29 十二区
由香里さんの護衛として、僕は彼女を十一区から十二区まで送ることになり、その依頼も、もう少しで完了となる。
十二区に近づくと、僕はこの世界で見慣れないものをそこで見た。
「畑がある。それも沢山!!」
道の右も左も畑だった。
有刺鉄線で守られ、トラクターに乗る農夫の肩にはアサルトライフルが掛かっているという点が少し異様だけれど。
「見てよ、アレなんてユンボに機関銃みたいなのが取り付けられてる!!」
『ダッセぇ……』
黒髪の少女の反応は淡白であった。
「やっと着いたわね。もうあと数分も行けば十二区の街中に入れるわ」
後ろのシートで由香里さんが僕に呟いた。
「この畑って、街までこのままずっと続いてるんですか?」
「ええ、そうよ。十二区はこのあたりの食料供給源の内の主要な一つと言っても良いからね。十一区と比べて街の規模も大きいんだから!」
エッヘンといった感じで、彼女は胸を叩いてみせる。
「他の街と比べて、なんというか生産的な感じがする」
僕も随分とこの世界に毒されているのかもしれない。畑を見たぐらいでそう思うなんて。
畑を抜けると街の入り口が見えた。入り口では出入りをする複数のトラックが見える。そのトラックの脇を抜けて街に入った。
「ふぅ~~やっと到着したわね。お尻が痛くなっちゃたわ」
街への到着時刻は、お昼をとうに過ぎていた。今はもう三時だ。
「通りを真っ直ぐ行って頂戴。街の中央の商業地区にある雑貨屋が、私の父さんの店なの」
「解りました」
バイクのアクセルを開き、スピードを上げる。道路は舗装されていて走りやすい。そして直ぐに、彼女の父親の店に辿り着いた。
『へぇ。結構、大きな店だな』
店に到着するとナインティーンが感心したように呟いた。僕も目の前のお店を見て驚いている。ナインティーンが言う通り、大きなお店だったからだ。
リアシートに座る由香里さんは、バイクを降りて店の中に入って行く。僕もバイクにキーとチェーンをかけてからプラグを抜いて後に続いた。
お店のレジカウンターに向かった由香里さんはそこに座っていた少年となにやら話しており、一通り話が済むと少年は項垂れて涙を流しているのが見えた。
たぶん彼は、由香里さんの家族……弟か何かだろう。由香里さんは父親が死んだことを告げたんだと思う。
暫く、距離をおいて彼らを見ていた。すると、チョイチョイっと由香里さんがこっちに来いと言うようなジェスチャーをしてきた。
『おいユキ。呼んでるぞ』
「うん。解ってるよ」
少し気不味い気持ちで、由香里さんの元まで歩いて行った。
「浩二、さっき言っていたお金を出して」
由香里さんがそう言うと、少年はレジスターからお札を取り出し、彼女に手渡した。由香里さんはそのお札を僕に渡す。
「報酬の二百ドルよ。それとこれが依頼の完了を認める私の手紙ね」
手紙と言うよりもメモと言う方が正しいんじゃないだろうか。それは彼女のお店の名刺に彼女から十一区の酒場のマスターに宛てたメモ書きで、内容は無事に辿り着けたというものだった。
「ユキ君は今日、帰っちゃうのかしら?」
今から帰ると、日が暮れてしまう。
「一晩この街で過ごしてから、帰ろうと思ってます」
「宿はどうするの?このあたりは街の外はみんな畑でしょ。下手すると野菜泥棒と間違われて撃たれるわよ」
野菜泥棒……それは嫌だなぁ。
「そうすると街から随分と距離をとって野営することに……でもそれだと結局今から街を出発するのと変わらない……」
「街のホテルの相場は五十ドルくらいだけど、うちに泊まるなら食事込みで二十ドルで良いわよ」
『何を言ってるんだコイツは?』
ナインティーンはまた不機嫌モードだ。
「姉ちゃん。こいつを泊める気かよ!?」
「うちにはお金が無いんだもん。少しでもお金になるのならね。車がなきゃ商売が出来ないし、車を買うためにはこの街で、今ある店の品物を売り払わなきゃならないだろうし……これから大変なのよ」
難しい顔をして彼女は、まだ泣き止んで間もない目の赤い弟をなだめる。
「そうだけどさ。大丈夫なのこいつ?」
こいつだってさ……とほほ。
目の前の少年は僕と同じくらいの年齢に見える。その彼はひどく僕の事を警戒しているようだ。
「彼は、私を護衛して此処まで送ってくれたのよ?身元はしっかりしてるわ」
「ふんっ。そこまで言うなら良いけどさ」
『なんだかアタイ達が此処に泊まる事になってないか?』
(でも、ホテルを取るより安く済みそうだよ)
『アタイはホテルでも構わない!!金はあるんだからな!』
何をこだわってるんだろうかナインティーンは?
お金は少しでもあった方が良いのは、昨日の夜の会話で十二分に解ったのだから無駄使いは出来ない。
「じゃあ、今日は宜しくお願いします」
僕はそう言って、財布に二百ドルを仕舞い、十ドル札を二枚彼女に渡した。
「毎度あり!バイクはガレージに入れれば良いわ」
『ちっ、仕方ないな。おいユキ、この街でも車を見たい。まだ時間はあるだろう?車以外でも武器屋なんかを見て周りたいしな』
(解ったよ、ナインティーン)
「由香里さん。僕は少し街を見て回ることにします。夕方には戻ってきますから」
「そうね。それも良いかもね。七時くらいには夕ご飯を準備できると思うわ」
「解りました。じゃあ、ちょっと行って来ますね」
そう言って店を出た後バイクに跨り、まずは車を売っている店を探した。
「此処かな?」
『此処だな』
車屋は直ぐに見つかった。トラックがずらーっと並んでいる。
「トラックばっかりだね。普通の乗用車が全然無いよ?」
ピックアップもあまり見かけない。まるでトラック専門店みたいだ。
『そうだな。この街は需要がトラックに集中してるんじゃないのか?だがアタイ達にとっては好都合かもしれないぜ』
どうもナインティーンもトラックを買いたいようだ。
「この前に行った車屋さんは、色々変わった車が置いてあったけど、ここは普通のトラックばっかりだね」
『前に行った車屋の車だが、ユキにとってはそんなにも“変”だったのか?』
「変だったよ!戦車とかロシアのトラックとかさ」
『ふぅん』
目の前の少女はそんなものなのかと言った風に少し不思議そうな面持ちで顎に拳を当てた。ちなみに今回、目の前にある車は前の世界でも良く見かけただろう日本のトラックだ。
『この車屋の方が前に見た車屋より安そうだぜ。これも同じようなトラックばかりを扱っている所為かな……あれっ?何だあのトラック?』
ふと一台のトラックを見つけて、ナインティーンは不思議そうな顔をした。そのトラックはダブルキャブハイルーフのトラックで周りのトラックに比べるとボロイ。というか銃痕のような穴が空いてるのがちらほら見える。他の車は比較的綺麗で新車みたいに見えるのに……
『なんであの車はあんなにボロイ癖して値段が他のトラックと同じなんだ?』
「確かに不思議だね」
近寄って見てみると値札に1万5千ドルという値段、そして走行距離と、このトラックが4WDのターボであると書いてある。嘘か本当か知らないけど走行距離も他のトラックの倍くらいだ。
「おい、ここはガキの遊び場じゃねぇぞ」
そのトラックを眺めていると、店の人間らしい男の人が僕達に文句を言った。
『客に向かってなんて口をききやがる。どたまぶち抜くぞ』
そう言ってナインティーンは腰のホルスターに手をかけた。マジでブチ切れる五秒前といった所だ。
「おっ……!おい、てめぇ。やるってのか!!」
それに気が付いた男性は慌てながら手に持っているレンチを構えた。一体そのレンチでどうするつもりだろうか?どう考えてもレンチで.45ACPは防げないと思うんだけどな。
「僕は一応お客だと思っているんですけど。目の前のトラックを買えるだけのお金も持ってますし」
僕はピリピリとした空気を打開するべく、男の人に話しかけた。
「お前が客?」
そう言って彼は、上から下まで見定めるように僕を見た。
「確かに、ただのガキってわけでも無いみたいだな」
『この野郎、マジでムカつくぜ』
ナインティーンはまだホルスターから手を離さない。まあ銃を抜いている訳でも無いし、別に良いかも。
「あっ、そうだ。どうして目の前のトラックはこんなに値段が高いんです?見た目はボロボロなのに」
せっかくお店の人が近くに居るのだからと思って僕は訊ねた。
「あぁ、こいつの事か……。こいつには色々と弄ってあってな。それで少々値段が高くなってる」
「色々って何ですか?」
「なんだ?買ってくれるのか?」
「他のトラックより良いと思える点があればですけどね」
「まぁ、良いか。教えてやるよ。この車は俺の知り合いが乗っていたんだがな。そいつが引退しちまってその家族が俺に売ったんだ」
「引退?」
一体何から引退したんだろうか。
「あの馬鹿、車には装甲付けてやがるのに……。街中で喧嘩吹っかけられて、頭撃ち抜かれやがった。くそったれめ。何のための車と装甲だってんだ!」
別に前の持ち主がな引退した原因を聞いたわけじゃないだけど。
「輸送用トラックなんだから装甲なんて珍しくも無いだろ?ノーマルでもエンジン周りとキャビンにレベルⅢ相当の装甲が施されてる。今言った内容じゃ値段の説明にはならないぜ」
痺れを切らせたのかナインティーンが僕の口を使って、目の前の男の人を急かした。
「この車の装甲は表面のノーマルの鋼板と、ドアの内部に防弾ナイロン、その内側に工具鋼と耐摩耗性鋼のAR500を重ねた装甲をエンジンルームとキャビンに取り付けてあるから五十口径だって単発なら防ぐぜ。その代わり荷物を載せてないとフロントヘビーになっちまっうけどな」
「それだけでこんなに高いのか?納得出来ないな。たいした量の鋼板じゃないだろ?」
「他にも、こいつには※六百キロのパワーゲートとフロントウィンチが付いている。それに俺のダチはしっかりエンジンのメンテをやってたからエンジンもまだ綺麗だ。それがこの値段の原因だ」
※昇降機の事
「へぇ」
『パワーゲートがついてるのはありがたいな。狩った獲物をトラックに載せるのが随分楽になる。それに見たところエンジンの吸気ダクトがフロントグリルじゃなくキャビンの天井についてるリアバーチカル吸気になってる。マフラーもエアクリーナーも屋根の近くについてるから渡河も出来るだろう』
なんだかナインティーンはこの車が気に入ったのかな?
『別に気に入ったわけじゃない。とりあえずエンジンの状態を見てやっても良いなとは思ったくらいだ。キャビンを持ち上げて貰って、オイルフィラーキャップを外してエンジンの内部をチェックさせて貰え』
僕は言われたとおり、店の人に頼んでみた。
「良いぜ。ちなみに、このトラックはダブルキャブだが油圧を利用したした手動チルトが使えるようになってる」
そう言って男の人はキャビンと荷台の間にあるポンプをキコキコと押し、キャビンを持ち上げていく。最終的にトラックのキャビンはフロントバンパー付近を軸にして回転するように持ち上がり、キャビンの下のエンジンルームが丸見えになった。
トラックのエンジンルームってこんな風にして開けるんだ。知らなかった。
僕はナインティーンの指示に従って、オイルフィラーキャップを外してエンジンの内部を覗き見る。
エンジンの内部はタールで出来たスラッジなどは無く、エンジンオイルを纏ったクランクシャフトが黄色っぽいメタル色に輝いていた。
『エンジンは綺麗だな。オイル交換はちゃんとやっていたみたいだ。あとはピストンがへたって無いかだが……』
(ピストンのへたりなんてどうやって判断するの?)
『エンジンをかけて、その排気煙が色を確認すれば良い』
ほほう。
「この車。エンジンかけてみても良いですか?」
僕は再び、店の男の人にお願いしてみる。
「エンジンだぁ?ガスは今、抜いてるからな……それに随分手間だぜ」
やりたくないらしい。
『やらせろ。エンジンの状態が良いなら買ってやると言えば良い』
「エンジンをかけて不具合が無いようならこの車を買おうと思ってるんですけど、どうですか?」
「ちっ、まあガス代を出すなら構わない。取り合えず十ドル貰おうか」
仕方ないなぁ。
「じゃあ、これでお願いします」
「おう。ちょっと待ってな」
僕は十ドル札を渡して、燃料を入れてエンジンをかけてもらうことにした。
「じゃあ、今からエンジンを掛けるぜ」
スターターが回る音と共にエンジンがかかりドルドルドルドルと低いエンジン音が響いた。
「アクセルを吹かして貰えますか!!」
「解った!!」
ブオォオンと回転数が上がるが排気煙は綺麗なものだった。
「ピストンがへたってると排気煙ってどうなるの?」
『ピストンが磨耗してるとエンジンオイルが回り込んで白くなる。排気煙が黒い場合はエンジンオイルの交換をやって無かった事になる。大丈夫そうだな』
「じゃあ?」
『買っても良いぞ!』
ナインティーン先生の許可が出たので僕は晴れてこの見た目がオンボロちっくなトラックを購入することになった。
【トラック詳細】
価格15000ドル
形状 Wキャブ
車両総重量 5000kg
最大積載量 2,000kg
排気量 4,700cc
馬力 180馬力
燃料 ディーゼル
燃料タンク容量100L
タイヤ 315/80R22.5
その他
4WDターボ
ブレードバンパー装備
パワーゲート(600kg)装備
リアバーチカル吸気
コラム式5MT
ショックセンサー装備
予備タイヤ二本
「すぐにでも引き渡せるがどうするよ?」
店の男の人はそう言った。
「盗難防止用のトラップはあつかってないのか?」
ナインティーンが僕の口を使って訊ねる。
「ある。うちで用意出来るのは、ショックセンサーと連携させた指向性地雷のトラップか12ゲージトラップだ。ガレージに見本があるから見るか?」
『見せてもらう』
「はい。見ます」
案内されたガレージには整備中の車などの他に、彼がさきほど言ったトラップという物があった。
トラップの内容は盗難防止用のショックセンサー(振動を感知してアラームを発生させる)に連動してあらかじめ仕掛けてある地雷や銃弾を発射するというものだった。
詳しく説明すると、安全ピンを抜けると爆発する指向性地雷、バネを使ったトリガー、ショックセンサー、電磁ソレノイドスイッチで構成されるトラップで、ショックセンサーから送られた信号で電磁ソレノイドがトリガーのロックを外し、指向性地雷のピンを抜くという物だった。
12ゲージトラップというのは指向性地雷が12ゲージのショットシェルに置き換わっただけで車の周りに水道管のパイプと拳銃のハンマーが一体になったようなパーツを幾つも設置して、あらかじめ起こしたハンマーが、これまたショックセンサーでロックがはずれて降りる事でショットシェルを発射するというものだった。
「トラップのロックはリモコンで操作できるようになってる。自分が近づいて“バンッ!!”じゃ困るからな」
『指向性地雷なんか使ったら車のフレームが歪んじまう。ここは12ゲージトラップ一択だな』
「じゃあ、12ゲージトラップを取り付けてもらえますか?」
「いいぜ。そのオプションだと追加で1000ドルになる」
「取り付けまでどれくらい掛かりますか?明日の午前中に出来れば街を出たいんですが」
「そんなには掛からないさ。明日の朝、お前さんが取りに来る頃には設置完了して引き渡せるだろう」
こうして僕は車を購入する契約を交わした。12ゲージトラップの代金として千ドル。車の手付け金に四千五百ドルを払って契約書にサインした。僕の理由で履行されない場合僕は千五百ドルを失い、店の理由で契約が履行されない場合、僕は手付け金と合わせて三千ドルを店から受け取る事になる。
車屋さんの次に僕達は銃砲店に向かった。十二区にある銃砲店は大きかったが十一区にある【田中銃砲店田中】の方が小銃関係の品揃えは良いように見える。
「街の規模からすると、正造さんの父親がやってるお店って結構凄いんだね」
『そうらしいな。だが機関銃やロケット関係はこっちの方が豊富みたいだ』
そう言って目の前の少女はニヤッと笑い
『ロケットランチャーとグレネードランチャー、どっちが良い?』
と言った。
「で、結局こうなりましたと……」
購入したのは単発式の40mmグレネードランチャーでナインティーンに言わせるとM79のコピーらしい。
それを選んだ理由は置いてある商品の中で軽かったからだ。それ以外の商品ではポンプアクション式のChina Lake Grenade LauncherやH&KM320のコピーもあったのだけれど、シナレイクの方は重いので僕が断り、僕が買いたかった一番軽いM32コピーの方は射程が短いのと外観が美しくないとの理由でナインティーンに却下された。
値段は千五百ドルだった。
「弾はどうするのさ?」
『これを買ったのは車を運転中に襲われた時に事を考えてだ。相手も車になるだろうから装甲を抜ける弾頭を購入する。だから弾頭は全てHEDP(対人・対装甲両用榴弾)であるM433だ』
ナインティーンの指示に従ってM433を三発購入した。三発にしたのはそれ以上ジャケットのポーチに入らないだった。値段は一発あたり七十ドル。ちなみにRPG-7のHEAT弾頭PG-7VLも一発あたり七十ドルだ。
そして、ついでにF-40対人手榴弾を二つ購入して、訓練に使う.45ACPを500発購入してから店を出た。
まだ見て回りたいお店はあったのだけれど、射撃訓練の時間も考えると今日はこれ以上寄り道できないので諦めた。その後、街の郊外で射撃訓練をしてから、僕は由香里さんのお店に戻ったのだった。
目標:魔石納品500 達成
目標:11区から12区まで対人護送任務 達成
魔石:2
腕輪:炎術のマナグッズ
指輪:神聖魔術のマナグッズ
腕時計:1
携帯濾過器:1
予備フィルタ:3
H2Oペットボトル2L:3
携帯食料:7
鍋:1
フライパン:1
布テープ:1
ダガー:1
コンバットナイフ:1
F1対人手榴弾通常:2
F1対人手榴弾遅延ヒューズ無し:2
.45acp:223
.45acpAP+p:97
10rdsmag:2
15rdsmag:2
SKS スコープ搭載 レーザーサイト搭載
6ポジションアジャストストック
予備30rdマガジン:2
75rdドラムマガジン:1
7.62×39mm:352
バイク125ccキャリアー搭載済み
水筒:1
鉈:1
コンパス:1
地図:11区周辺
フラッシュライト:1
単二電池:6
CR-123Aリチウム電池予備:1
第一世代ナイトビジョン:1
(ユーコンバイキング1X24ナイトビジョンゴーグル
IRイルミ有効距離:最大150ヤード)
US$:20831ドル
円:10K




