表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
ささやかな友情編(王子復活)
90/213

90日目 来訪者



「誰もいない場所っていうのは、中々難しいと思いませんか? ダンナ」


その男子は、僕に向かってそんな言葉を発した。

冴え冴えと広がる蒼天の下、屋上の床石が白い反射光に染まる。

その中に佇む影の一つとして。

丸いフレームのサングラスをかけた男子が、僕を見つめていた。


屋上には僕とその男子しか居なかった。

風に揺れるフェンスと、何年生か分からないその男子を眺めながら。

僕は呼び出された屋上の地を踏みながら、ゆっくりと口を開いた。


「一つ訊いてもいいかい?」


「答えられる事なら」


飄々とした口調でサングラスの男子は言った。

少しだけ伸ばされた彼の金髪が、風に揺れる。

インチキ臭いサングラスに隠された顔と同様に、その髪も純然たる金色では無かった。

どちらかと言えば茶色に近い。ただし、()()ではあるようだった。


「そのサングラス」


「ああ、これですか?」


「胡散臭いね」


男は僕の言葉に反応するようにサングラスのフレームを摘むと、少し下にずらす。

ずらされて出来た隙間から、サングラスに隠されていた男の瞳が露出した。

そこに見えるのは、透明に近いブルー。薄い着色の碧眼が窺えた。


「すみませんね。生まれつき、目が光に弱いもんでしてね。こういうのが無いと、ダメなんですよ」


謝りながらも、まるでこちらの配慮の無さをこそ指摘するような男に。

僕は一切合財の流れを無視しながら尋ねた。


「どこで買ったの?」


会話が止まる。

果たして目の前の男子が何を期待していたのかは分からない。

しかしどうやら、僕の言葉は彼の期待を裏切っていたようだった。

ややあって、サングラスの男子は再起動を果たした。


「……胡散臭いんですよねぇ? これ。胡散臭いでしょ?」


自分のサングラスを指差しながら尋ねてくる男に、僕は直球で言った。


「その手のグラサンが欲しいと思ってたんだ」


「ええー……? なにそれぇ」


男は何だか傷付いた様子だった。

どうやら僕は、彼の期待を何かしら裏切ったらしい。

しかしどの辺りからそうなったのかが判然とせず、僕はただただ男と対峙を続けた。

サングラスの男が、何だか意気消沈した声で僕に言う。


「まずはあっしが誰かって訊いてくれると、助かるんですが」


今から自己紹介を始めましょうという事だろうか?

僕は目の前の男を吟味するようにジロジロと眺めた。


僕の下駄箱に入れられた謎の手紙。

そこには差出人の名前は無く、ただ屋上で待つとだけ書かれていた。

ソフィーへの手紙以上に怪しい手紙である。


しかしもしかしたら、ワンダーランドへの招待状かもしれない。

その(いち)()の可能性に賭けた僕は、不思議の国へと(いざな)われるアリスのように屋上へ来た。

何故ならワンダー。僕らはランド系に憧れる年頃なのだ。

……というのは全くの嘘ではあるが、奇妙な手紙に興味を惹かれたのは事実だったりする。


差出人の無い手紙。ドッキリの臭いがプンプンである。

さてはてそんなドッキリの仕掛け人であろう男は、私の名前を訊いてみろ、なんて言って来る。

なんでわざわざそんな事を言うのかと考えれば、答えは明白であった。

サングラスをかけた胡散臭い男を見つめ返しながら、僕は言った。


「断言しよう。あんたはまともに答えない」


「くくく……正解です」


僕の予想通り、男は自分の名前をはぐらかした。

大体、名前を教える気があるなら、最初から手紙に書いていただろう。

容姿そのままに胡散臭いその男は、詐欺師のような姿勢を保ちながら言った。


「あっしの事は()(ぐら)と呼んでくだせぇ。それがニックネームみたいなもんでしてね」


これからネズミ講を仕掛ける相手にそうするように、男が僕に向かってニックネームを名乗った。

()(ぐら)と名乗るその男に、僕は間髪居れずに言った。


「嫌だと言ったら?」


「泣きやす」


メンタル弱っ!!

わりと本気で悲壮感を漂わせる()(ぐら)

彼は気を取り直したかのようにサングラスの位置を直すと、僕に向かって話の続きを始めた。


「話しというのは、賢者と呼ばれる学生の事でしてねぇ」


賢者。あるいは、賢者王子。

白皙の美少年にして、落とした女は数知れず。

しかしてその誰とも付き合わない事から、誰もが畏敬の念を込めて彼をこう呼ぶ。

賢者。すわなち、悟りを開きし者。


そんな僕のクラスメイトの名前を挙げながら。

()(ぐら)はサングラスで隠された双眸を僕へ向けた。

まるで秘密を暴く審問官のように無感動に。

事実であると確信した口調で、()(ぐら)は言った。


「ダンナがあの男と敵対しているように、我々もあの男と敵対していましてね?」


「僕が、」


内心の動揺を隠しながら。

僕は穏やかに微笑みながら言った。


「なんで賢者くんと敵対しなきゃいけないのさ?」


実際は敵対している。

女子からは常に好感度一位、男子からも畏敬の念を集める賢者くんと、僕は敵対していた。

しかしその事は特に誰にも言っていないし、賢者くんが言いふらしているとも思えない。

知るはずの無い事を知る()(ぐら)に、僕は警戒心を抱いた。


そんな僕を面白がるように見つめた後。

()(ぐら)は薄っぺらい誠意を貼り付けた顔で説明を始めた。


「我々はね、全てを知っているわけではありませんが、色々と知っているんですよ」


何故なら、と前置きしながら()(ぐら)は言った。


「我々はこの学園の各地に、盗聴器を仕掛けていますからねぇ」


「……それは犯罪だよね!?」


「バレなきゃいいんですよ。それはそうと、現在の我々の利害は一致しているわけでしてね? 出来れば協力関係を築きたい所なんですよ」


協力。それはギブアンドテイクの関係である。

たとえば、キビダンゴをもらってお供をする獣などが挙げられる。

しかし現代では、野生動物にエサを与えることはNGなので注意が必要だ。

昔話のような展開を期待しても、もらえるのは環境省からのお叱りだけである。


過去と現代の違いに苦悩を覚えながら。

しかしそれ以上に気になる部分があり、僕は強調するようにして聞き返した。


「我々?」


さっきから()(ぐら)は、常に『我々』と言う言葉を使っている。

つまり彼は何かの団体に属しているわけだ。

賢者くんと敵対し、学園内に盗聴器を仕掛ける団体とは何か。

気になって夜も眠れない。


僕を苦しめる睡眠問題に気付いてくれたのだろうか?

()(ぐら)は大仰に驚いたような仕草を取りながら、僕に一礼した。

これは申し送れてすみません、などとわざとらしく前置きしてから、自らの所属する団体の名前を示した。


「あっし達は『真夜中の読書家』。全てを知る事を……マスターする事を目指す集まりです」


似たような言葉を、どこかで聞いた事があるような気がする。

果たしてどこで聞いたんだっけ?

煩悶としながら、僕は()(ぐら)に言った。


「一つ訊いてもいいかな?」


「なんでしょう?」


「なんで真夜中なの?」


「昼は教室で勉強しておりますねぇ」


「なるほど」


パーフェクトな回答だった。

昼は授業があるから、夜に読書するというのは理に適っている。

しかしそんな組織が、どうして賢者くんと敵対するのか?

さらに学園内を盗聴する必要はどこから生まれたのか?


新たな疑問が次々に生まれて来る。

しかしそんな疑問を吹き飛ばすような一言を、()(ぐら)は言った。


「賢者という男を取り巻く女子――ダンナ達が隊長格と呼んでいる四人の事ですが、実は正式な名称があります」


「えっ? マジで?」


「四方天。天の名を冠する四人の剣豪でしてね? 我々が知るところによれば、()(てん)()(てん)、飛天と言った二つ名を持っているようですね」


「……飛天!?」


その名を聞いた僕の背筋に、戦慄が走った。

何故ならその名は、あまりにも馴染み深い物だったからだ。


飛天――僕を殺そうとする女。

そして、お肌の荒れを気にする少女。

お面に隠された彼女の顔を思いながら。

ここで絡んでくるかぁ、と正直ゲンナリする僕だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ