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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
ささやかな友情編(王子復活)
93/213

93日目 剣とジイちゃんと僕の驚愕

止まらないバトル路線



「ヘイ、ジイちゃん」


「ヒョッホー! なんじゃ?」


「つかぬ事を訊くけどさ、僕って子供の頃に剣道とかやってたっけ?」


目の前にはアロハシャツを着たジイちゃんが居る。

僕は先日見た夢の光景を思い出しながら言った。

道場で竹刀を握る僕と、言い争う父とジイちゃんの姿。

二人が言い争う姿なんて見慣れた物だったが、どうにも()せない事があった。


というのも、僕には剣道をやった記憶など無いからだ。

まあ夢の事だしさほど深く考える必要は無いのかも知れない。

そんな風に考えていたのだけど、ジイちゃんの顔を見てふと尋ねてみたのだった。

僕の質問に対し、ジイちゃんは気軽に答えた。


「ちょびっとな。やっておったよ。お前の父親が直ぐに止めてしまったんじゃけど」


相変わらず、ジイちゃんは父の名前を呼ばなかった。

まあ父の方も、ジイちゃんをゾウリ虫と呼んでいるのでイーブンだろう。

どこにでもある世代間対立を肌に感じる僕に、ジイちゃんが続けて言った。


「ジイちゃんも昔はそりゃ凄かったんじゃぞ? 剣の達人、イカサマ野郎、ロクデナシと呼ばれたもんじゃ」


「後半はどう考えても褒められてないよ?」


笑顔で指摘する僕に、ジイちゃんは快活な笑い声を上げた。


「アッハッハ! 強い者ほど疎まれるもんじゃよ! それだけワシが強かったというわけじゃな!」


批難の声を全く気にする様子の無いジイちゃん。

そんなジイちゃんに向かい「でもさ、」と前置きしながら僕は言った。


「ジイちゃんが竹刀とか握ってる姿見た事無いんだけど?」


「ああ、それはじゃな、」


そこで言葉を切ると、ジイちゃんは僕に耳を寄せるようと言わんばかりに手招きしてきた。

近付いた僕に、ジイちゃんはまるで秘密を打ち明けるように声を潜めて言った。


「ジイちゃん、恐るべき事に気付いてしまったんじゃ……!」


「どういう事?」


疑問を返す僕に、ジイちゃんは真剣な表情を作って言う。

まるでそれは、一子相伝の技を伝える師匠のような顔だった。


「剣よりもな、銃の方が強いんじゃよ……!」


「……そう、だね」


困惑と、冷笑。納得と、爆笑。

僕は何かに耐えるようにして声を絞り出す。


果たして僕は笑えば良いのだろうか? それとも驚けば良いのだろうか?

一瞬ギャグかとも思ったが、僕に語るジイちゃんは真剣そのものだった。

ほんの――ほんの少しだけ、父の苦労が理解できた。

そんな僕に向かって、ジイちゃんは吐き捨てるように言葉を続けた。


「銃に立ち向かえんのに、剣なんぞ極めても無意味じゃろ? 超ヨワヨワ、雑魚以下じゃ」


「雑魚以下!? その言い方はどうかと思うよ!?」


「だってのう。機関銃の前に、剣を持って立ったからって何になるんじゃ? バカみたいじゃろ?」


「それはそうだけどさぁ」


半分納得、半分呆れと言った感じで返事を返す僕。

そんな僕に対し、ジイちゃんはしきりに肯いてみせた。

どこか遠い目になりながら、在りし日の決断を思い出すかのような表情を作る。


「剣の限界を感じたワシは、剣を置くことに決めたんじゃ……!」


苦吟するように言葉を吐き出すジイちゃん。

懊悩、苦悩。その胸の内に渦巻く物の重みはどれほどか?

……などと僕が考える暇も無く、ジイちゃんはコロリと表情を変えた。

普段通りの顔に戻りながら僕に訊いてくる。


「もしかして坊は、剣の技が知りたいのかのう?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「よっし、一緒にトシちゃんちに行こう!」


「えっ!?」


「あそこなら道場あるしのう。本家にはワシ、出入り禁止食らっとるし」


「ジイちゃんは本家で何をしたのさ!?」


「そうと決まれば準備じゃわっしょい! アハーハハハ!」


僕の質問に一切答えること無く、ジイちゃんは疾走するように旅立ちの準備を始めた。




「ひゃっほー! 来たよトシちゃん」


「相変わらず突然来る奴だな……」


軽快に挨拶するジイちゃん。

僕らを出迎えたトシちゃんは、和服を着た壮年の男性だった。

どうやらジイちゃんの友人であるらしいが、詳しい事は知らなかった。


トシちゃん氏とは二度目の対面となる僕。

ジイちゃんの隣に立ちながら、ゆっくりとお辞儀をした。


やたら威厳に溢れた老人のトシちゃん。

その威厳を現すかのように、彼の家にはがっしりとした門が構えられていた。

和風建築で立てられたその家は、かなりの大きさだった。


「のう、道場を借りてもいいかのう?」


「道場? 別に構わんが、今は孫達が使っているぞ」


前回来た時は夜だった事もあって気付かなかったが、ここには道場まであるという話だ。

トシちゃんを先頭にして、僕らは屋敷の敷地内にある道場を目指した。

優雅な山水世界を表現する玉砂利の庭を渉る。

しばらく歩くと、ちょっとした離れの一軒家のような建物が見えた。


かなりしっかりと作られたその建物は、しかし一見して(あずま)()のように見える。

それは、普通の建物よりも壁の部分が少ないためだった。

雨よけの木板を壁代わりにしているようだ。

しかし今は木板は開け放たれ、建物の裏手にある庭園の情景が一望できた。


自然に開け放たれた道場の中に、二人の人影が見えた。

剣道着を着込んだ二人の少女が竹刀を交えている。

中学生くらいの彼女達は、トシちゃんの孫の姉妹だった。


「セイ!」


「ヤア! 食らえ妹ぉ! 七音剣!」


「きゃあ!? ちょっとお姉ちゃん、無茶苦茶に振り回さないでよ!」


七音剣なる技を繰り出す姉。

恐らくは七連続攻撃を目指したのだろうそれは、傍目にも勢いだけは凄まじかった。

しかしそれに対する妹は、難なく姉の攻撃を(さば)いていた。

そして姉が疲れきった所で(めん)を打ち、それで試合終了のようだった。


「うぐおぉ!? 痛いぞ妹ぉ! ハゲたらどうしてくれる!」


「ふざけた罰でしょ、もう」


その様子をジイちゃん達と並んで眺めていた僕。

ふとした疑問をトシちゃん氏に向かってポツリと漏らした。


「あの……防具とかって付けないんですか?」


二人の姉妹は剣道着だけの姿で、フェイスガードとかゴテゴテとした鎧みたいな物は一切見当たらなかった。

防具代わりにだろうか、弓道の胸当てを大きくしたような物を身に付けている。

一応は()()らしき物は見えるが、なんだか凄く薄手に見えた。

えらく小ざっぱりした二人の姉妹の姿に、僕は違和感を感じていた。

トシちゃん氏は「うむ」と一つ肯くと、キリリとした表情で言った。


「うちは実戦派だからな」


「ほっほ。今の時代に、街中で防具を付けることはまず無いしのう」


ジイちゃんがトシちゃん氏の説明を補足するように言う。

そんな二人に、僕は一筋の汗を流しながら言った。


「け、怪我とかしたらどうするんですか?」


「その時は、それまでの事だよ」


「クールですね!?」


冷徹とも思える口調で語るトシちゃん氏。

そのあまりにクール過ぎる態度に、僕は正直ビビっていた。

そんな僕に対し、トシちゃん氏はさらに驚きの発言をした。


「むしろ、怪我をさせるのが目的な所もあるしな」


「!?」


今度こそ僕は驚きで固まった。

そんな僕に、トシちゃん氏は苦笑を浮かべながら語る。


「剣を学ぶ上で一番大事なことが分かるかな?」


「ええと……作法とかですか?」


僕の返事に、トシちゃん氏は首を横に振った。

苦笑を薄めながら、瞳に真剣な物を浮かべて言葉を続ける。


「剣を振り回す事の怖さ、だ」


そこで一端言葉を切ると、トシちゃん氏は僕から視線を外した。

道場で剣を交えていた二人の孫を眺めながら、滔々と語った。


「力は恐ろしい物だ。時にその魅力に憑かれ、やたらと振り回す者がいる。私はな、孫達にそうなっては欲しくないのだ」


「それって、わざわざ怪我までさせないと伝わらない物ですかね?」


質問する僕に、トシちゃん氏は視線を向けないまま答えた。

少しだけ苦笑するように。

その言葉には、どこかほろ苦い物が混じっているように思えた。


「伝わらん、な。力の加減は経験で掴む他無いし、相手を傷つけた時の罪悪感という奴が無ければ、本当の怖さは実感できん」


むしろ分かったつもりになっている輩が一番怖い、と独り言のように呟く。

そんなトシちゃん氏は、重苦しくなった空気を取り払うようにしてジイちゃんに言った。


「しかし、なんでお前はわざわざウチの道場なんて使うんだ?」


「ワシんちには道場無いしのう。本家にはあるんじゃけど、ワシは締め出されておってのう」


「そう言えばそうだったな」


頭が痛い、とでも言いたげな様子で眉根を寄せるトシちゃん。

まあいいと呟くと、視線をジイちゃんへと向けた。

その目にはどこか面白がるような色があった。


(かた)()しと呼ばれたお前が、どう教えてるのか。少し興味があるしな」


(かた)()し? と(いぶか)る僕。

そんな僕の横に立つジイちゃんは、胸の前で腕を組みながらあっけらかんと言った。


「とりあえず試合じゃな、試合」


「えっ!?」


とりあえずも何も、剣の振り方すら教えてもらっていない僕は。

試合って誰の試合なのさ? と疑問に思うしか無かった。





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