ゴミ箱
最初に言っておきます
途中で飽きた為、後半のほうはかなり手を抜いたのでがっかりするかもしれません。
それでも良いと言う方はどうぞご覧ください。
「由紀、何してんの?」
「きゃっ!?」
背後から声をかけられて、私はバランスを崩してしまった。
――バキッ、ドスン
「痛たたた……。もう、急に声かけないでよね」
お気に入りのジーンズのお尻に引っ付いてしまった埃を払い落とすと、私は振り向いた。
そこには目を丸くしたお母さんの姿があった。
「大丈夫? 怪我してない?」
「私は大丈夫だけど……あーあ」
さっき妙な音がしたと思ってたけど、私が踏み台代わりにしていたプラスティック製の古いゴミ箱は哀れにも大きく欠けてしまっていた。……もう使えないわね。
「戸棚の上からアルバムを取ろうとしてたの。――そこに落ちてるヤツ」
「ふーん、急にどしたの? アルバムなんて」
「最近できた友達と丁度そんな話になっててさ、お互い見せ合おうって」
お母さんはふうん大して興味もなさ気にそう言うとアルバムを拾い上げて埃を払った。
「しっかし、どうしたもんかね。もう私のゴミ箱これしかなかったのに」
「あんたが踏み台に使うからよ。適当に買ってきなさい」
母さんが呆れたようにそう言った。
「はぁい。んじゃ、私はみっちゃんと遊んでくるから」
「はいはい、あんまり遅くならないようにね」
お気に入りのバッグを引っつかんだ私は、その声を背に家を飛び出した。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「あー、歌った歌った!」
「ほんとにね……あたしカラオケで五時間も歌ったの初めてよ。しかも二人で」
みっちゃんは呆れ顔でそう言うと、喉をさすりながら『あー、あー』と発声練習を始めた。
「あはは、声かれちゃってるね」
「ったく、あんたの所為だからね。もう……明日デートなのにぃ」
ぶつぶつと愚痴を言い始める彼女に、私は苦笑するしかなかった。
「カレシ持ちはいいわねぇ。……あ、ここでお別れだね。じゃ、また月曜日!」
「うん、またね!」
私たちは手を振ると、分かれ道をそれぞれ進んだ。
「……そう言えば、ゴミ箱買わなきゃいけないんだっけ」
私は近くのスーパーへ向かおうとした。
「――あれ?」
ふと気がつくと、道端にブルーシートを敷いた上にいろんな物が並べてあった。
……そして、そのシートの中央にはおじいさんがこっくりこっくりと船を漕いでいた。
「おじーさん?」
なんとなく気になった私が声を掛けると、おじいさんははっと目を覚まして私を見た。
「……おお、譲ちゃんおはよう」
「いや、もう夜だけどね?」
もしかして朝からやってて……一日中寝てた?
「ははは、またやっちまった。よくあるんだよこういうの」
「あ、危ないですから気をつけてくださいよ? ……で、何やってるんですか?」
おじいさんは大きなあくびをすると、ブルーシート上の物を指差した。
「見りゃ分かるだろうよ、お店だ、お・み・せ!」
かっかっかと快活に笑うおじいさん。
……あなたが寝てちゃ、店の物取られちゃっても仕方ないわよ?
「しかも、近頃はやっとる全品百円の百円均一だ!」
「えええっ!?」
お、おじいさん。どう見ても百円じゃ買えないものが大半を占めてるんですが。
「噂じゃ百円ショップとやらは儲かるらしいからのぉ!」
「い、いや、原価以下で売っちゃどう頑張っても儲からないよ!?」
この掛け軸とか、木彫りの熊とか、この模造刀とか……。
「なぬっ!? そ、それは盲点じゃったな、ふぉっふぉっふぉ!」
「はあ……危ない所でしたよ。……あ、このゴミ箱かわいい」
ふと見ると、ちっちゃな小鳥が装飾された真っ黒なゴミ箱があった。
「おお、お目が高いねお譲ちゃん。その漆塗りの屑篭が気に入ったのかい? どうだね」
う、漆っ!? 絶対高いじゃんそれ!
「え、遠慮します。そんなにお金持ってないんで」
「なあに、いい事を教えてもらったお礼だ、百円で売って差し上げよう」
「え、ホント? じゃあ、買います!」
私が嬉々として百円玉を差し出すと、おじいさんはにっこりと笑った。
「そら、持っていきな。大事にしてくれよ」
「うん、ありがとうおじいちゃん!」
私はそのゴミ箱を抱えると、軽い足取りで帰路を辿り始めた。
―
――
――――
「……さて、もう遅いし帰るとするかな」
由紀の背中が見えなくなったところで、老人はそう呟いた。
「厄介払いもできた……くっくっく」
不気味に笑った老人は品物を袋に収納すると、夜の闇に溶けたかのように消えた。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「ただいまお母さん。……今日の夕飯なにするの?」
家に帰った私はいつも通りの挨拶を済ませると、キッチンへと向かった。
「お帰りなさい。今日はグラタンにしたわ、後で手伝って頂戴」
「えー? 今から見たいドラマがあるのに……」
しかも最終回だから絶対に見逃すわけにはいかないし!
「ビデオ撮っときなさい……あら、これまた渋いゴミ箱買ってきたのね。高いんじゃない? 」
「へへ、いいでしょ。おじいさんの百円均一だったんだよ?」
お母さんは布巾で手を拭くと、そのゴミ箱を持ち上げて眺めた。
「まあ、漆器じゃない。いい買い物したわねぇ」
「うん、ラッキーだったの。じゃ、ちょっと待ってて。ビデオ準備したら手伝うから」
「はいはい、早くしてね」
私は居間へ行くと、録画の設定してキッチンへと戻り、夕飯の支度を手伝った。
「あー、ビデオとったの忘れてた……」
お風呂上がり、ほっこりした頭でそんなことを考えたけど既に時刻は十二時半。
――ちょっと長風呂しすぎたかな?
「まあいいや、明日見ようっと」
自分の部屋に戻ると、部屋の中央で今日買ってきたばかりの黒いゴミ箱がちょこんと座っている。小鳥の模様に一瞬顔を綻ばせると、私は電気を消してベッドに潜り込んだ。
――あのゴミ箱を買ってから、一週間が経った。
しかし、あのゴミ箱はどうもおかしいみたいだった。入れた筈のゴミがいつの間にかなくなっているのだ。始めはお母さんが勝手に捨ててるんだと思ってたけど、どうも違うらしい。
「じゃあ何でゴミ箱の中身が消えるんだろ……」
首を捻ってみても、何も答えは出なかった。……ま、いっか。捨てる手間も省けるし。
……今思えばそれを放って置いたのが、間違いだったのかもしれない。
ついに、事件は起きた
「何よ……これ」
部屋に入ってすぐ、異変に気がついた。
私の部屋にあった物が、すべて消えていた。
――例のゴミ箱ただひとつを除いて。
薄暗い部屋の真ん中で、ぽつんとたたずむ漆黒の筒。
かわいいと思っていた、小鳥の彫りですら、不気味に見えて仕方がない。
「……もしかして」
私が近づき中を覗き込むと、そこには何もなく底知れない“闇”が渦巻いていた。
恐る恐る、中へ手を突き出す……と。
「――――ッ!?」
何かに、腕をつかまれる感触があった。
私はなす術もなく、ゴミ箱の中に潜む“闇”へと引きずり込まれていた。
駄作でしたが、もったいないので載せてしまいました。
ごめんなさい。