その後のこと
窓から日が差し込む。
沢渡は、打ちつけた頭を押さえながら体を起こした。階段から落ちたのは夜八時頃のことだ。もう朝ということは何時間も意識を失っていたことになる。
傍らに落ちていた川瀬の携帯を見ると、午前五時を示していた。当然、福本との通話は既に切れている。
どうしたら良いだろう。悩んでいると、おかしなことに気が付いた。
昨日の夜から今現在もエレベーターは停止しているはずだ。それなのに階段に倒れている自分は何故放っておかれたのだろう。
まさか、と思いながら階段を上ると、応接室の入口に何かが見えた。
それは、扉に挟まれた女の頭部だった。
ロシア系ハーフ、ムツオ・ニコフスキーは、男女六名の殺害容疑で即日逮捕された。
カメラマン樫木智明のカメラに彼の姿が映っていたのだ。
彼の映っていた写真は四人の集合写真だった。
右から、成宮、川瀬、ムツオ、奈良坂が円陣を組むような姿勢で並んでいる。そこに映る彼等の姿は、とても仲が良さそうに見えた。
ムツオはロシアでの生活が長かったため片言の日本語しか喋れず、分からないことがあると隣の部屋の住人、会社員兼小説家の川瀬誠に教えを請うことが多かった。
そうして、いつしか二人の親睦は深まった。
軍隊格闘技の達人、母を追って来日、という生い立ちに川瀬が興味を示し、彼をモデルにした小説『隣人サンボ』という作品が作られたほどだ。
犯行当日、彼はその小説に関する取材のため、川瀬の務める会社、枝島ラッピングを訪れていた。
ところがムツオは、川瀬の殺害は認めたものの、他の五名に関しては犯行を否認した。
日本語の表現力が乏しい彼の陳述は不明瞭なものであったが、その後、犯行直前まで現場にいた枝島ラッピング社員奈良坂および沢渡の証言、そして、ライター笠松義也が残したボイスレコーダーの内容、それらにより事件の詳細が明らかになった。
武田大輔:
川瀬に突き飛ばされて壁に後頭部を殴打。脳挫傷により死亡。
樫木智明:
笠松、成宮両名に首を絞められ、窒息により死亡。
山本久美:
ショックで意識を失い、扉による長時間の頸部圧迫により死亡。
成宮幸一:
四階の窓から転落。外傷性ショックにより死亡。
笠松義也:
川瀬に鈍器で殴られ、頭蓋骨開放性骨折により死亡。
川瀬誠:
ムツオに首を捻られ、脊髄損傷により死亡。
残されたボイスレコーダーに録音されていた会話は、こんな一言で始まっていた。
『サバイバルホラーってどうなの?』
≪ 了 ≫
※ネタバレ厳禁、二度読み推奨。では!





