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僕と私の異世界革命  作者: 空原琉火
第一章 波乱の胎動
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第十二話 護るための嘘

 十年前、弁論大会にて一人の発表が大きな波紋を呼んだ。


「異世界という存在は我々人間の空想の産物でしかなく、そんなものは世界中を血眼になって探したとしても見つかりません。存在しないのです」


 その男、モルス=ライドブーケはたったその一言で、それまでの自らの研究を全否定した。モルスの名前は国を超え、世界でも一躍話題となり世間をにぎわせた。モルスはその弁論大会にて見事に大賞を受賞したが、首相選挙は行わずに辞退した。

 それからしばらくした頃、世間の関心はすっかりほかのものへと向いた。所詮国民の関心なんてものは常に一過性。モルスのことを気にする人間はすでにいなくなっていたし、異世界の存在はあっという間に幻想と化した。モルスも異世界も、国民にとって、もはや過去の事にしか過ぎなかった。





「私は大賞を受賞した。だが同時に多くの敵を生み出してしまった。当然のことだが、異世界研究をしていた者たちからは猛バッシングを受けたよ。いきなり自分たちの仕事を奪われたようなものだ、彼らの怒りは尋常ではなかった」


 モルスはクロエラの入れなおした飲み物を飲んでから、小さくため息をついた。


「私は街にいる間、何度も殺されかけた。私はもうこの街にはいられないと悟り、この人がよりつかない大森林に住むことにしたのだよ。……そして君が疑っていたようにクロエラはただの使用人ではない。もともとは街にいた頃に雇っていた護衛だ」


 なるほど。どおりで凶暴な生き物から僕たちを守り、そのうえ傷まで治すことができたわけだ。……そういえばあの、ライオン、とかいう生き物は何だったのだろう。モルスは異世界はないといったはずだが、一体どういうことなのか。


「あの、話は変わりますが僕が襲われたあのライオン、という生き物は一体何なのでしょう」


 モルスは待っていたといわんばかりににやりと笑った。


「リオン君、だったかな。……君にはすべて話そう。付いて来たまえ」


 そういってモルスは立ち上がると、部屋の外へと出て行った。僕もそのあとをついていく。ヨシノも僕の後をついていこうとしたが、クロエラがそれを引き留めた。


「ヨシノ様には私から話があります。よいでしょうか?」


 僕たちが飲んでいたカップを危なげに重ねながら片づけているクロエラを見て、僕はなんとなく察した。


「……ヨシノ、クロエラさんを手伝ってやってくれ」


 ヨシノは少し不満そうな顔をしたが、今にもカップを落としそうなクロエラを放っておけなくなったのか、片づけの手伝いを始めた。それを目で確認してからモルスの後をついていくと、僕たちはひとつの部屋へとたどり着いた。


「ここが私の今の研究室だ」


「……っ! これは!」


 モルスが扉を開くとそこにはディエルの研究室とよく似た機材や実験道具などがあふれかえっていた。


「まさかここに人を通すとは思っていなかったからね、汚いままですまない」


 モルスは照れくさそうに頭の後ろをかきながら言った。


「……あの、異世界の研究はもうやめたんじゃないんですか?」


 あのとき、モルスは自ら異世界はないと断言した。なのになぜ、ここには異世界の研究機材がそろっている。これは一体どういうことなのか。


「確かに私は異世界はないと発表はした。……だがね、あれは知っていてついた嘘なんだよ」


「嘘!? 一体、どうしてそんなことを……」


 結果的に大賞はとったものの、多くの人間から恨みを買うことは予想できたはずだ。なのにどうしてモルスはそんなリスクを冒してまで嘘をついたのだろう。


「私が嘘をついた理由、それは異世界の人間を守るためだよ」


「守る……ため?」


 モルスはうなずいて、機材を弄りながら事の真相を語り始めた。


「当時、世間では異世界研究がブームとなり、本当に多くの人が研究を進めていた。いち早くゲートを開通させた私は、そこからやってきた少年を研究発展に役立てようと、研究室の地下牢に閉じ込めた。そして少年がやってきてから数日がたったある日のこと。……少年は牢の中で自殺していた。言葉がわからないうえに、研究のためにいろいろなことをされる毎日がとても耐えられなかったのだろう。私はそこでようやく目を覚ました。異世界人だって同じ人間で、私はそれを殺めてしまった人殺しだと気が付いたよ」


 話を続けるモルスの顔は、後悔の念で満ち溢れていた。……この人は今でもそのことを、人殺しの罪を後悔しているのだと感じた。


「私はそれから思った。我々は異世界に干渉してはならないのではないかと。人間は愚かだ。みな、異世界人を知ったら奴隷のように、労働力としてしか見ないのではないか。私は自らの過ちからこのことを危惧した。そして決めたのだ。異世界の存在を幻想にしてしまうことを」


「……じゃあ、どうして今またこうして異世界の研究をしているんですか?」


 異世界の存在を幻想にするといった本人が研究を続けているという事実に僕はいささか矛盾を感じた。


「もしも。もしも、再び異世界のゲートを開くものが現れたとき、私のような過ちを犯してほしくないのです。そのためにも、何か手立てを打たなくてはならない。私がいま行っているのは君のように異世界を見つけてしまったものをどうするか、ということだよ」


 ……まさか僕を、異世界の存在を知った僕らを消すつもりなのだろうか。僕は背中に一筋の汗が滴るのを感じた。僕の顔がこわばっていたのか、モルスはふっと安心させるように顔を微笑ませた。


「別にリオン君を殺すなんてことしないよ。最初は君の記憶を消そうなんてことも考えたがやめた。……リオン君はどうやら私とは違うらしい。ちゃんと彼女のことを一人の人間と見て、交流している。人間もまだまだ、捨てたもんじゃないのかもしれないな」


 モルスはそうやって笑いながら、僕の方を改めて見つめた。そして真剣な顔になってからこういった。


「ただ、一つだけ約束してほしい。異世界の存在を世間に公表することだけはどうか、やめてくれないか」


「……わかりました。約束します」


 僕がそう言うと、モルスは心の底からうれしそうな顔をした。


「ありがとう。君に会うことができて、本当によかった。……それから、君を怪我させてしまったライオン。あいつも私が異世界から連れてきてうっかり逃げられてしまったやつなんだ。私の責任だ、本当に申し訳ない」


「あ、いえ。もうこの通り治してもらいましたから。……あの、話は変わるんですが、僕からも一つお願いがあります」


「お願い? 私にできることなら何なりと言ってくれ」


「ありがとうございます。……ヨシノを、ゲートを開いて元の世界へ帰らせてくれませんか? ……ヨシノがやってきて以来、僕の友人がずっと研究しているんですがあの時から一向に友人の研究所のゲートが開かないんです」


 僕の中で、これからどうするかということがだんだんと定まってきていた。その中の一つが、ヨシノを元の世界へ帰らせることだ。ディエルが帰すことができないなら、モルスに帰らせてもらうしかない。僕が尋ねると、モルスはきょとんとした表情になった。


「そうか、知らないのか。……ゲートが開くのは満月の昇る日だけだよ。それ以外の日はどんなに頑張ったってゲートは開かない」


 僕はヨシノがやて来た日の夜を思い出した。……確かにあの日はきれいな満月が空に昇っていた。まさか、あれも条件だったのか。


「それから、ゲートの座標は異世界とも連動している。だからヨシノを帰らせるためにはここではだめだ。……力になれず申し訳ないが、君の友人の研究室を使うしか手はないだろうな」


「……そうですか。わかりました。ありがとうございます。……あと、もう一つだけいいですか?」


「何だい?」


 僕のもう一つの目的、故郷を取り戻すために必要不可欠なこと。


「モルスさんは十年前、どうして弁論大会であんな批判を浴びるような発表ができたのですか? ……僕も似たようなことがあったのですが、その時はもみ消されてしまったんです。僕は何としてでも大賞を取らなくちゃいけないんです。教えてください」


 モルスはああ、と言ってすぐに答えを教えてくれた。


「それはだね…………」





 同じころ、ヨシノはクロエラと二人きりになった客間で話を聞いていた。


「……この森にヨシノ様の家族はいません」


「えっ!? ……どういうことじゃ」


 クロエラは危なげな手つきで、緑茶を入れなおしたカップを口に運んでから語り始めた。

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