プロローグ
――異世界。
いつからとも、また誰からとも知れず、そんな名前の別の世界が存在する、とはるか昔から人々は信じてきた。決して明確な根拠や証拠の類があるわけではない。ただ、昔から人々が存在すると言っていたから、文明が発展した今でさえ信じられている。……いや、信じられていた。
晴れとも、曇りともつかないような、微妙な天気のある日。高い気温の外側と隔絶された涼しく、広々とした空間にて。一人の学者が大勢の人々に向けて、こんな言葉を発した。
「異世界という存在は我々人間の空想の産物でしかなく、そんなものは世界中を血眼になって探したとしても見つかりません。存在しないのです」
異世界、それは人々にとってあこがれの存在であり、夢でもあった。そんな夢を目指して多くの人間が異世界を探し求めて研究をした。たとえ確たる証拠がなくとも、希望を抱いた人々のやる気は削がれない。だがそんな人々の希望を、この男は三十秒にも満たない、短い言葉で打ち砕いた。この発言をしたのは異世界研究の第一人者と言われていた男。異世界研究の最先端を行く人物が存在を完全否定したという事実は夢見心地でまどろむ人々の目を覚ますのにはあまりにも十分すぎた。
人間という生き物は熱しやすく冷めやすい。それを表すかのように、多くの学者たちはその瞬間、異世界研究から手を引いた。こうして古くから語り継がれ、信じられてきた異世界という存在は、世間においてもはやお伽話の存在でしかなくなったのだった。




