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ひーろーっぽいの  作者: 武ナガト
20/31

被害2

 場所は移ろい、貝吹警察署との浮き彫りがある建築物がそこにはあった。その建物の一室から猿の鳴き声が聞こえてくる。

 取調室と部屋名が書かれた一室、そこには灰色の机が一台、パイプ椅子が二脚ある。パイプ椅子には男女がそれぞれ腰かけていて、二人は対面していた。取調室にはさらに筋肉質な体格をした男が一人おり、彼は座っている男の横に立っていた。机上をバンと手で叩く。

「白状しろ。ネタは上がってるんだ!」

 筋肉質な男がパイプ椅子に座っている男を厳しい顔つきで睨んだ。顎がしゃくれた男はパイプ椅子に座りながら体をびくつかせると、体を小さくすぼませる。

「僕は国家の転覆なんか企んでいません。なにもしてないのにどうして疑われるんですか」

「なにもしないから問題なのだ」

 筋肉質な男はもう一度 手を落として机を鳴らした。それから片手に握っている写真を顎の男へ見せつけるように置く。顎の男の目が写真に合わさった。

「貴様の部屋の写真だ。アニメや漫画のキャラクターグッズばかりだな」

「それがなんですか。アニメや漫画が好きなだけです。悪くはないでしょう」

 顎の男は写真を見下ろしながら言った。

 筋肉質な男は鼻を鳴らす。

「たしかに悪くはない。だが、それは程度の問題だ。押収したパソコンからは卑猥な画像や動画が大量に見つかった。それらは全てサブカルチャー関連、肌をあらわにした女性キャラクターがこれでもかと収められていた。ここまでキャラクターものしかないと疑わざるを得ない」

 一呼吸置くと筋肉質な男は続けた。

「あれほどの量の淫猥な動画や画像を収集する性欲があるのに欠けているものがある。わかっているはずだ」

「ぐっ」

 顎の男は唇を噛んだ。筋肉質な男は写真を人差し指で何度も指さす。

「お前の部屋には生身の女性の写真や本がゼロだ! ゼロだぞ! なぜない! 生身の女性が恋しくはないのか! エロ本は全て漫画本、官能小説も表紙絵がキャラクターのものだけだ。パソコンのデータにも生身の女性は存在せず、聞き込みによると貴様は今まで男女交際もしていないそうじゃないか! 貴様 少子化を加速させて国家転覆を助長する秘密結社〝童貞会〟の人間だな!」

 筋肉質な男は拳をガンと机に振り下ろした。

「貴様らは女性になにもしない。純潔を尊び、それを正当化する。愛には心だけがあればよいとして子作りを否定する。他国の支援の元、我が国の人的財産を徐々に衰えさせ、他国との統合を画策する連中だ。中には現実の女性を拒んで漫画やアニメのキャラクターのみを信奉するものもいる。貴様などがその最たる例だ!」

 筋肉質な男の怒声に顎の男は額が発汗し、体が震え出した。

「ぼ、僕は童貞会の人間じゃない!」

「なら証明してみろ!」

 筋肉質な男は顔を振り向ける。振り向いた先には制服姿の若い婦人警官がパイプ椅子に座っていた。

「ここに一人の婦人警官がいる。彼女は国の将来を憂い、国のために子供を産むことも辞さない人間だ。今日の彼女は危険日である。彼女と子作りしてみろ!」

「なんだってー」

顎の男は口をぱくつかせ、おののいている。

艶美(つやよし)巡査部長」

「はっ」

 髪型がショートカットの婦人警官は立ち上がり敬礼した。

「お国のため、一肌脱がせて頂きます!」

 婦人警官は着ていた制服の前ボタンを解くと、ネクタイを緩めた。

 夕日が差し込む取調室に するすると衣擦れの音が響き出す。婦人警官はブラウスのボタンを途中まで外し、顎の男へ歩み寄ってきた。

「あとはあなたが脱がせてください」

 婦人警官は無機質な床に仰向けに寝転んだ。それを見て筋肉質な男は腕組みをして頷く。

「お待ちかねだ。子供が生まれれば国が面倒を見てくれる。貴様はなにも責任をとる必要はない。童貞会の人間を減らすべく警察が威信をかけて編み出した性愛術を婦警たちは警察学校で学んできた。気持ちよさは保証する。さあ、抱け! 抱いて証明してみせろ!」

 筋肉質な男の勢いがある言葉が取調室に響き渡った。顎の男の顔色は青ざめていく。

「で、できない!」

 顎の男は机の上に突っ伏した。

「やはり貴様 童貞会の人間だな!」

「そうだ! 純潔を貫いてなにが悪い! 女なんて僕の顎を馬鹿にして、それを土台にでっち上げの戯れ言を言い広める口汚い連中じゃないか。そんなやつらとの子供なんか誰がいるものか」

 顎の男は顔を机に押しつけながら大声を張り上げた。男の声は嗚咽まじりに変わっていく。

 床に寝転がっていた婦警は体を起こした。それから、立ち上がると机に顔を伏せて今もぐずついている男の肩に手を載せた。

「この写真を見てください」

 婦警は胸ポケットから一枚の写真を取りだした。男は顔を浮かせ、写真を覗く。

 その写真には私服姿の婦警自身と中年の男性が写っていた。どこにでもありそうな住宅の門を背景に彼女と中年男が横に並び立っている。

「私の父です。とても顎がしゃくれているでしょう?」

 婦警は表情を和らげ、凜々しい敬礼をしたときとは異なる落ち着いた声で言った。

 顎の男はなにも語らない。

「父を見て育ったからか、私は顎がしゃくれた男の人に惹かれてしまうんです。美形なんて癖がなくて物足りない。私はあなたの顎が好きですよ」

 婦警はにこりと微笑んだ。

「婦警さん」

 睫毛が濡れている顎の男は上体を起こした。中腰の婦警と向かいあう。

「あなたの子供を私にくれませんか?」

 婦警は頬を赤らめ、上目づかいで顎の男に言った。

「婦警さぁあぁん!」

 顎の男は婦警に飛びついた。二人は床に倒れこむ。二人はお互いの体を激しく撫でまわし始めた。

「うむ。悪人の改心に成功した。あとは新たな命の誕生を願うばかりだな。我が国に幸あれ」

 筋肉質な男は夕日が差し込む取調室の椅子に腰を下ろすと、キスを繰り返している二人を見下ろしながらたばこに火をつけた。

 すると、部屋の外から声がした。

「なんだね君は! それにその格好は! 待ちたまえ!」

「うるせえ! 一大事なんだ。そこを通せぇい!」

 和太郎が取調室の扉を蹴り破って入ってきた。

「キ、キキィ!」

 机の上で事の成り行きを静観していた猿が頬に両手をあわせながら慌てふためく。

「見つけたぞ、クソ猿!」

 和太郎は猿に飛びかかった。机にダイブし、両手で挟み込もうとして失敗した。

「キィ! キィ!」

 猿は机に突っ伏す和太郎の頭・背中・尻と跳ねて移動し、取調室から逃げだした。

「逃げんなこら!」

 机に寝ていた和太郎は腕を張り、振り返った。

 床から吐息が聞こえてくる。

「婦警さん! 婦警さん!」

「がっついちゃだめです。私は逃げませんから」

 男女の弾むような声。

「嘘だ。きっと逃げるに決まってる! 逮捕します! 逮捕します!」

「立場が逆です! だめだめ拘留されちゃうー」

 和太郎の顔が床の二人に向けられた。

「警察署でなにやってんだ!」

 和太郎は赤面して叫ぶと鎮圧に乗り出した。

 猿が悪さする話2。

 この話は結構気に入ってます。警察学校で性愛術を教えるとかありえねえ、ってところがいいですね。

 エロ漫画でありそうな設定かな? そう感じてもらえれば成功です。

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