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ひーろーっぽいの  作者: 武ナガト
29/31

和太郎式 性欲興奮拳改

 

 十五分後……。

「なりあは自分を助けにくる魔法少女を待っていた。かつての仲間を汚す快楽に溺れきった彼女は、純粋無垢な魔法少女たちを淫らな魔女へと羽化させるため、魔法少女地獄の中心で今宵も舌なめずりしているのである」

 みちびの朗読が終わる。時を同じくして鞭が猿のコアに打ちこまれた。みちびは小説を閉じて、猿を見上げる。

「もう! なんで壊れないのよ! 効果ないってどういうこと!」

 鞭が猿に振り下ろされた。猿の悲鳴が大気に溶ける。

「小説の文章じゃ無理なんじゃねえか」

 和太郎は公園のベンチに腰かけながら言った。みちびは後ろからの声に見向きせず、小説をまじまじと見つめる。

「だって、パニッカーがこの本を開いてるときに叩いたら手応えあったのよ!」

「猿は挿絵見てたんじゃね?」

「挿絵……? え? 挿絵? なるほど、それは考えてなかったわ!」

 みちびは挿絵のページを開いた。

「……って、誰!?」

 みちびは勢いよく振り返った。

「よお」

 闘気装姿の和太郎がベンチに座りながら手を上げる。

「あ、あんたいつの間に!」

「いつだっけな。愛用水筒が魔力吸引器に改造されて、なりあが魔女化し始めた頃だったか」

「ほぼ全部っ!」

 みちびは後ずさりした。和太郎が下着丸出しのみちびから目をそらす。

 テブクが語り出した。

「可愛い声が淫語を読み上げて、至福な時間だたヨ。時に指をくわえながら、ちゅぱちゅぱ音まで再現するプロ顔負けの表現には脱帽だたアル」

 みちびの表情が引きつった。テブクは続ける。

「ふあぁあ、あんっ、ひあぁ、色んなみちびちゃん喘ぎ 感謝アル」

「やめてええぇえぇええぇ!」

 みちびは小説を放り投げると、耳を塞いでその場にうずくまった。ぶんぶんと顔を揺らし、茶髪が舞う。

「みちびちゃん 声優になてはどうか。エロ専門の! イッきゅうぅうううぅうぅ! 最高だたアル」

「いやあああぁあぁあぁあああ!」

「そこは大切なとこおおおぉぉ!」

「きゃあああぁああぁ!」

「きもちいいぃのぉぉおおぉおぉ!」

「許してええっェええっぇええェっ!」

 公園に二人の絶叫が飛び交い続けた。それらはしばし続いたが、和太郎が一発自分の頬を殴ったことで鎮まった。

「そのぐらいでいいだろ。時間がねえ」

 和太郎はベンチから立ち上がると、指をパキパキ鳴らしながら十字架に磔られている猿へと歩いていく。

「性欲興奮拳 しっかり受けろや」

「キィ! ウキキキキィ!」

 猿が首を振り、じたばたと もがき始めた。

 和太郎は跳躍し、体をひねって右拳を引き寄せた。

「人妻熟女がセーラー服着て夫とHした話!」

 猿のコアに右拳の一撃が炸裂する。

 パキッ! 額のコアにひびが入った。猿は鼻血を吹いた。

「お、いけるか!」

 和太郎は着地すると、再び飛び上がる。

「ヤンキー女とランジェリーショップの試着室でやりまくった話!」

「ウキィ!」

 ヒビ割れが広がった。和太郎は更に跳ねた。

「戦国時代の姫が夫を満足させ続けて、天下統一を成し遂げさせた話!」

「ウギィギイイィ!」

「家庭教師の女子大生が生徒から調教される話!」

「ギぅギィギッギギイぃうぃ」

「そしてぇえ!」

 和太郎は十字架の頂点をはるかに飛び越し、タイヤのように体を縦回転させながら降りてくる。

「アイドル歌手がコンサート衣装にてラブホでラブラブHする話ぃぃいぃいぃぃ!」

 勢いに乗った踵落としが猿のコアに直撃した。

「ギイゥギギイギウィイガイイギギァイギイギイイイイイイイイイィ!」

 バキッ! 猿のコアが弾けるように縦に二分した。破片の片方は額に残り、もう片方は光の粒となって上空へと昇っていく。

「やったか!」

 和太郎は着地姿勢にて猿を見上げながら叫んだ。

 しかし、猿はぐったりと顔をうつむかせて鼻血を垂れ流しているが消えなかった。

「どうなってんだ。まだ足りねえのか」

 和太郎はもう一度、猿へ攻撃するために飛び上がった。

 その後、五度六度と繰り返したが、猿が痙攣するだけで消滅はしなかった。コアは額に半月状の形でそのまま残っている。

「聖種! どういうことだ。これって倒せてんじゃねえのか!」

 和太郎は振り返る。

 視線の先でみちびは耳を塞ぎながら芋虫のように丸まって地面にうずくまっていた。ぼそぼそとなにやら呟いている。

「あたしはすごい、あたしはえらい、あたしはかわいい、あたしはつよい、あたしはすてき、あたしはすばらしい、あたしはけだかい、あたしはきれい、あたしは――」

「お、おい」

 和太郎はみちびに歩み寄り、手を伸ばした。

 すると

「あたしはさいてーなおんなです、ふれないでください、げひんがうつります」

 みちびは顔を上げずに小声で言うと、まるでなにかの呪文でも唱えているかのように「あたしは――」とぶつぶつ口ずさみだす。

「ああー、みちび様 ぼっちモードに入っちゃいましたー。パニッカー退治でバカ丸出しの倒し方したりして自己嫌悪しちゃうとこうなっちゃうんですー。自己肯定の言葉で勇気づけして自己修復中ですー」

「……思いの外、打たれ弱いな。で、あのクソ猿、倒せてんのか? どうなんだ?」

 浮かびながら寄ってきたコッタに和太郎は尋ねた。

「倒せてはいませんねー。でもー、ほっといてもいずれ消えますー」

「どういうことだよ」

「徐失状態といってー、コアが中途半端に残った状態なんですけどー、それは消失が確定した余生みたいなものですー。もう大きく動き回れませんしー、悪さはできませんー。でもー、その状態になると倒しにくくてー、しかもー、今まで世界にばらまいてきた影響は残ったままなのでー面倒なんですー」

「どのくらいで消えるんだ」

「数十秒のこともあればー、十年とかもあるようですー」

「十年! んなの待ってられるか。倒し方はどうすんだ。殴り続けりゃいいのか?」

「徐失状態のときに外的な攻撃で倒すのは個人の力じゃ無理ですねー」

「ならどうすんだ!」

「徐失状態はー、パニッカーになにかしらの思念が宿っていて発生するみたいですー。その思念は人間の感情で言えばー、不満に相当するようですー。それを解消してあげられればー、消えてくれるようですよー」

「不満だって?」

「はいー。たとえばー、以前にファーストフード店がそのままパニッカー化しちゃったんですけどー、そこは人気がない店舗で客が少なかったのでー、満員御礼状態にしてみたところー、消えてくれましたー」

「つまり、あのクソ猿もなにか不満があるってことか?」

「でしょーねー」

 コッタは放り捨てられている小説へと飛んでいく。拾い上げてからバッグへ収めた。コッタが和太郎の元へ戻ってくる。

「滝様はあのパニッカーの不満 見当つきますかー? そもそもあのパニッカーってー元々なんだったんでしょーか」

「俺も直接見ちゃいないんだけど、造形からいってまず間違いなくロビンが創作した漫画関連のものが素だろうな」

「ロビン様とは誰ですかー?」

「俺のダチだよ」

「ならー、その方の不満がパニッカーの不満ということは大いに有り得ますー。ロビン様の不満ってわかりますかー?」

 和太郎は腕組みをした。目玉が斜め上に移動する。

「あっ」

 和太郎の顔がハッとする色に変わった。

「まさか父さんの原稿か……? 不満というよりかは見てみたいっていうロビンの願望なんだが」

 和太郎は顎に指を当てて地面を見下ろした。

「願望は、何かが成し遂げられていないから起こりますからー、不満の仲間とも言えますよー。パニッカーが求めているものはそれかもしれないですねー。可能性があるものはなんでも試しましょー。原稿はどこで手に入りますー? 取ってきますー」

 コッタは両手を広げて言った。波に揺られる浮き輪のようにコッタは上下に浮沈を繰り返している。

「いや、俺が行く。父親の物だしな」

 和太郎は公園の入口へ体を向けるとジャンプした。ひとっ飛びで入口に達し、さらに飛び跳ねて公園を後にした。

「行ってらっしゃいー」

 コッタは和太郎が住宅街へ消えるまで手を振り続けていた。

 性欲興奮拳で猿を戦闘不能に陥らせる話。

 今後この話をシリーズ化した場合、みちびは いじりキャラとして美味しいポジションに就かせる予定です。みちびの私生活は今回の物語に必要ないので省いていますが、機会があれば書いてみようかな。

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