俺の人生反転しやがった
俺の名前は文谷 当真。
高校三年生で最後の高校生活を満喫していた・・・はずだった。
あの時までは・・・。
部活帰りいつものように家から2ブロック離れた横断歩道を渡っていた俺に事故が起こった。
俺に気付かず乗用車が時速60キロで正面から突っ込んできた。
その後の事は記憶にない。当たり前か。
そして、目覚めたとき俺は病院にいた。
「お目覚めですか?」
優しく甘い声だった。そして、その声の主は病室へと入ってきた。
「おはようございます。私はあなたの担当医の峰岸といいます。」
そういってその女性は微笑んだ。
年齢は20~25くらいだろう。
「おはようございます。文谷です。」
すると峰岸さんは笑いながら言った。
「あはははは。名前は分かってますよ。担当医ですもの。」
確かにその通りだ。
だけど俺はあなたとは初対面で自己紹介もしてない。そう言いかけたが止めた。
今の俺は俺の状況を理解していない。必要のないことで話を長引かせたくない。
「すいません。あの、俺はどうなってしまったんですか?」
俺は早速本題に話を進めた。
すると峰岸さんはさっきまでの笑顔が消え、真剣な表情で話始めた。
「一昨日あなたが横断歩道で倒れているのを近くを歩いていた方が発見し、119番通報をしたの。」
そこで俺が口を挟んだ。
「そんなことはどうでもいいんです!俺はどこか怪我したんですか?それと、俺をはねた人は捕まったんですか!?」
「落ち着いて。一気に話を進めると記憶が混乱してしまう。でも、負傷したところはないの。」
俺は峰岸さんの言葉を疑った。
「怪我をしてない・・・?」
「そう。あなたに外傷はなかった。」
「な、ならなんで病院にいるんだよ!」
すると峰岸さんは顔をしかめて黙り混んだ。
「峰岸さん。教えてくださいよ。なんで怪我をしてないのに病院にいるんてすか?」
峰岸さんは何も言わない。
「黙ってないで教えてくださいよ。もしかして外傷はないけど何か身体に異変があるんですか?」
峰岸さんは何も言わなかった。
俺も質問の答えを待つようにだまっていた。
沈黙の時が流れていく。
5分程過ぎた頃、峰岸さんが口を開いた。
「あなたの身体は異常なかったわ。体調も健康そのものよ。でもなんで病院にいるのか、知る前に心の準備をしてほしいの。」
「心の準備?」
「そう。本当は日を重ねて、落ち着いてから話すのが一番いいの。でも、あなたが早く聞きたいなら教えてあげるわ。」
峰岸さんは優しく微笑んだ。
その微笑みは俺の心の準備とやらを後押ししてくれた。
「聞かせてください。」
俺はどんな事でも受け入れる。峰岸さんの話を受け入れる!
「そう。準備できたみたいね。まず、あなたがいるこの病院は精神病院なの。」
は?いきなりハンドガンで撃たれる気分。。。
「あなたは最初に自分をはねた犯人は捕まったのか?って聞いたわね。答えはNO。捕まっていないわ。というより、捕まえようがないのよ。」
「捕まえようがない・・・?」
「そう。何故なら、犯人は最初から存在してなかったから。」
何を言ってるんだ?こいつ・・・
俺は確かに車ではねられた。それは記憶にある。
「犯人が存在しないなら、なんで俺は倒れていたんですか?」
「気絶していただけよ。記憶の混乱によってね。」
記憶の混乱・・・。
「まず、あなたの自己紹介をしてみて。」
「え?俺の事は担当医だから知ってるんじゃないんですか?」
「えぇ。知ってるわ。でも、あなたの自己紹介してほしいの。」
訳が分からん。
「知ってるならそれでいいじゃないですか。」
「なんで自己紹介を拒むの?」
拒んでない。自分から相手が知ってる情報を話すのがおかしいと思うだけだ。
だいたい、最初に俺が名前を言ったとき笑ってたじゃないか。それは自分が知ってる情報だったからだろ?
「ゆっくりでいいの。自分の人生、住所、名前。全てを私に話して。」
これ以上何も言わない状態が続くと話が終わってしまうかもしれない。
「名前は文谷 当真。松竹欄高校3年生。部活は陸上部。家族は母、父、俺、妹の4人家族。住所は⭕⭕町の⭕⭕⭕。好きなものは刺身。嫌いなものは高いところ。」
こんなもんでいいだろう。早く話を進めて欲しい。
「ありがとう。」
「これはなんか意味あるんですか?」
「あるわ。これがあなたが倒れた原因なの。」
自己紹介が倒れた原因・・・。
これでハッキリした。
頭がおかしいのは峰岸さんの方だったのか・・・。
「まず、あなたの名前をもう一度言ってみて。」
はいはい。
「文谷 当真。」
「違うわ。あなたの名前は文谷 美喜花よ。」
女じゃん・・・。
「峰岸さん。俺遊びに付き合ってるほど暇じゃなーーーー」
「遊びなんかじゃない!」
峰岸さんの怒鳴り声が部屋中に響き渡った。
「ごめんなさい。大きな声を出してしまって・・・。でも、遊びなんかじゃないの。」
「こちらこそ、すいません。」
峰岸さんの表情は微笑みが消え、真剣そのものだった。
「あなたの名前は文谷 当真ではないの。文谷 美喜花よ。」
「それが本当だとしたら俺は女なんですか?」
「えぇ。あなたは女性よ。」
はぁ。ありえないだろ。
「あなたは高校2年生。部活、住所はあってるわ。好きなものと嫌いなものはわからないけど。」
「俺はどうして女になってしまったんですか?」
俺は苦笑しながら質問する。
「女性になったのではなく、生まれたときから女性なの。」
「じゃあ。なんで男として育ってきた?」
「いいえ。あなたは女性として育ってきたわ。」
俺は記憶喪失じゃないんだ。
男として育ってきた記憶がある。
「あなたは、自分の記憶を消してお兄さんの記憶を自分の記憶としてつかっているだけ。」
兄・・・。
「あなたは性同一性障害なの。」
やめろ。
「昔の記憶を取り戻して。家族もそれを願っているわ。」
やめろ。
「昔の女性としての記憶を取り戻して。お願い。心の準備を一緒にしたでしょ?頑張って取り戻ーーーー 」
「やめろ!!」
俺は峰岸さんを怒鳴り付けた。
一瞬の沈黙。
自分でも分かっていた。それを心の奥に閉じ込めていただけだ。
なぜ自分は男に生まれなかったのか。なぜ兄として、生まれてこれなかったのか。
「ずっと女に生まれてきたことを後悔してたんだ・・・。」
「性転換することはできるわ。でも、女性には女性の人生があるわ。どれだけ時間がかかってもいい。一緒にさがしていきましょう。」
その日はそれで話が終わった。
これからどうなるのかも分からないが、ひとまず俺は峰岸さんとこれからの人生について考えていくことにした。
読んでくださってありがとうございました。