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ひーろーっぽいの  作者: 武ナガト
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予兆

 第2回オーバーラップ文庫大賞第3ターン 一次選考落選

 誤字を正す・ルビを振る・といった変更点はありますが、基本的には変えていません。

 一次選考を突破できない物語として参考にはなると思うので、気になる方は読んでください。


 夕方、町中の公道を二人の学生が歩いていた。

 一人はとげとげしい短髪が、もう一人は金髪と鮮やかな青い目が特徴である。両者は学生鞄を()げ、ブレザーの制服で身を包んでいた。

「正義ヒーロー、会いたい!」

 いきなり金髪の学生、金髪は強い口調で言い放った。

 一方、とげとげしい短髪の男子すなわち短髪はそんな金髪を横目で見ている。そのまま二人は変わらぬ歩調で道を進んだ。

「スルー、困る!」

 金髪が短髪の腕にしがみついた。

 短髪は金髪のしがみつきを引きはがす。引きはがすとしぶしぶといった感じで尋ねる。

「会いたいって? どうしてそう思ったんだ?」

 短髪の質問に金髪はしがみつこうとする仕草をやめた。

「オレ、漫画(まんが)描くる! 聞てみたい! 悪の軍団、帝国、秘密結社、そな奴らと戦る気持ち、(こころざし)、意気込み、知りい!」

 金髪は鼻息荒く答えた。

「正義のヒーローってのは変身ヒーロー的な漫画やアニメや特撮っぽいやつか? 必殺技があったりするタイプの」

「モチ!」

 金髪は親指を立てる。笑みもついてきた。

「そんなの漫画とかだけの話だろ。いないから諦めろ」

「実は近いる! 隠れ戦うシチュ! きっと!」

「ねえな。いない」

 短髪は手を振って否定のポーズをとった。

「ヒーローが悪々団やっつけの大変加減、教え!」

 金髪はインタビューマイクでも握っているような仕草で短髪の口元へ手を近づける。

「ヒーローの苦労を教えろ? だからいねえって。悪々団ってなんだよ。それに俺ヒーローでもなんでもないし」

 短髪は伸ばされた金髪の手を払った。

「ヒーローが悪々団やっつけの大変加減、教え!」

 金髪は再度インタビューの仕草。

「しつこい! 違うっての。ヒーローはいない!」

「ヒーローが悪々団やっつけの大変加減、教え!」

「だあーっ! うぜえ!」

「合わせるるぅ。頼めぅー」

 金髪は短髪にすり寄ってくる。

「寄るな(わずら)わしい! わかった、答えるよ。答えりゃいいんだろ!」

「さっが滝タロ! ヒーローなったきっかけ! 教え!」

「ヒーローの苦労についてじゃないのか!」

 短髪すなわち滝タロと呼ばれた男は一つため息を入れる。

「あるときな、空の一部がこうピカッと星の(またた)きのように光ったんだよ」

 滝タロが語り出す。すると、空の一部がピカッと星の瞬きのように光った。

「それでその光が俺の方へ向かってくるわけ」

 光は地上へと猛スピードで急降下してくる。

「そして、目の前に得体の知れない物体がズザザザザッとヘッドスライディングの如く空から滑り落ちてきたわけよ」

 ズザザザザッ。

「そうそうこんな感じ」

「なるほ! わかりや! さっが滝タロ!」

 二人はその場で足を止め、笑顔でお互いの顔を見つめ合う。それから空を見上げて、近くへ落ちてきた白い物体を改めて見る。

「ええええェェえええええぇえぇぇぇぇっ!」

 二人の叫びは同調し、周囲一帯へ響き渡った。

「ちょ、空からなんか降ってきたんだけど! 今の話、完全に作り話なんだけど!」

「カッコ委員長! 空から手袋、突完了! 空上(そらうえ)からこんちはで突っ込んゴーできた!」

「手袋? ほんとにこれ手袋か?」

「手袋! 白手袋! タクシー運転手が喜びっ! 良き白手袋!」

「良き白手袋!? マジだ。〝お客さん、行き先はどこですかい〟って問いたくなる! さすが良き白手袋!」

 二人は目を大きく見開きながら言葉を並べ立ててている。

 彼らはしばしの間 まくし立てていたがと一息つき、調べてみようという結論に達した。

「どうしてこの手袋は(ふく)らんでるんだ? 高菜でもたくさん食ったのか?」

 滝タロは落ちてきた手袋を人差し指でつまもうとする。

 滝タロの言葉通り白手袋は人の手が入っているかのように膨らんでいた。つまり、しぼんでいないのである。そして、右手用しかない。

「あれ? へこまねえぞ」

 滝タロは両手で圧迫した。しかし、変形しなかった。

「貸しぃ!」

 金髪が滝タロにせがむように言った。滝タロはすぐに手渡す。

 すると

「待って待って、ストップ、ストーップ! それに触っちゃダメーッ!」

 二人の後方から声が飛んできた。滝タロは後ろへ顔を向ける。

 眼鏡をかけたロングヘアの茶髪少女が遠くに見え、こちらへ走ってきているようだった。

「なんだ?」

 滝タロは中腰の姿勢を解き、少女へ向き直る。

「痛っちょ!」

 背中越しに金髪の声がした。

「ん?」

 滝タロは金髪の方向へ体を戻す。

 戻してみると金髪が地面に尻餅(しりもち)をついていた。(ひたい)を手で押さえている。眼鏡もズレていた。

「どうしたんだ、ロビン」

 滝タロの質問に、倒れている金髪すなわちロビンは額から手を離す。額はわずかに充血していた。

 ロビンの体は小刻みに震えだした。

「オ! オ! オ!」

「お?」

 滝タロは首を傾げてロビンを見下ろした。

「オレ、踏み台っちゃれた! 手袋、ジャンプんだ!」

 ロビンの大声が空気と交わり拡散する。

 ロビンの手には先ほどまであった白手袋が握られていない。

「おい、手袋をどこへ隠した」

「隠してノー! いきなり手袋震え飛んで、オレ顔踏みつけ、それでそれで!」

「落ち着けって」

「そこ家、跳びこった!」

 ロビンはすぐ近くの白い民家の屋根の方を指さし興奮気味に叫んだ。二階建ての民家だ。屋根まではかなりの高さがある。

 滝タロは示された位置を見上げるとすぐに

「は? つくならもっとマシな(うそ)――」

「本マジ! 真実! 信ぜお!」

 ロビンは語気強く訴えている。

 滝タロはしかめっ面になった。

「んなこと言ったってなあ」

「でっも! でっも! 変手袋OK? 起こりうる! 起こりうる!」

「ま、まあ、な」

「ほんと! まこっち! 嘘つけなき!」

 ロビンは青眼鏡と乱れた衣服を整えた。

 滝タロはロビンが起き上がると(ほお)をかき口を開く。

「なんかモヤモヤすんな。俺は見てねえから信じ切れねえし、でも、ロビンは本気っぽいし。あれ? ところでさっき女の子が走ってこなかったか」

「声した! よく見えなく!」

 二人は女の子を見かけた道を見つめる。そこには誰もいなかった。

「どこ行ったんだ。一本道をこっちへ走ってきてたはずだが」

「きと、彼女ん家、この通りん! そこ入り!」

「いや、あの呼び方は俺らに用があるって感じだったろ。自分の家があっても入らなそうだが」

「そかも! どな子!?」

「顔までは覚えてねえ。ただ神高の制服着てた」

「同じ! 同じ! 神守! 神守! 明日探す!」

「今じゃなくていいのかよ。言っとくが顔は覚えてねえぞ」

「体型、髪型ぐら――ってほにゃ?」

 ロビンは急に額を手で押さえる。動きが止まった。

「どうした」

 滝タロは歩き始めていたが振り返る。

 ロビンは額をさすり始めた。

「痛っちょ! なかオレ頭ぶつたっけ!?」

 叫ぶと滝タロへ顔を向ける。

 滝タロは片眉(かたまゆ)をつり上げた。

「は? 忘れたのかよ。お前さっき――…………。あれ?」

 以後の言葉が(つな)がることはなかった。

 滝タロは口元へ指を運び、顔つきが険しくなる。

「どうしてだ。思い出せねえぞ」

「痛っちょ! 痛っちょ! 不思議とんがり帽子(ぼうし)ラスボス前!」

 眉間にシワを寄せる滝タロと額をこするロビン。時は流れていく。

「わからねえな。きっと大したことじゃなかったんだ。帰るか」

 滝タロが一歩足を踏みだす。ロビンも最後に額をこすって後を追った。

「滝タロ、滝タロ! 聞く聞け!」

 ロビンが滝タロの肩を叩く。

「なんだ? 思い出したのか?」

「ちがちが!」

 ロビンは首を横へ振った。それから、小走りして滝タロの先に周る。空へ拳を突き上げた。

「正義ヒーロー、会いたい!」

 ロビンが叫んだ。大声は住宅街に轟いた。

 だが、滝タロは立ち止まることなく変わらぬ表情でロビンを素通りした。

最終的な物語の長さは、文庫本で言えば260ページくらいになると思います。


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