クリスマスに咲く桜
街は華やかなイルミネーションが点灯し、完全にクリスマス色に染まっている
そう、今日はクリスマス、俺はそんな日にも関わらず、一人で夜中の道を自転車で走っていた
一緒に過ごす人などいない俺は、何の目的もなく街を走っている
周りでは幸せそうな笑顔がちらほら、嫉妬するつもりはないがどこかイラっとくる
「はあ」
小さなため息が、一つこぼれた
その笑顔から逃げるように俺は裏の路地に入った、そして
「結局ここかよ…」
たどり着いたのは、いつものようにさみしくなると来る人のいない公園だった
「寝るか」
そう呟き、またも吸い寄せられるように一本の桜の木にもたれ、座り込んだ
「いつもこうだな」
そう、いつもこの桜の木(まあ冬なので枯れているのだが)にもたれかかり、寝るのだ、そして、そこで寝ると決まってある少女の夢を見る
「まあ、こんな日にもここに来るのね」
目の前には満開の桜、顔は木の陰に隠れて見えない
「ああ、誰も一緒にいてくれる人がいなくてな」
「あなたみたいないい人、モテると思うんだけどなあ」
からかってるのか、本気で言ってるのかわからないが、なんとなく心が落ち着き、孤独感が無くなった
それから、何分話しただろうか、俺の愚痴やら、世間話などをして
「はっ!?」
目が覚めた
そしてまた、俺を孤独感が襲った
「はあ」
またため息一つし、自電車に乗った
家に帰るのも、嫌な気分だった
「どっか寄るか」
俺は、あえて誰もいなさそうな古い時計や鏡の置いてある、少し不気味な店に入った
いらっしゃいませの声はない、誰もいないのだろうか
「なんか、高級そうな鏡だな」
ふと、その鏡が気になり、近ずいてみると、下には「魔法の鏡」と書いてあった
「ぷっ!?」
思わず吹き出しそうになった、世界で一番美しいのはだあれってやつか?
やってやろうじゃねえか答えてみろ
「鏡よ鏡、世界で一番」
ここで、言葉が詰まった、何を言えばいいのかわからなくなり、結局
「一番寂しがり屋なのはだあれ?」
バカみたいな質問だ、これじゃまるで俺が寂しがりやみたいじゃないか
しかし、鏡は何も反応しない
「やっぱり偽物か」
呆れた顔をして、振り向いた、すると
「それは、貴方です」
「!?」
そこには、着物を着た少女がいた
「寂しがり屋なのは、貴方です」
「っ!?繰り返すな!!ってか誰だよ?」
「私は、貴方を一番知っていて、一番愛している人」
「え?」
「わからないの?さっきもあったじゃん」
まさか、
「あの、桜の夢の子!?現実にいたんだ」
「半分正解、私はあの桜の夢の人、でも私はさっきまで実在していなかった」
「?」
意味がわからない
「私は、あの桜の木の下で、何年もある人を待っていたの」
「彼氏?」
「まあ、そんな感じです、それで、ちょうど100年前のクリスマスの日、私はあの桜の木の下で死んだ」
「じゃあ、幽霊?」
「いいえ、私は成仏した後、人間に生まれ変わらず、あの桜になることにしました」
信じられない話だ
「そして、100年たった日、やっと待ち人に出会えたのです」
「え!?まって!もう100年たってんだよな?もう生きてるわけないだろ」
「まったく、鈍いですね、その待ち人の生まれ変わり、それがあなた」
「!?な、何を根拠に?」
「私があなたを好きになった、あなたと一緒にいたいと思った、理由はそれだけで十分じゃないですか?」
「かなわないな、女の子には」
「冗談抜きで、あなたを愛してます、全て見てきました、あなたの優しさも、強さも、弱さも」
ニコッと彼女は笑った
「信じていないかもしれませんが、一つだけ言っておきます、クリスマスの夜は奇跡の起きる夜なんですよ」
彼女は、そう言って俺のほっぺにキスをした
「ちょっ!?」
ほおを抑える俺、それをからかうようにニコッと笑う彼女
初めての感覚だ、暖かい、さっきまで冷たかったた心も、一瞬で温まった
「今までで最高のクリスマスプレゼントでしょう?」
俺は、笑って、ああ、と答えた
「そういえば、まだ名前も聞いていなかったな」
「名前はまだありません」
「どこの夏目さんだよ」
「じゃあ、わかりやすくさくらでいいんじゃないですか?」
「さくら、ねえ」
今年のクリスマス、二つのプレゼントをもらった、一つは少女からのキス、もう一つはその少女の、心も温まるほどの暖かく、大きな愛だ