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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
王子登場編(そして放置)
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55/213

55日目 ラブレターの届く速さは秒速何センチ?


「目にも止まらない速さってあるじゃん?」


いつもの部屋の中。

便箋(びんせん)に文章を書き綴っている僕に、先輩が言ってくる。


「どのくらいの速さなんだろう?」


アゴに手を当てて悩む先輩。

僕はシャーペンを机に置くと、とりあえず思いつく物を挙げてみた。


「野球の速球くらいじゃないですか?」


「え~? でも打ってるじゃん」


「あれ、球を見てからじゃ打てないらしいですよ」


「マジで!? それってどうゆう事!?」


何やら驚いている先輩。

そんな先輩に、僕はうろ覚えの知識を披露する。


「長年の勘とか経験で打ってるとか……」


「エスパー!? 野球選手って超能力者なの!?」


目をキラキラと輝かせる先輩。

いや、それは違うでしょう。

そう苦笑しかけて僕は押し黙った。

……案外、先輩の説は合ってるんじゃないか?


何万人もの選手の中から選ばれた、一握りのプロ野球選手である。

超能力の1つや2つ持っていてもおかしく無い。

いやむしろ、それぐらいじゃ無いとプロにはなれないんだろう。

厳しい世界である。


選ばれた能力者によるプロの世界を想像する僕。

そんな僕に話しかけてくる人が居た。冷蔵子さんである。

読みかけの本から目を離すと、僕に視線を向けながら薄桃色の唇を開いた。


「あなたって野球が好きなのかしら?」


「いや、全然」


冷蔵子さんの質問に僕は即答する。

野球なんて好きじゃ無い。

そんな僕を冷蔵子さんはジト目で見返した。


ははーん、この前の事を考えてるな?

ちょっと前に彼女と野球をやったのだ。

しかしそれは、ホウキをバット代わりにしたお遊びである。

僕は苦笑しながらその事を言った。


「ホウキでやる野球なんて、ある意味野球じゃないよ」


そんな僕の言葉に、先輩が「はいはーい」と手を上げながら指摘してきた。


「野球じゃなくてクリケットって奴でしょ?」


「意味分かって言ってます!?」


確かに野球とクリケットは似て非なるスポーツだけど、今は関係無い!

謎の思考回路の先輩に、僕は翻弄されっ放しだ。

「あれ~?」と頬を掻く先輩をジト目で見ながら、僕はヤレヤレと肩を竦めた。


一方、冷蔵子さんは早くもこの話題に飽きたらしい。

僕の手元に広がる便箋を見ながら別の質問をしてきた。


「そう言えばさっきから何を書いているのかしら?」


「え? これ?」


僕の手によりビッシリと文字で埋め尽くされた便箋。

僕はそれを摘むと、何となくヒラヒラと振ってみせた。




「ただのラブレターだよ」




ガタッと音を立てて冷蔵子さんが席から立ち上がる。

ツカツカと音を立てながら、無言で僕の前まで歩いて来た。


「ちょっと見せなさい」


言うが早いか、僕の手からラブレターをひったくる冷蔵子さん。

唖然とする僕の前で一気にラブレターに目を通していく。

そして最後まで読み終えると、視線をラブレターから動かさないまま言って来た。


「……1つ聞いてもいいかしら?」


「何?」


「このラブレター、なんで女の子の言葉遣いで書かれているのかしら?」


冷蔵子さんの呟きに興味を惹かれたのだろうか?

先輩もテクテクとこちらに寄ってくると、冷蔵子さんの手からラブレターを奪い取った。


「どれどれ」


呟きながら、僕の書いたラブレターに目を通していく先輩。

最後まで読み終わった先輩は、沈痛な表情を僕に向けて言った。


「……少年、もしかして自分に宛ててラブレターを書いたの?」


「えっ!? なんでそういう話になるんですか!?」


どうして自分宛にラブレターを書くんだ!?

先輩の謎の思考回路に、僕は本気で驚いていた。

しかしそんな僕を糾弾するかの如く、先輩は叫んだ。


「だっておかしいよ! これ、女の子に宛てて書かれてないじゃん!」


「そうね。まるで自分宛のラブレターを偽造しているかのような……」


先輩に賛同するかのように冷蔵子さんが言う。

じ、自分宛のラブレターの偽造?

考えるだけで悲しくなるような行為である。

しかし冷蔵子さんは、まるでそれが答えだと言わんばかりに追及の声を上げた。




「あなた……そんなにラブレターが欲しかったの?」




不味い。何故だか分からないが、このままでは自分宛のラブレターを偽造する悲しい男にされてしまう。

そうなる前にと、僕は女言葉でラブレターを書いた理由を説明した。


「違うよ! これは友達に送るために書いてんの!」


「お、男の子が好きだったの!?」


「いやそういう趣味でも無いですけど!」


訳の分からない内にそういう趣味にされそうになる僕。

先輩に絶叫しながら反論した後、2人にも分かるように説明した。


「ただのドッキリですよ! ちょっと友達を驚かせてやろうと思って」


ようやく合点がいったらしい先輩と冷蔵子さん。

すごすごと自分のイスに戻ると、つまらなさそうに感想を呟いた。


「ふーん。なんだぁ、そっかー」


「……悪趣味ね」


悪趣味で悪かったな。

ようやくあらぬ疑いが晴れた僕は、胸を撫で下ろしていた。

そんな僕に先輩は聞いてきた。


「それで、ドッキリした後は何て言うの?」


「えっ?」


「その友達がラブレターが偽物だって気付いた時、何て言うのって事だよ」


ああそういう事か。

ドッキリと言えば、ネタばらししながら相手の反応を楽しむものだ。

しかし僕がやろうとしている事は少し違う。

困惑気味な先輩に対し、僕は何でも無い事のように答えた。


「別に何も言いませんよ?」


「ええっ!?」


驚く先輩。

そんな先輩に対し、僕は清々しい表情になりながら言った。


「ただ無意味に騙すだけです。ネタばらしとかしませんし」


「それ、ドッキリって言うのかしら?」


腕組みして疑問の声を上げる冷蔵子さん。

そんな彼女に、僕は言い訳するように言った。


「いや、最初は後でネタばらしするつもりだったんだ」


そこで一端言葉を切ると、手元のお手製ラブレターを再び摘み上げる。

僕は2人に向かってラブレターを掲げながら言った。


「妙に上手く文章が書けちゃってさ。これならもう本物と言ってもいいんじゃないかなーって……」


えへへ、と誤魔化すように照れ笑いを浮かべながら僕は言った。

そんな僕を呆れ顔で見ながら、冷蔵子さんが冷たく突っ込みを入れて来た。


「どういう理屈よ?」


そう言われると耳が痛い。

ポリポリと頬を掻きながら、僕は真顔に戻って言った。


「もう3回くらいやってるんだけど、偽物だって事に全然気付かないんだよね」


「3回もやってんの!?」


驚いた顔をする先輩。

「それって絶対悪趣味よ」と指摘する冷蔵子さんの言葉に、僕は苦笑いを浮かべるのだった。





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