倒し方の模索
六時間が経過し、午前三時になった。
先日、夜にラジオ体操が行われていた公園には十字架が立っていた。十字架は成人男性の二倍ほどの高さがある。公園には一人を除いて人影はなく、所々に灯る水銀灯の光によってその十字架は形が闇に溶け込まずにいた。
「キィ! キィ!」
十字架に磔になっている猿の鳴き声が公園に広がる。猿の両手足には光の束がぐるぐると巻き付いていて、もがいてもはがれない。
バシッ! 猿の額に埋まっているコアに鞭が直撃した。コアに変化はない。
「やっと捕らえても倒せないし、どうなってんのよ あんた!」
青いローブ姿の少女、みちびは更に鞭を振るった。
「この! この! 早く消えなさいよーッ! 時間がかかると屈辱的な手段を試さないといけなくなるのよ! お願いだから早く消えてーッ!」
「みちび様ー。持ってきましたー」
コッタがポンと現れる。コッタは自らの体よりも大きなバッグを提げていた。
肩で息を弾ませていたみちびは呼吸を整えると額に手を当てて首を横に振る。
「うう、どうしてあたしが……。やりたくない」
「大丈夫ですよー。人払いの神呪を公園にかけてもらいましたからー。誰にも見られませんー」
コッタはバッグを土へ置くと、中身をまさぐった。
「パニッカーの性欲を興奮させればー攻撃が効きやすくなるみたいなのでーがんばりましょー」
コッタの尻尾がひょこひょこと揺れる。
コッタはバッグからピンポン球のような球状の物体を取りだした。それを宙へ放ると、ピンポン球はライトのように光り出し、周囲に明かりが広がっていく。
コッタは他にもバッグから風呂敷のような織物と一冊の小説を抜きだした。
「その布きれ なに?」
「神装具変換布ですよー。装備を瞬時に変更してくれますー」
コッタの手が淡く光る。すると、神装具変換布はみちびへ飛んでいき、みちびの体を覆い隠した。顔以外を輪状に囲む。
「え? え?」
みちびは目を大きくし困惑の表情を浮かべた。
布は青白く発光、それから独りでにコッタの手へと飛び去っていく。
みちびの服装は青色のローブ姿からフリル付きのドレスへと変わっていた。それは白を基調としたふわふわとした質感の衣装だった。
「この衣装! 破れてるじゃない!」
みちびは手で胸と股を隠した。
みちびの衣装はおへそ丸出し、胸と股の下着が一部だけ表へ露出している。垣間見えたみちびのブラジャーとショーツには小さな赤色リボンが装飾されていた。
「これから文章を読んでもらいますからねー。その場面にあわせましたー」
コッタはみちびの目の前に静かに飛んできて一冊の本を提示した。
表紙には「魔法少女ピュアキュートなりあ」と題名があり、幼い女の子が描かれていた。みちびと同じ衣装をまとっている彼女の服は至るところが破け、腕には触手が絡みついている。挿絵 好色一代と表記されていた。
「本当にそれを読み上げるの? ねえ、他の方法にしない? それって、Hな小説でしょ。できれば読みたくないなあって」
「でもー、この小説をパニッカーが開いてたとき、手応えがあったんですよねー? ならきっとこれが倒す鍵なんですよー」
「そうかもしれないけど、けどさ」
「ヤッタヌキ様は怒ってますー。神査マネーが減る一方だからなんとかしろっておいら怒られちゃいましたー。借金するとご奉仕に参加しなきゃいけなくなりますー。危険なとこに回されたら おいら嫌ですー。みちび様もご奉仕の辛さは知ってますよねー」
「う、ううううううううぅうぅぅぅううぅううう~!」
みちびは顔を赤らめ、口をきゅっと結んだ。コッタが差し出す小説をつり目が睨んでいる。
「あたし その子にまったく似てないじゃない! その子は女の子って感じで可愛らしいでしょ! 完全にミスマッチよ! だからやめましょ!」
「似てるところもありますよー」
「どこよ!」
「胸がぺったんこじゃないですかー」
「ぺ、ぺ」
みちびの体がわなわなと震え始めた。つり目がさらに上がる。地面に落ちていた鞭がコッタに打ちこまれた。
「痛いですー。いたいいたい。やめてくださいー」
「あんた 言っちゃいけないこと言った。いけないこと言った!」
みちびの叫び。鞭はみちびが握ることなく宙に浮かんでいて、コッタを叩き続けた。しばしの間、コッタの悲鳴と鞭の打擲音が公園に鳴り渡った。
「ううー、酷い目にあいましたー。でも、これは試すべきなんですよー」
みちびの顔の前にコッタは浮上した。目には涙が浮かんでいる。
「わかったわよ! 貸しなさい!」
みちびは奪うようにコッタから小説を取り上げた。付箋が貼られているページを開く。
すると、みちびの顔は真っ赤になった。ボンッと音がしそうなほどゆで上がっている。
「こ、こんなの読むの! えっえっ! 魔法で改造した水筒を!? そんなの入れちゃうの!」
みちびは食い入るように小説を顔に近づけて、目で文字を追っている。
「みちび様ー。黙読はだめですー。音読してくださいよー」
コッタがみちびの耳元で言う。
「ううぅぅううう。みちび これは必要なことなの。みんなのためなのよ。誰かがやらなきゃいけないこと」
みちびは小説を一度閉じ、ぶつぶつと呟き始めた。そんななか鞭が浮かびながら飛んでいく。鞭は十字架に磔になっている猿の近くで留まった。
「準備完了ですねー。朗読中に頃合いを見てパニッカーのコアを攻撃してくださいー」
コッタはボクシングのパンチの仕草を見せる。声は明るい。一方……
「やるときはビシッとやる。中途半端が一番恥ずかしい。みちび あなたはできる子 立派な子」
くぐもった小声がみちびからは聞こえてきた。
やがて、みちびのささやきがやんだ。みちびは小説を開き、前へ突き出す。そして、大きく息を吸い込み、吐き出した。目がくわっと開く。
「らめえぇぇええェェ! おかしくなっちゃうーッ!」
みちびは音読を開始した。夜の公園から卑猥な単語が飛びだしていく。
公園の入口にもその声は届いた。そこに新たな人影が現れる。その人影はみちびが立つ方角へと向かいつつあった。
みちびが猿を捕らえ終え、倒そうとしている話。
みちびに やらせてみたかったことを実行させました。読み上げる小説の内容を細かく描写するのはさすがにアウトと判断したので割愛してます。




