うに、ディエルがミコをさらった理由はおそらくヨシノを調べるためだ。あれからディエルは結局、ゲートを開くことはできなかったのだろう。……それもそのはず、ゲートは満月の上る日にしか開通しない。ひょっとすると、ディエルは条件が何にせよ、今は開けないということに気がついたのかもしれない。そこでミコを攫い、ヨシノをおびき寄せようとした。直接言わなかったのは僕が猛反対をすると思ったからだろう。ディエルにも後ろめたさがあったに違いない。……そう思いたい。


「やはり一人で行くべきか」


 ヨシノは今でもディエルのことを信じているようだったし、目的がヨシノである以上一緒に行くのは得策ではないだろう。シャノンにしても、ディエルに会いたがっているとは思うが、そんな再会に水を差すのは気が引ける。ここはやはり一人で行くのが得策だろう。


「それからこいつを……」


 僕は研究用デスクの一番下、鍵付きの引き出しに懐から出した鍵をあてがった。この引き出しを開くのは実に二年ぶりになる。

 カチャリと小気味いい音を立てて鍵が回る。僕は引き出しを開き、中から分厚い紙の束が入った封筒を取り出した。取り出したのは二年前の論文、この国の汚点にまみれた論文だ。今度の弁論大会、僕はこれに加えて二年前のもみ消しを追加するつもりだ。こうなるともはや論文ではなく、ただの告発文でしかないが、世間に与える影響は絶大だろう。


「これを見せれば、ディエルは僕に託してくれるだろうか……」


 モルスとの、異世界の存在を公表しないという約束を守るためにはディエルに今回の弁論大会を諦めてもらう必要がある。長年身を注いで、ようやく出た結果を公表するな、なんて言われたら普通は怒り狂うだろう。僕は最悪の場合、力でねじ伏せる必要もあると思っていた。幼馴染にそんなことをするのは心苦しいが、ためらっている場合ではないのだ。もう、立ち止まるわけにはいかない。

 僕は論文を元の場所にしまい、鍵をかけた。今日はもう遅い。ディエルは起きているかもしれないが、クロエラに連絡をしてからディエルに話をするつもりだった僕はそのまま、今日の寝床のソファへと寝転がった。明日、ディエルを説得する。


「故郷は取り戻せても、もうあのころには戻れないのかもしれないな……」


 僕のつぶやきは薄暗い闇の奥へと消えていった。





 翌朝、僕は研究室にヨシノとシャノン、それにピールを残してディエルの研究室へと向かうことにした。ヨシノとシャノンの間柄はどうもピリピリしているような気がして不安はあるが、そこはピールに任せよう。年長者なのだから何とかしてくれるはずだ。

 出発前、僕は二人と一羽に内容が聞こえないようクロエラさんに通信魔法を繋いだ。通信魔法はいわゆる脳波を飛ばして繋ぐため、使える人と使えない人がいる。ディエルなどは使えないため、地味に苦労しているらしい。ゲートが開通した時にわざわざ僕の元を訪ねてきたのもそのためだ。


「……あ、クロエラさんですか? リオンです。お久しぶりです、といってもほんの一日ぶりですか」


 僕が空中に向かって話しかけると脳に直接、クロエラさんの声が響いた。


「ええ、昨日ですからね。あれからお体の具合は如何でしょうか」


「おかげさまでもう何ともありませんよ。あの時は本当にありがとうございました」


 僕は相手にはわからないのに頭をぺこぺこ下げながらお礼を言った。


「私共にも非がありましたから、お気になさらず。……ところで、ご用件があるのでしょう?」


「ええ、実はですね。僕の友人で異世界を開いた張本人、ディエルをしばらくそちらにおいて欲しいのです。というのも、おそらく彼は異世界の存在の公表を何としてでもしようと思っています。モルスさんとの約束を守るには彼には無理にでも黙っていてもらう必要があるんです」


 僕の依頼にしばらく沈黙をしていたクロエラは、間を置いてから返事を返した


「分かりました。では、今日明日のうちにそちらに向かい、ディエル様を確保いたします。その時は宜しくお願いします」


 そういってクロエラは通信魔法を早々に切った。おそらくすぐにでも準備を始めるのだろう。

 僕はやることを済ませ、意を決して研究室を出た。手元の鞄には探索魔法紙と論文が入っている。

 ディエルの元に向かう途中、僕はこれまでのことを再び思い出した。ヨシノがやってきてから思いもよらぬ方向に話は進み、そしてついにここまでやってきた。このディエルの説得がこれからを左右する。

 こうして僕は、ディエルの研究室の扉の前へとやってきた。今まではあれだけ気軽に開くことのできた扉が、まるで鉄でできているかのように重かった。

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