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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
王子登場編(そして放置)
68/213

68日目 古代種の少女(あの虹を越えて)



「騙された!」


「一体どうしたんですか、先輩」


部屋に入るなり、怒気もあらわに叫ぶ先輩。

ドスドスと足音を立てて進むと、ドカッとイスに座った。

腕組みし、頬を膨らませながら言う。


「虹の根元には宝があるって聞いたけど、何にも無かったよ!」


雨上がりの空には虹が架かる。

昨日の事になるが、そりゃあもう空に見事な虹が架かっていた。

先輩は虹の向こうを探すと行って外へ飛び出したらしいが、どうやら虹の根っこを捜していたらしい。


虹の根元には宝が埋まると言う。

そんな先人の言葉を信じていたらしい先輩は、怒りが止まらないようだ。

僕は「ふーむ」と一瞬考えると、思った事を口にしてみた。


「本当に根元まで行ったんですか?」


「ええっ!? そりゃあもちろん……多分」


「場所がズレてた可能性もありますよ」


「むう……最後は目算だったしなぁ」


虹の根元なんて肉眼では中々見えないものだ。

追いかけている途中で虹が消える事もあるし、何より虹自体が希薄だったりする。


しかし、先輩は本当に虹を追いかけていたんだな。

童心を忘れないその純粋さが、どこか眩しく見えた。

黒曜石のように輝く先輩の瞳。

その輝きが失われないように。僕は何となく、良いセリフを言いたくなった。


「でも、きっと先輩はもう手に入れてますよ」


「へっ? 何を?」


「虹を追いかけたという、思い出ですよ」


決まった。そう思った瞬間、後ろの方で本を読んでいる冷蔵子さんが忍び笑いを漏らした。


「ぷっ……クスクス」


……何だよ。何か言いたい事があるのか?

折角僕が良い事を言ったというのに。

ムッとする僕だったが、どうやら今のセリフは先輩にも不評だったようだ。

先輩は胸の前で腕組みしたまま言った。


「思い出だけで満足出来るほど子供じゃないんだよ!」


「そ、そうですか」


くぅ!? 何故だ!?

なんで感動しないんだ!?

感受性の欠落した冷蔵子さんならともかく、夢見がちな先輩まで否定して来るとは!

愕然とする僕。先輩はそんな僕を気にするでも無く、あっけらかんとした調子で言った。


「あ、でも変な娘なら居たよ」


「鏡でも見たんですか?」


即座に返す僕に、先輩は怖い笑みを浮かべて言う。


「少年、ちょっと深い話し合いをしようか……!」


「黙秘権を行使させて下さい。もしくはギブアップで」


両手を上げならが宣言する僕。

何を宣言するかと言えばもちろんギブアップだ。

言葉の手札を投げ捨て、ゲームをドロップする僕。

先輩は呆れ顔になりながらも話を続けるようだった。


「はぁ……まあいいよ。それでさ、変わった女の子が居たんだよ」


「どんな女の子だったんですか?」


「何かね、自分の事を最後の種族とか言ってた」


「最後の種族? 雪男の娘だったりするんでしょうかね」


「ん~、違うと思うよ。天から落ちたとか言ってたし」


天から落ちる、か。

どっかで覚えがある事だな、と僕は思った。

数々の思い出をひっくり返しながら、対象単語と一致する記憶を探る。

そしてようやく思い出して言った。


「ああ、僕も落ちた事ありますよ。寮のベッドから。結構高さがあって痛かったですね」


寮のベッドは高さがある。

形としては、二段ベッドの一段目が無く、そこに学習机が突っ込んである感じだ。

省スペースのための造りであり、そのため僕らはベッドに入るためにハシゴを使うハメになる。

たまに寝ぼけた時なんか、ハシゴを使う事を忘れてそのまま落下するのだ。


痛みを思い出しながら、正しいベッドのあり方とは何かを模索する僕。

そんな僕に対し、今まで会話に入って来なかった冷蔵子さんが、あっさりとした口調で言って来た。


「間抜けね」


「うるさいな、寝ぼけてたんだよ」


「寝ぼけるのが間抜けなのよ」


「ぐぬぬ……!」


容赦の無い言葉である。

そりゃあ、寝ぼけてる姿は間抜けだろうさ。

でも、寝ぼける時もあっていいじゃない! 人間なんだもの!

正しい人間のあり方を思索する僕。そんな僕に対し、先輩が助け舟を出すように言う。


「でも私も、寝ぼける時はあるよ」


「ですよね! 人間誰しも、寝ぼける時くらいありますよね」


これで二対一。寝ぼける派が数の上で優位に立った。

余裕を取り戻す僕に対し、冷蔵子さんはあくまで冷徹だった。


「あなたは年中ボケてるじゃない」


「ええっ!? 自分ではツッコミのつもりだったんだけど!?」


「自覚しなさいよ」


「天然ボケだよね」


「先輩にだけは言われたく無いですよ!?」


先輩にまで天然ボケと言われてしまった僕。

数の上では二対一。これでは僕がボケである事が確定してしまう。

多数決が正解を決めるわけじゃない。僕はそれを信じた。


一方、僕から反論された先輩は不満顔だ。

自分がボケである自覚が無いのか、納得できないとでも言うような口調で反論し返して来た。


「むう。私のどこが天然ボケだって言うの?」


「虹を追いかける所ですよ」


冷たく言い返す僕。

そんな僕に、先輩は組んでいた腕を広げながら叫んだ。


「人間誰しも、虹くらい追いかけるよ!」


「それは無いわね」


「ええっ!?」


「だよね。誰もが虹を追いかけるなら、虹が出るたびにカーニバルだよ」


「うええ!? でも、私の他にも居たもん!」


僕と冷蔵子さんから同時に責められた先輩は、最後の抵抗とでも言った感じに幻の女の子の話を持ち出した。

先輩が虹を追いかけてた先に見つけた、謎の少女。

自らを最後の種族と名乗り、天から落ちたと語ったと言う。

そんな話を思い出しながら、僕は言った。


「それは人間じゃなくて、最後の種族の人ですよ」


「いやいや!? どう見ても人間の女の子だったよ!?」


「擬態よ。人間に擬態していたのよ」


「擬態って何!?」


冷蔵子さんに聞き返す先輩。

そんな先輩に、冷蔵子さんは神妙な顔つきで語り出した。


「別のものに為り切る生態行動よ。生まれながらにして擬態している事もあるわ」


「もしかして……君も人間に擬態しているの?」


「ちょっとあなた。そう思った理由を詳しく聞いてもいいかしら?」


僕に向かって半眼になりながら言って来る冷蔵子さん。

口元がひくひく動いている。

だが僕は引かない。ボケと言われた鬱憤を晴らすために。

全力で彼女をからかうために、ありとあらゆる智恵を総動員させた。


「ごめん、守秘義務に引っ掛かるんだ。続きはウェブで」


「インターネットでも守秘義務は引っ掛かるわよ! っていうか、何でネットの話になるのよ?」


「君のファンクラブが、校内用のサイトで特設ページ作ってるじゃん」


「はああ!? え? 何? それ、本当の事なの!?」


本気で驚いている冷蔵子さんを見て、僕の方にも驚きが走る。

学校に特設ページなんか作っちゃって~とからかうつもりだったのが、何だか話が変な方向に流れ出した。

あれ? だってあのサイト、別に非公式でも何でも無いよ?

内部用とは言え、学校の公式サイトの一ページだよ? 何で本人が知らないんだ?


「あんなに堂々とやってるから、てっきり本人公認だと思ってたんだけど……」


「知らないわよ! 私は機械苦手なんだもの! くぅ、今度苦情入れなきゃ!」


冷蔵子さんは本気で苛立っていた。

ある意味で目的は達成したわけだが、瓢箪から駒というか何と言うか。

今後あのページがどうなるのか。

まあどうでもいいか、と一人納得する僕であった。





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