猿
来客用の男子トイレで和太郎は用を済ませると、手洗い場で手を洗っていた。
「五年前から親父さんの作品傾向は変わたのネ」
テブクが囁くように言った。
「らしいな」
和太郎はハンカチで手を拭う。
「五年前というといじめられてた頃カ?」
「俺が小学四年の時だから大体その頃だな。結局 引っ越して転校する形で終わったんだけどよ」
「ロビンは案の定 親父さんのファンだたネ」
「そうだな」
「腹立たしいカ?」
「不思議と腹は立ってねえな。複雑な感じだ。上手く言い表せねえ」
和太郎は顔を上げて鏡の中にいる自分を見つめた。鏡の和太郎も見つめ返している。
「もっとムカつくかと思ってたんだがな」
そのときだった。
「きゃあぁあぁあああ!」
突然 女性の悲鳴が響き渡った。和太郎の顔が出口に振り向く。
「この感じは……現れたネ」
テブクがぼそりとしゃべる。和太郎は出口へ走った。扉を開け、外で待機していた黒のロングヘアのメイドに悲鳴がした場所を尋ねる。
「わかりません。応接間の方から聞こえた気がしますが……」
和太郎は元来た廊下を駆け足で戻った。
先程までロビンと話していた応接間に近づくと、そこには使用人たちが集まり 人だかりが出来ていた。
「ロビン様、私の後ろへ」
部屋からリリィの声が飛び出してくる。
和太郎は人混みに体を押し込み、合間を縫って前へ進み出た。
「ロビン」
和太郎は人混みから抜け出ると、よろめきながら応接間に入る。
「滝タロ!」
窓際からロビンの声がした。ロビンはリリィの背に守られるような形で肩口から顔を覗かせていた。二人の前方には二メートル級メイドを含めた三名のメイドたちが横向きに倒れている。ぐったりとしており、微動だにしていない。
応接間は雰囲気が一変していた。ロビンと会話していたときに和太郎がいたテーブル近辺、そこは現在 和太郎とロビンの中間に位置しているのだが、特に荒れ果てていた。台車は倒れ、漫画本が散乱し、食器類や飲食物も赤い絨毯の塵となっている。
「ウキッ! ウキキ!」
真ん中から二つに折れたテーブルの間に茶色いなにかがいた。尻尾らしきものが揺れている。
膝丈ほどのそれを見ながら和太郎の唇が動いた。
「猿……なのか? エロ漫画なんて読んでやがる」
「和太郎、あいつが混乱獣ネ!」
テブクの叫び。その声に周囲の者たちは目をさまよわせる。
「ウキッ?」
猿と呼ばれた存在の顔が上がり、エロ漫画から和太郎に向く。額にはコアとおぼしき黒い宝石のような物体が埋まっている。
「こいつ、まさか! ロビンの漫画に出てきた……」
和太郎は目を瞠った。
猿が漫画本を床へ置き、床へ手を伸ばす。床には先端が尖った拳銃のようなものが置かれてあった。猿はそれをつかみ、和太郎へ向ける。
「闘気装!」
テブクの言葉と同時に和太郎は闘気装に包まれた。同じくして猿の拳銃からは白い液体が一直線に放たれる。
和太郎はその液体を横飛びでかわすと床を転がりすぐに立ち上がった。びちゃびちゃと壁に貼り付く液体。やがてそれは透明になりどこかへ消えてしまった。
次に二射三射と連射が迫ってくる。それらも和太郎は側転一つで難を逃れた。しかし、和太郎は無事だったが、女性の悲鳴が部屋に広がった。メイドの二人がうつぶせに倒れる。
「しまった。後ろを考えてなかった」
和太郎は背中越しに後方を見ながら表情を曇らせた。
「メイド長ッ! ロザンヌ」
メイドたちが倒れた二人に駆け寄ってくる。
そこに猿の白い液体が襲いかかった。
「きゃあああぁ!」
パニックになった。撃たれて倒れる者、部屋から慌てて逃げだそうとする者、前後の者に挟まれて身動きがとれない者、周囲は騒然となる。
「やめろ! てめえ」
銃撃を続ける猿に和太郎は跳躍して迫ると体をひねってから右ストレートを放った。
猿は甲高く鳴きながらバク宙で後方へ飛び退く。和太郎の右ストレートは赤絨毯を巻き込んで床を砕くだけに終わってしまう。猿は暖炉の煉瓦の上に飛び降りた。
「ウキキキキキィ!」
猿は手足を広げてひょこひょこ踊るような仕草を始めた。足踏みしながらその場で一周りして鳴き声を張り上げている。
すると、猿に撃たれて倒れていたメイドたちがむくりと起き上がった。
「チロル、無事でしたか」
リリィは表情を和らげるとロビンをかばいつつも二メートル級メイドに歩み寄ろうとする。
「近寄っちゃダメヨ! 気の流れがおかしいアル!」
テブクの静止にリリィの動きが止まった。リリィは和太郎を一瞬だけ見やったがわずかに首を斜めにする。
次の瞬間、メイドたちの服装に異変が生じた。彼女たちが身につけているメイド服は消えて生まれたままの姿、つまり裸になったのである。しかし、フリル付きのカチューシャだけは装着していた。
「おわ! 見づれえ!」
和太郎は身じろぐとメイドたちから目をそらした。だが、チラチラと覗う。
撃たれたメイドたちは猿が足踏みしている暖炉に歩み寄ってきた。猿と暖炉を囲み、一列の弧状に並ぶ。彼女たちの瞳は赤く輝いていた。
「和太郎、チラ見なんてしちゃダメアル! 男なら堂々と見るネ!」
「男だから見にくいんだよ! 国際色豊かで一部を除いて質が高すぎんだ! 警戒上 見なきゃいけねえし!」
和太郎の視線は往復がやまない。
「一部? 誰アル?」
「しまった。言ってから気づいたがやっぱりツっこまれた!」
「誰アル? 誰アル? ワタシ手袋だからわかんないネ」
和太郎は歯がみして、なにも語らなかった。すると、テブクの声がした。
「筋骨隆々のメイド、実にけしからん身体してるヨ。超絶好みヨ。あんな魅力的な女性と一つになりたいアル」
「誘導しようったって釣られねえぞ! 一つになりたいとか言ってるけど、性的な意味じゃないだろ! お前 元は手袋だからな! 言葉に騙されねえかんな!」
和太郎は床を見下ろしながら叫ぶように言う。
「和太郎は誰が好みヨ。一人だけ老後入りしそうな仲間はずれの女かネ?」
和太郎は顔を上げた。
「あそこは他と違って見ていられそうだな……。あっ」
和太郎は口を開けると慌てて目線を落とす。
「メイド長になんて失礼な……」
窓際でロビンをかばっているリリィがぽつりと言った。ロビンは和太郎をジーッと眺めていた。
「滝タロ……。オレ漫画より興奮 大安売り……」
ロビンの目が下にずれる。
「ん?」
和太郎はもっこりん戦闘仕様を見下ろした。やがて赤面。
「え、いや、違えよ、これは……。ああっ。クソ!」
和太郎は闘気装に包まれた頭を両手でかきまくる。
「和太郎、もっこりん戦闘仕様は勃起しても安全仕様! 大きくなたら更に膨らんで息子を優しく守てくれるヨ! だから気にせず男らしい姿をロビンたちにビンビン見せつけてやるネ!」
テブクの大声が部屋中に轟いた。和太郎の顔が引きつる。
「お前本当に嫌なやつだなッ! もっこりんが大きくなったら俺の逸物が起き上がってるって周囲に知らせる嫌がらせか!」
和太郎の大声も部屋中に轟く。
「ウキィ! キキキ!」
高らかな猿の鳴き声がした。すると、メイド長の手がゆっくりと上がっていく。メイド長は一直線の挙手姿勢になり
「これよりメイド裁判を始めます」
と宣言した。
他のメイドたちが駆け出す。彼女たちはメイド長を正面に捉えて一列に並んだ。
「罪状はロビン様へのエロ奉仕不足です。被告人は前へ!」
メイド長の発言にメイド全員が一歩 踏みだして進み出る。
「全員有罪! エロコスチュームメイドの刑に処する」
次の瞬間、メイド全員の新たな衣装がそれぞれの上空に出現した。
それらは、黒を基調とするメイド服・細やかな刺繍入りの桃色ブラジャーとショーツ・赤いガーターベルト・赤の網タイツストッキングである。
彼女らは衣装が眼の前へ降りてくるとそれらを着始めた。宙に漂っているコスチュームを手にすると和太郎に前部をさらしながら着衣する者もいる。彼女らは服を新たに素肌へ触れさせるたびに女性特有の感じ入るような艶やかな声を上げていた。
「トイレに先導してくれた娘もいるネ。あの娘、こんな体を隠してたアルカ。着やせする娘ネ」
黒いロングヘアの娘に和太郎の視線が合わさった。彼女はショーツを穿き終わり、はだけている胸にブラジャーを当てるところだった。娘は身体を一瞬びくつかせると薄目で息を漏らす。
和太郎は前屈みになってしまった。もっこりん戦闘仕様が膨らんでいく。
「和太郎、どうしたヨ。具合が悪いのカ。今攻撃するアル。ほら早くするネ」
「クソ! てめえ、いつか絶対泣かす!」
和太郎の声と身体は震えていた。
和太郎は身動きをとらなかったが、メイドたちは着替えのみを行っていたため、その間にロビンとリリィがじりじりと寄ってきて合流することができた。
「滝タロ、その姿どうしたんこぶ」
「話せば長くなる。それよりもお前らを安全な場所へ逃がしたい。廊下へ出るぞ」
和太郎は前屈みでロビンたちとともに扉へと進んでいく。
「ウキキィ。キキキィ。キキキキキ!」
猿が銃のグリップを両手で握って、持ち上げたり下げたりを繰り返した。
すると、今まで廊下に通じていた扉が消え、壁に変わってしまう。窓も同様である。
「おいおい。出口が消えたぞ」
「出口がなければ作るアル。殴てみるヨ」
ようやく和太郎は直立姿勢に戻り、扉があった場所を拳で殴りつけた。壁は崩れることなくそのままあり続ける。
「あのクソ猿をどうにかしねえとダメってことか」
和太郎は暖炉へと振り返る。メイドたちの着替えは終わっていた。
和太郎は一息つく。
「生を見るよりは目のやり場に困らなくなったが、それでも扇情的だな。胸が見えるように切り抜かれたエプロンドレスなんてブラジャーが丸見えで飛び出してるし……」
和太郎は額ににじんだ汗を拭った。テブクは同調の相づちを打つ。
「ブラジャーも乳輪が見えないギリギリなとこで収まててエロいネ。他方でスカート部分は隠す気は毛頭なく、前方だけ風で浮き上がっているようにヒラヒラしてるヨ。ガーターベルトとパンティ丸出し、そこは品性の欠片もないアル。でも、そこがよく、メイドの謙虚なイメージからほど遠くて眼福かもしれなイ」
「お前、饒舌だな」
「和太郎の心をそのまま伝えただけネ」
ロビンとリリィの目が和太郎に集まった。
「嘘つくな。心読めやしねえだろ。誤解を与えようとしやがって」
和太郎は「違えかんな」と二人に首を振った。その後、猿を正面に捉えてファイティングポーズをとる。ロビンからはテブクの声について尋ねられたが、和太郎はこの姿と関係があるとだけ告げた。
メイド長の手が再度上がる。
「さあ、ロビン様へ奉仕の時間です。我らの身体の魅力が漫画などに劣らないことを体感して頂きましょう」
頬を紅潮させたメイドたちの顔が一斉にロビンに振り向いた。紅い瞳が輝きを増す。
「はわわわ」
ロビンはリリィの後方で身じろぎした。頬が引きつり表情が強ばっている。
「やらせねえよ。その前に潰す!」
和太郎は膝を曲げると反動をつけてジャンプした。天井すれすれから暖炉へと降下していく。そして、暖炉に立つ猿へ拳を振り下ろそうとした。
だが、その試みは失敗してしまった。メイド一人の手に突然ハエ叩きが現れると、それが伸び、横殴りされたからである。ロビンたちとは反対側に和太郎は弾き飛ばされた。先程までは窓があった壁に身体全体で突っ込む。壁に割れ目は生じず、和太郎だけが床に落ちていく。
「うるさいハエは除去しました。それでは行きましょう」
メイドたちがロビンとリリィの元へ歩みを開始した。リリィは重心を落として身構える。
「俺はまだ負けてねえ!」
和太郎は頭を振ると、すぐに立ち上がった。次は暖炉へ走る。
前進していたメイドのうち二名が振り返り、瞬く間に和太郎の行く手を阻んだ。二名の手にはハンドクリーナー・食器用ナイフ・がそれぞれ握られている。
「和太郎、正気功ヨ!」
「わかってる!」
和太郎は二名がそれぞれ襲いかかってきたところを寸前で避けて頭の付け根に手刀を下ろした。二名は床へ倒れて動かなくなる。
「は、放して下さい!」
和太郎が戦っている間にリリィはメイドたちにより床に組み敷かれていた。四人に手足をがっちり固定され、上向きの体勢で もがくにもがけないといった有様。
リリィの手を押さえていた二メートル級メイドがリリィの両手を一人で受け持つと、手が空いた褐色肌のメイドがリリィの服をびりびりと破いて脱がし始めた。
「リリィ!」
ロビンは手を伸ばす。しかし、自身も床に押し倒されてしまった。茶髪ツインテールのメイドがロビンにまたがる。
「ロビン様~」
ロビンに身体を押しつけ、ロビンが着るワンピースの前ボタンに指をかけてくる。
「や、やっ! やめーッ!」
「おい、おいおいおいおい! おっ始める気かよ。嫌がってんだろ! やめさせねえと」
和太郎は駆け出そうとした。しかし、前へ転んでしまう。
「ぐっ」
和太郎の足にはメイドがしがみついていた。
「正気功を打っただろ……なんで」
和太郎の目が大きくなり、わずかに口が開かれる。
「や、やめて、やめて下さい!」
「滝タローッ!」
和太郎は倒れた姿勢のまま声がする先を見上げた。足にしがみついているメイドに目を戻す。それから振りほどこうと、足を揺すったり上下に勢いよく往復させた。
だが、メイドは和太郎にしがみついて離さない。見上げることなくフリル付きカチューシャの飾られている頭部をさらけ出している。
「すまねえ」
和太郎は仰向けに体勢を変えると残った足をメイドの頭部に打ち付けた。それは三度 四度と続いて、カチューシャが砕けたときにようやく和太郎は解放される。カチューシャが砕けたメイドは全裸になり、力が抜けていく。
和太郎が立ち上がったときにはリリィの上空にも他のメイドたちと同じ黒いメイド服が現れていた。
「リリィ、この服を着るととっても気持ちいいのよ。さあ、あなたも……」
褐色肌のメイドはリリィの白色ショーツを放り捨てると舌なめずりをする。
「アドラ、お願いです。正気に戻って……」
リリィは目を潤ませ顔を小刻みに震わせていた。
黒きメイド服がリリィに緩やかに降りてきた。途中でリリィと水平に向きを変える。
「少しずつ仲間になりましょうね。まずは胸かしら……。いや、ここはいきなり大切な部分から強烈な快楽で」
褐色肌のメイドは浮かんでいる桃色のショーツを手に取った。生地を両手で張り、すーっと下ろしていく。
一方、ロビンは胸元まで衣服をはがれていた。スカート部分の裾もたくし上げられている。ロビンは肌の露わになった箇所を指の腹でなぞられたり、息を吹きかけられたりしているが、床に貼り付けられて抵抗できていない。
「ぃやあ! ぃやあ!」
ロビンの押し込むような鳴き声。やがてロビンは大粒の涙をこぼし、表情を大きくゆがめ始める。
「ロビン!」
和太郎は床を蹴り、ダッシュした。一挙に距離を縮めると、茶髪ツインテールメイドに側面からショルダータックルを浴びせかける。続いて、新たに飛びかかってきたメイド二人を立ち上がってからうまくいなし、二人の額を衝突させた。メイドたちはよろめき足元が覚束なくなる。
追撃として和太郎は、側面をさらしている彼女らの上腕へ素速く掌底を押し出し、宙へ吹き飛ばした。メイド二人は、身構えていた残りのメイド二人を巻き込んで後方へ勢いよく倒れる。四人は動きを止め、静まりを見せた。
「大丈夫かロビン」
和太郎は腰を落とし、ロビンの上体を抱き起こす。
「滝タローッ!」
ロビンは和太郎の首に腕を伸ばすと、絡ませてきた。
「ちょ、おい! 男に抱きつかれる趣味はねえ! それにまだ敵がいる!」
和太郎はロビンの肩をつかみ、引き離した。引き離されたロビンはハッと身体をびくつかせると、はだけたワンピースの襟を片手で閉じる。その後、和太郎の背後に目が行くと指さした。
「滝タロ、後ろ!」
和太郎の首に二本の腕が伸びてきた。それは組み合わさり、和太郎はヘッドロックを受ける。茶髪ツインテールメイドが和太郎の首に腕を巻き付かせてぎりぎりと圧していく。細腕から繰り出される締め付けに徐々に和太郎の顎は上向き、口が広がっていった。整然とそろっている歯列が露わになっていく。
「チェシカ、やめえ!」
ロビンは叫ぶと立ち、茶髪ツインテールメイドに体当たりした。ところが、メイドは微動だにせず、締め付けを緩めない。
茶髪ツインテールのメイドはロビンを見やると、頬を上気させ、和太郎を解放した。
「ロビン様ー」
茶髪ツインテールメイドはロビンを押し倒す。ロビンの後頭部は床に打ちつけられた。
拘束を解かれた和太郎は息を吸い込んだ。両手を喉に当て、床に額を落としながら咳き込む。
だが、すぐに茶髪ツインテールメイドを鋭い眼差しで睨めつけると間髪を容れずに接近した。
ロビンの胸に頬をこすりつけている茶髪ツインテールメイド――彼女の襟を和太郎は後ろから握ると、彼女の上体を無理やり起こし、カチューシャを鷲づかみする。
握り潰した。
すると、茶髪ツインテールメイドは一糸まとわぬ姿になり、ロビンの身体にくたりと倒れ伏した。ロビンも身動きをとらない。
「ロビン、気絶したのか。悪いが介抱してる暇はねえ。リリィさんを助けねえと」
和太郎はリリィが組み敷かれていた地点を振り向いた。
そこには、倒れぬようメイドに立たされているリリィの姿があった。漆黒のメイド服に身を包み、力添えによって支えられている。
リリィは唇を薄く開き、荒々しい呼吸を繰り返していた。血色豊かな肌には澄んだ汗が浮き上がっていて、薄目に並んだまつげはこぼれそうな涙をせき止めている。瞳は妖しき赤と力ない青を交互に灯していた。
「一人で立てますね、リリィ」
「……は……い……」
メイド長との応答に、寄り添っていたメイドがリリィの身体から手を離す。リリィは白い喉元をさらしながら一人で立った。彼女は倒れそうに揺らめき、目の焦点も定まらない……が、それでも崩れることはなかった。
「主へ忠誠を誓いなさい。自身の肉体を捧げると宣誓するのです。塞がっているエプロンドレスのスカートをめくり上げ、下品に、でもお上品にご挨拶なさい」
「い、いぁ……」
リリィの瞳の色が激しく変色する。燐光をまとう赤と本来の青がせめぎ合う。そのような中、リリィの両手はスカートの中部へ動いていく。かと思えば、横へ遠退いた。しかし、また中部へ寄っていく。リリィは顔をふるふると震わしながら、それらをしきりに繰り返した。
彼女は緩んでいた口をキュッと結ぶ。閉じた目からは涙が一粒ずつあふれた。しかし、両手は少しずつ中部へと導かれていく。
「今行くぞ」
和太郎は駆けた。三人のメイドが間に割って入る。
「邪魔すんな!」
和太郎は一人二人と退けたが、三人目である二メートル級メイドが放った蹴りを側頭部に受け、壁まで吹き飛ばされてしまった。二メートル級メイドはドシドシと足音を響かせながら追走する。和太郎は片膝をついて起き上がった。他のメイドたちも和太郎へと走ってくる。
「戦っちゃダメだ。うまく抜け出さねえと」
「ウキキ!」
和太郎がメイドたちの防衛網から抜け出そうとする中、猿がリリィの肩に載った。リリィの手はスカートに触れる直前で、明らかな震えを帯びながらも留まっている。
「キィ」
猿は細長い尻尾をリリィの後ろ髪に割り込ませた。リリィの混じり気のない金髪はかき分けられ、無防備なうなじが探り当てられる。猿はそこを優しく撫で始めた。
「あん、あっ、あっ」
縦へ横へ、そして、こね回す。リリィの瞳はみるみる赤く染め上がっていった。赤はその濃度を増していき新たな境地へと生まれ変わりつつあった。真紅に、より深みへと……。
リリィのきつく結ばれていた口はほころび、吐息まじりの喘ぎとともに舌が見え隠れする。引き締まっていた口は丸く緩まり、甘く変容していた。
「それで良いのです。リリィ」
メイド長の視線がリリィの胸・腹部・へと落ちていく。
いつしか、リリィの指はスカートの中部をつまんでいた。細長くしなやかな指は解けぬように縫いつけられた糸と化していた。醜さを孕んだ過ちの糸、素材の価値を左右する汚れた糸が縫い上がっていた。
「素直になりなさい。そのお方はお前を正しい姿へと導いてくれるのです」
「キキッ」
猿はリリィが着ているメイド服の首回りを広げると、その中へふぅーと息を吹き入れる。送り込まれる微風は背中の生地に さざ波を打たせた。
リリィは桃色のブラジャーを突き出し、三日月のように肉体を反らせていった。寄せられている二つの膨らみは、打ち震えるリリィに合わせて揺らめいていた。
身をのけ反らせたリリィに追随してスカートはたくし上がっていく。だが、他のメイドたちに比べるとまだ足りず、ピンクショーツの下部と赤いガーターベルトの一部が覗いているに過ぎない。
「さあ、誓いなさい。下品で上品な挨拶をご覧に入れるのです。膝を曲げる淑女の挨拶、カーテシーを淫らに飾り、お披露目するのです」
リリィは胸を突き上げながら、片足を後ろに引いて内側に回り込ませる。
「あとは膝を落とすだけですね」
メイド長が指を鳴らす。すると、メイドの一人が、遠くで倒れているロビンの上半身を起こした。ロビンの目は閉じていて、首は斜めに傾いている。
「さあ、復唱なさい。『私、リリィ=シェルハヴナは』」
「わた……くし……リリィ=シェルハヴナ……は……」
「性奴隷に墜ちることで」
「せい……ど……れいに……おちる……こと……で……」
「主に絶対の献身をお約束致します」
「あるじ……に……ぜったい……の……けんしん……を……お、お……」
「お約束致します」
「お……や…………」
リリィの唇はぱくぱくと空気を噛む。だが、言葉は紡がれない。
肩に載っている猿はうなじへのまさぐりを強めた、さらに、リリィの首筋を指でさすりだす。
「あっ、あっ!」
輪郭をなぞり、時に爪を立て、肌に毛を触れさせる。
「おや……く……そく……」
リリィの唇は声を通し始めた。同時にスカートも徐々に昇っていく。
そしてついにリリィのスカートは他の者と同じ域まで上がった。他のメイドたちと変わらぬ統一されたレース模様の下着が外気に触れ、リリィの総身には鳥肌が満ちていく。
「……だ……だめ……」
リリィからの拒みの言葉。猿は無言でにやついた。それから、リリィの耳を舐めだし、舌先をちろちろと這わせて舐め上げていく。逃れるように遠ざかるリリィの耳、それを追い、湿らせる。滞りなく、入念に、執拗に。
「や……やっ……」
かぷっ。猿が耳たぶに噛みついた。
「やん」
声の甘えが強まり、表情も明らかに和らいだ。
リリィの苦悶まじりの表情は、うっとりと酔いしれるような顔色に溶けていった。身体の強ばりは抜け、逃げていた耳が猿の舌に寄っていく。
「あっ……、そこ……」
うなじと耳を弄ばれるリリィ。喜悦に染まった彼女の面持ちはロビンを捉え、色つや豊かな薄紅色の唇はたぎった吐息を送り出す。引き上がったスカートは風に流れるように揺れ始めた。
リリィは笑った。とろみにくるまれた張りがない笑顔だった。
「おやくそく……いたします」
リリィはちょこんと膝を曲げた。
瞳は真紅に染まり、周囲のメイドたちと同属の光を放ちだす。鮮やかな真紅が開花した瞬間だった。
リリィが言葉を結んだその刹那、
「ぐぉーあぁあーぁッ」
和太郎がロビンとリリィの間に割り込むように吹き飛ばされてきた。
リリィは宣誓を終えるとその場に崩れ落ちる。猿は肩から飛び去り、リリィの元へ黒のロングヘアメイドが駆けつける。彼女はリリィの肩を受け止めると床へ寝かせた。天井と向きあうリリィの肉体は痙攣し、背中やお尻が時に跳ね上がるほど脈打っていた。
倒れたリリィのスカートは指が離れても閉じていない。今もショーツとガーターベルトを見せつけ揺らめいている。
「リリィさん!」
和太郎はリリィを見た。寝転がっているリリィの胸が突き上がる。浮いた背が着地すると、女性の象徴は生き物のように蠢いた。和太郎は目を大きくし股間に手を落とす。
「エロ漫画を読まされそうになたとき、あれが和太郎の背中に当たてたアル」
テブクの声がする。と、和太郎のもっこりん戦闘仕様はさらなる膨らみを得た。
「お前、こんなときに……」
「恥じちゃダメネ。堂々とオスのたくましさを誇るアル。それができないのが今の和太郎の限界ヨ」
「無茶言うな!」
「仕方ないネ。ほら、敵が集まて来たアル」
和太郎は勢いよく立ち上がり、迫りくる五人のメイドとの戦闘に突入した。
新たなパニッカーが登場する話。
エロは ものによっては好きです。しかし、不愉快になることもよくあるので さじ加減が難しい。
ラノベにちょいエロはありだと思ってます。ただ、今回この話を執筆するにあたって、ちょいエロの域を超えて やりすぎじゃなかろうかと疑いつつ書いてました。
不愉快になった人はすみません。
エロ漫画を題材に取り上げたので、こういったシーンを描かないのは逃げだとも思い 書きました。
言訳ですね。はい、わかってます。




