帰宅
「どこ行きやがった、あのクソ猿。塾での騒動を片づけるのに時間がかかっちまった」
和太郎は一軒家の屋根から辺りを見渡していた。点在する街灯や住宅の光があるものの闇が周囲を浸している。その闇から溢れでるように救急車のサイレンがこだましていた。
「和太郎の家の方角から嫌な気が流れてきてるネ」
「マジかよ。救急車のサイレンもそっちから聞こえるし、念のため様子見に帰ってみるか。あそこの駐車場に下りたら一度闘気装を消してくれ」
和太郎は二階建ての立体駐車場へジャンプして降り立つ。二階に着地すると、和太郎は裸になった。
「やっぱ、裸になんのな」
和太郎は散らばった衣服を回収して着終える。それから、走り出した。
しばらく駆け足で走り、曲がり角で折れて自宅の前へやってきた。
「え?」
和太郎は立ち尽くしてしまった。自宅前には一台の救急車が停車している。停まっているそれは散光式警光灯をくるくると赤く回していた。
救急車は後部を見せつけており、和太郎を残して発車する。
和太郎は呆然とそれを見つめていた。
「ま、まさか」
「和太郎、あの救――」
「後にしろ!」
和太郎はテブクの声を遮り、玄関へ駆けた。ドアは錠が施されていた。
「閉まってる? 嘘だろ。リビングにも明かりが点いてねえ」
和太郎はジーパンのポケットから鍵を抜きだし、鍵穴に差し込もうとして何度も失敗した。
「くそ! 手が震える。落ち着けよ俺。思い過ごしだ。思い過ごしに決まってる」
ようやく解錠し、家へ入る。
屋内は静かだった。無人が醸しだす空気の停滞感は薄い。それでも暗色が壁や周囲の物々を塗り固めていた。
「母さん! 未散!」
明かりを灯すと、靴を脱ぎ散らかしてリビングへ走る。
リビングの扉を開いた。玄関からの光を招き入れたリビングは薄暗かった。
暗い中でも食卓には箸が三人分用意されていた。わかめとキュウリの酢の物の小皿、鰆の西京焼が盛られた皿が並んでいる。
和太郎は照明スイッチを入れるとキッチンエリアに駆けこんだ。キッチンスペースにはまな板が敷かれ、その上には包丁が置かれてあった。
「未散!」
和太郎はリビングから出ると、階段を駆け上がる。
未散の部屋をガンガンとノックした。返事はなかった。
扉を開け、部屋を見回す。未散はいない。
「そうだ、携帯」
和太郎は携帯電話を取りだし、母の名前を選択する。
「くそ! 電源が切れてる! なら未散は」
和太郎は携帯で未散の名前を表示した。
「!」
未散の部屋に音楽が鳴り渡った。曲調にのった男性の声が飛んでくる。
発信源はベッドだった。ベッドの余剰スペースにそれは置いてあった。画面を光らせスマートフォンが震えている。
「なんでここにある! おかしい。外出するとき未散は普通は」
和太郎の声の震えが増した。
「和太郎、落ち着くネ」
「落ち着いていられるか! やっぱ さっきの救急車か。どこの病院だ。ここらでは単衣か」
「嫌な気は動かなくなて膨らんだアル。さきの救急車にもそれを感じたヨ。それに乗てるのかもネ」
「畜生! もっと早く教えろよ!」
「教えようとしたヨ。聞く耳持たなかたのは和太郎ネ。とにかく落ち着くアル。深呼吸、深呼吸」
和太郎は唇を噛みしめてうつむいた。それから大きく呼吸を繰り返す。腹部の伸縮が続いた。
「悪かった、テブク。気の場所を教えてくれ。頼む」
和太郎は深々と頭を下げる。
「任せるヨ」
テブクの声は力がこもっていた。
和太郎は新たに駆け出した。
和太郎が取り乱す話。
読者に焦っているところが伝われば自分に合格点を与えたいです。
個人的にはうまく書けたのでは? とか思ってます。




