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人物紹介およびルール説明 (2)

「参加者以外の応援は禁止ということは、参加者同士の協力はありなんだね?」


 そう言ったのは成宮だった。


 川瀬と笠松は無意識のうちに目配せをし、頷き合った。そして代表して川瀬が問いに答えた。


「その通りです。でも、承知の通り勝者は一人ですから、最終的には自分以外は敵になります。そこまでの過程において、強敵を誰かと共同で蹴落とすというのは戦略としてありですね」


「分かったよ。ありそうな展開だと一人の手を数人で引っ張るといったところかな」


「そうですね。あと、協力し合う戦略について他にもこんなものが考えられます」


「ほう、どういったものかな?」


「先程も言った通り、勝敗を決せないまま終了時刻を迎えると全員死んでしまいます。なので、それを避けるために時間が差し迫った場合、他のゲームで勝敗を決めるんです」


「他のゲーム、ですか?」


 笠松が尋ねた。


「はい。シンプルなところだと、ジャンケンですかね。全滅しないために、生き残った者同士で穏便かつ公平に手を離す人を他のゲームで決めるんです。ある意味、共同戦略ですよね」


「その例えで言いますと、ジャンケンで負けた場合は手を離すということですね。しかし負けた人がそれを本当に執行しますか? サバイバルホラーゲームのルール上は手を離さない限り負けにはならないのですから」


「そこは……個人の裁量によりますね……」


 歯切れ悪くそう言うと、成宮が深く頷いて口を開いた。


「つまり、それもブラフだろ? 他のゲームを敵に持ち掛け、ゲームに勝って手を離して貰えれば大成功。仮に負け……」


「成宮さん」


 川瀬は成宮の話を遮った。


「はいはい……」


 笠松は納得した様子だ。


「あのー。それで、終了時間は何時にするんですか?」


 山本が不安そうな面持ちで尋ねた。

 その質問を聞いて川瀬は全員に対し提案を行なった。


「今は十九時過ぎか……取材の時間も含めて二十一時に終了でどうですか?」


 すると、樫木がいやらしい笑みを浮かべながら答えた。


「俺は十二時くらいが良いっすね。せっかくなら時間を掛けてでも勝敗がついた方が面白くないっすか?」


 樫木の提案に対し、余程暇なのか、武田が賛成する。


「俺も暇だから、十二時でも良いですよ」


 やり取りを聞いた山本は困った顔をした。


「私も十二時で賛成だな」


 成宮が笑いながら言った。


「ちょっと、成宮さん……」


「まあまあ、川瀬君。こんな実験をする機会はなかなかないのだから徹底的にやり込もうじゃないか。分かるね? それだけ次回作に期待しているんだよ」


 そう言うと彼は川瀬の肩を叩いた。

 川瀬が反論をしようとした時、笠松が話をまとめ始めた。


「私も時間は何時でも良いので、深夜十二時を終了時刻としましょうか。山本さんも、それで良いですか?」


「は、はあ……」


「大丈夫っすよ。俺達は車っすから、遅くなったなら送っていくっす。だからさあ、久美ちゃん安心して」


 樫木の目当てはそれだったか。川瀬は思った。考えてみれば、樫木のような人間が目的もなくこんなゲームに積極的に参加する訳がない。

 それを咎めるように川瀬は言った。


「樫木さん、さっきは飲みに行くって言っていましたよね。運転するのはまずくないですか?」


「それは、ほら、あれっすよ……」


 意味が分からない。


「……それより先生、ここ、タバコ吸っても良いっすか? 灰皿置いてあるっすけど」


 川瀬からの指摘をはぐらかし、樫木は、テーブル中央に置かれている灰皿を指差して言った。ガラス製のいかつい灰皿だ。サスペンスドラマでは鈍器と呼ばれることもある、それだ。


「あ、はい。この部屋は平気ですので、どうぞ……」


「じゃ、失礼しゃーす」


 ジーンズのポケットからショッポを取り出し、火をつける。長いこと我慢をしていたのか、樫木は息を深く吸い込み、溜息をつくように紫煙をくゆらせた。


「さて、では終了時刻は深夜十二時で決定ですね」


 笠松が念を押すように言った。


「何か賭けますか?」


 武田が提案する。


「飯をおごるとかっすかね?」


 樫木が話に乗った。


 その二人に対して川瀬は落ち着いた調子で反論を示した。


「それはサバイバルホラーゲームの趣旨と異なります。既に命が懸かっているんですから」


「でも盛り上がらないっすよ」


「それに実際に死ぬ訳にもいかないしな」


 樫木と武田は気が合うようだ。

 山本が発言する。


「だけど、このメンバーで集まることなんて今後はないですよね? 食事をおごるのは難しいと思いません?」


「俺はまたここに来ても良いっすよ。それか、やっぱり今夜飲みに行くっすか?」


「俺もいつでも食事に行けるぞ」


 川瀬は唸り声をあげた。


「うーん……まず、負けた人は死人ですからゲーム終了まで口を利いてはいけません。一種の罰ゲームですね。で、勝った場合についてですが、勝者は僕の次回作のメインキャラになる権利を得られるっていうのはどうですか?」


 その案に最も興味を示したのは、意外にも笠松だった。


「先生、それは例えば私が勝者になった場合、うちの雑誌の名前なども掲載して頂けると捉えて良いですか?」


「はい……希望であれば」


「是非それにしましょう。皆さんはどう思われますか?」


 他の参加者達は関心がないようであったが、取り分け反対する理由もなく、笠松の問い掛けに対して静かに頷いた。

 笠松は満足げに笑みを浮かべ、話を続けた。


「以上で詳細なルールは出揃いましたでしょうか。お時間を頂戴して申し訳ありませんでした。一応、まとめたものを提示しておきます」


 そう言って彼は手帳を全員に見えるように広げた。

 そこにはゲームのルールが箇条書きで簡潔に綴られていた。手帳を押さえずに片手で書かれたものにも関わらず、繊細で綺麗な字だ。


 笠松はそれを示しながら内容を読み上げた。



「サバイバルホラーゲームルール


 ・テーブルの天板に左掌を置いた者をゲーム参加者とする。

 ・テーブルの天板から左掌を離した者は死に至る。

 ・生き残りが一人になった時点でゲームは終了する。

 ・深夜十二時までに勝敗が決しない場合は全員死亡する。

 ・参加者以外の者に助けを求めてはいけない。


 ※シミュレーション時の付記事項

 ・倫理上、殴る蹴る行為は禁止とする。

 ・勝者は川瀬氏小説の主な登場人物になる権利を得る。

 ・敗者はゲーム終了時まで口を利いてはいけない。


 異論はないですか?」



 その場にいる全員が大きく頷いた。



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